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19.04.04
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漫画を買った。ブルーピリオド、北北西に曇と往け、空電ノイズの姫君。どれも最新刊を。しかし、帰宅してみると、既にブルーピリオドが本棚に刺さっている。既に買っておいたものを読んでいなかっただけなのに、買っていないと勘違いしてしまっていたらしい。記憶力の低下。そして、最新の漫画を直ぐに読まなくても自分を許すようになってしまった、感性の低下。緩やかに自分が終わっていく過程に立っていると感じ、今回買ったものは直ぐに読んだ。どれも面白かった。
昨日からの続き。ついに鬱病の診断を受け、3ヵ月の休職をするように診断書を貰った私は有頂天で上司に連絡し、ひとまず医務室で話をすることとなった。
7:30に起きて、8:00に家を出る。いつもよりも1時間半多く睡眠が取れたおかげか、診断書の効果か、鬱とは無縁で気分はすっきりとしていた。しかし、会社が近くなるにつれて、少しずつ緊張が高まってくる。電話越しでは強気であっても、私が駄目になり、評価が地に落ちることは強気とか軽い気分と一切無縁に存在する現実で、それと向き合わなければならない。同じオフィスに在籍する人間と出来る限り会わないように、会話をしなくて済むように、伏し目がちに通勤路とオフィスを歩いた。心持ちが身体に作用したのか、身体の振る舞いが心持ちに作用したのかは定かではないが、医務室に飛び込んだ時には、朝の開放感が嘘のように気持ちは沈んでいた。
医務室担当者は既に事情を聞いているらしく、同情の言葉をかけてくれる。既に鬱病患者として仕上がっている私は、その言葉に弱く曖昧に言葉を必死に出しているように応える。一昨日は普通に受け答えが出来ていたはずでは? 自分でも余りにわざとらしく思えるが、向こうからそんな疑義を掛けられるわけもなく、美味しい緑茶を煎れて貰う。
9:00になって係長と課長が連れ立って、医務室に入って来る。俯いている私は、下方から彼らの顔を見る。不自然な笑顔が浮かんでいて、それは心配と困惑と呆れの混ざった複雑な感情だった。
4人で丸テーブルを囲む。まずは課長が口を開く。
「まずは仕事のことを全く忘れて、回復に努めて欲しい。これでお前の将来のキャリアに影響が出ることも無いから、心配しないでいい」
将来のキャリアに影響が出ないなんて、それは全くの嘘だと思いながら、私は感謝を述べた。
「やっぱり、身体が固い感じがするな」
係長が笑ってそんなことを言う。確かに緊張はしていたものの、幾分、意識して身体を固くしていたので、そのまま伝わったことが馬鹿々々しくなる。それだけ人のことを普段から見ていないのか、それとも私も人をその程度にしか見ることが出来ないのか。恐らく、後者だと思う。
その後、今やっていた仕事のことを一通り伝える。その年異動して来たばかりの私の業務は殆ど前の担当者に戻せば済む話で、そこまで問題が無いとのことだ。私もそうだろうと思っていた。そして、私にとって一番の問題だった昨年実績のまとめについては、なんとかするから気にしなくていい、とのことだ。その結果は、一年半経った今に至ってもわからない。遅れてまとまったのか。それとも期日に間に合うような、本当にそれほど簡単なものだったのか。
それだけ言って、課長と係長は席を立つ。
「誰かが嫌だったとか、そういうことってあるか?」
退室間際に係長がそう言った。ずっと聞きたかったのだろう。それは組織の為か、自身のキャリアの為か。どちらでもいいのだけれど。
そんなことはありませんよ、と答えた。そうか、と安心したように去っていった。全員です、と言ったら、どんな表情をしただろうか。そんなパターンも見てみたかった。
その後は医務室担当の連絡先を受け取り、可能であれば週に1回くらいは連絡が欲しいという。生存確認程度の意味合いで、重いものではないので、あ、だけでもいいから送ってくれとのことだ。それから総務の担当者に代わり、休職制度の説明を受ける。半年は給与保証があり、そこから更に2年は 2/3の給与を受け取ることが出来る。一先ず、手厚い制度に安心した。考えてみれば、こういった制度がどうなっているかも確かめずにまず診断書を取りに行くのは、本当は危険だったかもしれない。それだけ経営計画の場から離れたかったという証左でもあるのだけれど。
一通りの説明を受け、医務室を、会社を離れた。誰にも顔を合わさないように、話しかけられないように駆け足でオフィスビルを出る。まだ10:00を多少過ぎた程度で、陽が眩しく、熱かった。結果的に一年半もの長さになる休職期間が始まった。
細かい話は明日以降に続ける。
昨日からの続き。ついに鬱病の診断を受け、3ヵ月の休職をするように診断書を貰った私は有頂天で上司に連絡し、ひとまず医務室で話をすることとなった。
7:30に起きて、8:00に家を出る。いつもよりも1時間半多く睡眠が取れたおかげか、診断書の効果か、鬱とは無縁で気分はすっきりとしていた。しかし、会社が近くなるにつれて、少しずつ緊張が高まってくる。電話越しでは強気であっても、私が駄目になり、評価が地に落ちることは強気とか軽い気分と一切無縁に存在する現実で、それと向き合わなければならない。同じオフィスに在籍する人間と出来る限り会わないように、会話をしなくて済むように、伏し目がちに通勤路とオフィスを歩いた。心持ちが身体に作用したのか、身体の振る舞いが心持ちに作用したのかは定かではないが、医務室に飛び込んだ時には、朝の開放感が嘘のように気持ちは沈んでいた。
医務室担当者は既に事情を聞いているらしく、同情の言葉をかけてくれる。既に鬱病患者として仕上がっている私は、その言葉に弱く曖昧に言葉を必死に出しているように応える。一昨日は普通に受け答えが出来ていたはずでは? 自分でも余りにわざとらしく思えるが、向こうからそんな疑義を掛けられるわけもなく、美味しい緑茶を煎れて貰う。
9:00になって係長と課長が連れ立って、医務室に入って来る。俯いている私は、下方から彼らの顔を見る。不自然な笑顔が浮かんでいて、それは心配と困惑と呆れの混ざった複雑な感情だった。
4人で丸テーブルを囲む。まずは課長が口を開く。
「まずは仕事のことを全く忘れて、回復に努めて欲しい。これでお前の将来のキャリアに影響が出ることも無いから、心配しないでいい」
将来のキャリアに影響が出ないなんて、それは全くの嘘だと思いながら、私は感謝を述べた。
「やっぱり、身体が固い感じがするな」
係長が笑ってそんなことを言う。確かに緊張はしていたものの、幾分、意識して身体を固くしていたので、そのまま伝わったことが馬鹿々々しくなる。それだけ人のことを普段から見ていないのか、それとも私も人をその程度にしか見ることが出来ないのか。恐らく、後者だと思う。
その後、今やっていた仕事のことを一通り伝える。その年異動して来たばかりの私の業務は殆ど前の担当者に戻せば済む話で、そこまで問題が無いとのことだ。私もそうだろうと思っていた。そして、私にとって一番の問題だった昨年実績のまとめについては、なんとかするから気にしなくていい、とのことだ。その結果は、一年半経った今に至ってもわからない。遅れてまとまったのか。それとも期日に間に合うような、本当にそれほど簡単なものだったのか。
それだけ言って、課長と係長は席を立つ。
「誰かが嫌だったとか、そういうことってあるか?」
退室間際に係長がそう言った。ずっと聞きたかったのだろう。それは組織の為か、自身のキャリアの為か。どちらでもいいのだけれど。
そんなことはありませんよ、と答えた。そうか、と安心したように去っていった。全員です、と言ったら、どんな表情をしただろうか。そんなパターンも見てみたかった。
その後は医務室担当の連絡先を受け取り、可能であれば週に1回くらいは連絡が欲しいという。生存確認程度の意味合いで、重いものではないので、あ、だけでもいいから送ってくれとのことだ。それから総務の担当者に代わり、休職制度の説明を受ける。半年は給与保証があり、そこから更に2年は 2/3の給与を受け取ることが出来る。一先ず、手厚い制度に安心した。考えてみれば、こういった制度がどうなっているかも確かめずにまず診断書を取りに行くのは、本当は危険だったかもしれない。それだけ経営計画の場から離れたかったという証左でもあるのだけれど。
一通りの説明を受け、医務室を、会社を離れた。誰にも顔を合わさないように、話しかけられないように駆け足でオフィスビルを出る。まだ10:00を多少過ぎた程度で、陽が眩しく、熱かった。結果的に一年半もの長さになる休職期間が始まった。
細かい話は明日以降に続ける。
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