冴えない俺は前世で最強の支配者だったらしい。でも俺、まだ記憶戻ってないんだが……。

ゆゆぽりずむ

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2:俺、まだ記憶戻ってないんですけど……

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俺は屋根のない馬車に乗せられて、領主の館に向かっていた。
すれ違う街の人々がみんな俺の方を見てくる。

(どうしてこうなった……)

わかっている。
俺が復活したアーケインの振りをしているからだ。

それにしても……。

(領主の馬車って、こういうものなのか……?)

俺は恐る恐る周囲を見回した。
……人々の視線が、ことごとく俺に突き刺さっている。

馬車に乗ることなんて滅多にないが、こんなに注目されるものなのか?
確かに俺も領主の馬車が通る時は目をつけられないように注意していたが……。

「おい、あれがジェイク様じゃないのか?」

「アーケインの?」

「ジェイク様! 手に入ったばかりの上物のワインです! ジェイク様に是非!」

「きゃー! ジェイク様ー! こっち向いてくださーい!」

そう、俺の生活は一夜にして一変していた。

俺の額に浮かび上がっていた、謎の紋章。
そいつのせいでみんなは俺が本当に『破滅のジェイド』だと思ったらしい。

いや、確かに俺は本物なのかもしれない。

俺も家を出る前に鏡で確認したが、ただの入れ墨とかじゃなくて本当に光を発して輝いていた。
暗いところでもバッチリだ。

俺は魔法が使えないからわからないが、どう見たって魔力を宿しているのは間違いない。
だとすると俺は本当に古代世界最強の支配者、『破滅のジェイド』の生まれ変わりである可能性が高い。

ただ……。

(俺、前世の記憶とか全然ないんだよなぁ……)

古代世界の絶対強者だったアーケイン達は、前世の力と同時に記憶も復活するらしい。
だが俺にはその気配が全くなかった。

今さらになって、実は嘘でしたなんて言えないし。
そんなことを言ったら本当に殺されかねん。

俺の脳裏に、酷い拷問の末に磔にされて処刑される自分の姿がよぎった。

(……嘘を通すしかないな。俺はジェイド、俺は『破滅のジェイド』。偽物かもしれないけど本物)

俺は自分が本物の『破滅のジェイド』だと言い聞かせた。

(よし! もしも後で本物が出てきたら全力で逃げよう!)

◇ ◆

領主の館に到着すると、俺は謁見なんかを行うような広間に通された。
もちろん俺がこんな部屋に入ったのは初めてだ。

「さあ、ジェイク様! どうぞこちらに!」

「いや、あの……。ここって領主様の座る椅子では?」

「確かに地位が低い者を相手にする時はそうですが、国王のような目上の方をお迎えする際にはお座り頂いております」

「じゃあ領主様が……」

「ご謙遜を! 私など所詮は俗物! アーケインの頂点であらせれるジェイク様の足元にも及びません! 下々の者にも気を使われるとは、器が大きい方は違いますな!」

「流石はジェイク様!」と、広間の両脇に控えていた兵達が一斉に俺を称えた。
まるで合唱みたいだ。

「ではお言葉に甘えて……」

あまり抵抗して反感を買うのも嫌だったので、俺は言われた通りに座ることにした。

(す、すっげー気まずい……)

こういうのに慣れてない俺は、そわそわして仕方がなかった。
……注目を集めるのって、結構大変なんだな。

今までは注目を浴びる連中を見て一方的に憧れとか妬みの感情を抱いていたが、いざ自分がこうなってみると、やっぱり目立つのはなんか嫌だ。
それにあんまり目立つと俺が力を使えないのがバレそうだし……。

だがそんな俺の心中なんて全く気にする素振りも見せず、領主は俺の前に跪いた。

「では改めましてジェイク様! この世界の支配者とおなりください!」

「……話が急過ぎないか?」

「とんでもない! 今や世界は復活したアーケインが覇を争う時代! となれば世界の頂点に立つのは最強の誉れ高いジェイク様をおいて他におりません!」

(やばい。やばい流れだぞこれは)

俺の危険感知センサーがビンビン反応している。

これで「よし! 俺が世界を取る!」とか言ってみろ。
「ジェイド様! 他のアーケインどもを吹き飛ばしてください!」とか言われて戦わされる羽目になるに決まってる。

それまでに俺が記憶を取り戻して力を使えるようになっていればいいが、もしもそうでなかったら……。

(一撃で跡形もなく吹き飛ばされるな……)

俺は全力でその事態を回避することにした。
そんな俺の胸中など露知らぬ領主のトークがヒートアップしている。

とにかくそれっぽい感じで断らないと。

「だがナルザークよ、はっきり言って俺はあまり世界に興味がない。……前世でもう手に入れてしまったからな」

「なんと?!」

「張り合う相手のいない生活というのも退屈なものだ」

「で、ですが、他のアーケインがいるのでは……?」

「ナルザーク……。お前はあんな連中が俺と張り合えると本気で思っているのか?」

「で、では、相手にならないと?」

「愚問だ。前世でも奴らは俺を楽しませることはできなかった」

いや、前世のことなんて、もちろん全然知らないがな。
ていうか他のアーケインなんて会ったことないし。

……会いたくもないけど。
会ったら絶対殺されるし。

「そうだったのですか! 流石はジェイク様!」

「というわけで、俺は今まで通りにしがない冒険者ごっこを続けたいんだ。……わかるな?」

「かしこまりました! それでは大々的にそのことを知らしめましょう! ジェイク様は弱い者には興味がないと!」

「え? いや、あの……。俺が言ったのはそういう意味じゃなくて――」

「最強のアーケイン、ジェイク様バンザイ!」

俺の声は両脇の兵達の合唱でかき消された。

「とにかく、そういうわけだから、そろそろ帰ってもいいか?」

「はっ! それでは屋敷を用意しましょう! お使いください!」

「ああ。やっと家に帰れ――。……えっ? 屋敷?」

◇ ◆

(でっけぇ……)

俺は領収ナルザークの屋敷を一つ貰えることになった。
なんか召使い付きで維持費は全部ナルザークが払ってくれるらしい。

俺が今まで住んでた借家はワンルームだったが、こっちは二桁以上の部屋がありそうだ。

「こ、ここに住むのか? 俺が?」

「お待ちしておりました、ジェイク様!」

戸惑いながら屋敷に連れて来られた俺を、召使い達が総出で出迎えた。
メイド達はもちろん、警備兵と思われる人達までみんな女だ。

(しかも美人ばっかり……)

今までは全く女に縁がない生活だったから、意識するなと言う方が無理だ。

年齢は十代前半から二十代後半まで。
見た目はロリからお姉さんまで様々だ。

「この屋敷のメイド長を任されておりますジーナでございます。さあご主人様、中へご案内いたします」

眼鏡を掛けたメイド長らしき金髪美人のジーナが俺を中へと促した。
スタイルもいいし、正直言ってすごい好みだ。

でも下心丸出しなのは嫌われそうだと思って、俺は平静を装った。

「ご主人様って……俺のことか?」

メイド服は同系統で複数のバリーションがあるみたいだが、ジーナが着ているのは胸の谷間と体のラインを強調するタイプだ。
俺は視線がジーナの首から下に行きそうになるのを必死に我慢した。

(よし、大丈夫、気づかれてない。)

若い子達から蔑んだ目で見られるのもそれはそれで興奮するが、毎日そんな生活は流石に勘弁だ。

「もちろんです。ここは今日からご主人様のお屋敷、遠慮せずなんなりとお申し付けください。……どんなプレイでも」

「え? どんな……、なんだって?」

最後の方はよく聞き取れなかった。
なんか妙に艶めかしい気がしたのは気のせいだよな?

(いかんいかん。頭の中がエロいことしか考えられなくなってる)

俺は気を取り直してジーナに屋敷の中を案内して貰うことにした。

屋敷は予想通り広かったが、俺は至近距離で無防備な後ろ姿を見せるジーナが気になってそれどころじゃなかった。

……なんかすごくいい匂いがした。
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