World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
954 / 1,646

旅の支度

しおりを挟む
 オルレラでの大仕事を終え、大事な役割を果たしたツバキは、その疲労を癒して目を覚ます。入れ替わりで眠りについてしまったアカリ達を気にしつつも、ツバキは広間の椅子に腰掛ける。

「それで?この人達の事を聞いても?」

 ミアとツクヨと共にホルタートへ来たツバキは早々に眠ってしまい、その間に起きた出来事を何も知らない。事情を知らなければ、当然こういう展開になるだろうと予想していたミアは、自分もさっさと寝て仕舞えば良かったと、少し後悔していた。

 「あぁ・・・まぁ、そうなるよな。仕方ない・・・実はな」

 彼女はツバキが寝ている間に起きた出来事と、これからの予定について簡潔に説明した。

 新たな事情を抱えた旅のお供を加えた訳だが、それによってオスカーや子供達から託された思いの遅延に繋がるということはなかった。

 アカリ達の目的は、記憶を取り戻し自分が何者で何処からやって来たのか。何故ホルタートの街で繭に包まれていたのか。謂わば記憶探しの旅となる。

 一人で巡るにはあまりに物騒な世界を彼らと共に巡り、見たものや聞いたもの、感じたもの全てを頼りに、記憶を取り戻そうというのだ。

 なので、これと言って何処かへ向かいたいという目的地などはなく、基本的にシン達の旅に同行するだけの形となっている。

 「そうか、記憶が・・・。もうちょっと世界の綺麗なものとか見せてやりたいところだけどよぉ・・・」

 ツバキ自身も、本当の親が誰なのか、本当の故郷が何処なのか分からない身である為か、アカリ達の境遇を知り、共感する様子を窺わせた。

 「あぁ。これからアタシらが目指す場所で目にするものは、恐らく彼女らには刺激が強いものになるかもしれないな。だがそれでも、優先事項は変わらねぇ・・・」

 「ありがとう、ミア・・・」

 「あ?どうした突然。さっきからいつものアンタらしくないじゃないか」

 「・・・俺を何だと思ってるんだ・・・?こういう日だってあるさ。それに寝起きで、まだ頭が・・・」

 眠そうな顔で大きな欠伸をしたツバキ。まだ疲れが抜けてないのかと確認するミアに、首を横に振って応えた彼は安心できる環境下にあることで緊張も解れたのか、腹を鳴らして何か食べるものはあるかとミアに尋ねる。

 しかし、ツクヨが宿の主人に確認した通り、部屋での飲食は禁止されており、持ち込みもできない。それ故、今シン達は昼食を取りに行ってる事をツバキに伝え、彼らが帰り次第次はミア達が出かける。

 その時に一緒に行こうとミアに誘われたツバキはそれを承諾し、それまでの間外出の準備をしながら目を覚まさせようと、洗面所へと向かっていった。

 ツバキが身支度を整えて間も無く、シンとツクヨが昼食を済ませて宿の部屋へ帰って来た。ミアは仮眠をとっていたアカリと紅葉を起こし、ツバキを連れて昼食取りにホルタートの街へて向かった。

 特に食にこだわりのなかった彼女らは、美味そうな匂いに誘われるがまま店に足を運び、食事を済ませる。それほど時間を掛けることなくシン達の元へと戻ってきた一行は、明日の出発の時間までそれぞれ自由行動とすることにした。

 街や周辺の事情を少しでも調べておく為、戦闘を行えるシンとミア、そしてツクヨはそれぞれ一人は宿に残り、ツバキやアカリ達の護衛に残ることを決め、各々WoFユーザーの機能であるメッセージで連絡を取り合うことにした。

 先に自由行動へ移ったのは、シンとツクヨで、街のギルドを訪れ受注できるクエストをこなしたり、街の人々に話を聞きながら住人達からの依頼を行った。

 時折ミアと交代しながら、外を見て歩きたいというツバキやアカリ達も連れ、リナムルやアークシティについての情報を集めて行く中で、ツバキも新たな発明品を作っていた。

 それはオルレラのオスカーの能力から発想を得たもので、幻術の類を魔石を使って再現するガジェットだった。

 部品や魔石は少し値が張ったが、万が一シン達のいないところで戦闘に陥った際、ある程度の時間稼ぎくらいは出来る様になっただろう。

 ミアは銃弾の補充や、錬金術に使う素材などを買い込み、シンとツクヨはクエストの報酬品や街の武具屋で、現状最も優れたものを買い揃えた。

 旅の準備や情報収集で時間はあっという間に過ぎていき、一同揃って宿屋で一夜を明かすと、いよいよリナムルへ向かう馬車の出発の時間となった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...