社会復帰日記

社会復帰中

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19.06.03

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 会社にプレゼンを行ってきた。鬱に至った経緯とその原因、それに対して復帰施設で学んだことをどう用いて再発を防止していくのかと言うことについて。質疑や今後の話も含めて、1時間程度のプレゼンだった。結果、私は無事に社会復帰施設を脱し、会社に戻ることが決まった。正式にどこかしらへ配属される前に総務課で労働を行う。労働と言っても1年半離れていた仕事に慣れるための助走期間みたいなもので、大した仕事はないだろうとわかっている。それが来週の月曜から1ヶ月程続く。施設通いもあっという間だったことを思えば、1ヶ月もすぐに過ぎるだろう。今後、社会復帰中という名前をどうするか考えたい。

 昨日からの続き。母が突然泣き出し、唐突にやってきたことの理由が原因で泣いているのだと察しがついたものの、私は何も出来ずにそれを見守っていた。「ごめんね」と母は何度も謝った。泣いていることになのか、その原因に関してなのかわからず、「別にいいよ。気にしないで」と無責任に慰めた。

 それはなかなか落ち着かず、母は結局アイスを食べられずに溶かしてしまって手がベトベトになり、ティッシュで拭いたり水で洗っているうちにようやく落ち着きを取り戻した。

「お父さんがね、浮気してたの」

 母はぐずぐずの顔と声で言った。私は上手く反応が出来なかった。えええ、みたいな声だけ漏れた。母が言うには、父が寝入った間に父のスマホに何かしらの通知があり、それがどうも知らない女性からのようで、悪いと思いながらもスマホを調べると女性と頻繁に会っているような証拠が出てきて、問い詰めると白状したそうだ。

 発覚後、取り合えず母は家を出た。昨日は漫画喫茶で一夜を過ごしたらしい。父からは何回か連絡も入っていたらしいが、死にはしないから大丈夫です、とだけ返して、後は無視しているそうだ。

 母が受けた衝撃は計り知れない。母は実家では一人娘で典型的な箱入りだったと息子の自分でも理解出来るほどで、下品な言葉や下ネタを嫌い、父とは高校で出会い付き合いそのまま結婚をし、今は専業主婦として働いている今となっては古くなった日本観をその身体に備えた人だった。

 父にはその予兆があっただろうか。少なくとも、私が実家に暮らしていたときにはよくわからなかった。体育会系で、私とは違って勢いを武器にしているところはあったし、以前も書いたように幼い頃は衣食住を脅かす躾もあったが、全体としては良い真面目な父親だった気がしている。それが、裏切られた訳だが。

 私は表向き冷静に母の話を聞いていた。発覚した後の父のやり取りやら何やら。母も自身の両親、つまり私にとっての祖父母やパート先の知り合いに話す気は屈辱的で起きないらしく、そうなると必然的に私しか吐き出す相手はいなかった。

 母は同じ話を繰り返し、そのせいで脈絡や起承転結を欠き、いつまでも話は終わらないように見えたが、最終的に私に明日も仕事があるだろうからと時間を見て無理矢理に言葉を継ぎ止めて、家を出た。

「今日は初めてカプセルホテルに泊まってみるつもりなの」

 母は無理に冒険を楽しむ少女みたいな様子を見せていて、私はとても悲しくなった。

 母の受けたダメージの大きさは当然とてつもないものだろうが、それを聞いた私にも影響は大きく、復帰に際しても影響が与えられた。

 細かい話は明日以降に続ける。
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