56 / 1,646
理想のため
しおりを挟む
弾はモンスターに命中すると、脚の内部で膨張し爆発すると、鉤爪状の突起がそれぞれの軌道で四散する。
真っ暗な視界の中、ツクヨは鈍い破裂音を聴き取ると、手にした剣に力が入る。
「お前と近接している私には、お前の脚の位置がよく分かる。 そして、この一撃でお前の機動力を断つッ!」
構えた剣に力が入る。破裂音のした位置目掛けて放たれた一閃は、ミアの銃弾により内部を破壊された脚を両断するには十分な威力だった。
「ギャァァァァァーーーッ!」
前脚と後ろ脚を片方ずつ失い、倒れ込む四足獣が地面でのたうち回るが、徐々にその行動も取れなくなる。
「まさか倒してしまうとは・・・。 君達は一体何者なんだ・・・?」
聖騎士は魔法で自身の視界を取り戻すと、近くにいたミア、ツクヨの順に二人の視界も戻してくれた。
「驚いたのはこっちさ。 ツクヨのクラス、剣士で上位モンスターとここまで渡り合えるということは、その熟練度は上位クラスにも匹敵するということか・・・」
ツクヨは、シンやミアのように上位クラスではないが、剣士の熟練度が上位クラスに匹敵するほど高まっていた。
「なぁ、シャルロットはどうしているだろう? 彼女は無事なんだろうか?」
シャルロットとは、まだ騒動が起きてから会っていない。
「彼女なら、城内の上層に向かっていくのを見た者がいた。 イデアール隊長の元へ向かったのではないか?」
「イデアール・・・?」
二人は顔を見合わせ、聖騎士にイデアールのことと、城内の何処にいるのかを問い詰めると、急ぎシャルロットの元へ向かった。
時は少し遡り、動乱を知ったイデアールがシュトラールいる玉座の間へと到着したところから始まる。
「シュトラール様ッ! 聖都国内の各地にてモンスターが現れましたッ! そしてモンスターの出現場所からは毒が散布されたとのこと・・・。 シュトラール様、如何様にして・・・」
イデアールがシュトラールへ、国内に起きている動乱の説明をし出すが、シュトラールは全くと言っていいほど、動揺することもなく澄ましていた。
そして、イデアールが玉座の間に到着するよりも早く、既にそこにいたシャーフとリーベ、そしてシュトラール直属の聖騎士隊も同様、慌てる様子もなく、ただイデアールの報告を聞いているだけだった。
「シュトラール様・・・?」
「慌てるな、イデアール。 皆の者! よく聞け! これより我らは聖都国内に入り込んだ”悪“を根絶する。 今こそ、我々が掲げた正しき者だけの黄金郷を築き上げる時ッ! 迷う事なくッ、疑う事なくッ、正義の”裁き“を執行するのだッ!」
「ハッ!!」
一斉に足を揃える音と、剣を胸に掲げ、シュトラールの言葉に忠誠を誓う一同。
そして聖騎士達は、隊列を組み歩き出すと、玉座の間を後にした。
部屋に残ったのは、シュトラール・シャーフ・リーベ、そして何がなんだか分からず唖然として膝をついたままのイデアールだけとなった。
「こ・・・これは・・・? 一体どういうことでしょうか?」
「イデアールよ・・・。 君の功績は大きい・・・、君がいなければ実現し得なかった事だ。 後のことは我々に任せて、君には聖都への城門にて、誰も中に入れないよう防衛をしていて貰いたい」
未だ何事か理解できない様子のイデアール。
そして作戦に向かう様子のリーベが、すれ違いざまにイデアールへ言葉をかけた。
「もうすぐ私達の理想が形になるわ・・・、その瞬間に立ち会える喜び・・・。 素敵だと思わない? そしてここから方舟を飛ばして世界へ広めていく、黄金郷の使徒となるの・・・」
リーベの目つきが険しくなり、イデアールを鼓舞するように最後の言葉を残す。
「思い出して。 私達が見てきた“人の闇を”、“人の業を”、 “人の悪を”。 私達でなければ出来ないのよ・・・、痛みや苦しみを知る私達でなければ・・・」
そう言うと、リーベはゆっくりと部屋を後にする。
「リーベ・・・? 何を言ってるんだ・・・。 俺の功績・・・?」
イデアールは、リーベの言葉やシュトラールの言った功績という単語に、何か違和感を感じた。
「俺がしたこと・・・、俺にしかできなかったこと・・・、モンスターが各地に・・・まさかッ!!」
彼の脳内にあった嫌な予感が、いよいよ現実味を帯びてきていた。
イデアールは近隣の山岳地帯で、上位モンスター討伐の任に着き、ドロップ品を持ち込んだ。
聖都ユスティーチ国内の各地にある、ルーフェン・ヴォルフのアジトの出入り口となっている建物に、彼ら宛のアイテムやシュトラールの“ギフト”が入った荷物を運んだ。
イデアールは聖都内のみならず、市街地やルーフェン・ヴォルフの面々、そして朝孝とも友好的に接してきた。
「ぁッ・・・あぁ・・・、そんな・・・。 シュトラール様・・・、俺は一体何を・・・」
イデアールの中で答えは既に出ていた。
しかし、もしかしたらシュトラールの口から違う答えが聞けるかもしれないと、彼はそんな不確かなものに縋りたくなる程の、身の震えを感じていた。
シュトラールは、何も言わない。
何も答えない。
それが、シュトラールの“答え”だったから。
イデアールの感情は、怒りへと変わった。
信じていた者に裏切られ、利用され、自分にもう一つの大志を抱かせてくれた人達に対する非人道的な仕打ちを、イデアール自らの手で行わせたシュトラールに、疑問を抱かざるにはいられなかった。
「何でこんなことをッ! 何故、俺にやらせたんですかッ! シュトラール様ッ!!」
立ち上がり、シュトラールへと歩み寄るイデアールを、シャーフが止める。
「イデアールッ!! ・・・イデアール。 落ち着け、イデアール。 そして目を覚ませ。 俺達の理想とはなんだ? お前が見てきたものは何だった? イデアール。善良な者が虐げられ、何も知らぬ無垢なる者達が利用され、“悪”に染まってきた」
冷静にイデアールの両肩を掴み、宥めるシャーフ。
「そしてお前もそれに加担し、止めることが出来なかった・・・。そんなものを世界から・・・国からなくしたいと思ったから、今ここにいるんじゃないのか? 自分の罪を償う為にも、まずはこの国から“悪”を消し去る。その為の準備をお前がしたに過ぎない」
「“悪”・・・? “悪”だって? あの人達がか?」
シャーフにより、冷静さを取り戻してきたイデアールは、何でこんなことをする必要があったのか、シャーフに尋ねる。
そして、それに答えたのはシャーフではなく、シュトラール本人だった。
真っ暗な視界の中、ツクヨは鈍い破裂音を聴き取ると、手にした剣に力が入る。
「お前と近接している私には、お前の脚の位置がよく分かる。 そして、この一撃でお前の機動力を断つッ!」
構えた剣に力が入る。破裂音のした位置目掛けて放たれた一閃は、ミアの銃弾により内部を破壊された脚を両断するには十分な威力だった。
「ギャァァァァァーーーッ!」
前脚と後ろ脚を片方ずつ失い、倒れ込む四足獣が地面でのたうち回るが、徐々にその行動も取れなくなる。
「まさか倒してしまうとは・・・。 君達は一体何者なんだ・・・?」
聖騎士は魔法で自身の視界を取り戻すと、近くにいたミア、ツクヨの順に二人の視界も戻してくれた。
「驚いたのはこっちさ。 ツクヨのクラス、剣士で上位モンスターとここまで渡り合えるということは、その熟練度は上位クラスにも匹敵するということか・・・」
ツクヨは、シンやミアのように上位クラスではないが、剣士の熟練度が上位クラスに匹敵するほど高まっていた。
「なぁ、シャルロットはどうしているだろう? 彼女は無事なんだろうか?」
シャルロットとは、まだ騒動が起きてから会っていない。
「彼女なら、城内の上層に向かっていくのを見た者がいた。 イデアール隊長の元へ向かったのではないか?」
「イデアール・・・?」
二人は顔を見合わせ、聖騎士にイデアールのことと、城内の何処にいるのかを問い詰めると、急ぎシャルロットの元へ向かった。
時は少し遡り、動乱を知ったイデアールがシュトラールいる玉座の間へと到着したところから始まる。
「シュトラール様ッ! 聖都国内の各地にてモンスターが現れましたッ! そしてモンスターの出現場所からは毒が散布されたとのこと・・・。 シュトラール様、如何様にして・・・」
イデアールがシュトラールへ、国内に起きている動乱の説明をし出すが、シュトラールは全くと言っていいほど、動揺することもなく澄ましていた。
そして、イデアールが玉座の間に到着するよりも早く、既にそこにいたシャーフとリーベ、そしてシュトラール直属の聖騎士隊も同様、慌てる様子もなく、ただイデアールの報告を聞いているだけだった。
「シュトラール様・・・?」
「慌てるな、イデアール。 皆の者! よく聞け! これより我らは聖都国内に入り込んだ”悪“を根絶する。 今こそ、我々が掲げた正しき者だけの黄金郷を築き上げる時ッ! 迷う事なくッ、疑う事なくッ、正義の”裁き“を執行するのだッ!」
「ハッ!!」
一斉に足を揃える音と、剣を胸に掲げ、シュトラールの言葉に忠誠を誓う一同。
そして聖騎士達は、隊列を組み歩き出すと、玉座の間を後にした。
部屋に残ったのは、シュトラール・シャーフ・リーベ、そして何がなんだか分からず唖然として膝をついたままのイデアールだけとなった。
「こ・・・これは・・・? 一体どういうことでしょうか?」
「イデアールよ・・・。 君の功績は大きい・・・、君がいなければ実現し得なかった事だ。 後のことは我々に任せて、君には聖都への城門にて、誰も中に入れないよう防衛をしていて貰いたい」
未だ何事か理解できない様子のイデアール。
そして作戦に向かう様子のリーベが、すれ違いざまにイデアールへ言葉をかけた。
「もうすぐ私達の理想が形になるわ・・・、その瞬間に立ち会える喜び・・・。 素敵だと思わない? そしてここから方舟を飛ばして世界へ広めていく、黄金郷の使徒となるの・・・」
リーベの目つきが険しくなり、イデアールを鼓舞するように最後の言葉を残す。
「思い出して。 私達が見てきた“人の闇を”、“人の業を”、 “人の悪を”。 私達でなければ出来ないのよ・・・、痛みや苦しみを知る私達でなければ・・・」
そう言うと、リーベはゆっくりと部屋を後にする。
「リーベ・・・? 何を言ってるんだ・・・。 俺の功績・・・?」
イデアールは、リーベの言葉やシュトラールの言った功績という単語に、何か違和感を感じた。
「俺がしたこと・・・、俺にしかできなかったこと・・・、モンスターが各地に・・・まさかッ!!」
彼の脳内にあった嫌な予感が、いよいよ現実味を帯びてきていた。
イデアールは近隣の山岳地帯で、上位モンスター討伐の任に着き、ドロップ品を持ち込んだ。
聖都ユスティーチ国内の各地にある、ルーフェン・ヴォルフのアジトの出入り口となっている建物に、彼ら宛のアイテムやシュトラールの“ギフト”が入った荷物を運んだ。
イデアールは聖都内のみならず、市街地やルーフェン・ヴォルフの面々、そして朝孝とも友好的に接してきた。
「ぁッ・・・あぁ・・・、そんな・・・。 シュトラール様・・・、俺は一体何を・・・」
イデアールの中で答えは既に出ていた。
しかし、もしかしたらシュトラールの口から違う答えが聞けるかもしれないと、彼はそんな不確かなものに縋りたくなる程の、身の震えを感じていた。
シュトラールは、何も言わない。
何も答えない。
それが、シュトラールの“答え”だったから。
イデアールの感情は、怒りへと変わった。
信じていた者に裏切られ、利用され、自分にもう一つの大志を抱かせてくれた人達に対する非人道的な仕打ちを、イデアール自らの手で行わせたシュトラールに、疑問を抱かざるにはいられなかった。
「何でこんなことをッ! 何故、俺にやらせたんですかッ! シュトラール様ッ!!」
立ち上がり、シュトラールへと歩み寄るイデアールを、シャーフが止める。
「イデアールッ!! ・・・イデアール。 落ち着け、イデアール。 そして目を覚ませ。 俺達の理想とはなんだ? お前が見てきたものは何だった? イデアール。善良な者が虐げられ、何も知らぬ無垢なる者達が利用され、“悪”に染まってきた」
冷静にイデアールの両肩を掴み、宥めるシャーフ。
「そしてお前もそれに加担し、止めることが出来なかった・・・。そんなものを世界から・・・国からなくしたいと思ったから、今ここにいるんじゃないのか? 自分の罪を償う為にも、まずはこの国から“悪”を消し去る。その為の準備をお前がしたに過ぎない」
「“悪”・・・? “悪”だって? あの人達がか?」
シャーフにより、冷静さを取り戻してきたイデアールは、何でこんなことをする必要があったのか、シャーフに尋ねる。
そして、それに答えたのはシャーフではなく、シュトラール本人だった。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる