World of Fantasia

神代 コウ

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消えぬ黒炎の剣技

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ツクヨの放った地走りは、通常時の彼が使うそれよりも、範囲も速度も、そして見るからに威力も増しているように見える。

「速いッ・・・!」

それでもシュトラールの身体能力を持ってすれば、躱せない攻撃ではなかったが、意表をつかれた分、反応が少し遅れた。

「うッ・・・!」

焦りの表情は見せたものの、擦り傷一つ付けずに躱してみせるシュトラール。

だが、それを読んでいたとばかりに、既に回り込んでいたツクヨが彼に蹴りを放つと、流石に避けきれなかったのか、シュトラールはもろに貰ってしまう。

やられた分のお返しかのように、外壁へ叩きつけられるシュトラールを、休ませる間も与えぬまま飛びかかるツクヨ。

痛んでる場合ではない彼は、すぐに横へと転がり攻撃を避ける。

すると、既に眼前に迫ってきているツクヨの回し蹴りを、潜るようにして前方へ転がる。

背後で激しく粉砕される瓦礫の音にゾッとしながら、後ろを素早く振り返るシュトラールだったが、そこにツクヨの姿はない。

彼は既に次の追撃体勢に入っており、地面に密着するのではないかというほど低い体勢から、シュトラールの顎を蹴り上げる。

「ぐッ・・・! 動きがッ・・・さっきまでとはまるで違うッ!」

上空へ打ち上げられた彼を、助走をつけ回転を加えたツクヨのジャンプ蹴りが襲う。

流石のシュトラールも空中では避けることが出来ず、咄嗟に片膝と腕を曲げガードの体勢で、もろに食らうのだけは避けた。

再度吹き飛ばされるシュトラールだったが、今度は飛ばされながらもツクヨの方に手を伸ばし、光の鎖で素早く彼を捕えると一気に締め上げる。

「ぐッ・・・がぁぁぁあああッ!!」

光によるダメージや拘束を御構い無しに突き破り、地面が陥没する程の力で飛び出すと、まだ遮蔽物に到達していない、吹き飛ばされている最中のシュトラールへ追いつき、彼の顔面を鷲掴みにして地面に叩きつけた。

シュトラールの表情は見えなかったが、声にもならぬ悲痛なうめき声を上げ、ツクヨの腕を掴んでいた。

ツクヨは鷲掴んだまま、シュトラールを上空へ放り投げると再度、剣技を放つ体勢に入る。

地を滑らせ放たれた二つの斬撃が、上空へ上がったシュトラールの落下してくるであろう地点に到達すると、互いにぶつかり合い、黒い昇り竜となって、動かないシュトラールの片腕を食い千切った。

気を失っているのか、声も上げないまま腕を失い落下するシュトラール。

濃い土煙を上げ、彼のその姿を飲み込む。

「・・・いけるッ・・・。 あのシュトラールを完全に押してるッ・・・!」

シン達が総出で戦っても彼を追い詰めることができなかったが、漸く勝機の見える戦いが出来ている。

ツクヨの暴走は収まることなく、トドメと言わんばかりに力を溜めた斬撃を放ち、土煙の中にいるシュトラール目掛けて飛んでいく。

中で何かに命中したような音がする。

しかし、それは肉を断つような音ではなく、鉄を打つような高い音色を響かせたのだった。

土煙の中に彼がまだ生きている気配を察したのか、ツクヨは物凄い速さで彼の元へ飛び込んでいくと、その姿が見えなくなった一瞬、再び鉄のぶつかり合う音が辺りへ響き渡り、ギリギリと鍔迫り合いのような音を立て始める。

「ッ・・・!? どうなった・・・? シュトラールはまだ生きているのかッ!?」

土煙がゆっくり晴れていくと、中で起きていた予想だにしない光景が徐々に露わになる。

中から現れたのは二人の人影。
一つは剣を振りかざしたツクヨの影、そしてもう一つは、腕を失った筈のシュトラールが、切断された部分から先が銀色となった腕で、ツクヨの剣を受け止めていたのだ。

「・・・は・・・? あの腕は・・・?」

呆気に取られるシン達だったが、そんなものを意に解することなく、シュトラールが口を開く。

「まさか・・・、ここまで追い詰められるとは思わなかったぞ・・・」

鍔迫り合いを繰り広げる二人。
すると、ツクヨの口から、歯の隙間から漏れ出す彼の呼吸が、赤黒い蒸気となって狂気をより一層助長する。

「ッ・・・!? これはッ・・・!」

シュトラールの銀の腕に接触しているツクヨの剣から、黒いうねるモノが発生し出し、それが徐々に勢いを増すと、黒い炎となって彼の剣を覆い尽くす。

危険視したシュトラールが剣を弾き、ツクヨから距離を取る。

黒い炎は彼の腕を侵食 せんとし、もう少し遅かったらシュトラールの腕に燃え移っていただろう。

「普通の炎ではない・・・? それに、魔力のようなものを感じる・・・。 やはりただのバーサーカーではないのか・・・」

「あれは、黒炎だ・・・。 複合属性・・・そんな器用なことまで・・・」

シンの言っている黒炎とは、複合属性の一つで、その名の通り複数の属性を併せ持つ属性で、黒炎は炎属性と闇や陰の属性を併合しているため、水や土などで埋めても完全に消すことはできない。

ツクヨは黒い炎を纏う剣を地面に突き刺し、シュトラールへ向けて剣技・地走りを放つと、その斬撃と並走するようにして駆け抜けていく。

シュトラールの前で斬撃とツクヨは、彼を挟み撃ちにするように二手に分かれる。

生身の腕を伸ばし、ツクヨ本体に光の剣を差し向け、銀の腕で黒炎の地走りを受け止め消滅させるシュトラール。

光の剣を素早い身のこなしで躱しながら、黒炎の剣で切り裂いていくツクヨ。

シュトラールはその僅かな間に、呪文のようなものが書かれた紙を銀の腕に貼ると、紙は腕の中に溶け込んでいき、腕に着いた黒炎を鎮静化させてみせた。

「呪いの類いは、我が光には通用しないッ!」

シュトラールの光の剣を掻い潜って来たツクヨが、彼に斬りかかる。

銀の腕を前に差し出すと、彼の腕は形を変え、手首辺りから肘に向かって刃のようなものが飛び出し、ツクヨの黒炎の剣を受け止める。

「腕から剣がッ・・・! あれは腕ではなく、何かが腕の形を模しているのか!」

シンの考察の通り、彼の本物の腕はツクヨによって切り落とされ地面に転がっている。

そして今、シュトラールの切断された腕部分に密着している何かが、彼の腕になりすましているのだった。

「ぐぅうううッ!!」

赤黒い吐息を漏らしながら、ツクヨは剣を銀の腕に叩き込むと、シュトラールはその銀の腕から生えた刃で受け止め、再びギリギリと鍔迫り合いになる。

しかし、鍔迫り合いから離脱したのは、何かに気がついた様子のツクヨの方だった。

剣を収め、後ろへ飛び退くツクヨが、一度だけ咳き込むような動作を取ると、赤黒い蒸気が勢いよく吹き出す。

その様子を見ていたシンが、何か違和感に気がつく。

「ッ・・・!? 違うッ! あの蒸気は・・・、ツクヨのオーラか何かかと思っていたが・・・。 熱で彼の血が蒸発しているんだッ・・・! あのクラス・・・、破壊者デストロイヤーの状態でいるのは、諸刃の剣なんじゃ・・・」

シンのやや後方で、光の剣の拘束から逃れたイデアールがシンに近づき、彼の見て感じた見解をシンに話す。

「いや・・・それにしてはツクヨ殿自身、自らの吐血に些か驚いた様子があった・・・これは・・・」

ゆっくりとシュトラールの方に目をやるイデアールは、彼がその僅かな異変に気づかない筈がないと踏み、その表情を観察する。

シュトラールは特に変わった反応を示すことはなく、依然険しい表情で強かにツクヨの方を見ていた。

だが、長く一緒にいたイデアールにだけは、彼の表情にある裏側に何かが秘めていることが分かった。

「俺でも知り得ないシュトラール殿の何か・・・。 シン・・・あの腕には俺たちがまだ知らない何かがありそうだ・・・」

一見こちらが押しているように見えるこの戦況において、大粒の冷や汗をかいているイデアールの表情を見て、シンはこれ以上まだ何かあるのかと、不安を隠せずにいた。
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