World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
997 / 1,646

変貌する姿

しおりを挟む
 宙に舞う獣の巨体は草木を薙ぎ倒し、緑の深海へと消えていった。悍ましく強化された獣を流れるように受け流すようにして投げたアズールは、その直後に僅かに顔を歪めるも再び自身の肉体強化を再開する。

 「いつ見ても恐れ入る・・・。一体どうやってるんだ?普通、強化状態に入っちまったら暫くは自分でもどうにも出来ない筈なのに・・・」

 「難しいことではない。ただ単に、強化の過程で肉体の変化を急停止させただけだ」

 「“だけ“って・・・。それが出来りゃ何人の同胞が生き延びられたか・・・」

 アズールが見せた肉体強化中の行動は、本来であれば考えられない事のようだ。一度強化段階に入ってしまうと、本人でも止めることが出来ず、その間が完全な無防備状態となってしまう。

 故に戦闘に肉体強化を行う場合は、それを完了させるだけの時間を作らねばならない。その為に彼らは最低でも二人以上で行動することが多く、互いに相手を押さえ込んでいく実力を有している程、少人数での行動が可能としているようだ。

 だがこれもあくまで基本的な考え方であり、今回のような不測の事態での行動はなるべく少人数は避け、小隊を組んで行動するという形をとっていた。アジトに残り、アズールの代わりに指揮をとっていたガレウスの判断は、アズールが同じ立場でも行おうとしていたくらいのもので、そこからも彼の一族の生存を意識している事が窺える。

 ケツァルに向けられる一族の疑いよりは、ガレウスの方が現状では信用度が高いというのがアズールの見解だった。

 「だが多様は出来ない。これだけの強化の弱点を補うものが、何のでもリットも無い訳ではない。身体の寿命を縮めるようなものだ・・・。長としても、なるべくこのような真似は同胞にはして欲しくない・・・」

 「死んでしまっては元も子もないがな」

 皮肉を言われながらも肉体強化を完了させたアズールは、来たる魔獣の攻撃に備える。

 アズールによって投げ飛ばされた魔獣は、すぐに彼らの元を目指し戻ってくる気配を放っていた。近づいてくる魔獣の気配に神経を集中させるアズール。魔獣は気配殺しを使用しているようだが、感覚までもが研ぎ覚まされた状態になる強化を経たアズールには、それも通用しない。

 緑の中を駆け回る音が徐々に大きくなり、魔獣の接近を知らせている。小さく聞こえ始めた音はあっという間に間近にまで迫り、再びアズールを仕留めようと魔獣の魔の手が差し向けられる。

 すると、大きな音と共に草木の中から姿を表したのは、先程の肉体強化をおこなった魔獣ではなく、地中から根っこごと引き摺り出されたかのような大木だったのだ。

 「ッ!!」

 「おいおいッ!嘘だろ!?」

 二人は咄嗟に、向かってくる大木を飛び込むようにして左右に分かれ回避する。撒き散らされる土煙に目を細めながら、通り過ぎる大木に目をやると、なんと魔獣は投げて寄越した大木の乗って潜んでいたのだ。

 魔獣はアズールの方を狙い、生い茂る枝木の中から真っ赤に光る魔物の目を輝かせて飛び掛かった。思いもしない攻撃方法に肝を冷やされるアズールだったが、強化された身体能力のおかげで間一髪、魔獣の鋭爪をまともに食らうことだけは避けられた。

 しかし、伊達に魔獣も肉体強化をしてはいなかったようで、その爪はアズールの腕を擦り鮮血を散らす。自身の痛みになどで怯んでいる暇などないといった様子で、アズールはすれ違うように宙を駆ける魔獣の足を掴み、地面に叩きつけた。

 地に落ちた魔獣に、アズールは空かさず渾身の拳を叩き込む。だが、一見無防備なところに打ち込まれた有効打のようだったが、彼のその拳に伝わったのは歯応えのない感触だった。

 隆々と盛り上がる魔獣の肉体に、アズールの拳の跡が残る。見た目程の手応えを感じなかったアズールは違和感を感じ取ると、すぐに飛び退いて魔獣と距離を取る。

 すぐにトドメを刺そうとしなかったアズールの様子を不思議に思った獣人が、一体何があったのか尋ねる。

 「どうした?何故退いたんだ、アズール!」

 「感触が妙だ・・・。お前達はこの魔獣を一度退けたと言ったな?その時何か違和感を感じなかったか?」

 「違和感?さぁな、そんなの気にしてる余裕がなかったから、すぐに全員で連携して息の根を止めたよ。それがどうした・・・!?」

 二人が会話をしていると、アズールによって沈められた魔獣の身体に異変が起き始める。攻撃を受けた痛みに悶えるのとは違い、不自然な動きを見せ始める魔獣。

 不気味な動きで起き上がると、その獣人族を超える程に盛り上がる肉体がもぞもぞと動き出し、魔獣の肉体を突き破り腕のようなものが内側から飛び出した。

 「なッ・・・!?」

 「何だぁ!?」

 魔獣の身体から現れたその腕は、魔獣のドロっとした血に覆われていたが皮膚を剥がれた肉肉しいものではなく、まるで獣の腕のように体毛が生えていた。

 魔獣はその背中に三本目の腕を生やし、何事もなかったかのように再びアズールの方を向き対峙する。腕は自在に動かせるのか、今はただ魔獣の背中に取り付けられているだけかのように、ぶらりと垂れ下がっている。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

処理中です...