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狂気の海を越えて
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ミア達がゴールへ辿り着いた後、終着の地への旅路を辿ったのはチン・シー海賊団の船団だった。シー・ギャングの面々は驚くほど大人しくなり、あれ以来ぱったりと攻撃の手を止めていた。
彼らはチン・シー海賊団を見送りながら、破損したトゥーマーンの船の修復を優先する。ダラーヒムの錬金術により、修復はすぐに完了したが、当の本人であるトゥーマーンは彼らに当たるように声を上げていた。
「どうしてあの者ら通したのです!?まだ間に合うわ、すぐに迎撃をッ・・・!」
精霊の力を借り、魔法を詠唱し始める彼女をダラーヒムが止める。
「よせ、もう間に合わねぇだろうよ」
「貴方達が本気でぶつかればできたでしょ!?これではキング様の経歴に傷がついてしまうわッ・・・!」
これまで数々の戦績を誇り、その殆どが上位入賞だったシー・ギャング。その積み上げてきた名誉ある歴史に、汚点を残してしまう。それだけは何とか避けたかったトゥーマーン。
キングが怖かったからではない。彼に献身的な彼女は、彼に必要とされることで満たされていた。失態を犯せば見捨てられる、そう思うと居ても立っても居られなかったのだろう。
「判断したのは俺だ。罰せられるなら俺だろう。まぁ、それに到着順位が落ちても何とかなるだろう」
ダラーヒムには考えがあった。ここで順位が少し前後したところで、レイド戦に遅れてやって来たチン・シー海賊団に負けるだろうかと。彼の予想はあながち外れてもいなかった。
レイド戦にいち早く挑んだのは、エイヴリー海賊団とキングのシー・ギャングだった。そこから暫くして他の海賊達がちらほらと集まり出し、シン達やデイヴィスの一行もやって来たのだ。
そこから更に遅れて到着したのがチン・シー海賊団。それまでの間、キングやダラーヒムら幹部達も思わぬ大物に全力を尽くしていた。その貢献度を考えれば、ここでチン・シー海賊団に順位を譲っても、トータルの順位では決して引けを取らないだろう。
何より、大差のある負けではないのだ。如何にチン・シー海賊団が多くの財宝やライバル達をリタイアさせて来たとしても、シー・ギャングを追い抜くには至らぬという自信がダラーヒムにはあった。
トゥーマーンを何とか落ち着かせながら、彼らはそれまでの壮絶としたゴール争いとはほど遠い、穏やかなゴールを果たした。
歓声の中到着した彼らは船を停泊場へ移動させると、すぐに会場のスタッフを探し声をかける。先に到着しているはずのキングはどこにいるか尋ねると、選手を迎える食事会場に居ると言われ、幹部の三人はキングの元へ向かった。
「ボ・・・ボス・・・」
「おっ!お疲れさ~ん」
ナイフとフォークを上品に扱いながら料理を楽しんでいる様子のキング。スユーフの声に軽い労いの言葉を送ると、手を止めることなく振り向きもしないまま食事を続ける。
その様子に、やはり機嫌を損ねてしまったかと不安になるトゥーマーンとスユーフ。その空気をぶち壊すように、何気ない無神経な言い方で事後報告をするダラーヒムに、二人の顔は一気に血の気が引いたように青ざめた。
「申し訳なかったなぁ、ボス。チン・シーんとこのお嬢に先越されちまって」
謝罪するものとは思えぬ仕草と声のトーン。しかし、キングも特に感情を表に出すことなく返事を返した。
「ん~?別にええよ。俺も人のこと言えないしねぇ~。・・・それで?それを決断したのは誰なのよ?」
急に声色の変わるキングの気迫に、思わず息が止まる。飄々としていたダラーヒムの表情も一変して真顔になあると、スユーフやトゥーマーンにも話した通り、チン・シー海賊団に先を行かせたのは自分であると白状した。
「・・・俺だ・・・」
「ふ~ん・・・。それで俺ちゃんの立ち上げたシー・ギャングの評判を落として、命令に従ったって訳だ・・・」
暫くの沈黙が流れる。周囲の歓声が耳に入らぬほど、彼らの周りだけが別の空間にでもなったかのように静まり返る。緊張感で重苦しくなる空気の中、小さく笑いを堪えるような声が静寂を払う。
「くっ・・・クククっ・・・!」
スユーフとトゥーマーンは顔を上げ、声のする方を見る。するとキングは、肩を上下へ小刻みに揺らしていた。彼の人の悪い部分が現れていた。立場を利用し圧力をかける試すようなことを言って、反応を見ていたのだ。
幹部の中でキングの防衛を担当していたダラーヒムには、それが分かっていたのだろう。二人に比べ、明らかに緊張感の欠けた発言と態度をしていた。
「ボス、アンタも人が悪いぜぇ」
「悪い悪い、ついな。それにしても、付き合いの長いお前らでもこうも萎縮するとはねぇ~。最近の俺ちゃん、そんなに荒れてたぁ?」
彼らの反応を見て、部下達に対する自身の接し方を測っていた。レース前までのキングは、どこかピリピリとしていた空気を纏っていることが多かった。
それはデイヴィスの妹や、キングの船に乗っていた船員達に関することでもあったからだ。
キングが港町で仕事を行うのは、その殆どが公にできない交易や奴隷の売買に関することだったからだ。こういう時のキングは、引き取った奴隷の扱いを疎かにする部下に対し、キツく当たることも少なくはない。
だが、今回の異例続きのレースで、彼の心はやらねばならない柵から解き放たれるように、目の前のことに夢中になれていた。それはシン達との出会いも含まれていた。
尚且つそれが、彼の事業の妨げとなっていた、聖都の件にも関係していたことを知ると、余計に彼の興味を奪った。
シー・ギャングのゴールを境に、その後暫く船はやってこなかった。皆、リヴァイアサンの血海に足を取られ大幅な失速を喰らっていたのだろう。抜け出した者達から順次ゴールへと向かい、会場となる海岸へはこれまでのような争いもなく、静かにレースは終わりを告げる。
彼らはチン・シー海賊団を見送りながら、破損したトゥーマーンの船の修復を優先する。ダラーヒムの錬金術により、修復はすぐに完了したが、当の本人であるトゥーマーンは彼らに当たるように声を上げていた。
「どうしてあの者ら通したのです!?まだ間に合うわ、すぐに迎撃をッ・・・!」
精霊の力を借り、魔法を詠唱し始める彼女をダラーヒムが止める。
「よせ、もう間に合わねぇだろうよ」
「貴方達が本気でぶつかればできたでしょ!?これではキング様の経歴に傷がついてしまうわッ・・・!」
これまで数々の戦績を誇り、その殆どが上位入賞だったシー・ギャング。その積み上げてきた名誉ある歴史に、汚点を残してしまう。それだけは何とか避けたかったトゥーマーン。
キングが怖かったからではない。彼に献身的な彼女は、彼に必要とされることで満たされていた。失態を犯せば見捨てられる、そう思うと居ても立っても居られなかったのだろう。
「判断したのは俺だ。罰せられるなら俺だろう。まぁ、それに到着順位が落ちても何とかなるだろう」
ダラーヒムには考えがあった。ここで順位が少し前後したところで、レイド戦に遅れてやって来たチン・シー海賊団に負けるだろうかと。彼の予想はあながち外れてもいなかった。
レイド戦にいち早く挑んだのは、エイヴリー海賊団とキングのシー・ギャングだった。そこから暫くして他の海賊達がちらほらと集まり出し、シン達やデイヴィスの一行もやって来たのだ。
そこから更に遅れて到着したのがチン・シー海賊団。それまでの間、キングやダラーヒムら幹部達も思わぬ大物に全力を尽くしていた。その貢献度を考えれば、ここでチン・シー海賊団に順位を譲っても、トータルの順位では決して引けを取らないだろう。
何より、大差のある負けではないのだ。如何にチン・シー海賊団が多くの財宝やライバル達をリタイアさせて来たとしても、シー・ギャングを追い抜くには至らぬという自信がダラーヒムにはあった。
トゥーマーンを何とか落ち着かせながら、彼らはそれまでの壮絶としたゴール争いとはほど遠い、穏やかなゴールを果たした。
歓声の中到着した彼らは船を停泊場へ移動させると、すぐに会場のスタッフを探し声をかける。先に到着しているはずのキングはどこにいるか尋ねると、選手を迎える食事会場に居ると言われ、幹部の三人はキングの元へ向かった。
「ボ・・・ボス・・・」
「おっ!お疲れさ~ん」
ナイフとフォークを上品に扱いながら料理を楽しんでいる様子のキング。スユーフの声に軽い労いの言葉を送ると、手を止めることなく振り向きもしないまま食事を続ける。
その様子に、やはり機嫌を損ねてしまったかと不安になるトゥーマーンとスユーフ。その空気をぶち壊すように、何気ない無神経な言い方で事後報告をするダラーヒムに、二人の顔は一気に血の気が引いたように青ざめた。
「申し訳なかったなぁ、ボス。チン・シーんとこのお嬢に先越されちまって」
謝罪するものとは思えぬ仕草と声のトーン。しかし、キングも特に感情を表に出すことなく返事を返した。
「ん~?別にええよ。俺も人のこと言えないしねぇ~。・・・それで?それを決断したのは誰なのよ?」
急に声色の変わるキングの気迫に、思わず息が止まる。飄々としていたダラーヒムの表情も一変して真顔になあると、スユーフやトゥーマーンにも話した通り、チン・シー海賊団に先を行かせたのは自分であると白状した。
「・・・俺だ・・・」
「ふ~ん・・・。それで俺ちゃんの立ち上げたシー・ギャングの評判を落として、命令に従ったって訳だ・・・」
暫くの沈黙が流れる。周囲の歓声が耳に入らぬほど、彼らの周りだけが別の空間にでもなったかのように静まり返る。緊張感で重苦しくなる空気の中、小さく笑いを堪えるような声が静寂を払う。
「くっ・・・クククっ・・・!」
スユーフとトゥーマーンは顔を上げ、声のする方を見る。するとキングは、肩を上下へ小刻みに揺らしていた。彼の人の悪い部分が現れていた。立場を利用し圧力をかける試すようなことを言って、反応を見ていたのだ。
幹部の中でキングの防衛を担当していたダラーヒムには、それが分かっていたのだろう。二人に比べ、明らかに緊張感の欠けた発言と態度をしていた。
「ボス、アンタも人が悪いぜぇ」
「悪い悪い、ついな。それにしても、付き合いの長いお前らでもこうも萎縮するとはねぇ~。最近の俺ちゃん、そんなに荒れてたぁ?」
彼らの反応を見て、部下達に対する自身の接し方を測っていた。レース前までのキングは、どこかピリピリとしていた空気を纏っていることが多かった。
それはデイヴィスの妹や、キングの船に乗っていた船員達に関することでもあったからだ。
キングが港町で仕事を行うのは、その殆どが公にできない交易や奴隷の売買に関することだったからだ。こういう時のキングは、引き取った奴隷の扱いを疎かにする部下に対し、キツく当たることも少なくはない。
だが、今回の異例続きのレースで、彼の心はやらねばならない柵から解き放たれるように、目の前のことに夢中になれていた。それはシン達との出会いも含まれていた。
尚且つそれが、彼の事業の妨げとなっていた、聖都の件にも関係していたことを知ると、余計に彼の興味を奪った。
シー・ギャングのゴールを境に、その後暫く船はやってこなかった。皆、リヴァイアサンの血海に足を取られ大幅な失速を喰らっていたのだろう。抜け出した者達から順次ゴールへと向かい、会場となる海岸へはこれまでのような争いもなく、静かにレースは終わりを告げる。
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