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神代 コウ

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聖都動乱

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「イデアール隊長ッ! イデアール隊長はおいでか!?」

一人の聖騎士が、目紛しく駆け回り、騒がしい声が聖騎士兵舎内に響き渡る。

「騒がしいぞ・・・。 一体どうしたというのだ・・・」

一室から、まだ甲冑を着込んでいないイデアールが、鍛錬の途中だったのか汗だくの様子で姿を現す。

「大変ですッ・・・! 只今、巡回中の聖騎士から、聖都各地にて突如モンスターが発生したと、報告がありましたッ!」

イデアールは、その報告が一体どういう事なのか、瞬時に理解することが出来なかった。

それもそのはず。
聖都はシュトラールが王になる以前から、モンスターが入り込むような事など一度も起きたことがないからだった。

それこそシュトラールが王になってからというもの、聖騎士達による転移技によって瞬時に問題の解決することに尽力しており、上空からの巡回も加わった為、聖都の守りはより一層強固なものとなっているはずだ。

イデアールが信頼を置くシュトラールが、そんな失態を許すはずが無い。

「何を・・・言っている? そんな馬鹿なこと・・・」

呆気に取られ、頭の整理が追いついていないイデアールに、追い討ちをかける形で更に続報が告げられる。

「さ・・・更にッ! モンスターが現れたであろう各所から、毒性のある液体や蒸気が周辺に散布されたとのことッ! 転移により駆けつけた聖騎士隊による救助で、民への被害は出ておりませんが、現場付近にて救助活動をしていたルーフェン・ヴォルフの数名が毒により侵され死亡したとの報告ですッ・・・!」

想像するに容易いほど、現場が危険な状態であるのがわかる。

その最も甚大な被害をもたらすであろう要因は、間違いなく毒性のモノだ。

どの程度散布しているかは、現場に行かなければ分からないが、気体化した毒はモンスターが暴れ回ることにより、更にその範囲を拡大していくことだろう。

現場に向かった聖騎士隊達は大丈夫なのだろうか。

そんな事を思いながらも、現場の報告はシュトラールの元へ届いているか部下に確認すると、既に向かっているとのこと。

事態の発生は市街地に多く見られ、最初に発見されたのもイデアールの隊が管轄するエリアだったということだ。

部下の聖騎士達に、毒の対策をした後、直ぐに現場に向かい民の救出を最優先に行うよう指示すると、イデアールは急ぎ甲冑を身に纏い、シュトラールの元へ向かう。



朝孝やシンがいる道場でも、同様の事態が起きていた。

アーテムは前日からルーフェン・ヴォルフのアジトへと戻っており、シンはちょうど朝の稽古を道場の子供達と共に行なっているところだった。

突然、大きな物音と共に、街のあちこちから煙が上がっているのが道場からも見えていた。

「なッ・・・! 何事だッ!?」

物音に身体を竦めるシンと、驚きで泣き出してしまう子供達を集め安心させる朝孝。

「先生ッ・・・!?」

シンは咄嗟に朝孝の方を見るも、当然朝孝自身も何が起こっているのか分かるはずもなかった。

「わかりません・・・。 先ずは周囲の安全の確保を・・・」

「それなら俺が行ってきますッ!」

朝孝がここを離れられないのならば、他に適任はいないと、直ぐに自らが事態の確認と周辺の安全を確認してくると、朝孝に伝える。

「すみません・・・、お願いします・・・」

泣きじゃくる子供達を集め、申し訳なさそうな表情で頼む朝孝に、シンは力強く頷き、出発しようとする。

「シン君ッ! ・・・決して無理はしないで下さいね・・・」

「はいッ!」

元から少し心配性気味である朝孝が、念を押して心配してくるということは、何か良からぬことが起きるかもしれないと、剣豪としての勘がそう囁くのだろうか。

外に出ると、騎士の誘導によって逃げる民の姿があちこちに見える。

アサシンの身体能力を使い、近くにある高い所へ駆け上がると、道場のしゅういを確認する。

市街地の南部、外壁寄りの地区に位置する道場付近はまだそれ程までに大きな被害が出ていないのを確認すると、道場にいる朝孝へ安全が確認できた合図を送る。

「アーテムッ! 彼に相談できないだろうか・・・。 ミアは? 無事なのか?」

シンは身軽な動きで地上へ降りてくると、ミアへメッセージを送りながら、アーテムを探す為ルーフェン・ヴォルフのアジトを目指す。



ミアが異変に気が付いたのは、シャルロットの暮らす兵舎の一室で、ツクヨにWoFの知識を教えている時だった。

「いッ・・・今の音は・・・?」

ミアは直ぐさま窓際の壁に張り付くと、唇に人差し指を当てツクヨに音を立てないよう促す。

ゆっくり窓から外の様子を伺うと、すぐ側で大きな煙が上がっている。

それだけでは無い。
街の奥の方からも煙が上がっており、僅かに悲鳴のようなものも兵舎にまで届いてきた。

「何が起きてる・・・?」

「こッ・・・これもゲームでは良くあることなのか?」

何も知らない者にしたら、ゲームとはこんなことが日常茶飯事に起こるものだと思っていても不思議ではない。

「こんな事が日常的に起こってたまるかッ! 異常なことだよ・・・。 街はどうなっているんだ?」

外の様子を見に行こうと、ツクヨに付いて来いと手で合図すると、ドアを開け廊下に出る。

しかし、外で物騒なことが起きているにも関わらず、聖騎士の兵舎内は不思議なくらい静かだった。

「何故誰もいない? 気づいてないのか・・・それとも、もう向かっているのか?」

ミアが外と兵舎内の温度差に困惑していると、兵舎内で仕事をしている使用人が急いだ様子で荷物をまとめているのが見えた。

「おいッ! アンタ! 聖騎士達はどこへいった!?」

急に大きな声を掛けられたことに驚く使用人が、一呼吸おいてから何も知らないミアに説明した。

「聖騎士様達は、既に出動しております。 聖都の民達に危険が迫れば瞬時に現地に迎える術を持っています。 今は皆さん、各地で問題解決に努めていらっしゃることでしょう」

それを聞いてミアは、自分が聖都に入る時、聖騎士から渡された光のことを思い出した。

「なるほど・・・、そういうことか・・・」

聖騎士達の行方や、何をしているのかに納得していると、使用人に貴方達も逃げるようにと促され、ミアとツクヨは廊下を抜け、広場に出ると、そのまま外へ出る。

少し離れたところでは、騎士に誘導され避難する民と、大型のモンスターと戦っている聖騎士の姿があった。

「モンスターッ!? 何故、街中にモンスターがいる!?」

ミアがその異常な光景に驚いていると、直ぐ横から建物を突き破り、ミアとツクヨの前にモンスターが現れ、大きな咆哮をあげる。

「ツクヨッ! 戦闘準備だッ!!」

モンスターに存在が認識されてしまった以上、戦闘は避けられないと悟ったミアは、戦ったところを見たことはないが、この世界にいるなら避けては通れぬと、ツクヨに武器を持たせる。

しかし、瞬時にミアの目の前に現れた聖騎士が、四足獣のモンスターの顎を左手に構えた大きな盾でかち上げ、右手に持ったら西洋風のランスで穿ち、後方へとモンスターを吹き飛ばした。

「おいおいッ・・・、上位モンスターじゃなかったか? ・・・それを一撃で・・・」

実際に聖騎士が戦うところを見るのが初めてだったミアは、騎士達の実力について実感が湧かなかったが、かつてミアが戦ったアンデッドデーモンに近しいクラスのモンスターを一撃で吹き飛ばしたことから、少なくとも以前のミアやシンよりも強いであろうことを知った。

こんな実力の者達が隊を組んでいるということ、そしてこの聖騎士もその内の一人に過ぎないのだと、聖都の兵力の高さに驚きを隠せなかった。
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