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二人の記憶
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他の店とは違い、入るのを躊躇わせる外観に一行は足を止める。古民家であるのもそうだが、ここが店であるという看板や張り紙も無く、外から中の様子も見えない。
本当にここがアカリの探していた店なのだろうか。そもそも本当に店なのかすら怪しい。ツクヨとツバキはアカリの表情を見るや、先に行けと言わんばかりの視線を彼女に向ける。
「どうした?入らねぇのか?」
「いえ、その・・・本当にお店・・・なのでしょうか?」
思わず不安がる彼女に変わり、ツクヨが何とか中の様子を確認できないかと窓から店内を覗く。しかし、窓のガラスがそもそも覗き見防止の加工が施されており、ステンドグラスのように何らかの風景か絵画が描かれている。
中の明かりがぼんやりと見え、店内で何かが動いているような変化はくらいは窺えるが、それが人なのかどうかさえ分からない。
「ん~・・・誰かいるようだけど、中の様子は見えないね」
「お前が行きたがってた店だろ?お前が先に入れよ」
「えっえぇ、それは・・・そうですね。分かりました」
意を決したような表情を浮かべ、アカリはその古民家の入り口の前に立ち、ドアノブに手をかける。二人は少し後ろから、その様子を固唾を飲んで見守る。
ゆっくりと開かれる扉と、扉に取り付けられたベルの音が振動によって小さく店内に響く。まるで忍び込むように歩みを進めるアカリは、恐る恐る声を発する。
「ごっごめんくださ~ぃ・・・」
店内は昼間にしては薄暗かったが、外観とは違い内装はアンティーク調の物で揃えられており、どことなく落ち着いた雰囲気で入る前の不安を和らげた。すると、彼女の声に応える年老いた女性の声が奥の方から聞こえて来た。
「いらっしゃい。珍しいお客さんだねぇ~、誰かの紹介かい?」
奥から姿を現したのは、腰を曲げた優しそうな雰囲気の老人だった。棚に手を添えながらゆっくりとアカリの前に現れる。ツクヨが窓の外から覗いた時に感じた気配は、彼女のものなのだろうか。
「あの、街でお話を伺ったところ、こちらにお薬や植物が売られていると聞いて・・・」
「あら、そうだったのかい?通りで初めて見る顔だと思ったよ。見ての通り、お店には見えなかっただろ?それに街には合わない古びた外観だ。常連さん以外、あんまり来なくてね」
「そうだったんですのね」
簡単な会話を交わした店主の女性が、机に置かれた変わった装飾のベルを手に取り小さく揺らす。可愛らしい音が店内に優しく広がると、それに合わせて店に明かりが灯る。
だが、灯るといっても蝋燭や照明がある訳ではなく、何も無いところに突然光源が出現したのだ。初めは照明が付いただけと思っていた一行だったが、照らされる店内を一通り見渡した後、何も無いところから光が発せられていることに気づき、驚きの声をあげる。
「おっおい、何が光ってんだぁ?」
「照明じゃない・・・。魔法か何かかな?」
驚く一行の様子を見て、嬉しそうな表情を浮かべる店主の女性。手品を見て驚くような反応が嬉しかったのか、くすくすと笑った店主の女性は、一行の視線を感じるとその明かりの種明かしをした。
「驚いたかい?これは“精霊“の仕業でね。このベルを鳴らすと光んだよ」
ツクヨの予想はあながち間違っていなかった。ただ彼らは精霊というものを戦闘でしか見たことがなかった故に、日常生活の中で活用されるのを知らなかった。
「すごい!まるで魔法みたいですね」
目を輝かせて感動するアカリに、光源の中から薄らと姿を見せた小さな羽の生えた精霊が嬉しそうに上下に揺れていた。
「おや?姿まで見せるとは、よっぽどお嬢さんを気に入ったみたいだねぇ」
生み出した光源をそのままに、精霊はゆっくりアカリの元へと近づくと、抱えていた紅葉の頭の上にちょこんと止まった。
「ピィ?」
姿を見せたといっても、その容姿は何かの形を模している訳ではなく、球体状の淡い光に妖精の羽が生えているといった見た目をしている。敵意や邪な気配を感じないからか、紅葉も全く警戒することなく素直に頭の上に精霊を乗せた。
本来、他の者ならこうはいかない。何者だろうと得体の知れない者がアカリに触れようとするのを紅葉は許さない。何よりツバキも初めの内はそうだった。不用意に近づく者に、紅葉は何らかの意を込めた視線を送る。そんな反応を見せなかった事にも、一行は驚かされていた。
「あの紅葉がっ・・・!」
「精霊は別っていうのかぁ!?」
「ふふふっ。どうやらウチの子は、アンタの子にも気に入られたみたいだねぇ」
微笑ましい場面なのだが、アカリの表情はどこか晴れない。自分の子供のように可愛がっている紅葉という存在だが、彼女は自分と共に発見されたという紅葉のことを何も知らない。
何故自分と一緒にいるのかも、何故自分を守るような行動に出るのかも。アカリには紅葉と過ごしてきた記憶がない。しかし、紅葉の行動や様子を見ていると、彼には何らかの記憶があるように思える。
もし紅葉から何らかの話が聞けたのなら、アカリの失われた記憶を思い出す鍵になるかも知れない。不意にそんなことがアカリの頭の中を過ぎる。
「貴方は・・・紅葉の事が分かる?」
呟くように小声で尋ねるアカリに、精霊は羽をゆっくり動かすだけで何も答えない。唯一彼女の声が聞こえた紅葉も、その言葉の意味まで理解することは出来なかったのか、心配そうに彼女を見上げていた。
「さて、ここに来たのは何か買いに来たからなんじゃないかい?見て面白いかは分からないけど、ゆっくり見ていっておくれ」
「ありがとうございます」
何事もなかったかのように店主の言葉に答えるアカリ。店の棚には街の親切な人に聞いたように、様々な植物を乾燥させた茶葉と思われるものや、煎じることで効果を発揮する根っこのようなものなど、様々な植物の商品が並べられていた。
本当にここがアカリの探していた店なのだろうか。そもそも本当に店なのかすら怪しい。ツクヨとツバキはアカリの表情を見るや、先に行けと言わんばかりの視線を彼女に向ける。
「どうした?入らねぇのか?」
「いえ、その・・・本当にお店・・・なのでしょうか?」
思わず不安がる彼女に変わり、ツクヨが何とか中の様子を確認できないかと窓から店内を覗く。しかし、窓のガラスがそもそも覗き見防止の加工が施されており、ステンドグラスのように何らかの風景か絵画が描かれている。
中の明かりがぼんやりと見え、店内で何かが動いているような変化はくらいは窺えるが、それが人なのかどうかさえ分からない。
「ん~・・・誰かいるようだけど、中の様子は見えないね」
「お前が行きたがってた店だろ?お前が先に入れよ」
「えっえぇ、それは・・・そうですね。分かりました」
意を決したような表情を浮かべ、アカリはその古民家の入り口の前に立ち、ドアノブに手をかける。二人は少し後ろから、その様子を固唾を飲んで見守る。
ゆっくりと開かれる扉と、扉に取り付けられたベルの音が振動によって小さく店内に響く。まるで忍び込むように歩みを進めるアカリは、恐る恐る声を発する。
「ごっごめんくださ~ぃ・・・」
店内は昼間にしては薄暗かったが、外観とは違い内装はアンティーク調の物で揃えられており、どことなく落ち着いた雰囲気で入る前の不安を和らげた。すると、彼女の声に応える年老いた女性の声が奥の方から聞こえて来た。
「いらっしゃい。珍しいお客さんだねぇ~、誰かの紹介かい?」
奥から姿を現したのは、腰を曲げた優しそうな雰囲気の老人だった。棚に手を添えながらゆっくりとアカリの前に現れる。ツクヨが窓の外から覗いた時に感じた気配は、彼女のものなのだろうか。
「あの、街でお話を伺ったところ、こちらにお薬や植物が売られていると聞いて・・・」
「あら、そうだったのかい?通りで初めて見る顔だと思ったよ。見ての通り、お店には見えなかっただろ?それに街には合わない古びた外観だ。常連さん以外、あんまり来なくてね」
「そうだったんですのね」
簡単な会話を交わした店主の女性が、机に置かれた変わった装飾のベルを手に取り小さく揺らす。可愛らしい音が店内に優しく広がると、それに合わせて店に明かりが灯る。
だが、灯るといっても蝋燭や照明がある訳ではなく、何も無いところに突然光源が出現したのだ。初めは照明が付いただけと思っていた一行だったが、照らされる店内を一通り見渡した後、何も無いところから光が発せられていることに気づき、驚きの声をあげる。
「おっおい、何が光ってんだぁ?」
「照明じゃない・・・。魔法か何かかな?」
驚く一行の様子を見て、嬉しそうな表情を浮かべる店主の女性。手品を見て驚くような反応が嬉しかったのか、くすくすと笑った店主の女性は、一行の視線を感じるとその明かりの種明かしをした。
「驚いたかい?これは“精霊“の仕業でね。このベルを鳴らすと光んだよ」
ツクヨの予想はあながち間違っていなかった。ただ彼らは精霊というものを戦闘でしか見たことがなかった故に、日常生活の中で活用されるのを知らなかった。
「すごい!まるで魔法みたいですね」
目を輝かせて感動するアカリに、光源の中から薄らと姿を見せた小さな羽の生えた精霊が嬉しそうに上下に揺れていた。
「おや?姿まで見せるとは、よっぽどお嬢さんを気に入ったみたいだねぇ」
生み出した光源をそのままに、精霊はゆっくりアカリの元へと近づくと、抱えていた紅葉の頭の上にちょこんと止まった。
「ピィ?」
姿を見せたといっても、その容姿は何かの形を模している訳ではなく、球体状の淡い光に妖精の羽が生えているといった見た目をしている。敵意や邪な気配を感じないからか、紅葉も全く警戒することなく素直に頭の上に精霊を乗せた。
本来、他の者ならこうはいかない。何者だろうと得体の知れない者がアカリに触れようとするのを紅葉は許さない。何よりツバキも初めの内はそうだった。不用意に近づく者に、紅葉は何らかの意を込めた視線を送る。そんな反応を見せなかった事にも、一行は驚かされていた。
「あの紅葉がっ・・・!」
「精霊は別っていうのかぁ!?」
「ふふふっ。どうやらウチの子は、アンタの子にも気に入られたみたいだねぇ」
微笑ましい場面なのだが、アカリの表情はどこか晴れない。自分の子供のように可愛がっている紅葉という存在だが、彼女は自分と共に発見されたという紅葉のことを何も知らない。
何故自分と一緒にいるのかも、何故自分を守るような行動に出るのかも。アカリには紅葉と過ごしてきた記憶がない。しかし、紅葉の行動や様子を見ていると、彼には何らかの記憶があるように思える。
もし紅葉から何らかの話が聞けたのなら、アカリの失われた記憶を思い出す鍵になるかも知れない。不意にそんなことがアカリの頭の中を過ぎる。
「貴方は・・・紅葉の事が分かる?」
呟くように小声で尋ねるアカリに、精霊は羽をゆっくり動かすだけで何も答えない。唯一彼女の声が聞こえた紅葉も、その言葉の意味まで理解することは出来なかったのか、心配そうに彼女を見上げていた。
「さて、ここに来たのは何か買いに来たからなんじゃないかい?見て面白いかは分からないけど、ゆっくり見ていっておくれ」
「ありがとうございます」
何事もなかったかのように店主の言葉に答えるアカリ。店の棚には街の親切な人に聞いたように、様々な植物を乾燥させた茶葉と思われるものや、煎じることで効果を発揮する根っこのようなものなど、様々な植物の商品が並べられていた。
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