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第三章 これが真実だ!
華緒の愛は重い?
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○月○日
……しまった。本当にしまった。
ついにバレちゃったよ。どうしよう。
バレないように気をつけていたのに……!
言い訳とか咄嗟に思いつかない……さっちゃん先輩に嫌われたら生きていけないよ……
さっちゃん先輩をずっとうちに閉じ込めておけたらいいのにな……
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
「じゃ、わたしは帰るのです。また学校で!」
「はい。お気をつけて」
沙友理は手を振り、華緒は頭を下げる。
少し濃い一日を過ごしたが、わりとあっさり帰された。
華緒はあれだけで満足したのだろうか。
しかし、手加減してくれるとはいえまた痛いことをされるのは嫌なので黙っておく。
「あ、忘れてました」
華緒は思い出したように言うと、沙友理に近づいてほっぺにキスをした。
いつもは近づかないような距離感で、沙友理はドキッと胸が高鳴った。
「……え、えっと……」
「ごめんなさい、つい……迷惑でしたか……?」
「えっ、いや、そういうわけではないのです……! ただ、少しびっくりしたのです……」
「なるほど……嫌じゃないならよかったです……」
華緒はほっと胸を撫で下ろし、嬉しそうな顔をする。
その顔を見ているだけで、沙友理は心が満たされるような心地がする。
華緒にキスされたのはこれが初めてだからか、心臓がすごくうるさい。
『自分はこの人のことが好きなのだ』ということを痛いほど思い知らされる。
「……帰りたくないのです……」
「え? 何か言いましたか?」
「べ、別になんでもないのです!」
「そうですか……?」
最近、自分がおかしい。
自分のことよりも、家族のことよりも、何よりも。
華緒のことばかり考えてしまう。
沙友理はそんな自分が少しだけ怖かった。
いつか離れ離れになってしまった時に、果たしてそれに耐えることができるのだろうか。
「えっと、じゃあ、今度こそ、また明日です!」
「あ、こ、こちらこそなのです……!」
お互い恥ずかしいのか、やり取りが若干ぎこちない。
そうして離れて、すぐに気づく。
「……いっちゃんと離れるのは寂しいのですね……」
そんな自分の気持ちから目を背けるように、沙友理は華緒の家を後にした。
しばらく歩いて、風が身体を刺すように吹いてくる。
マフラーを取り出そうとカバンを開けると、そのマフラーを華緒の家に忘れてきたことに気づく。
「あ、戻らないと……!」
そう呟いて、急いで華緒の家へ戻る。
忘れ物を取りに行ったらまたすぐ離れなきゃいけないけど、また華緒に会えるというだけで、沙友理は嬉しかった。
沙友理は無意識に駆け出していた。
少し離れているだけでこんなに寂しく思う気持ちは一体なんなのか。沙友理にはわからなかった。
でも、それはきっと悪いことではないだろう。
そう思っているうちに、華緒の家に戻ってきた。
「はぁ……はぁ……いっちゃーん、ちょっと忘れ物しちゃったのですけど……」
玄関でドア越しに話しかける沙友理。
インターホンも押してみるが、全く返事がない。
変に思った沙友理は、縁側がある方へ回ってみた。
そこからならば、声が聞こえるだろうと思ったから。
「いっちゃーん? 入ってもいいのですか?」
だが、またも返事がない。
沙友理はすごく迷ったが、華緒に会いたくて家にあがらせてもらった。
廊下を渡り、華緒の部屋の前まで来た。
「いっちゃーん? わたしなのです。忘れ物を取りに来たのです」
部屋の前に来てもまだ、反応がない。
もうここまで来てしまったら、引き返すのもあれだと思った。
どうしてそんなことをしてしまったのか。
華緒に会いたい一心だったからなのか。
沙友理は、禁断の扉を開けてしまった。
「……へ?」
その部屋は沙友理で埋め尽くされていた。
正確に言うと、壁一面に沙友理が写った写真が貼られている。
それはもうびっしりと、隙間なく。
「これは、全部わたしなのですか……?」
沙友理は恐る恐る近づいて見てみる。
本当にどれも楽しそうで、すごく生き生きしている。
まるで写真が一つ一つ生きているように錯覚する。
こんな表情を浮かべているのを、沙友理は自分でも知らなかった。
たくさんの自分の写真が貼られていることに驚きはしたが、不思議と嫌悪感や拒否感は浮かんでこなかった。
むしろ――
「……さ、さっちゃん先輩……!?」
「あ、いっちゃん」
華緒は青ざめた様子で立ち尽くしている。
その手は少し濡れているから、トイレにでも行っていたのかもしれない。
だが、沙友理は至って普通だ。
「え、あ、なんで……」
「え? ああ、忘れ物しちゃったのですよ。外寒くてマフラーが手放せないのです。あ、あったのです」
「そ、そうじゃなくて……なんで勝手にあがって……あ、じゃなくて、この部屋見て思うところないんですか? ってことでもなく……っ!」
華緒は言いたいことがまとまっていないらしく、ブツブツと一人で慌てている。
沙友理も悪いことをしてしまった自覚はあるため、ゆっくりと説明する。
「勝手に家にあがったのは……ほんとに申し訳ないのです。でも、どうしてもいっちゃんに会いたくて……つい部屋にまで押しかけてしまったのです……」
弁明の余地もない。
どんな思いがあろうとも、不法侵入まがいのことをしてしまったのは事実だ。
言い訳などできるはずがない。
「……あ、あの、さっちゃん先輩のお気持ちはわかりました。すごく嬉しいです。けど……この部屋見て……引かない、んですか?」
その問いに沙友理がどう返したのかは、言うまでもないだろう。
……しまった。本当にしまった。
ついにバレちゃったよ。どうしよう。
バレないように気をつけていたのに……!
言い訳とか咄嗟に思いつかない……さっちゃん先輩に嫌われたら生きていけないよ……
さっちゃん先輩をずっとうちに閉じ込めておけたらいいのにな……
――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。
☆ ☆ ☆
「じゃ、わたしは帰るのです。また学校で!」
「はい。お気をつけて」
沙友理は手を振り、華緒は頭を下げる。
少し濃い一日を過ごしたが、わりとあっさり帰された。
華緒はあれだけで満足したのだろうか。
しかし、手加減してくれるとはいえまた痛いことをされるのは嫌なので黙っておく。
「あ、忘れてました」
華緒は思い出したように言うと、沙友理に近づいてほっぺにキスをした。
いつもは近づかないような距離感で、沙友理はドキッと胸が高鳴った。
「……え、えっと……」
「ごめんなさい、つい……迷惑でしたか……?」
「えっ、いや、そういうわけではないのです……! ただ、少しびっくりしたのです……」
「なるほど……嫌じゃないならよかったです……」
華緒はほっと胸を撫で下ろし、嬉しそうな顔をする。
その顔を見ているだけで、沙友理は心が満たされるような心地がする。
華緒にキスされたのはこれが初めてだからか、心臓がすごくうるさい。
『自分はこの人のことが好きなのだ』ということを痛いほど思い知らされる。
「……帰りたくないのです……」
「え? 何か言いましたか?」
「べ、別になんでもないのです!」
「そうですか……?」
最近、自分がおかしい。
自分のことよりも、家族のことよりも、何よりも。
華緒のことばかり考えてしまう。
沙友理はそんな自分が少しだけ怖かった。
いつか離れ離れになってしまった時に、果たしてそれに耐えることができるのだろうか。
「えっと、じゃあ、今度こそ、また明日です!」
「あ、こ、こちらこそなのです……!」
お互い恥ずかしいのか、やり取りが若干ぎこちない。
そうして離れて、すぐに気づく。
「……いっちゃんと離れるのは寂しいのですね……」
そんな自分の気持ちから目を背けるように、沙友理は華緒の家を後にした。
しばらく歩いて、風が身体を刺すように吹いてくる。
マフラーを取り出そうとカバンを開けると、そのマフラーを華緒の家に忘れてきたことに気づく。
「あ、戻らないと……!」
そう呟いて、急いで華緒の家へ戻る。
忘れ物を取りに行ったらまたすぐ離れなきゃいけないけど、また華緒に会えるというだけで、沙友理は嬉しかった。
沙友理は無意識に駆け出していた。
少し離れているだけでこんなに寂しく思う気持ちは一体なんなのか。沙友理にはわからなかった。
でも、それはきっと悪いことではないだろう。
そう思っているうちに、華緒の家に戻ってきた。
「はぁ……はぁ……いっちゃーん、ちょっと忘れ物しちゃったのですけど……」
玄関でドア越しに話しかける沙友理。
インターホンも押してみるが、全く返事がない。
変に思った沙友理は、縁側がある方へ回ってみた。
そこからならば、声が聞こえるだろうと思ったから。
「いっちゃーん? 入ってもいいのですか?」
だが、またも返事がない。
沙友理はすごく迷ったが、華緒に会いたくて家にあがらせてもらった。
廊下を渡り、華緒の部屋の前まで来た。
「いっちゃーん? わたしなのです。忘れ物を取りに来たのです」
部屋の前に来てもまだ、反応がない。
もうここまで来てしまったら、引き返すのもあれだと思った。
どうしてそんなことをしてしまったのか。
華緒に会いたい一心だったからなのか。
沙友理は、禁断の扉を開けてしまった。
「……へ?」
その部屋は沙友理で埋め尽くされていた。
正確に言うと、壁一面に沙友理が写った写真が貼られている。
それはもうびっしりと、隙間なく。
「これは、全部わたしなのですか……?」
沙友理は恐る恐る近づいて見てみる。
本当にどれも楽しそうで、すごく生き生きしている。
まるで写真が一つ一つ生きているように錯覚する。
こんな表情を浮かべているのを、沙友理は自分でも知らなかった。
たくさんの自分の写真が貼られていることに驚きはしたが、不思議と嫌悪感や拒否感は浮かんでこなかった。
むしろ――
「……さ、さっちゃん先輩……!?」
「あ、いっちゃん」
華緒は青ざめた様子で立ち尽くしている。
その手は少し濡れているから、トイレにでも行っていたのかもしれない。
だが、沙友理は至って普通だ。
「え、あ、なんで……」
「え? ああ、忘れ物しちゃったのですよ。外寒くてマフラーが手放せないのです。あ、あったのです」
「そ、そうじゃなくて……なんで勝手にあがって……あ、じゃなくて、この部屋見て思うところないんですか? ってことでもなく……っ!」
華緒は言いたいことがまとまっていないらしく、ブツブツと一人で慌てている。
沙友理も悪いことをしてしまった自覚はあるため、ゆっくりと説明する。
「勝手に家にあがったのは……ほんとに申し訳ないのです。でも、どうしてもいっちゃんに会いたくて……つい部屋にまで押しかけてしまったのです……」
弁明の余地もない。
どんな思いがあろうとも、不法侵入まがいのことをしてしまったのは事実だ。
言い訳などできるはずがない。
「……あ、あの、さっちゃん先輩のお気持ちはわかりました。すごく嬉しいです。けど……この部屋見て……引かない、んですか?」
その問いに沙友理がどう返したのかは、言うまでもないだろう。
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