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第二章 高校二年生(二学期)

さみしさ(紫乃)

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「紫乃ちゃん、大丈夫……?」
「うぅ~……大丈夫じゃないかも~……」

 紫乃は熱を出してしまっていた。
 最近はずっと健康で風邪引くこともなかったのだけど。
 どうしてこうなってしまったのか。

 今日は美久里と遊ぶ日だったから、連絡入れてドタキャンしようと思っていたのに。
 なぜか連絡を入れたら家まで飛んできてくれたのだ。
 優しいというかお人好しというか。
 いい子すぎて、紫乃は色々と不安になる。

「あの……なにかしてほしいこととかあったら遠慮なく言ってね! 紫乃ちゃんに早くよくなってほしいから……!」
「ありがと~……助かるよ~……」

 でも、身体が弱っているとはいえ、してほしいことはなかなか思いつかない。
 それよりも今はただ、そばにいてくれるだけでよかった。
 弱っている時は人肌が恋しくなる。というより、いつもより孤独に感じてしまう。
 だから、美久里が来てくれてとても嬉しく思った。

「でも、うつるといけないから~……あんまり僕のそばにいない方が……」

 美久里の優しさはありがたいが、うつすことになってしまったら申し訳ない。
 大切な友だちだからこそ、両方の思いが並行する。

「うーん……それじゃあ、買い出し行ってくるよ! なにか食べたいものある?」
「え……」

 気持ちは嬉しいし、美久里なりに色々考えて出した結論だろう。
 そう言うのが一番正解なのではないかとすら思う。
 だけど、そうすると、一人になってしまう。
 親もいるとはいえ、同年代の子がいてくれた方が心強いというかなんというか。

「ど、どこにも行かないで~……」

 紫乃は気づいたら涙目で懇願していた。
 なんてことだ。いくら誰かにいてほしいとはいえ、涙目になってしまうなんて恥ずかしすぎる。
 これには美久里も目を丸くしている。

「……うん、わかった。紫乃ちゃんのそばにいるよ」
「え、ほ、ほんと~……?」
「どこにも行かない。約束する」

 美久里の言葉はとても重く響いた。
 それは、紫乃を安心させるのに充分すぎるほどだったのだ。
 “あの子”に似ているからというのもあってか、紫乃の心は満たされた。

「ありがと~。へへ、嬉しいな……」

 我ながら言っていることがわけわからない。
 だけど、紫乃はだらしなく頬をゆるめ、美久里と一定の距離を保ちながら会話を楽しんだのだった。
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