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死地を抜けるは非道の技
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ハオランの攻撃を止めるのは、並大抵の力では相殺すら厳しい。力に力をぶつけてしまえば、単純に力の強い方が打ち勝つ。ハオランの武術は常軌を逸した強さである為、いくら二人分の力とはいえ到底抑えられるものではない。
シンはアサシンのスキル“繋影“で、自らの影とハオランの影を繋ぎ、少しでも彼の力を抑えようとしたが、逆に彼の力に引っ張られてしまう。
甲板の上をまるで雪上を滑るスキーのように引かれ、その道すがらシンは船上にある凡ゆる影とハオランの影を繋げることで、何とかツクヨの力で受け止められるくらいに、勢いを弱めることに成功した。
「おいおいおいおいッ!ここまでして漸く相殺・・・だと!?」
グラン・ヴァーグでの一件以来、久々に会うこととなったシンに、シュユーは何故彼がここにいるのかと少し驚いたが、ツクヨやミアがいるのであれば彼がこの海域にいるのも当然であろうと、感情の修正を図る。
突然舞い込んだ情報に気を取られ、伝えなければならないことを思い出したシュユーは、ハオランの身に起きている事態を、タイミングを計っていたのではないかと思うほど都合よく現れた彼らに、思惑があろうと企みがあろうと今はそんなことはどうでもいい。
ただ主人の元へ、チン・シーの元へ情報を届けてくれればそれだけでいい。そしてシンやツクヨは信用に足人物だと、シュユーは判断している。丁度ツクヨが話の流れを作ってくれている。このまま彼らに、先程見た光景を伝えればきっと行動に移してくれる。
「魂だ・・・!ハオランの中に複数の魂のようなものが入っている。彼の身体から一つだけ、抜け出していくのを見た!頼むッ・・・あの方に、チン・シー様にこのことを伝えてくれッ!」
ハオランの身体から飛び出して行った魂。一つであれば、あの時点でハオランが正気に戻っている筈だ。それが依然変わりなく、彼を苦しめている。肉体に別の魂が入るという感覚がどういったものなのか、シュユーには想像も出来なかったが、ハオランは身体能力だけでなく、精神面でも決して弱くない。
一つや二つの魂に、自我を押し込まれてしまうほど、ハオランの魂は弱くない。共に同じ時を過ごして来たからこそ、それは断言できる。
と、いうことはつまり、彼の身体の中には彼の精神が埋れるほどの魂が押し込まれる程の量か、或いは強靭な精神力の魂が入れられているかのどちらかだろう。だが後者である可能性は低いというのが、シュユーの見解だった。
より注意が散漫になるのは、大きな一つの障害よりも複数の障害だ。数による力というのは、物理的なものだけでなく精神的にも厄介なものだ。今回の場合、一網打尽という手段が取れない以上、尚更だろう。
「複数の魂だって・・・?しかし、この身体の中に複数人いるとして、こんなに上手く扱えるものなのかい?要するに、ハンドルは一つなのに対して目的地の違う操縦士が複数で、そのハンドルを取り合っているようなものだろ?」
ツクヨの言う通り魂の数だけ自我があり、それぞれが自分の思うように身体を動かそうとすれば、ここまで精密な動きで攻撃してくると言うのもおかしな話だ。だがその点に関しては、シュユーやシン達にとってメリットにしかなり得ない。
それこそ、合体ロボットのようにそれぞれが協調性を持ち、一人で操縦する以上の力を発揮出来なければ意味がないからだ。ロロネーの配下にそんなことが出来るだろうか。
ましてや、彼の部下に生きた人間はいない。モンスターのように意思を持たぬ亡霊ばかりの一団では、簡単な指示には従えても、人間のように考えて行動することはない。
「そこは深く考えなくても大丈夫なはず・・・。本来の身体の持ち主である彼以上に、今より精密な攻撃を仕掛けてくることはない。つまり、今より弱くなっても強くなることはないのです」
これはシュユーの仮説だが、魂が抜ければ抜けるほど、中にいるハオランの力が解放され、内側から自身の身体を取り戻すことが可能になるかもしれない。追い詰められ窮地に立たされていたシュユーだが、シン達の増援のおかげで、状況は良い方向へと向かっている。
「なるほど・・・。じゃぁ掻き乱せば更にその魂とやらを追い出せるかもしれないって訳だけだ。ツクヨ!一人でハオランの攻撃を捌けるか?」
「力やスピードじゃ彼に敵わないけど・・・、少しの間凌ぐのであればいける!」
シンはシュユーとツクヨの会話を聞いて、ハオランの中にある魂を追い出す策を実行しようとする。このまま現状のハオランに追われながら、シュユーに託された伝言を何処に居るのか分からないチン・シーの元へ向かうのは、些か厳しいと判断してのことだった。
「何か良い方法が・・・?」
シュユーには、ハオランを正気に戻す手立てがない。故にチン・シーの元へ連れていく他なかった。無論、シンにも彼を完全に正気に戻すことはできない。だが、もしかしたらある程度ハオランの魂を表に持ってくることなら出来るかもしれない。
「アイツの使っていた技を真似るようで癪だが・・・」
そう言うとシンは、一度ハオランを縛り付けていた“繋影“を解く。するとハオランの動きは軽くなり、ツクヨへの攻撃は激化した。彼が辛うじてまだ耐えてくれている内に、シンは前の戦いでヒントを得た、ある新スキルを発動する。
彼の口にしたアイツとは、グレイス海賊団を苦しめた残虐非道な海賊、ロッシュのことだったのだ。そして、ロッシュの用いたパイロットのスキルによる、他者を操縦し操る能力を模したシンなりの影の術、“操影“を放つ。
シンはアサシンのスキル“繋影“で、自らの影とハオランの影を繋ぎ、少しでも彼の力を抑えようとしたが、逆に彼の力に引っ張られてしまう。
甲板の上をまるで雪上を滑るスキーのように引かれ、その道すがらシンは船上にある凡ゆる影とハオランの影を繋げることで、何とかツクヨの力で受け止められるくらいに、勢いを弱めることに成功した。
「おいおいおいおいッ!ここまでして漸く相殺・・・だと!?」
グラン・ヴァーグでの一件以来、久々に会うこととなったシンに、シュユーは何故彼がここにいるのかと少し驚いたが、ツクヨやミアがいるのであれば彼がこの海域にいるのも当然であろうと、感情の修正を図る。
突然舞い込んだ情報に気を取られ、伝えなければならないことを思い出したシュユーは、ハオランの身に起きている事態を、タイミングを計っていたのではないかと思うほど都合よく現れた彼らに、思惑があろうと企みがあろうと今はそんなことはどうでもいい。
ただ主人の元へ、チン・シーの元へ情報を届けてくれればそれだけでいい。そしてシンやツクヨは信用に足人物だと、シュユーは判断している。丁度ツクヨが話の流れを作ってくれている。このまま彼らに、先程見た光景を伝えればきっと行動に移してくれる。
「魂だ・・・!ハオランの中に複数の魂のようなものが入っている。彼の身体から一つだけ、抜け出していくのを見た!頼むッ・・・あの方に、チン・シー様にこのことを伝えてくれッ!」
ハオランの身体から飛び出して行った魂。一つであれば、あの時点でハオランが正気に戻っている筈だ。それが依然変わりなく、彼を苦しめている。肉体に別の魂が入るという感覚がどういったものなのか、シュユーには想像も出来なかったが、ハオランは身体能力だけでなく、精神面でも決して弱くない。
一つや二つの魂に、自我を押し込まれてしまうほど、ハオランの魂は弱くない。共に同じ時を過ごして来たからこそ、それは断言できる。
と、いうことはつまり、彼の身体の中には彼の精神が埋れるほどの魂が押し込まれる程の量か、或いは強靭な精神力の魂が入れられているかのどちらかだろう。だが後者である可能性は低いというのが、シュユーの見解だった。
より注意が散漫になるのは、大きな一つの障害よりも複数の障害だ。数による力というのは、物理的なものだけでなく精神的にも厄介なものだ。今回の場合、一網打尽という手段が取れない以上、尚更だろう。
「複数の魂だって・・・?しかし、この身体の中に複数人いるとして、こんなに上手く扱えるものなのかい?要するに、ハンドルは一つなのに対して目的地の違う操縦士が複数で、そのハンドルを取り合っているようなものだろ?」
ツクヨの言う通り魂の数だけ自我があり、それぞれが自分の思うように身体を動かそうとすれば、ここまで精密な動きで攻撃してくると言うのもおかしな話だ。だがその点に関しては、シュユーやシン達にとってメリットにしかなり得ない。
それこそ、合体ロボットのようにそれぞれが協調性を持ち、一人で操縦する以上の力を発揮出来なければ意味がないからだ。ロロネーの配下にそんなことが出来るだろうか。
ましてや、彼の部下に生きた人間はいない。モンスターのように意思を持たぬ亡霊ばかりの一団では、簡単な指示には従えても、人間のように考えて行動することはない。
「そこは深く考えなくても大丈夫なはず・・・。本来の身体の持ち主である彼以上に、今より精密な攻撃を仕掛けてくることはない。つまり、今より弱くなっても強くなることはないのです」
これはシュユーの仮説だが、魂が抜ければ抜けるほど、中にいるハオランの力が解放され、内側から自身の身体を取り戻すことが可能になるかもしれない。追い詰められ窮地に立たされていたシュユーだが、シン達の増援のおかげで、状況は良い方向へと向かっている。
「なるほど・・・。じゃぁ掻き乱せば更にその魂とやらを追い出せるかもしれないって訳だけだ。ツクヨ!一人でハオランの攻撃を捌けるか?」
「力やスピードじゃ彼に敵わないけど・・・、少しの間凌ぐのであればいける!」
シンはシュユーとツクヨの会話を聞いて、ハオランの中にある魂を追い出す策を実行しようとする。このまま現状のハオランに追われながら、シュユーに託された伝言を何処に居るのか分からないチン・シーの元へ向かうのは、些か厳しいと判断してのことだった。
「何か良い方法が・・・?」
シュユーには、ハオランを正気に戻す手立てがない。故にチン・シーの元へ連れていく他なかった。無論、シンにも彼を完全に正気に戻すことはできない。だが、もしかしたらある程度ハオランの魂を表に持ってくることなら出来るかもしれない。
「アイツの使っていた技を真似るようで癪だが・・・」
そう言うとシンは、一度ハオランを縛り付けていた“繋影“を解く。するとハオランの動きは軽くなり、ツクヨへの攻撃は激化した。彼が辛うじてまだ耐えてくれている内に、シンは前の戦いでヒントを得た、ある新スキルを発動する。
彼の口にしたアイツとは、グレイス海賊団を苦しめた残虐非道な海賊、ロッシュのことだったのだ。そして、ロッシュの用いたパイロットのスキルによる、他者を操縦し操る能力を模したシンなりの影の術、“操影“を放つ。
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