1,183 / 1,646
見習い作曲家
しおりを挟む
街の至る所から様々な音色の音楽が聞こえてくる。夜という事もあり激しめの曲調のものはなかったが、どれも心が休まるような癒されるものばかりだった。
それでも、一向に噂に聞いていたような“目に見える音“というものには出会さない。思わずリズムを刻んでしまうような音色に心と身体を揺らしながら、シン達はギルドの傭兵達に案内されるまま、商業組合の建物までやって来る。
「ここだ。話は俺達が付けておいてやるから、後は名前かチーム名を受付に伝えてくれ。それで報酬が受け取れる筈だ」
「何から何まで済まない」
「いいって事よ!俺達も暫くはこの街に滞在するつもりだから、何かあれば声をかけてくれ。力仕事なら手を貸せるからよ!」
「ありがとう」
建物の中へ足を踏み入れると、大きなホールに幾つかに分けられた受付が設けられている。ロープで区切られた受付には、一緒に馬車に乗ってやって来た冒険者や商人達が並んでいた。
「エレジア経由でお越しの方々はこちらへどうぞ」
案内されるまま列に並び、ギルドの男に言われた通り順番を待つ。そして受付に辿り着いた一行はそれぞれ名前を伝えると、既に報酬の手配が済んでおりその場で直接受け取ることが出来た。
建物を去る際に、ギルドの傭兵達に挨拶をし、建物を後にした一行は先ず最初に夜を明かす為の宿を探すことになった。
最早街に着いたら初めにする恒例行事となった宿屋探し。しかし、シン達と共にアルバへ訪れた者達は多くおり、別の街からやって来た商人や冒険者、それに観光地ともなっているアルバには、連日途絶える事なく多くの観光客が訪れているようだ。
「おいおい、また宿無しかぁ?」
「う~ん・・・どこも予約でいっぱいみたいだね・・・」
「幸い馬車でたっぷり睡眠は取ったからな、何処か腰を下ろせる場所でもあれば・・・」
「野宿は避けたいけど・・・?」
慣れぬ街並みと雰囲気に先行きが不安になる一行。そこへ通り掛かった一人の男が、路頭に迷う彼らを不憫に思ったのか声を掛けてきた。
「もしかして、お泊まりになるところでお困りですか?」
「え?えぇ、そうなんです。どこも予約がいっぱいみたいで・・・」
「それならいいところがありますよ!僕も丁度向かうところでしたし、よかったら一緒にどうですか?」
大きな封筒のようなものを抱えた男は、少しよれた服装をしており細身の身体をしていた。観光客が多い街でお金の回りも良さそうなものだが、彼のような見た目をした者もいるのだと、一行は少し驚いた。
言葉を選ばないのなら、見窄らしくも見えるその姿は、とてもシン達が泊まれるような場所を紹介してくれるようには見えない。
「どっどうする?」
「野宿は嫌なんだろ?雨風が凌げりゃぁ上出来だろ」
「そういうところは逞しいんだね・・・。分かった、とりあえず今晩だけでも泊めてもらえるところがあれば、また明日探せばいいしね!」
小声で相談を始める一行を、キョトンとした表情で返事を待つ男。とりあえず夜も遅くなってしまっては、今以上に探すのは困難になる。一先ず夜を明かせる場所を確保する為、一行は男の言う泊まれる場所へ案内してもらう事にした。
「あの・・・貴方は?」
「え?あぁ、すみません!初対面でびっくりしましたよね。僕は“クリス“と言います。実はこれから皆さんを案内するのは教会でして、僕はそこでお手伝いとして働いているんです」
クリスの言う教会とは、アルバの街でも最も有名な教会らしく、聖職者や神学者、音楽家など様々な著名人が訪れるというアルバに来たなら必ず行きたい名所ともなっているらしい。
「教会?そんな神聖なところに泊めてもらえるんですか?」
「あぁ~・・・えっと・・・すみません、言葉足らずでした・・・。正確には教会でお世話になってる寮ですね。なので、教会からまた少し歩くことになってしまいますね」
「そうなんですか。それでクリスさんはそこで何のお手伝いを?」
道中の会話の中で、ツクヨは自然と彼の事について尋ねる。こういった人との付き合い方に関しては、ツクヨは一行の中でも随一の能力を持っている。
街中で向こうから話しかけてくる者達は、最も警戒すべき対象だとミアは考えていた。何故なら、この世界がゲームであるWoFであるなら、ユーザーである彼らからアクションを起こしていないのにストーリーが進むのは不自然だからだ。
それに何よりも、これまでの旅がミアにそう思わせていた。実際に向こうから話しかけてくる者達が事件やクエストの重要人物であることも多く、何かしらの異変がアルバという街に起きているのなら、彼らWoFユーザーを巻き込むために仕込まれた仕掛け人という可能性も十分にあり得る。
その為、その人物の素性を自然に聞き出すのは、地味だがかなり重要な事なのだ。
「教会では様々な楽器による演奏や、歌手の方によるコンサートがよく開かれるんです。勿論、教会所属の合唱団もいまして、僭越ながら僕は作曲をさせて貰っているんですよ」
「作曲を!?すごいじゃないですか!じゃぁクリスさんは作曲家さんなんですか?」
彼の職業に大きく驚いて見せるツクヨ。彼の気を良くさせるように褒めちぎるも、どうやら事情があるらしく、彼は浮かない顔で質問に答えた。
「いえ、そんな立派なものでは・・・。あくまで曲の候補の一つとして、僕の作った曲を提出しているに過ぎません。それに、まだその・・・採用に至った事もなくて・・・」
「そうだったんですか・・・。クリスさんみたいな作曲のお手伝いをする方は他にも?」
「えぇ、僕よりも優秀で才能のある方々がいっぱいいらっしゃいます。教会内で候補が見つからなければ、外部に依頼する事もありまして、今まさにその譜面を届けるところだったんですよ」
そういって彼は、抱えていた大きな封筒を見せる。その封には封蝋と呼ばれる印が押してあり、傷や汚れ、折り目などが付かないように透明なケースに収納されていた。
それでも、一向に噂に聞いていたような“目に見える音“というものには出会さない。思わずリズムを刻んでしまうような音色に心と身体を揺らしながら、シン達はギルドの傭兵達に案内されるまま、商業組合の建物までやって来る。
「ここだ。話は俺達が付けておいてやるから、後は名前かチーム名を受付に伝えてくれ。それで報酬が受け取れる筈だ」
「何から何まで済まない」
「いいって事よ!俺達も暫くはこの街に滞在するつもりだから、何かあれば声をかけてくれ。力仕事なら手を貸せるからよ!」
「ありがとう」
建物の中へ足を踏み入れると、大きなホールに幾つかに分けられた受付が設けられている。ロープで区切られた受付には、一緒に馬車に乗ってやって来た冒険者や商人達が並んでいた。
「エレジア経由でお越しの方々はこちらへどうぞ」
案内されるまま列に並び、ギルドの男に言われた通り順番を待つ。そして受付に辿り着いた一行はそれぞれ名前を伝えると、既に報酬の手配が済んでおりその場で直接受け取ることが出来た。
建物を去る際に、ギルドの傭兵達に挨拶をし、建物を後にした一行は先ず最初に夜を明かす為の宿を探すことになった。
最早街に着いたら初めにする恒例行事となった宿屋探し。しかし、シン達と共にアルバへ訪れた者達は多くおり、別の街からやって来た商人や冒険者、それに観光地ともなっているアルバには、連日途絶える事なく多くの観光客が訪れているようだ。
「おいおい、また宿無しかぁ?」
「う~ん・・・どこも予約でいっぱいみたいだね・・・」
「幸い馬車でたっぷり睡眠は取ったからな、何処か腰を下ろせる場所でもあれば・・・」
「野宿は避けたいけど・・・?」
慣れぬ街並みと雰囲気に先行きが不安になる一行。そこへ通り掛かった一人の男が、路頭に迷う彼らを不憫に思ったのか声を掛けてきた。
「もしかして、お泊まりになるところでお困りですか?」
「え?えぇ、そうなんです。どこも予約がいっぱいみたいで・・・」
「それならいいところがありますよ!僕も丁度向かうところでしたし、よかったら一緒にどうですか?」
大きな封筒のようなものを抱えた男は、少しよれた服装をしており細身の身体をしていた。観光客が多い街でお金の回りも良さそうなものだが、彼のような見た目をした者もいるのだと、一行は少し驚いた。
言葉を選ばないのなら、見窄らしくも見えるその姿は、とてもシン達が泊まれるような場所を紹介してくれるようには見えない。
「どっどうする?」
「野宿は嫌なんだろ?雨風が凌げりゃぁ上出来だろ」
「そういうところは逞しいんだね・・・。分かった、とりあえず今晩だけでも泊めてもらえるところがあれば、また明日探せばいいしね!」
小声で相談を始める一行を、キョトンとした表情で返事を待つ男。とりあえず夜も遅くなってしまっては、今以上に探すのは困難になる。一先ず夜を明かせる場所を確保する為、一行は男の言う泊まれる場所へ案内してもらう事にした。
「あの・・・貴方は?」
「え?あぁ、すみません!初対面でびっくりしましたよね。僕は“クリス“と言います。実はこれから皆さんを案内するのは教会でして、僕はそこでお手伝いとして働いているんです」
クリスの言う教会とは、アルバの街でも最も有名な教会らしく、聖職者や神学者、音楽家など様々な著名人が訪れるというアルバに来たなら必ず行きたい名所ともなっているらしい。
「教会?そんな神聖なところに泊めてもらえるんですか?」
「あぁ~・・・えっと・・・すみません、言葉足らずでした・・・。正確には教会でお世話になってる寮ですね。なので、教会からまた少し歩くことになってしまいますね」
「そうなんですか。それでクリスさんはそこで何のお手伝いを?」
道中の会話の中で、ツクヨは自然と彼の事について尋ねる。こういった人との付き合い方に関しては、ツクヨは一行の中でも随一の能力を持っている。
街中で向こうから話しかけてくる者達は、最も警戒すべき対象だとミアは考えていた。何故なら、この世界がゲームであるWoFであるなら、ユーザーである彼らからアクションを起こしていないのにストーリーが進むのは不自然だからだ。
それに何よりも、これまでの旅がミアにそう思わせていた。実際に向こうから話しかけてくる者達が事件やクエストの重要人物であることも多く、何かしらの異変がアルバという街に起きているのなら、彼らWoFユーザーを巻き込むために仕込まれた仕掛け人という可能性も十分にあり得る。
その為、その人物の素性を自然に聞き出すのは、地味だがかなり重要な事なのだ。
「教会では様々な楽器による演奏や、歌手の方によるコンサートがよく開かれるんです。勿論、教会所属の合唱団もいまして、僭越ながら僕は作曲をさせて貰っているんですよ」
「作曲を!?すごいじゃないですか!じゃぁクリスさんは作曲家さんなんですか?」
彼の職業に大きく驚いて見せるツクヨ。彼の気を良くさせるように褒めちぎるも、どうやら事情があるらしく、彼は浮かない顔で質問に答えた。
「いえ、そんな立派なものでは・・・。あくまで曲の候補の一つとして、僕の作った曲を提出しているに過ぎません。それに、まだその・・・採用に至った事もなくて・・・」
「そうだったんですか・・・。クリスさんみたいな作曲のお手伝いをする方は他にも?」
「えぇ、僕よりも優秀で才能のある方々がいっぱいいらっしゃいます。教会内で候補が見つからなければ、外部に依頼する事もありまして、今まさにその譜面を届けるところだったんですよ」
そういって彼は、抱えていた大きな封筒を見せる。その封には封蝋と呼ばれる印が押してあり、傷や汚れ、折り目などが付かないように透明なケースに収納されていた。
0
あなたにおすすめの小説
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる