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ドルフィン
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ー7年前ー
23歳、初夏。
世界的に流行した感染症は、ここ日本にも大きな被害をもたらした。
在宅ワークやリモート会議などが取り入れられ、“日常”の概念が変化した。
これからどんな未来に向かっていくのか。
多くの人がそんな不安の中、生活していた。
工藤奏多もそのうちの1人だった。
勤める会社の無期休業に伴い、働き口がなかった。
やることと言えば、昼頃に起きて軽く食事をとりSNSのチェックと部屋の掃除。
あとはレンタルした映画と録画したテレビドラマを観ていると1日が終わっている。
そんな日々が、もう1か月続こうとしていた。
この状況下で奏多を1番苦しめていたのは“孤独”だった。
人と会話をするのが好きで接客の道へ進んだ。
毎日お客様と話すことが楽しみだったが、今は会話をするのは家族と電話越しの友人くらいだった。
何度目かの月曜日がまた訪れ、退屈は限界に達していた。
「何か新しいこと始めたいなぁ…。」
ぼーっとしていると机上のスマホが振動した。
“久しぶり、元気にしてる?”
同僚の沙羅からのメッセージに少し心が晴れた。
“元気だよ~。でも退屈すぎて病みそう。”
すぐに既読がつき
“そんなことだろうと思ったよ。私ね、マッチングアプリ始めたんだ。
このご時世だし変な出会い求めてくる人もいないから暇つぶしにおすすめだよ。”
メッセージとともにキャラクターのスタンプが送られてきた。
マッチングアプリは過去にも何度か使ったことがあったが、そう長くは続かなかった。
「どうせ暇だし、やってみるか、、。」
アプリストアを開き、検索で1番上に出てきたものをインストールしてみた。
淡い水色にイルカのマークのアイコンをタップする。
簡単なプロフィールを作成し、話しやすそうなユーザーを探す。
沙羅のようにこのご時世に始める人が増えたのか、以前使っていたアプリよりかなりのユーザー数が表示される。
数人のアイコンやプロフィールを眺めていると、1件のメッセージが届いた。
“初めまして。良かったらお話しませんか?”
名前の欄は空白になっていたが、アイコンには幼さの残る男の子の画像が登録されていた。
テンプレとも思える文章にあまり会話をする気力が起きなかったが
他にメッセージもないので、
“初めまして。”
とだけ返信してスマホの画面を消した。
ーレンガ造りの街並みを歩いていると、後ろから誰かに背中を押され海に落ちる。
もがきながら目を開けると、深い青色からシャンパンゴールドのヴェールに視界が包まれる。
「奏多。」
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえる。
誰かはわからないが、とても優しい声。
ヴェールの向こう側から1人の女性が近づいてくる。
長い前髪で表情は見えない。
右手にはサバイバルナイフが力強く握られている。
私の目の前で女性は立ち止まり、握っていたナイフを自身の左胸に突き刺した。
シャンパンゴールドが鮮やかな赤に変わっていく隙間に微笑みが覗いたような気がしたところで目が覚める。
最近何度も見る夢。
夢だと分かっているのに息ができなくなる。
ふと時計に目をやると、最後に時間を確認した時から3時間以上たっていた。
スマホを開くと、イルカのアイコンに2件の通知が表示されていた。
“返信ありがとう。奏多ちゃんって呼んでいいかな?”
“俺、ホストやってるんだ。興味があったら返事待ってるね。”
最初の挨拶とは違い砕けた口調に、さすがホストだな、と思わず苦笑いする。
アイコンの右上からブロックを押そうとしたが、今まで出会ったことの無い世界に興味を示した自分がいた。
“面白そうですね。今度行ってみようかな。”
すぐに、
“本当!?待ってるね。”
のメッセージとともにURLが送られた。
タップすると彼の連絡先が表示されたので、フレンドになる。
アイコンはマッチングアプリと同じものだったが、名前の欄は空白ではなく
“樹弥”
と書かれていた。
“フレンド追加しておきました。”
とメッセージを送り、スマホをベッドに投げる。
夢を見たせいか、やけに喉が渇くのでキッチンへ向かい冷蔵庫から炭酸水を取り出し流し込んだ。
リモコンを手に取りテレビをつける。
夕方のニュースは歌舞伎町をはじめとする夜の街が来月から営業再開すると告げていた。
流し込んだ炭酸水がピリピリと喉を刺激する。
23歳、初夏。
世界的に流行した感染症は、ここ日本にも大きな被害をもたらした。
在宅ワークやリモート会議などが取り入れられ、“日常”の概念が変化した。
これからどんな未来に向かっていくのか。
多くの人がそんな不安の中、生活していた。
工藤奏多もそのうちの1人だった。
勤める会社の無期休業に伴い、働き口がなかった。
やることと言えば、昼頃に起きて軽く食事をとりSNSのチェックと部屋の掃除。
あとはレンタルした映画と録画したテレビドラマを観ていると1日が終わっている。
そんな日々が、もう1か月続こうとしていた。
この状況下で奏多を1番苦しめていたのは“孤独”だった。
人と会話をするのが好きで接客の道へ進んだ。
毎日お客様と話すことが楽しみだったが、今は会話をするのは家族と電話越しの友人くらいだった。
何度目かの月曜日がまた訪れ、退屈は限界に達していた。
「何か新しいこと始めたいなぁ…。」
ぼーっとしていると机上のスマホが振動した。
“久しぶり、元気にしてる?”
同僚の沙羅からのメッセージに少し心が晴れた。
“元気だよ~。でも退屈すぎて病みそう。”
すぐに既読がつき
“そんなことだろうと思ったよ。私ね、マッチングアプリ始めたんだ。
このご時世だし変な出会い求めてくる人もいないから暇つぶしにおすすめだよ。”
メッセージとともにキャラクターのスタンプが送られてきた。
マッチングアプリは過去にも何度か使ったことがあったが、そう長くは続かなかった。
「どうせ暇だし、やってみるか、、。」
アプリストアを開き、検索で1番上に出てきたものをインストールしてみた。
淡い水色にイルカのマークのアイコンをタップする。
簡単なプロフィールを作成し、話しやすそうなユーザーを探す。
沙羅のようにこのご時世に始める人が増えたのか、以前使っていたアプリよりかなりのユーザー数が表示される。
数人のアイコンやプロフィールを眺めていると、1件のメッセージが届いた。
“初めまして。良かったらお話しませんか?”
名前の欄は空白になっていたが、アイコンには幼さの残る男の子の画像が登録されていた。
テンプレとも思える文章にあまり会話をする気力が起きなかったが
他にメッセージもないので、
“初めまして。”
とだけ返信してスマホの画面を消した。
ーレンガ造りの街並みを歩いていると、後ろから誰かに背中を押され海に落ちる。
もがきながら目を開けると、深い青色からシャンパンゴールドのヴェールに視界が包まれる。
「奏多。」
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえる。
誰かはわからないが、とても優しい声。
ヴェールの向こう側から1人の女性が近づいてくる。
長い前髪で表情は見えない。
右手にはサバイバルナイフが力強く握られている。
私の目の前で女性は立ち止まり、握っていたナイフを自身の左胸に突き刺した。
シャンパンゴールドが鮮やかな赤に変わっていく隙間に微笑みが覗いたような気がしたところで目が覚める。
最近何度も見る夢。
夢だと分かっているのに息ができなくなる。
ふと時計に目をやると、最後に時間を確認した時から3時間以上たっていた。
スマホを開くと、イルカのアイコンに2件の通知が表示されていた。
“返信ありがとう。奏多ちゃんって呼んでいいかな?”
“俺、ホストやってるんだ。興味があったら返事待ってるね。”
最初の挨拶とは違い砕けた口調に、さすがホストだな、と思わず苦笑いする。
アイコンの右上からブロックを押そうとしたが、今まで出会ったことの無い世界に興味を示した自分がいた。
“面白そうですね。今度行ってみようかな。”
すぐに、
“本当!?待ってるね。”
のメッセージとともにURLが送られた。
タップすると彼の連絡先が表示されたので、フレンドになる。
アイコンはマッチングアプリと同じものだったが、名前の欄は空白ではなく
“樹弥”
と書かれていた。
“フレンド追加しておきました。”
とメッセージを送り、スマホをベッドに投げる。
夢を見たせいか、やけに喉が渇くのでキッチンへ向かい冷蔵庫から炭酸水を取り出し流し込んだ。
リモコンを手に取りテレビをつける。
夕方のニュースは歌舞伎町をはじめとする夜の街が来月から営業再開すると告げていた。
流し込んだ炭酸水がピリピリと喉を刺激する。
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