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模擬戦
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「その後、二人がどうなったかは分かりません・・・。何しろ、いくら探してももう日本に辿り着くことは出来なかったからです。そして、私の前に貴方が現れた・・・。日本を知る貴方が・・・」
卜部朝孝、彼に剣術を教えたという二人の剣豪は間違いなく日本に実在した人物だ。
だが、塚原卜伝と宮本武蔵は同じ時代には生きていなかったはず。武蔵が生まれるよりも前に、卜伝は既に死去しているのが日本の史実のはず。
きっとこのイベントは卜伝の逸話から派生した物語なのだろう。食事中の卜伝に斬り込み、それを鍋の蓋で受け止めたというのが有名だ。
朝孝はシンに、日本への行き方を教えて貰いたいようだが、シン自身にも勿論分かる筈もなく、イベントというものは期間限定であり、再度開催される保証はない。
「すみません・・・、確かに日本については知っているのですが、貴方の知る日本・・・塚原卜伝や宮本武蔵が存在する日本へ行く方法があるのかすら分かりません・・・」
「そう・・・ですか・・・」
朝孝は、もう彼らには会えないことを分かっているいようだった。それでも、目の前に現れた可能性に、飛びつかずにはいられなかったのだろう。
外は、すっかり夕暮れ時になっていた。
外からは夕食の匂いだろうか、近所から美味しそうな匂いが道場まで届いている。
「もうこんな時間ですか・・・、すっかり話し込んでしまいました。 もし宿などが決まっていないのなら、うちの道場に泊まっていきませんか? 歓迎しますよ」
泊まる宛てもなく、お金もあまり贅沢できない状況にあったシンにとって、スキルの習得やクエストの面倒まで見てくれる場所に、泊まらせて貰える好条件を断る理由はない。
「実のところ、お金にも余裕がなかったので助かります。 お願いしてもよろしいでしょうか?」
「勿論ですよ。 大方の話はアーテムから伺っております。稽古については明日以降にしましょう。今日のところはゆっくりしていってください」
シンが泊まること、今後の予定についてアーテムへ話す朝孝。すると、アーテムも道場に暫く居座るという話になった。
食事を済ませ、風呂を借り、床に着くと、一緒の部屋に泊まることになったアーテムと就寝前に少し会話をする二人。
「先生とは、何を話したんだ?」
「朝孝さんの昔の話を聞いた。日本という国で育ったって・・・。この建物や朝孝さんの服装はそういうことだったのか」
アーテムの理想とする正義も、きっと朝孝から受け継がれたものなのかもしれないと、シンは漸くわかった。彼なりに師の意志を継ごうとしているのだと。
しかし、アーテムは卜伝や朝孝よりも少し血の気が多いようにも感じる。
そのため騎士達とのいざこざも少なくない。
「そうか・・・。 でも、待ってるだけじゃダメなんだ・・・。 先生は、シュトラールもいずれ自分の様に変われる筈だって言ってるけどよ・・・。アイツは先生とは違う・・・」
そういうとアーテムはシンとは逆の方へ向き眠りについた。
翌日、目を覚ますと既にアーテムの姿はなかった。
既に子供達の稽古は始まっている。
「遅かったじゃねぇか、良く眠れたかよ」
アーテムの皮肉がシンに突き刺さる。
朝孝も既に道場におり、アーテムを宥めてくれていた。
「まぁまぁ、かれも疲れていたのでしょう。 私の顔に免じて許してあげて下さい」
アーテムは舌打ちをしながらも、朝孝の言葉には素直に従う。さながら良く飼いならされた狂犬のようだった。
「さて、シン君。 先ずは君の得意武器を教えてくれますか?」
「短剣を主に使います。 その他には小太刀や刀なども少し・・・」
それを聞き、朝孝は数度頷き、シンへと歩み寄り、彼の武器熟練度を見ると、稽古のメニューが決まったのか、話を進める。
「なるほど・・・。 先日の話から察しているかも知れませんが、私が得意とする武器は刀です。 短剣のスキルについては、丁度いいことに適任の者がおりますので、その人物に頼むとしましょう」
そういうと朝孝は、その適任の人物の方を笑顔で見つめる。シンは朝孝の見つめる方にゆっくりと目をやる。その視線の先には、アーテムの姿があった。
「先生・・・。 アンタそのつもりで俺を泊めさせたのか? 人が悪いぜ・・・、俺が何かを教えるのが下手なの知ってるよな?」
「えぇ・・・。 ですからとっても簡単で分かり易い方法で稽古をつけようと思います」
朝孝はシンの方を向くと、不敵な笑みを浮かべて、その方法を話す。
「シン君、君の短剣スキルの稽古は・・・、アーテムとの模擬戦にしましょう」
アーテムとの模擬戦と聞き、シンは驚いた。
聖都ユスティーチの政策に噛み付く、ルーフェン・ヴォルフのリーダーである彼との模擬戦。
仮にもシュトラールと対立するのだから、実力もそれに近しいところにあるのだろう。この模擬戦で、聖都ユスティーチの大まかな力量を測れることになる。
アーテムの師匠でもある朝孝は、間違いなく彼よりも強い。そしてそれだけの力を持っていながら、相反するシュトラールの正義を止めていないのは、卜伝から継いだ力による統治に頼らない正義を貫いてのことなのか、あるいは・・・。
「なるほどなッ! それなら俺にも出来そうだ。 シン! お前の実力・・・見せて貰おうか!」
アーテムは、シンと違って随分と余裕に見える。
「模擬戦といっても稽古ですからね。 武器は短剣のみ、何本使ってもらっても構わいません。それとスキルの使用は禁止とします、公平性を保つためにも・・・ですね」
朝孝から大まかなルールが説明される。
「短剣を投げるのも・・・禁止ですか?」
投擲は一応プレイヤーからすればスキルとなるが、この世界の住人達にすれば、ただ投げるだけなら誰でも出来そうなものに感じる。
「そうですね・・・、それくらいなら良しとしましょう。 アーテムもそれでいいですね?」
「あぁ、構わないぜ」
投擲の了承を得たことで、シンに一つ、アドバンテージが出来た。
アサシンの彼が使う投擲は、通常よりも威力が増しているため、ただ投げるだけよりもダメージ補正がかかっている。
「よっしゃ! じゃぁ早速始めようぜッ! どっからでもかかって来なッ!」
短剣を抜くと戦闘体勢に入るアーテム。
先手を譲ってもらっているようだが、シンはアーテムの出方が分からない。先ずは様子を見るため、投擲から始めようかと迷っていると、痺れを切らしたアーテムが動き出す。
「来ねぇんならこっちからいくぜ!」
アーテムは力強く走り出すと、一気に加速し、間合いを詰めてきた。
シンは咄嗟に、突進してくるアーテム目掛けて短剣を投擲する。
シンが放った短剣を弾き、勢い任せに短剣をシンへと振り下ろす。
「オラァァァッ!」
これを紙一重で躱すシン。
彼の間合いを詰めるスピードは凄まじいものがあるが、攻撃は大振りで、しっかり見てさえいれば避けられない攻撃ではない。
大振りの短剣による一撃を避けられ、隙の出来たところへすかさず一撃を入れようとする。
ふと、アーテムの背後に落ちていく短剣が目に入り、それはアーテムの背中に隠れ見えなくなる。
その瞬間、反対の手に持った短剣がシンの首を狙う。
アーテムは片手にしか短剣を持っていなかったはずだ。
いつの間に、反対の手に短剣を持っていたのかシンには見えなかった。
一撃目からの二撃目の間があまりにも短く、シンは認識するのが精一杯だった。
直ぐに首を後ろへ引っ込めるが、アーテムの振るった二撃目の短剣が、シンの首元で止まる。
「これが死合いなら終わってたな・・・。 ほら、返すぜ」
ピタリと動けなくなり、冷や汗をかくシンへ短剣を放り投げる。
それを受け取って初めて分かった。
これは最初にシンが、向かってくるアーテム目掛けて投げた短剣だ。
彼は放たれた短剣を、落ちてくるとことまで計算して弾き、背後でそれをキャッチし二撃目としていたのだった。
獣のように大雑把な戦いをするかと思っていたシンだが、アーテムは天性の戦闘センスの持ち主だった。
「まだ、始まったばかりだぜ?」
アーテムが再度、間合いを取り戦闘体勢に入る。
彼はワイルドな見た目や動きからは想像もできない程、したたかな戦い方をする男だった。
卜部朝孝、彼に剣術を教えたという二人の剣豪は間違いなく日本に実在した人物だ。
だが、塚原卜伝と宮本武蔵は同じ時代には生きていなかったはず。武蔵が生まれるよりも前に、卜伝は既に死去しているのが日本の史実のはず。
きっとこのイベントは卜伝の逸話から派生した物語なのだろう。食事中の卜伝に斬り込み、それを鍋の蓋で受け止めたというのが有名だ。
朝孝はシンに、日本への行き方を教えて貰いたいようだが、シン自身にも勿論分かる筈もなく、イベントというものは期間限定であり、再度開催される保証はない。
「すみません・・・、確かに日本については知っているのですが、貴方の知る日本・・・塚原卜伝や宮本武蔵が存在する日本へ行く方法があるのかすら分かりません・・・」
「そう・・・ですか・・・」
朝孝は、もう彼らには会えないことを分かっているいようだった。それでも、目の前に現れた可能性に、飛びつかずにはいられなかったのだろう。
外は、すっかり夕暮れ時になっていた。
外からは夕食の匂いだろうか、近所から美味しそうな匂いが道場まで届いている。
「もうこんな時間ですか・・・、すっかり話し込んでしまいました。 もし宿などが決まっていないのなら、うちの道場に泊まっていきませんか? 歓迎しますよ」
泊まる宛てもなく、お金もあまり贅沢できない状況にあったシンにとって、スキルの習得やクエストの面倒まで見てくれる場所に、泊まらせて貰える好条件を断る理由はない。
「実のところ、お金にも余裕がなかったので助かります。 お願いしてもよろしいでしょうか?」
「勿論ですよ。 大方の話はアーテムから伺っております。稽古については明日以降にしましょう。今日のところはゆっくりしていってください」
シンが泊まること、今後の予定についてアーテムへ話す朝孝。すると、アーテムも道場に暫く居座るという話になった。
食事を済ませ、風呂を借り、床に着くと、一緒の部屋に泊まることになったアーテムと就寝前に少し会話をする二人。
「先生とは、何を話したんだ?」
「朝孝さんの昔の話を聞いた。日本という国で育ったって・・・。この建物や朝孝さんの服装はそういうことだったのか」
アーテムの理想とする正義も、きっと朝孝から受け継がれたものなのかもしれないと、シンは漸くわかった。彼なりに師の意志を継ごうとしているのだと。
しかし、アーテムは卜伝や朝孝よりも少し血の気が多いようにも感じる。
そのため騎士達とのいざこざも少なくない。
「そうか・・・。 でも、待ってるだけじゃダメなんだ・・・。 先生は、シュトラールもいずれ自分の様に変われる筈だって言ってるけどよ・・・。アイツは先生とは違う・・・」
そういうとアーテムはシンとは逆の方へ向き眠りについた。
翌日、目を覚ますと既にアーテムの姿はなかった。
既に子供達の稽古は始まっている。
「遅かったじゃねぇか、良く眠れたかよ」
アーテムの皮肉がシンに突き刺さる。
朝孝も既に道場におり、アーテムを宥めてくれていた。
「まぁまぁ、かれも疲れていたのでしょう。 私の顔に免じて許してあげて下さい」
アーテムは舌打ちをしながらも、朝孝の言葉には素直に従う。さながら良く飼いならされた狂犬のようだった。
「さて、シン君。 先ずは君の得意武器を教えてくれますか?」
「短剣を主に使います。 その他には小太刀や刀なども少し・・・」
それを聞き、朝孝は数度頷き、シンへと歩み寄り、彼の武器熟練度を見ると、稽古のメニューが決まったのか、話を進める。
「なるほど・・・。 先日の話から察しているかも知れませんが、私が得意とする武器は刀です。 短剣のスキルについては、丁度いいことに適任の者がおりますので、その人物に頼むとしましょう」
そういうと朝孝は、その適任の人物の方を笑顔で見つめる。シンは朝孝の見つめる方にゆっくりと目をやる。その視線の先には、アーテムの姿があった。
「先生・・・。 アンタそのつもりで俺を泊めさせたのか? 人が悪いぜ・・・、俺が何かを教えるのが下手なの知ってるよな?」
「えぇ・・・。 ですからとっても簡単で分かり易い方法で稽古をつけようと思います」
朝孝はシンの方を向くと、不敵な笑みを浮かべて、その方法を話す。
「シン君、君の短剣スキルの稽古は・・・、アーテムとの模擬戦にしましょう」
アーテムとの模擬戦と聞き、シンは驚いた。
聖都ユスティーチの政策に噛み付く、ルーフェン・ヴォルフのリーダーである彼との模擬戦。
仮にもシュトラールと対立するのだから、実力もそれに近しいところにあるのだろう。この模擬戦で、聖都ユスティーチの大まかな力量を測れることになる。
アーテムの師匠でもある朝孝は、間違いなく彼よりも強い。そしてそれだけの力を持っていながら、相反するシュトラールの正義を止めていないのは、卜伝から継いだ力による統治に頼らない正義を貫いてのことなのか、あるいは・・・。
「なるほどなッ! それなら俺にも出来そうだ。 シン! お前の実力・・・見せて貰おうか!」
アーテムは、シンと違って随分と余裕に見える。
「模擬戦といっても稽古ですからね。 武器は短剣のみ、何本使ってもらっても構わいません。それとスキルの使用は禁止とします、公平性を保つためにも・・・ですね」
朝孝から大まかなルールが説明される。
「短剣を投げるのも・・・禁止ですか?」
投擲は一応プレイヤーからすればスキルとなるが、この世界の住人達にすれば、ただ投げるだけなら誰でも出来そうなものに感じる。
「そうですね・・・、それくらいなら良しとしましょう。 アーテムもそれでいいですね?」
「あぁ、構わないぜ」
投擲の了承を得たことで、シンに一つ、アドバンテージが出来た。
アサシンの彼が使う投擲は、通常よりも威力が増しているため、ただ投げるだけよりもダメージ補正がかかっている。
「よっしゃ! じゃぁ早速始めようぜッ! どっからでもかかって来なッ!」
短剣を抜くと戦闘体勢に入るアーテム。
先手を譲ってもらっているようだが、シンはアーテムの出方が分からない。先ずは様子を見るため、投擲から始めようかと迷っていると、痺れを切らしたアーテムが動き出す。
「来ねぇんならこっちからいくぜ!」
アーテムは力強く走り出すと、一気に加速し、間合いを詰めてきた。
シンは咄嗟に、突進してくるアーテム目掛けて短剣を投擲する。
シンが放った短剣を弾き、勢い任せに短剣をシンへと振り下ろす。
「オラァァァッ!」
これを紙一重で躱すシン。
彼の間合いを詰めるスピードは凄まじいものがあるが、攻撃は大振りで、しっかり見てさえいれば避けられない攻撃ではない。
大振りの短剣による一撃を避けられ、隙の出来たところへすかさず一撃を入れようとする。
ふと、アーテムの背後に落ちていく短剣が目に入り、それはアーテムの背中に隠れ見えなくなる。
その瞬間、反対の手に持った短剣がシンの首を狙う。
アーテムは片手にしか短剣を持っていなかったはずだ。
いつの間に、反対の手に短剣を持っていたのかシンには見えなかった。
一撃目からの二撃目の間があまりにも短く、シンは認識するのが精一杯だった。
直ぐに首を後ろへ引っ込めるが、アーテムの振るった二撃目の短剣が、シンの首元で止まる。
「これが死合いなら終わってたな・・・。 ほら、返すぜ」
ピタリと動けなくなり、冷や汗をかくシンへ短剣を放り投げる。
それを受け取って初めて分かった。
これは最初にシンが、向かってくるアーテム目掛けて投げた短剣だ。
彼は放たれた短剣を、落ちてくるとことまで計算して弾き、背後でそれをキャッチし二撃目としていたのだった。
獣のように大雑把な戦いをするかと思っていたシンだが、アーテムは天性の戦闘センスの持ち主だった。
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