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途絶ぬ研究
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何かしらの防衛策や回避を試みるのではと思っていたアズールは、蛇女が剣を避けずに迎え撃ったのが疑問だった。だが、このような結果になったのなら彼らにとっては好都合。
チャンスを物にする為、剣を押し込むアズールの足にこれまでにない稲光が走る。蛇女の額に突き刺さった黒光する剣はみるみる内に押し込まれていき、彼女の悲痛な叫びが研究所内に響き渡る。
「これでッ・・・終いだぁッ!!」
「おのれッ・・・!この程度の下等な生物らに・・・。妾の研究は、ここで途絶えさせていいものでは・・・」
彼女が走馬灯のように思い出していた光景は、彼女がこの研究所に連れて来られてから研究員の一人として生物実験に携わり、成果を上げ続けた輝かしい功績の日々の数々だった。
嘗てのリナムル周辺の森に築かれた研究所。それはまだ生物を対象とした実験が行われる前の事。森に住む獣人やエルフ族、小動物や近隣に住む人間達が病院代わりに訪れるほど、その研究所に対する認識が違っていた頃の話。
冒険者に襲われ、瀕死の重傷を負った一体のラミアが仲間達に連れられ研究所を訪れていた。
「先生ッ!先生はいらっしゃいますか!?」
「酷い怪我ッ・・・。さぁこちらへ!すぐに先生を呼んできますから」
まだシン達が訪れた時のような大きな研究所ではなく、リナムルという街も開発途中でありとあらゆる生き物が、その小さな研究所を頼りにしていた。
だが、当然ながら医者ではない彼らに怪我や病気を治すことは出来なかった。応急処置と森で手に入る薬草を使った治療でその場を凌ぎ、適切な治療を施せる者がいるところを紹介するのが、急患に対する研究所の対応だった。
人間やエルフ族ならまだしも、獣人やモンスターと相違ない姿で意思を持った生物達は、真面な病院や医療施設で治療を受けられないのがその時代の背景だった。
故に研究繋がりで別の施設と連絡を取ることにより、研究に協力するという条件の元、訳ありの患者を助ける行いをしていた当時の研究室長である人物。その人物もまた、アークシティから派遣された研究員の一人であり、まだ開拓の進んでいない局地に送り込まれたのは、実力と結果のない研究員の端くれであるが故の事だったようだ。
しかしそんな彼らでも、碌な治療や処置を施されない地においては、引くて数多の知識と技量を持ち、多くの感謝を向けられることで彼らの自信にもつながっていた。
大きな研究所や施設にいる時よりも、彼らの日々は充実していた事だろう。
ラウル・イヴェール。
リナムルの森の研究所で室長をしていた、元アークシティの研究員の一人で落ちこぼれであった彼は、成果も出せず実力もないことから、未開の地であるリナムル周辺の研究所へ派遣され、半ば島流しの状態にあった。
その時彼が面倒を見た瀕死の重傷を負ったラミア族の一人、“エンプサー“と名乗るラミアの命を救う事になる。人間に憎悪を抱いていたエンプサーだったが、彼の献身的な治療や対応に心を打たれ、種族という壁を超えた恋に落ちる事になる。
ラウルの研究を手伝わせて欲しいと言うエンプサーに、当時人手の足りなかった彼は辛い思いをさせてしまうかもしれないが、それでも良ければと言う条件で彼女を側に置くことを承諾した。
暫くして人間の手当てをしている時に、ラウルの言っていた事の意味を理解する事となる。患者として訪れていた冒険者が、ラミア族であるエンプサーを見て、化け物や悪女と罵ってきたのだ。
彼女は研究所の助手であると説明するも、患者はラミア族に恐怖を抱いており、ラウルも騙されているのだと口にした。何とかその場を収め患者を送り出したラウルだったが、その患者の言葉はエンプサーの心を酷く傷つける事となった。
それからも人間の患者を受け入れる度に、そう言った話は絶えることはなかった。何度もラウルを説得しようとする者達まで現れるほど、エンプサーは忌み嫌われていたのだ。
当然、彼女が彼らに何かしたわけではないだろう。だが、生まれた種族というだけで恐怖の対象となり、討伐の対象とされることも珍しくないのだという。
すっかり傷心してしまったエンプサーは、人間が訪れた際は顔を見せなくなる程怖がってしまった。ラウルは無理をすることはないと、別の仕事を彼女に任せながら研究所での日々を過ごしていく。
そしてある日、アークシティからの使者が訪れリナムルの街の開拓・開発に伴い、研究所の増築の話を持って来たのだ。施設が大きくなるのは嬉しいことなのだが、その話には裏があったのだった。
何故か研究所は人目から隠される事になり、地下に大きな別の研究施設を設ける事になった。地下といっても通常の地下室などとは違い、地中深くに掘られた巨大な空間にラウルも知らない様々な機材と薬品が持ち込まれていった。
どういう事か説明を求めても、一介の研究員に過ぎないラウルにはそれを知る権利すら与えられておらず、ただ上からの指示に従えとだけ言い渡された。彼の元へ訪れていた患者達はというと、リナムルの開拓が進む事によりここよりも充実した治療や回復が施せる施設が完成するのだという。
今は仮設の施設がその役割を担っているようだが、人間以外の生き物達がどうなっているのかは彼には知らされることはなかった。
アークシティから訪れる使者や上からの命令通り研究をしていた彼は、ある日実験用の大きな容器から信じられないものを耳にする事となる。
それは、姿形のない液体から彼の名前を呼ぶ声がするというものだった。用がない時でも患者が遊びに来るほど慕われていたラウルの事だ。常連となっていた者達の声を聞けばすぐにそれが誰だか分かるほど仲を深めている。
ラウルが青ざめたのは、その容器から聞こえてくる今にも消えてしまいそうな声が、聞き馴染みのある者の声だと分かった時だった。
チャンスを物にする為、剣を押し込むアズールの足にこれまでにない稲光が走る。蛇女の額に突き刺さった黒光する剣はみるみる内に押し込まれていき、彼女の悲痛な叫びが研究所内に響き渡る。
「これでッ・・・終いだぁッ!!」
「おのれッ・・・!この程度の下等な生物らに・・・。妾の研究は、ここで途絶えさせていいものでは・・・」
彼女が走馬灯のように思い出していた光景は、彼女がこの研究所に連れて来られてから研究員の一人として生物実験に携わり、成果を上げ続けた輝かしい功績の日々の数々だった。
嘗てのリナムル周辺の森に築かれた研究所。それはまだ生物を対象とした実験が行われる前の事。森に住む獣人やエルフ族、小動物や近隣に住む人間達が病院代わりに訪れるほど、その研究所に対する認識が違っていた頃の話。
冒険者に襲われ、瀕死の重傷を負った一体のラミアが仲間達に連れられ研究所を訪れていた。
「先生ッ!先生はいらっしゃいますか!?」
「酷い怪我ッ・・・。さぁこちらへ!すぐに先生を呼んできますから」
まだシン達が訪れた時のような大きな研究所ではなく、リナムルという街も開発途中でありとあらゆる生き物が、その小さな研究所を頼りにしていた。
だが、当然ながら医者ではない彼らに怪我や病気を治すことは出来なかった。応急処置と森で手に入る薬草を使った治療でその場を凌ぎ、適切な治療を施せる者がいるところを紹介するのが、急患に対する研究所の対応だった。
人間やエルフ族ならまだしも、獣人やモンスターと相違ない姿で意思を持った生物達は、真面な病院や医療施設で治療を受けられないのがその時代の背景だった。
故に研究繋がりで別の施設と連絡を取ることにより、研究に協力するという条件の元、訳ありの患者を助ける行いをしていた当時の研究室長である人物。その人物もまた、アークシティから派遣された研究員の一人であり、まだ開拓の進んでいない局地に送り込まれたのは、実力と結果のない研究員の端くれであるが故の事だったようだ。
しかしそんな彼らでも、碌な治療や処置を施されない地においては、引くて数多の知識と技量を持ち、多くの感謝を向けられることで彼らの自信にもつながっていた。
大きな研究所や施設にいる時よりも、彼らの日々は充実していた事だろう。
ラウル・イヴェール。
リナムルの森の研究所で室長をしていた、元アークシティの研究員の一人で落ちこぼれであった彼は、成果も出せず実力もないことから、未開の地であるリナムル周辺の研究所へ派遣され、半ば島流しの状態にあった。
その時彼が面倒を見た瀕死の重傷を負ったラミア族の一人、“エンプサー“と名乗るラミアの命を救う事になる。人間に憎悪を抱いていたエンプサーだったが、彼の献身的な治療や対応に心を打たれ、種族という壁を超えた恋に落ちる事になる。
ラウルの研究を手伝わせて欲しいと言うエンプサーに、当時人手の足りなかった彼は辛い思いをさせてしまうかもしれないが、それでも良ければと言う条件で彼女を側に置くことを承諾した。
暫くして人間の手当てをしている時に、ラウルの言っていた事の意味を理解する事となる。患者として訪れていた冒険者が、ラミア族であるエンプサーを見て、化け物や悪女と罵ってきたのだ。
彼女は研究所の助手であると説明するも、患者はラミア族に恐怖を抱いており、ラウルも騙されているのだと口にした。何とかその場を収め患者を送り出したラウルだったが、その患者の言葉はエンプサーの心を酷く傷つける事となった。
それからも人間の患者を受け入れる度に、そう言った話は絶えることはなかった。何度もラウルを説得しようとする者達まで現れるほど、エンプサーは忌み嫌われていたのだ。
当然、彼女が彼らに何かしたわけではないだろう。だが、生まれた種族というだけで恐怖の対象となり、討伐の対象とされることも珍しくないのだという。
すっかり傷心してしまったエンプサーは、人間が訪れた際は顔を見せなくなる程怖がってしまった。ラウルは無理をすることはないと、別の仕事を彼女に任せながら研究所での日々を過ごしていく。
そしてある日、アークシティからの使者が訪れリナムルの街の開拓・開発に伴い、研究所の増築の話を持って来たのだ。施設が大きくなるのは嬉しいことなのだが、その話には裏があったのだった。
何故か研究所は人目から隠される事になり、地下に大きな別の研究施設を設ける事になった。地下といっても通常の地下室などとは違い、地中深くに掘られた巨大な空間にラウルも知らない様々な機材と薬品が持ち込まれていった。
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今は仮設の施設がその役割を担っているようだが、人間以外の生き物達がどうなっているのかは彼には知らされることはなかった。
アークシティから訪れる使者や上からの命令通り研究をしていた彼は、ある日実験用の大きな容器から信じられないものを耳にする事となる。
それは、姿形のない液体から彼の名前を呼ぶ声がするというものだった。用がない時でも患者が遊びに来るほど慕われていたラウルの事だ。常連となっていた者達の声を聞けばすぐにそれが誰だか分かるほど仲を深めている。
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