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第一章 高校一年生(一学期)

かかりのしごと(紫乃)

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「まさか紫乃ちゃんと同じ係だったなんて……知らなかったよ」
「うん、僕もびっくりだよ~。美久里ちゃんと一緒で嬉しいけど」
「たしかに……! 知らない人とやるよりかは何百倍もいい……!」

 美久里と紫乃は、お互いに安堵の笑みを浮かべる。
 美久里も紫乃も、あまり人付き合いが上手い方ではないから、あまり知り合いがいない。
 そのため、二人は心の底から嬉しそうにしている。

「それにしても、先生の呼び出しってなんなんだろうね~?」
「そうだよね……何か悪いことしたかな……」

 美久里と紫乃は、古典係だ。
 古典は、美久里たちのクラス担任が担当している。
 その先生に、職員室へ来るよう言われたのだ。
 一体、何を言われるのだろう……

「あ、着いたね~」

 紫乃がそう言うと、美久里が身構えた。
 二人とも根は真面目だから、何か悪いことをするはずはない。
 となると、係関連の仕事だろう。

「し、失礼します……」

 美久里がノックして、おそるおそる扉を開ける。
 なぜか叱られる前提で職員室に入っていく美久里に、紫乃は多分違うだろうということが言えなかった。

「あ、美久里さんと紫乃さん」

 先生が二人に気づき、声をかける。
 すると、美久里は怯えた様子で紫乃と目を合わせる。
 その目には、不安と恐怖が入り交じっていた。

「……あ、あのぉ……用件ってなんですか?」
「あー……そうですね。テストの時ノート集めたでしょう? それを見終わったから教室に持って行ってほしいなっていうお願いです」
「なるほど~……」

 ――やはりそういうことだった。
 それにしても、なぜ美久里はそんなにも蛇に睨まれた蛙みたいになっているのだろうか。
 誰も睨んでなんかいないのに。

 先生に人数分のノートを渡され、二人はノートを抱えながら教室へ戻る。
 その時、紫乃はどうしても気になったことを訊いた。

「ねぇ、なんであんなに怯えてたの~? なんか悪いことでもした?」
「ふぇっ!? ……あー、いや、それが……タピ女の駐車場に置いてあるマリア像にうっかり傷をつけちゃってさ……それがバレたのかと思って……」

 ――……聞かなかったことにしよう。
 紫乃はノートを抱えながら、美久里と一緒に階段を上った。
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