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互いの監視
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オイゲンが資料の方へ視線を落とした隙に、シンはケヴィンの方を見る。昨夜の事がバレたら困るのは彼も同じはず。もしオイゲンに昨夜の事を追求されたら、流石に誤魔化したり隠し通す事は難しいだろう。
変な疑いを掛けられるくらいなら、シンは正直に話すつもりでいた。しかし、ケヴィンは何も心配事がないかのように澄ました顔をしている。シンが口を割らないとでも思っているのだろうか。
それどころか彼は、シンの視線に気がつくとできるだけシンを安心させるような様子を見せる。そんな事をされても、シンにはバレないかどうかの心配が勝ってしまいそれどころではなかったが・・・。
しかし、そんな彼の不安を消し去るかのようにオイゲンはシンの元から数歩離れて、それまでの厳しい視線から普段の目つきへと戻る。
「失礼した。私からは以上だ」
「はっはい・・・」
絶体絶命かと思われたが、何故かオイゲンは身を引いていった。手にしていたのは間違いなく作業員の顔写真入りの名簿だった。あんなものを確認されては逃れようのない筈なのだが、これは一体どういう事なのだろうか。
呆気にとられるシンとは裏腹に、笑顔を向けるケヴィン。彼が裏で何かやっていたのだろうか。一先ずは危機を切り抜けたシンは、そのまま何事もなく事情聴取を終え、部屋の外に出るよう指示を受ける。
状況が分からないまま開けられた扉を出てミア達のいる廊下へと出ると、彼女らも最初のシンと同じ表情でこちらを見ていた。測らずとも、この時のシンはツクヨと同じ顔をしていた。
事実、部屋の中では何事も起こらなかった。最も危うかったシンですら何事もなかったのなら、他の仲間達も問題ないだろう。そんな安心感も感じつつ、シンは警備の者に誘導されながら、自室での待機を命じられる。
部屋に戻ると、先に聴取を終わらせていたツクヨが出迎えてくれた。
「シン!どうだった?」
「あっあぁ、それが・・・」
シンは事情聴取を受けた部屋での出来事を彼に話した。この時、よくないと分かっていながらも、ケヴィンの指示で行動を起こしていたことは伏せておいた。いずれ話す時が来るとしても、今のタイミングではないと判断したのだ。
「そっかぁ~・・・よかったよ、何もなくて。ほら私達はルーカス司祭の依頼で式典や宮殿に潜り込んだ訳じゃない?そこはルーカスさんも、隠さず話してくれていたようだね」
「あぁ、ただ彼は別室で監禁状態になっているけどな・・・」
「そうだね・・・。自分が発端だとはいえ、私達を庇って正直に証言してくれたのも事実だし、出来れば彼も助けてあげたいけど・・・」
ルーカスも正直に証言しなければこんな事にはなっていなかった。それでも正直に話してくれたのは、自分のせいで巻き込んだシン達への疑いを少しでも晴らす為でもある。
実際、シンたちも教団について知りたいと考えており、彼の提案に乗ったことで条件として五分であった共言える。それでも庇ってくれたルーカスに、シン達は何か彼の解放のための手だ足助になる事はないかと考える。
だが結局は、事件を解決へと導くことが何よりも彼の解放に繋がるだろうと結論づく。その為には捜査に加わる必要があるのだが、部外者であるシン達が捜査に加わるのはどう考えても難しい。
そこで頼りになるのが、現在捜査の中枢にいるケヴィンだった。これまで散々彼に利用されてきたのだ。今度はこちらが彼の立場を利用できないかと、シンはツクヨと算段をしていた。
後にツバキやアカリ、そして最後にミアが部屋へ戻ってくると先程までの話を皆に伝え、一行は全ての者達の事情聴取が終わるまで、ケヴィンに取り入る方法を考えていた。
暫くすると彼らの部屋に、警備の者から声が掛かる。それは一部の者達は事情聴取後に宮殿から解放されたというものだった。その条件は無論、完全な身の潔白とそれを裏付ける証拠があった者達だけ。
しかし警備の者から言い渡されたのは、引き続きの待機命令だったのだ。当然その理由について問う一行の前に、お目当ての人物が自らやって来たのだ。
「皆さん、この度は大変な事になってしまいましたね・・・」
「お前はッ・・・!何でここに!?」
一行の前にやって来たのはケヴィンとマティアス司祭だった。どうしてマティアス司祭までいるのかと聞くと、どうやら聴取を行なっていた者達の間でも不信感や疑いといったものは払拭しきれていないようで、誰が犯行を企てたのか分からない以上、単独行動や親しい者達だけでの行動は禁止するという話になったらしい。
「そう、つまり疑われているのは私達も同じという訳です」
「それで?何だってアンタはアタシらの前にやって来たんだ?もう面倒事は御免だぜ?」
「そう言わないでください。私が皆さんの元へやって来たのは、あなた達にも有益な話があるから、なんですから。ね?マティアス氏」
そう言ってケヴィンが後ろのマティアス司祭の方を振り返ると、彼に変わり司祭自らその話とやらの内容を説明し始めた。
「我々が来たのは、皆さんにも捜査に加わって頂く為です」
「ッ!?」
マティアス司祭からの提案に、一行は驚きの表情を隠せなかった。今まさにその算段について考えていたところだったからだ。それが向こうの方からやって来たとなれば、こんなに上手い話はない。
しかし、上手い話には裏があるのが付き物。ミアがその条件についてマティアス司祭に尋ねると、それはいたってシンプルな理由からだった。
「勿論、ただ捜査を手伝って頂くという訳ではありません。簡単な話です。お互いの行動の抑止、つまりは監視の目を置くことで犯人の動きを封じようというのです。あなた達の他にも、宮殿に残された者達のところへは、別の者達が訪れている事でしょう。要するに、皆さんをこれから私達が監視すると同時に、皆さんにも私達を監視させる目的がある訳です」
分からなくもない話だが、偶然か必然か。この二人がシン達の元へやって来たのは好都合だった。シンに対し疑いの目を向けていた護衛隊の隊長や、別の要人達の護衛よりもよっぽど話が通じそうだったからだ。
変な疑いを掛けられるくらいなら、シンは正直に話すつもりでいた。しかし、ケヴィンは何も心配事がないかのように澄ました顔をしている。シンが口を割らないとでも思っているのだろうか。
それどころか彼は、シンの視線に気がつくとできるだけシンを安心させるような様子を見せる。そんな事をされても、シンにはバレないかどうかの心配が勝ってしまいそれどころではなかったが・・・。
しかし、そんな彼の不安を消し去るかのようにオイゲンはシンの元から数歩離れて、それまでの厳しい視線から普段の目つきへと戻る。
「失礼した。私からは以上だ」
「はっはい・・・」
絶体絶命かと思われたが、何故かオイゲンは身を引いていった。手にしていたのは間違いなく作業員の顔写真入りの名簿だった。あんなものを確認されては逃れようのない筈なのだが、これは一体どういう事なのだろうか。
呆気にとられるシンとは裏腹に、笑顔を向けるケヴィン。彼が裏で何かやっていたのだろうか。一先ずは危機を切り抜けたシンは、そのまま何事もなく事情聴取を終え、部屋の外に出るよう指示を受ける。
状況が分からないまま開けられた扉を出てミア達のいる廊下へと出ると、彼女らも最初のシンと同じ表情でこちらを見ていた。測らずとも、この時のシンはツクヨと同じ顔をしていた。
事実、部屋の中では何事も起こらなかった。最も危うかったシンですら何事もなかったのなら、他の仲間達も問題ないだろう。そんな安心感も感じつつ、シンは警備の者に誘導されながら、自室での待機を命じられる。
部屋に戻ると、先に聴取を終わらせていたツクヨが出迎えてくれた。
「シン!どうだった?」
「あっあぁ、それが・・・」
シンは事情聴取を受けた部屋での出来事を彼に話した。この時、よくないと分かっていながらも、ケヴィンの指示で行動を起こしていたことは伏せておいた。いずれ話す時が来るとしても、今のタイミングではないと判断したのだ。
「そっかぁ~・・・よかったよ、何もなくて。ほら私達はルーカス司祭の依頼で式典や宮殿に潜り込んだ訳じゃない?そこはルーカスさんも、隠さず話してくれていたようだね」
「あぁ、ただ彼は別室で監禁状態になっているけどな・・・」
「そうだね・・・。自分が発端だとはいえ、私達を庇って正直に証言してくれたのも事実だし、出来れば彼も助けてあげたいけど・・・」
ルーカスも正直に証言しなければこんな事にはなっていなかった。それでも正直に話してくれたのは、自分のせいで巻き込んだシン達への疑いを少しでも晴らす為でもある。
実際、シンたちも教団について知りたいと考えており、彼の提案に乗ったことで条件として五分であった共言える。それでも庇ってくれたルーカスに、シン達は何か彼の解放のための手だ足助になる事はないかと考える。
だが結局は、事件を解決へと導くことが何よりも彼の解放に繋がるだろうと結論づく。その為には捜査に加わる必要があるのだが、部外者であるシン達が捜査に加わるのはどう考えても難しい。
そこで頼りになるのが、現在捜査の中枢にいるケヴィンだった。これまで散々彼に利用されてきたのだ。今度はこちらが彼の立場を利用できないかと、シンはツクヨと算段をしていた。
後にツバキやアカリ、そして最後にミアが部屋へ戻ってくると先程までの話を皆に伝え、一行は全ての者達の事情聴取が終わるまで、ケヴィンに取り入る方法を考えていた。
暫くすると彼らの部屋に、警備の者から声が掛かる。それは一部の者達は事情聴取後に宮殿から解放されたというものだった。その条件は無論、完全な身の潔白とそれを裏付ける証拠があった者達だけ。
しかし警備の者から言い渡されたのは、引き続きの待機命令だったのだ。当然その理由について問う一行の前に、お目当ての人物が自らやって来たのだ。
「皆さん、この度は大変な事になってしまいましたね・・・」
「お前はッ・・・!何でここに!?」
一行の前にやって来たのはケヴィンとマティアス司祭だった。どうしてマティアス司祭までいるのかと聞くと、どうやら聴取を行なっていた者達の間でも不信感や疑いといったものは払拭しきれていないようで、誰が犯行を企てたのか分からない以上、単独行動や親しい者達だけでの行動は禁止するという話になったらしい。
「そう、つまり疑われているのは私達も同じという訳です」
「それで?何だってアンタはアタシらの前にやって来たんだ?もう面倒事は御免だぜ?」
「そう言わないでください。私が皆さんの元へやって来たのは、あなた達にも有益な話があるから、なんですから。ね?マティアス氏」
そう言ってケヴィンが後ろのマティアス司祭の方を振り返ると、彼に変わり司祭自らその話とやらの内容を説明し始めた。
「我々が来たのは、皆さんにも捜査に加わって頂く為です」
「ッ!?」
マティアス司祭からの提案に、一行は驚きの表情を隠せなかった。今まさにその算段について考えていたところだったからだ。それが向こうの方からやって来たとなれば、こんなに上手い話はない。
しかし、上手い話には裏があるのが付き物。ミアがその条件についてマティアス司祭に尋ねると、それはいたってシンプルな理由からだった。
「勿論、ただ捜査を手伝って頂くという訳ではありません。簡単な話です。お互いの行動の抑止、つまりは監視の目を置くことで犯人の動きを封じようというのです。あなた達の他にも、宮殿に残された者達のところへは、別の者達が訪れている事でしょう。要するに、皆さんをこれから私達が監視すると同時に、皆さんにも私達を監視させる目的がある訳です」
分からなくもない話だが、偶然か必然か。この二人がシン達の元へやって来たのは好都合だった。シンに対し疑いの目を向けていた護衛隊の隊長や、別の要人達の護衛よりもよっぽど話が通じそうだったからだ。
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