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犯人の次なる目的
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リヒトルから明かされたのは、これまで鑑識や教団の護衛、アルバの警備隊からは一切出てこなかった情報だった。しかし、何も知らなければ特に重要な情報として捉えられることもないだろう。
それはリヒトルらが、何らかの専門家でもなければ医学に精通している者でもないからだ。それでもアンドレイがその話を信用する気になったのは、偏にマイルズというリヒトル夫妻の護衛を務めている人物の能力にあった。
「血管の弛み・・・。ですがそれは」
「当然、偶然だったと捉えることもできるだろう。だが何度も言うようだが、これが偶然起こったものとして割り切れるものだろうか?」
「・・・・・」
彼の言うように、三人の死因や共通点があることが全て偶然であるとはアンドレイには到底思えなかった。それでも彼の中で引っ掛かっていたのは、三人の血管に診られたという血管の僅かな緩み。
一部分の緩みということから、その部分に何かが入り込んだと考えるのが妥当だろう。同じような場所に同じような弛み。誰かが何らかの方法で彼らの血管に遺物を混入させたのだろうか。だが、彼らの遺体には注射器を刺したような外傷すら、その痕跡は一切発見されなかった。
これは教団側とマイルズの調査で違いのない確かな情報だった。
「それが分かったところで、その方法がわからない・・・と言った様子だな?」
「貴方にはそれがお分かりなのですか?」
「いや、私もそこまでは把握していない。殺害の手段は分からないが、恐らく死の原因はそれだ。つまりターゲットになった人間は、血管に異常をきたして心不全を起こして殺されるということだ」
「貴方の国でそのような事例は?」
「ないな。あらかた文献も目を通してきたつもりだが、そのような事例があったという記述に覚えはない」
「そう・・・ですか」
彼らが少ない情報で考察していると、ふと街中に溢れている音楽の中で、一際彼らの耳に残る印象的な音が入ってくる。これはオイゲンに部屋へ戻るよう指示されたシン達も耳にしていたものと同じである。
「これは・・・。またあの時の?」
「誰が演奏しているものだ?これ程の演奏、私でもそう容易く行えるものではない・・・。アンドレイ、お前はどうだ?」
「えぇ、私もこれ程の演奏となると、入念な準備と復習なくしては不可能です」
有名な音楽家である二人がこれだけ感心するほどの演奏なら、さぞかしなの知れた者か隠れた逸材であるのだろう。流れてくる曲自体は彼らも知っているものだったようで、事件のことについて考え過ぎていた彼らの頭を優しくほぐしていった。
「とは言うものの、三人の死の状況はそれぞれ違っています遺体から見えてくるものもあれば、状況から見えてくるものもあるでしょう。それと、リヒトルさんにもう一つ伺ってみたいことが・・・」
「何だ?初回サービスでとっておきの情報をくれてやったと言うのに、まだ不服だとでも言うのか?」
「ははは、まさか。いえ・・・今後の事についてです。今回のマティアス司祭の死により、教団の役職を持った方々が全員殺されました。犯人はこれで犯行を止めると思いますか?」
既にアンドレイも、この事件には犯人がいるものとして断定し考えていた。それはリヒトルも同じで、犯人が教団関係者を狙っていると言うのも分かっていたようだ。
それを踏まえて、教団関係者のいなくなった今、犯人はこのまま犯行を続けるのか否か。
「それは犯人の心理状態や考えを憶測の範囲で語るものであって私はあまり好きではないし理解もない。だが状況から見てこれ以上の犯行は無いように思えるな」
「そうですか・・・」
リヒトルの解答に、アンドレイは浮かない表情を浮かべる。彼の答えがアンドレイの期待していたものとは違っていたからだろう。
確かにこれまでの犯行の流れを汲むのであれば、これ以上狙うべきターゲットはいない。それにこのまま次なる犯行も行われず雲隠れされてしまっては、謎を残したままいつまで宮殿内に囚われのままなのかも分からなくなる。
このまま宮殿に閉じ込められたままの者達の不満を溜めて暴動を起こさせる。それが犯人の最終的な目的だとでも言うのだろうか。現にブルースの護衛は既に一触即発の場面を何度も起こし掛けている。痺れを切らすのも時間の問題だろう。
「何だ、期待する答えではなかったか?」
「またおかしな事を。そもそもこの質問に答えを導き出せる人間など、現状犯人以外にいないでしょうに・・・」
「確かにな。ならお前はどう考える?」
「私は・・・」
アンドレイは犯行はまだ続くのではないかと考えていた。教団に関係するものならまだこの宮殿内にはいる。それは教団の護衛隊の隊長を務めるオイゲン。そして立場上、彼と近い位置にあるニノンが、次なる被害者になるのではと考えていた。
彼らを殺害する動機については思いつかないが、本来の目的である教団の役職に就く者達の排除を完了した犯人は、捜査を撹乱させ身を隠しやすくする為に、指揮系統を崩そうとしてくるのではないかと言うものだった。
現在宮殿内にて様々な部隊を指揮しているのは、教団の護衛隊として編成された騎士達。とりわけオイゲンとニノンであることをアンドレイは把握していた。要するに、この二人を三人と同じ方法、或いは一辺に始末することで現場となっている宮殿内を混乱させようとしているのかも知れない。
それはリヒトルらが、何らかの専門家でもなければ医学に精通している者でもないからだ。それでもアンドレイがその話を信用する気になったのは、偏にマイルズというリヒトル夫妻の護衛を務めている人物の能力にあった。
「血管の弛み・・・。ですがそれは」
「当然、偶然だったと捉えることもできるだろう。だが何度も言うようだが、これが偶然起こったものとして割り切れるものだろうか?」
「・・・・・」
彼の言うように、三人の死因や共通点があることが全て偶然であるとはアンドレイには到底思えなかった。それでも彼の中で引っ掛かっていたのは、三人の血管に診られたという血管の僅かな緩み。
一部分の緩みということから、その部分に何かが入り込んだと考えるのが妥当だろう。同じような場所に同じような弛み。誰かが何らかの方法で彼らの血管に遺物を混入させたのだろうか。だが、彼らの遺体には注射器を刺したような外傷すら、その痕跡は一切発見されなかった。
これは教団側とマイルズの調査で違いのない確かな情報だった。
「それが分かったところで、その方法がわからない・・・と言った様子だな?」
「貴方にはそれがお分かりなのですか?」
「いや、私もそこまでは把握していない。殺害の手段は分からないが、恐らく死の原因はそれだ。つまりターゲットになった人間は、血管に異常をきたして心不全を起こして殺されるということだ」
「貴方の国でそのような事例は?」
「ないな。あらかた文献も目を通してきたつもりだが、そのような事例があったという記述に覚えはない」
「そう・・・ですか」
彼らが少ない情報で考察していると、ふと街中に溢れている音楽の中で、一際彼らの耳に残る印象的な音が入ってくる。これはオイゲンに部屋へ戻るよう指示されたシン達も耳にしていたものと同じである。
「これは・・・。またあの時の?」
「誰が演奏しているものだ?これ程の演奏、私でもそう容易く行えるものではない・・・。アンドレイ、お前はどうだ?」
「えぇ、私もこれ程の演奏となると、入念な準備と復習なくしては不可能です」
有名な音楽家である二人がこれだけ感心するほどの演奏なら、さぞかしなの知れた者か隠れた逸材であるのだろう。流れてくる曲自体は彼らも知っているものだったようで、事件のことについて考え過ぎていた彼らの頭を優しくほぐしていった。
「とは言うものの、三人の死の状況はそれぞれ違っています遺体から見えてくるものもあれば、状況から見えてくるものもあるでしょう。それと、リヒトルさんにもう一つ伺ってみたいことが・・・」
「何だ?初回サービスでとっておきの情報をくれてやったと言うのに、まだ不服だとでも言うのか?」
「ははは、まさか。いえ・・・今後の事についてです。今回のマティアス司祭の死により、教団の役職を持った方々が全員殺されました。犯人はこれで犯行を止めると思いますか?」
既にアンドレイも、この事件には犯人がいるものとして断定し考えていた。それはリヒトルも同じで、犯人が教団関係者を狙っていると言うのも分かっていたようだ。
それを踏まえて、教団関係者のいなくなった今、犯人はこのまま犯行を続けるのか否か。
「それは犯人の心理状態や考えを憶測の範囲で語るものであって私はあまり好きではないし理解もない。だが状況から見てこれ以上の犯行は無いように思えるな」
「そうですか・・・」
リヒトルの解答に、アンドレイは浮かない表情を浮かべる。彼の答えがアンドレイの期待していたものとは違っていたからだろう。
確かにこれまでの犯行の流れを汲むのであれば、これ以上狙うべきターゲットはいない。それにこのまま次なる犯行も行われず雲隠れされてしまっては、謎を残したままいつまで宮殿内に囚われのままなのかも分からなくなる。
このまま宮殿に閉じ込められたままの者達の不満を溜めて暴動を起こさせる。それが犯人の最終的な目的だとでも言うのだろうか。現にブルースの護衛は既に一触即発の場面を何度も起こし掛けている。痺れを切らすのも時間の問題だろう。
「何だ、期待する答えではなかったか?」
「またおかしな事を。そもそもこの質問に答えを導き出せる人間など、現状犯人以外にいないでしょうに・・・」
「確かにな。ならお前はどう考える?」
「私は・・・」
アンドレイは犯行はまだ続くのではないかと考えていた。教団に関係するものならまだこの宮殿内にはいる。それは教団の護衛隊の隊長を務めるオイゲン。そして立場上、彼と近い位置にあるニノンが、次なる被害者になるのではと考えていた。
彼らを殺害する動機については思いつかないが、本来の目的である教団の役職に就く者達の排除を完了した犯人は、捜査を撹乱させ身を隠しやすくする為に、指揮系統を崩そうとしてくるのではないかと言うものだった。
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