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現実と虚
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人の生活を豊かにするものは、知らず知らずの内に人として大切なものを失わせていく。光は人から視力を、音は聴力を、強い刺激や匂いは触覚や嗅覚を。
生活水準の上昇は、肉体や身体能力を劣化させる結果となっていた。それに伴い、機械化による作業効率と絶対的な能力への信頼は、人から危機感を失わせていた。
瑜那の指摘で、この時深くは考えなくとも言わんとしていることは伝わった。ハッキングを試みたということから、後を追ってくる機械の獣は外部からのアクセスや、またアクセスキーを持つ者以外からの指令を受け付けないようプログラムされているのだろう。
AI技術の発展のおかげで、鋼鉄の肉体を持った命令に忠実に動くモンスターと言っても過言ではない生物が誕生した訳だ。
銃弾や刃物、生半可な力では傷一つつけられない鎧を纏っている分、生身の生き物より数段、厄介な存在と化している。
瑜那の指示に従い、機械獣の攻撃を避けていると、どこからかサイレンのような警告音が薄らと聞こえてきた。
「何の音だ・・・?」
耳障りな音で慎が咄嗟に連想したのは、警察の鳴らすサイレンの音だった。道路の下の方を見てみると、赤い光が木々の中から漏れ出しているのが確認できる。
そして、慎の予想は大方当たっていた。
騒ぎを聞きつけたのか、警察か或いは出雲の所属している組織の手のものか。無人偵察機のドローンが炎上する高速道路へとやって来ていた。
「警察の警備ドローンだ。追手の奴らの結界から離れたことで、この世界の全く関係のねぇ人間達にも確認できるようになったんだ」
何も仕組みについて理解していない慎の為に、朱影が大方の事情を説明してくれた。だが彼の言葉は、到底慎の理解が追いつける範疇をとっくにオーバーしていた。
あれ程大きく燃え上がり黒煙を立ち上らせているのに、これが一般の人々には見えていないとはどういうことなのか。
それに、突然見えるようになったとはいえ、その原因がなければこんな大惨事にはなっていないと疑問視されるだろう。火の無いところに煙は立たないとはまさにこのことだ。
「ちょっと待ってくれ!確認できるようになったって・・・。それじゃぁあそこには、俺達の見ているあの機械の獣が横たわっているのか?」
「俺達やモンスター共のように、本来この世界にいる筈のない連中の起こす事柄は、当人達がその場を離れることで辻褄が合うように都合よく結ばれるようでな。恐らく今あの現場には、タンクローリーのような大型車両と複数の乗用車が丸焦げになってるだろうよ」
「じゃぁ、何の関係もない人が死んだっていうのか!?」
「おいおい、人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇよ!成る可くして起こった“事故“や“災害“として処理されてんだよ。周りを見てみろ。高速道路なのに一般車両が見当たらねぇだろ?つまり俺達の戦いで一般の奴らが死ぬことはねぇが、何かしらの“現象“としてその場に影響が及ぶ。それだけだ」
慎の理解が追いつかないのは、ここでもだった。つまり、追手の機械獣との戦闘で高速道路が崩壊するようなことが起きれば、現実にも高速道路が崩壊するということ。
しかし、その原因は彼らの戦闘によるものではなく、事故や災害として片付けられるという、俄かに信じ難い仕組みになっているようだ。
「それだけって・・・」
「けど、警備ドローンが来てくれたのは好都合です!あれならハッキングが可能なので、僕らの助けになってくれますからね。宵命、ちょっとの間任せるよ?」
「おう!任せとけ!」
瑜那は窓の外へ視線を向けると、顔の前で一度手を横にスライドさせた。するとそこにモニターが現れ、何やら仕切りに指を動かし入力をしているような動作を取っていた。
「運転手の旦那、少しの間選手交代だ。ここからは俺がアシストするんで、よろしくっス!」
「あっあぁ、よろしく」
瑜那に代わり宵命の指示の元、機械獣の連携の取れた攻撃を辛うじて躱していく慎。その間にも、朱影は少しでも数を減らす為に窓から槍の投擲を行う。
車体が大きく左右に揺さぶられているからだろうか、なかなか攻撃を命ちゅさせることが出来なかったが、それでも相手の手数を減らす役割を担っていた。
「お待たせしました!ドローンによる援護射撃を行います。跳弾の恐れがあるので、遠くの標的から攻めさせますね」
ハッキングを終えた瑜那が、元の役割へ戻る。元々直感や本能で戦うタイプの宵命の指示よりも、相手を分析しスキャンするタイプの瑜那の方が安定する。
朱影の攻撃の命中制度を上げる意味でも、瑜那のアシストは必要不可欠だった。
安定した回避と操縦に戻ったが、一向に追手の数が減らない。警備ドローンによる援護射撃は、追跡の遅延にはなったものの、機械獣の数を減らせるほどの武装ではなかったのだ。
あくまで対人用の武装であり、装甲車や武装した兵器やモンスターに対する迎撃には向いていなかったようだ。
「しゃぁねぇ・・・俺も出るか」
小さく呟いた朱影が、再び窓から身を乗り出す。
「もう一度さっきのスキルを使うのか?」
「いいや。まだあの規模の攻撃は出来ねぇ・・・。だからその間、直接狙ってやろうってんだ」
そう言うと彼は、窓から身を乗り出し道路へ飛び降りてしまった。この速度で飛び降りれば、いくらステータスの補正を受けているとはいえ、無事では済まないだろう。
しかし、焦る慎の表情は一変して驚きのものへと変わる。なんと、飛び降りたはずの朱影は何もないところで、まるで何かに掴まっているかのように浮きながら並走しているのだ。
生活水準の上昇は、肉体や身体能力を劣化させる結果となっていた。それに伴い、機械化による作業効率と絶対的な能力への信頼は、人から危機感を失わせていた。
瑜那の指摘で、この時深くは考えなくとも言わんとしていることは伝わった。ハッキングを試みたということから、後を追ってくる機械の獣は外部からのアクセスや、またアクセスキーを持つ者以外からの指令を受け付けないようプログラムされているのだろう。
AI技術の発展のおかげで、鋼鉄の肉体を持った命令に忠実に動くモンスターと言っても過言ではない生物が誕生した訳だ。
銃弾や刃物、生半可な力では傷一つつけられない鎧を纏っている分、生身の生き物より数段、厄介な存在と化している。
瑜那の指示に従い、機械獣の攻撃を避けていると、どこからかサイレンのような警告音が薄らと聞こえてきた。
「何の音だ・・・?」
耳障りな音で慎が咄嗟に連想したのは、警察の鳴らすサイレンの音だった。道路の下の方を見てみると、赤い光が木々の中から漏れ出しているのが確認できる。
そして、慎の予想は大方当たっていた。
騒ぎを聞きつけたのか、警察か或いは出雲の所属している組織の手のものか。無人偵察機のドローンが炎上する高速道路へとやって来ていた。
「警察の警備ドローンだ。追手の奴らの結界から離れたことで、この世界の全く関係のねぇ人間達にも確認できるようになったんだ」
何も仕組みについて理解していない慎の為に、朱影が大方の事情を説明してくれた。だが彼の言葉は、到底慎の理解が追いつける範疇をとっくにオーバーしていた。
あれ程大きく燃え上がり黒煙を立ち上らせているのに、これが一般の人々には見えていないとはどういうことなのか。
それに、突然見えるようになったとはいえ、その原因がなければこんな大惨事にはなっていないと疑問視されるだろう。火の無いところに煙は立たないとはまさにこのことだ。
「ちょっと待ってくれ!確認できるようになったって・・・。それじゃぁあそこには、俺達の見ているあの機械の獣が横たわっているのか?」
「俺達やモンスター共のように、本来この世界にいる筈のない連中の起こす事柄は、当人達がその場を離れることで辻褄が合うように都合よく結ばれるようでな。恐らく今あの現場には、タンクローリーのような大型車両と複数の乗用車が丸焦げになってるだろうよ」
「じゃぁ、何の関係もない人が死んだっていうのか!?」
「おいおい、人聞きの悪りぃこと言うんじゃねぇよ!成る可くして起こった“事故“や“災害“として処理されてんだよ。周りを見てみろ。高速道路なのに一般車両が見当たらねぇだろ?つまり俺達の戦いで一般の奴らが死ぬことはねぇが、何かしらの“現象“としてその場に影響が及ぶ。それだけだ」
慎の理解が追いつかないのは、ここでもだった。つまり、追手の機械獣との戦闘で高速道路が崩壊するようなことが起きれば、現実にも高速道路が崩壊するということ。
しかし、その原因は彼らの戦闘によるものではなく、事故や災害として片付けられるという、俄かに信じ難い仕組みになっているようだ。
「それだけって・・・」
「けど、警備ドローンが来てくれたのは好都合です!あれならハッキングが可能なので、僕らの助けになってくれますからね。宵命、ちょっとの間任せるよ?」
「おう!任せとけ!」
瑜那は窓の外へ視線を向けると、顔の前で一度手を横にスライドさせた。するとそこにモニターが現れ、何やら仕切りに指を動かし入力をしているような動作を取っていた。
「運転手の旦那、少しの間選手交代だ。ここからは俺がアシストするんで、よろしくっス!」
「あっあぁ、よろしく」
瑜那に代わり宵命の指示の元、機械獣の連携の取れた攻撃を辛うじて躱していく慎。その間にも、朱影は少しでも数を減らす為に窓から槍の投擲を行う。
車体が大きく左右に揺さぶられているからだろうか、なかなか攻撃を命ちゅさせることが出来なかったが、それでも相手の手数を減らす役割を担っていた。
「お待たせしました!ドローンによる援護射撃を行います。跳弾の恐れがあるので、遠くの標的から攻めさせますね」
ハッキングを終えた瑜那が、元の役割へ戻る。元々直感や本能で戦うタイプの宵命の指示よりも、相手を分析しスキャンするタイプの瑜那の方が安定する。
朱影の攻撃の命中制度を上げる意味でも、瑜那のアシストは必要不可欠だった。
安定した回避と操縦に戻ったが、一向に追手の数が減らない。警備ドローンによる援護射撃は、追跡の遅延にはなったものの、機械獣の数を減らせるほどの武装ではなかったのだ。
あくまで対人用の武装であり、装甲車や武装した兵器やモンスターに対する迎撃には向いていなかったようだ。
「しゃぁねぇ・・・俺も出るか」
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「もう一度さっきのスキルを使うのか?」
「いいや。まだあの規模の攻撃は出来ねぇ・・・。だからその間、直接狙ってやろうってんだ」
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