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脱出交渉
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蟒蛇に飲み込まれたロイクの竜騎士隊。その現場にいた者達は、彼らが死んでしまったものとして捉えていた。だが、エイヴリーの推測していた通り、彼らはまだ死んでなどいなかったのだ。
しかし、それも時間の問題だった。蟒蛇に飲み込まれた直後のロイク達は、その洞窟のように暗く長い道を、強制的に進まされていた。それは蟒蛇が雲海を泳ぐように身体をうねらせていることから、体内では肉の壁や床が波打ち、どんどん奥へと運ばれてしまっていた。
ロイクの召喚獣であるドラゴンが羽ばたこうとしても、壁や床に打たれるだけでなく、酸のような体液が纏わり付き、思い通りに動くことすら出来なかった。ドラゴンから振り落とされそうになる隊員達も、必死に逸れまいと手綱を力強く握りしめる。
彼らの身体に付着した蟒蛇の体液は、身に纏っている防具や衣類に触れると、その部分から禍々しい色の光をゆっくりと点滅させていた。これはシン達の遊んでいたWoFで言うところの、デバフ効果を表している。
防具に付与されている物理耐性や魔法耐性、或いは何かしらの追加効果やエンチャントなどの数値を一時的に下げ、その役割を失わせる厄介なものでその上、回避不能ときている。
ロイク達の防具は性能を殆ど失い、身体を打ち付けるだけでもそれなりのダメージを受けてしまっていた。だがその中で唯一、蟒蛇のデバフ効果を一切受けつけない者がいた。
それはロイクと共に蟒蛇によって飲み込まれてしまった、とある人物だった。その者は自身の身体の周りを氷でコーティングしており、ぶつかる衝撃にも耐え得る何とも不思議で美しい煌めきを纏っていた。
「お前に連れられたばっかりに、こんなにも不愉快な空間に連れて来られてしまうとは・・・。やはりエイヴリーは私にとって疫病神ぞ・・・」
「アンタだけ随分と優雅なもんだな。全く羨ましいよ・・・。少しは俺達にも、その魔法を掛けてくれてもよかったんじゃないか?」
この窮地の中、己の身だけを守っているシャーロットに、ロイクが皮肉を込めて言葉をかける。協力はするが、あくまでこれは自己防衛だという彼女は、蟒蛇の体内をまるでウォータースライダーでも乗っているかのように滑っていく。
「生憎、私のこれは一人用でな。ここにいる全員にかけてやれる程、器用ではないのだ」
ロイク達へ自身の事情を説明したシャーロットだったが、その表情からは後悔や後ろめたさといったものは感じられず、依然余裕があるような顔で彼らに顔すら向けようとしない。
彼女の魔力を操る技術やその貯蔵量があれば、飲み込まれた全員をまとめて氷で包むことくらい雑作もないことだろう。だがその難儀な性格故、タダで助けるほど彼女は優しくはなかった。
「だが、アンタもそんな奴らに助けられたのでは、後味が悪いんじゃないか?今ここでまとめて返してしまう方が、後でエイヴリーの旦那に面倒な要求をされずに済むと思うんだがな・・・」
ロイクやシャーロットらと共に蟒蛇に飲み込まれた、一度は死んだとさえ思われていたマクシムが、ロイクに代わり彼女に恩を着せたことを持ち出し、一人だけ能力低下を受けないでいるその力で、この状況を何とか出来ないかと説得を試みる。
「・・・それは一理あるな・・・。だが、奴はこの状況を知らぬではないか」
「勿論、手を貸してくれれば口裏は合わせる。皆、アンタに救われたと報告するさ。そうすれば今度は、アンタの方が優位に立てるじゃないか」
「海賊の言葉を信用しろ・・・と?」
痛いところを突かれてしまった。海賊の世界では嘘など日常茶飯事のこと。言葉の裏を読み、相手の思惑を探る技術が必要になってくる。当然、思惑にハマろうがそれを覆せるだけの力量差があれば、強引に乗り切ることも可能だろう。
だが、基本いつも一人で行動するシャーロットにとって、海賊界隈でもトップクラスの大船団を率いるエイヴリー海賊団は、契約や恩を強引に揉み消せる相手ではなかった。
マクシムの持ちかけた話の通り、ここで素直に彼らを救出することが、彼女にとって最善の策なのかもしれない。
「それはアンタの自由さ。ただ一つ言えるのは、この場に俺とロイクがいるってことだ。部下達の前でみっともない真似はしないさ」
彼の言う通り、今この場にいるマクシムとロイクは、エイヴリー海賊団の中でも地位の高い幹部に位置する者達で、ロイクに至っては自身の竜騎士隊を持たされるほどエイヴリーに信頼されている。
そのような者達が、エイヴリーの顔に泥を塗るような真似はしないだろう。根負けしたかのように大きな溜息を吐いたシャーロットは、マクシムの提案を受け入れる。
「よかろう・・・。ならば手を貸してやる」
「アンタの力でここから脱出することは可能か?」
蟒蛇の体内で、激しく波打つ肉の壁を眺めるシャーロット。未知なる生物の中において、二つ返事で承諾できるほどの自信はなかった。その巨体は両断されようと、高密度の雷撃で撃ち抜かれようと滅びることなく再生してしまう。
そこから脱出するには、この肉壁に風穴を開け、再生する前に外に出る必要がある。蟒蛇の再生能力を低下させるには、エイヴリー海賊団の幹部の一人であるリーズの、インキュベータの力が有効的だった。
しかし、今ここに彼女はおらず、外との連絡手段も断たれてしまっている。氷の守り越しに肉壁に触れるシャーロット。だがそこからは、外までどれくらいの距離があるのかは測れない。
「どうだろうな・・・。一体この肉の壁が、どれほどの厚みがあるのか。私には想像もつかん。だが、やれるだけのことはやってみよう」
彼女は目を閉じ、スキルに集中する。その間にも彼らは、どこへ通じているのか分からない蟒蛇の身体をどんどん先へと進まされていく。周囲に影響を与えぬよう、凝縮した魔力をその身に纏わせるシャーロット。
身体が青白い光を放ち始め、一箇所に集めた力が漏れ出し、彼女の周りに雪が発生し始め、次第に周りには蒸気のような湯気が立ち込める。恐らく漏れ出したシャーロットの魔力が蟒蛇の肉壁を凍らせては、酸で溶けているのだろう。
十分な魔力を貯め終えたシャーロットが目を開き、一気にその力を撃ち放つ。すると彼らの目の前は、一瞬にして白銀の世界へと代わり、そこはまるで氷の洞窟かのように動きを止め、氷漬けとなった。
しかし、それも時間の問題だった。蟒蛇に飲み込まれた直後のロイク達は、その洞窟のように暗く長い道を、強制的に進まされていた。それは蟒蛇が雲海を泳ぐように身体をうねらせていることから、体内では肉の壁や床が波打ち、どんどん奥へと運ばれてしまっていた。
ロイクの召喚獣であるドラゴンが羽ばたこうとしても、壁や床に打たれるだけでなく、酸のような体液が纏わり付き、思い通りに動くことすら出来なかった。ドラゴンから振り落とされそうになる隊員達も、必死に逸れまいと手綱を力強く握りしめる。
彼らの身体に付着した蟒蛇の体液は、身に纏っている防具や衣類に触れると、その部分から禍々しい色の光をゆっくりと点滅させていた。これはシン達の遊んでいたWoFで言うところの、デバフ効果を表している。
防具に付与されている物理耐性や魔法耐性、或いは何かしらの追加効果やエンチャントなどの数値を一時的に下げ、その役割を失わせる厄介なものでその上、回避不能ときている。
ロイク達の防具は性能を殆ど失い、身体を打ち付けるだけでもそれなりのダメージを受けてしまっていた。だがその中で唯一、蟒蛇のデバフ効果を一切受けつけない者がいた。
それはロイクと共に蟒蛇によって飲み込まれてしまった、とある人物だった。その者は自身の身体の周りを氷でコーティングしており、ぶつかる衝撃にも耐え得る何とも不思議で美しい煌めきを纏っていた。
「お前に連れられたばっかりに、こんなにも不愉快な空間に連れて来られてしまうとは・・・。やはりエイヴリーは私にとって疫病神ぞ・・・」
「アンタだけ随分と優雅なもんだな。全く羨ましいよ・・・。少しは俺達にも、その魔法を掛けてくれてもよかったんじゃないか?」
この窮地の中、己の身だけを守っているシャーロットに、ロイクが皮肉を込めて言葉をかける。協力はするが、あくまでこれは自己防衛だという彼女は、蟒蛇の体内をまるでウォータースライダーでも乗っているかのように滑っていく。
「生憎、私のこれは一人用でな。ここにいる全員にかけてやれる程、器用ではないのだ」
ロイク達へ自身の事情を説明したシャーロットだったが、その表情からは後悔や後ろめたさといったものは感じられず、依然余裕があるような顔で彼らに顔すら向けようとしない。
彼女の魔力を操る技術やその貯蔵量があれば、飲み込まれた全員をまとめて氷で包むことくらい雑作もないことだろう。だがその難儀な性格故、タダで助けるほど彼女は優しくはなかった。
「だが、アンタもそんな奴らに助けられたのでは、後味が悪いんじゃないか?今ここでまとめて返してしまう方が、後でエイヴリーの旦那に面倒な要求をされずに済むと思うんだがな・・・」
ロイクやシャーロットらと共に蟒蛇に飲み込まれた、一度は死んだとさえ思われていたマクシムが、ロイクに代わり彼女に恩を着せたことを持ち出し、一人だけ能力低下を受けないでいるその力で、この状況を何とか出来ないかと説得を試みる。
「・・・それは一理あるな・・・。だが、奴はこの状況を知らぬではないか」
「勿論、手を貸してくれれば口裏は合わせる。皆、アンタに救われたと報告するさ。そうすれば今度は、アンタの方が優位に立てるじゃないか」
「海賊の言葉を信用しろ・・・と?」
痛いところを突かれてしまった。海賊の世界では嘘など日常茶飯事のこと。言葉の裏を読み、相手の思惑を探る技術が必要になってくる。当然、思惑にハマろうがそれを覆せるだけの力量差があれば、強引に乗り切ることも可能だろう。
だが、基本いつも一人で行動するシャーロットにとって、海賊界隈でもトップクラスの大船団を率いるエイヴリー海賊団は、契約や恩を強引に揉み消せる相手ではなかった。
マクシムの持ちかけた話の通り、ここで素直に彼らを救出することが、彼女にとって最善の策なのかもしれない。
「それはアンタの自由さ。ただ一つ言えるのは、この場に俺とロイクがいるってことだ。部下達の前でみっともない真似はしないさ」
彼の言う通り、今この場にいるマクシムとロイクは、エイヴリー海賊団の中でも地位の高い幹部に位置する者達で、ロイクに至っては自身の竜騎士隊を持たされるほどエイヴリーに信頼されている。
そのような者達が、エイヴリーの顔に泥を塗るような真似はしないだろう。根負けしたかのように大きな溜息を吐いたシャーロットは、マクシムの提案を受け入れる。
「よかろう・・・。ならば手を貸してやる」
「アンタの力でここから脱出することは可能か?」
蟒蛇の体内で、激しく波打つ肉の壁を眺めるシャーロット。未知なる生物の中において、二つ返事で承諾できるほどの自信はなかった。その巨体は両断されようと、高密度の雷撃で撃ち抜かれようと滅びることなく再生してしまう。
そこから脱出するには、この肉壁に風穴を開け、再生する前に外に出る必要がある。蟒蛇の再生能力を低下させるには、エイヴリー海賊団の幹部の一人であるリーズの、インキュベータの力が有効的だった。
しかし、今ここに彼女はおらず、外との連絡手段も断たれてしまっている。氷の守り越しに肉壁に触れるシャーロット。だがそこからは、外までどれくらいの距離があるのかは測れない。
「どうだろうな・・・。一体この肉の壁が、どれほどの厚みがあるのか。私には想像もつかん。だが、やれるだけのことはやってみよう」
彼女は目を閉じ、スキルに集中する。その間にも彼らは、どこへ通じているのか分からない蟒蛇の身体をどんどん先へと進まされていく。周囲に影響を与えぬよう、凝縮した魔力をその身に纏わせるシャーロット。
身体が青白い光を放ち始め、一箇所に集めた力が漏れ出し、彼女の周りに雪が発生し始め、次第に周りには蒸気のような湯気が立ち込める。恐らく漏れ出したシャーロットの魔力が蟒蛇の肉壁を凍らせては、酸で溶けているのだろう。
十分な魔力を貯め終えたシャーロットが目を開き、一気にその力を撃ち放つ。すると彼らの目の前は、一瞬にして白銀の世界へと代わり、そこはまるで氷の洞窟かのように動きを止め、氷漬けとなった。
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