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守り抜くもの
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――私は、自然が好きだ。
と言うよりは人間によって造られたものでなければ大概何でも好きだ。
逆を言えば人間によって造られたものはなんであれ嫌いだ。
――何処かで飛行機の音が鳴る。何処かで家が建てられる音がする。何処かで泣き叫ぶ子供の声が聴こえる。何処かで怒声が、悲鳴が、絶叫が聴こえる。
私の耳は地球の裏側にいるものの全ての音までをも拾ってしまう。それほどまでに耳がいいというかなんというか…………
そううんざりしていると充電完了の合図が鳴る。
私には尻尾が付いているのだが、それがコードになっていて、コンセントに繋げると充電出来るという充電式の機械なのだ。
充電が切れると動かなくなってしまう危険があるし、充電が完了するまで何もすることがなく暇なのだ。
私の造りにまで鬱陶しさを感じて思わず怪訝な顔になる。
そんな設定もあったのか――と、薄れゆく意識の中思った。
機械に感情なんてないと思っていたから。それと眠気も。
充電が終わると何故か決まって眠くなる。何故こんな機能が組み込まれたのか全くもって分からない。理解できない。
私は…………守り抜くもの、な……の…………
☆ ☆ ☆
「『W・E』シリーズ、第二番機『守り抜くもの』――チェイル」
「絶対宣言――『武力規制』」
咄嗟に槍をヴァーニに突き刺す。槍はヴァーニの腹を貫き、そのまま地面に刺さった。
ヴァーニは意識がないようだった。仰向けに転がり、痙攣していた。
「お姉ちゃん……」
治癒を施す。とは言ってもヴァーニに突き刺した槍は機械の再起動を促し、機械を回復させる作用が組み込まれているので、チェイル自身が治癒を施す必要はない。
徐々にヴァーニの痙攣が治まり、表情も緩やかなものとなる。
チェイルはそれをホッと安堵し、見守っていた。
それを見ていたマスターが声を掛ける。
「『W・E』シリーズ、第二番機。『守り抜くもの』――チェイル」
「……静かにしていてくれません?」
キッとマスターを睨みつけて唸る。正直チェイルはマスターが大嫌いなのだ。人間だし、自分を造った張本人だから――
「ふははは。まさかお前の乱入があるとはな」
何が可笑しいのか。マスターは声を荒らげて笑う。
それを一層獰猛な目付きでチェイルが応じる。
「はぁ――お前は遠くへ追いやったはずだが」
一通り笑い終わると、底冷えする声と絶対零度の瞳に切り替わった。
だが、チェイルは狼狽えることなく睨み続けた。
一触即発。まさにこの言葉が合うような空気感だった。
それを破ったのは意識が戻ったヴァーニだった。
「うぅ…………頭が痛い……」
「あっ! お姉ちゃんっ! 加減出来なくてごめんなさい……」
「え? チェイル? あー……てことはこの頭痛はチェイルの治癒でか……」
ヴァーニは再起動をしたばかりだがすごく飲み込みが早かった。
チェイルの治癒能力は格段に早く、正確だ。しかし、その分反動が酷い。ヴァーニのように頭痛だけでなく機能不全に陥る機械も多い。
その事をヴァーニは誰よりも知っていたからだ。
「てか、私今まで何を……?」
「バグってて……今にも壊れそうだったんだよ……」
チェイルが槍を刺した時のヴァーニの様子がチェイルの脳裏をよぎる。
それは獣のように本能と歯を剥き出しにした機械――と呼べるかどうか分からない“何か”のようなモノ……にチェイルは見えた。
ヴァーニがどれだけ人間になりたいのか……チェイルはよく分かっていた。親愛なる姉のことはお見通しである。しかし分からなかった。なぜヴァーニが人間に憧れているのか。下等生物である人間なぞ皆殺しにでもすればいいものを。
「チェイル? どうしたの、ぼーっとして?」
「え!? あ、ううん。なんでもないよっ!」
ヴァーニに声をかけられ、チェイルは慌てて首を振った。
何はともあれまずはヴァーニの治癒に専念しないと――チェイルは先程までの思考回路を一旦遮断し、起き上がるとヴァーニに手を伸ばした。
「とりあえず、ここから出ないと。ここは……危険だから……」
「そうだね……確かにここは危険かも。悪いけど背負ってくれる?」
「もちろん!」
ヴァーニがバグっていた時に壁や天井に出来た傷がミシミシと音を立てて今にも崩れそうなぐらい揺れている。
それを感じながらチェイルはヴァーニを背負ってその場から飛び出した。
☆ ☆ ☆
「はぁ……綺麗に壊してくれちゃって……」
さっきまでヴァーニとチェイルがいた場所に怪しい影がひとつ。
その影は真っ黒で全容は掴めなかったが、獰猛で不敵な笑みを浮かべているように見えて、不気味だった。
「建て直すのにどれだけお金がかかるか……考えたくもないねぇ……」
瓦礫と化した建物の破片を手で弄びながら深いため息を吐く。
そして、手で弄んでいた瓦礫をぐしゃっと素手で握りつぶすと、口だけを笑わせて言った。
「いいじゃん……やってやろーじゃねぇか!」
粉々に砕け散った瓦礫だったものを地面に捨てながら、また次の瓦礫をリンゴを握り潰すように砕けさせた。
と言うよりは人間によって造られたものでなければ大概何でも好きだ。
逆を言えば人間によって造られたものはなんであれ嫌いだ。
――何処かで飛行機の音が鳴る。何処かで家が建てられる音がする。何処かで泣き叫ぶ子供の声が聴こえる。何処かで怒声が、悲鳴が、絶叫が聴こえる。
私の耳は地球の裏側にいるものの全ての音までをも拾ってしまう。それほどまでに耳がいいというかなんというか…………
そううんざりしていると充電完了の合図が鳴る。
私には尻尾が付いているのだが、それがコードになっていて、コンセントに繋げると充電出来るという充電式の機械なのだ。
充電が切れると動かなくなってしまう危険があるし、充電が完了するまで何もすることがなく暇なのだ。
私の造りにまで鬱陶しさを感じて思わず怪訝な顔になる。
そんな設定もあったのか――と、薄れゆく意識の中思った。
機械に感情なんてないと思っていたから。それと眠気も。
充電が終わると何故か決まって眠くなる。何故こんな機能が組み込まれたのか全くもって分からない。理解できない。
私は…………守り抜くもの、な……の…………
☆ ☆ ☆
「『W・E』シリーズ、第二番機『守り抜くもの』――チェイル」
「絶対宣言――『武力規制』」
咄嗟に槍をヴァーニに突き刺す。槍はヴァーニの腹を貫き、そのまま地面に刺さった。
ヴァーニは意識がないようだった。仰向けに転がり、痙攣していた。
「お姉ちゃん……」
治癒を施す。とは言ってもヴァーニに突き刺した槍は機械の再起動を促し、機械を回復させる作用が組み込まれているので、チェイル自身が治癒を施す必要はない。
徐々にヴァーニの痙攣が治まり、表情も緩やかなものとなる。
チェイルはそれをホッと安堵し、見守っていた。
それを見ていたマスターが声を掛ける。
「『W・E』シリーズ、第二番機。『守り抜くもの』――チェイル」
「……静かにしていてくれません?」
キッとマスターを睨みつけて唸る。正直チェイルはマスターが大嫌いなのだ。人間だし、自分を造った張本人だから――
「ふははは。まさかお前の乱入があるとはな」
何が可笑しいのか。マスターは声を荒らげて笑う。
それを一層獰猛な目付きでチェイルが応じる。
「はぁ――お前は遠くへ追いやったはずだが」
一通り笑い終わると、底冷えする声と絶対零度の瞳に切り替わった。
だが、チェイルは狼狽えることなく睨み続けた。
一触即発。まさにこの言葉が合うような空気感だった。
それを破ったのは意識が戻ったヴァーニだった。
「うぅ…………頭が痛い……」
「あっ! お姉ちゃんっ! 加減出来なくてごめんなさい……」
「え? チェイル? あー……てことはこの頭痛はチェイルの治癒でか……」
ヴァーニは再起動をしたばかりだがすごく飲み込みが早かった。
チェイルの治癒能力は格段に早く、正確だ。しかし、その分反動が酷い。ヴァーニのように頭痛だけでなく機能不全に陥る機械も多い。
その事をヴァーニは誰よりも知っていたからだ。
「てか、私今まで何を……?」
「バグってて……今にも壊れそうだったんだよ……」
チェイルが槍を刺した時のヴァーニの様子がチェイルの脳裏をよぎる。
それは獣のように本能と歯を剥き出しにした機械――と呼べるかどうか分からない“何か”のようなモノ……にチェイルは見えた。
ヴァーニがどれだけ人間になりたいのか……チェイルはよく分かっていた。親愛なる姉のことはお見通しである。しかし分からなかった。なぜヴァーニが人間に憧れているのか。下等生物である人間なぞ皆殺しにでもすればいいものを。
「チェイル? どうしたの、ぼーっとして?」
「え!? あ、ううん。なんでもないよっ!」
ヴァーニに声をかけられ、チェイルは慌てて首を振った。
何はともあれまずはヴァーニの治癒に専念しないと――チェイルは先程までの思考回路を一旦遮断し、起き上がるとヴァーニに手を伸ばした。
「とりあえず、ここから出ないと。ここは……危険だから……」
「そうだね……確かにここは危険かも。悪いけど背負ってくれる?」
「もちろん!」
ヴァーニがバグっていた時に壁や天井に出来た傷がミシミシと音を立てて今にも崩れそうなぐらい揺れている。
それを感じながらチェイルはヴァーニを背負ってその場から飛び出した。
☆ ☆ ☆
「はぁ……綺麗に壊してくれちゃって……」
さっきまでヴァーニとチェイルがいた場所に怪しい影がひとつ。
その影は真っ黒で全容は掴めなかったが、獰猛で不敵な笑みを浮かべているように見えて、不気味だった。
「建て直すのにどれだけお金がかかるか……考えたくもないねぇ……」
瓦礫と化した建物の破片を手で弄びながら深いため息を吐く。
そして、手で弄んでいた瓦礫をぐしゃっと素手で握りつぶすと、口だけを笑わせて言った。
「いいじゃん……やってやろーじゃねぇか!」
粉々に砕け散った瓦礫だったものを地面に捨てながら、また次の瓦礫をリンゴを握り潰すように砕けさせた。
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