World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,326 / 1,646

犯人の次なる目的

しおりを挟む
 リヒトルから明かされたのは、これまで鑑識や教団の護衛、アルバの警備隊からは一切出てこなかった情報だった。しかし、何も知らなければ特に重要な情報として捉えられることもないだろう。

 それはリヒトルらが、何らかの専門家でもなければ医学に精通している者でもないからだ。それでもアンドレイがその話を信用する気になったのは、偏にマイルズというリヒトル夫妻の護衛を務めている人物の能力にあった。

 「血管の弛み・・・。ですがそれは」

 「当然、偶然だったと捉えることもできるだろう。だが何度も言うようだが、これが偶然起こったものとして割り切れるものだろうか?」

 「・・・・・」

 彼の言うように、三人の死因や共通点があることが全て偶然であるとはアンドレイには到底思えなかった。それでも彼の中で引っ掛かっていたのは、三人の血管に診られたという血管の僅かな緩み。

 一部分の緩みということから、その部分に何かが入り込んだと考えるのが妥当だろう。同じような場所に同じような弛み。誰かが何らかの方法で彼らの血管に遺物を混入させたのだろうか。だが、彼らの遺体には注射器を刺したような外傷すら、その痕跡は一切発見されなかった。

 これは教団側とマイルズの調査で違いのない確かな情報だった。

 「それが分かったところで、その方法がわからない・・・と言った様子だな?」

 「貴方にはそれがお分かりなのですか?」

 「いや、私もそこまでは把握していない。殺害の手段は分からないが、恐らく死の原因はそれだ。つまりターゲットになった人間は、血管に異常をきたして心不全を起こして殺されるということだ」

 「貴方の国でそのような事例は?」

 「ないな。あらかた文献も目を通してきたつもりだが、そのような事例があったという記述に覚えはない」

 「そう・・・ですか」

 彼らが少ない情報で考察していると、ふと街中に溢れている音楽の中で、一際彼らの耳に残る印象的な音が入ってくる。これはオイゲンに部屋へ戻るよう指示されたシン達も耳にしていたものと同じである。

 「これは・・・。またあの時の?」

 「誰が演奏しているものだ?これ程の演奏、私でもそう容易く行えるものではない・・・。アンドレイ、お前はどうだ?」

 「えぇ、私もこれ程の演奏となると、入念な準備と復習なくしては不可能です」

 有名な音楽家である二人がこれだけ感心するほどの演奏なら、さぞかしなの知れた者か隠れた逸材であるのだろう。流れてくる曲自体は彼らも知っているものだったようで、事件のことについて考え過ぎていた彼らの頭を優しくほぐしていった。

 「とは言うものの、三人の死の状況はそれぞれ違っています遺体から見えてくるものもあれば、状況から見えてくるものもあるでしょう。それと、リヒトルさんにもう一つ伺ってみたいことが・・・」

 「何だ?初回サービスでとっておきの情報をくれてやったと言うのに、まだ不服だとでも言うのか?」

 「ははは、まさか。いえ・・・今後の事についてです。今回のマティアス司祭の死により、教団の役職を持った方々が全員殺されました。犯人はこれで犯行を止めると思いますか?」

 既にアンドレイも、この事件には犯人がいるものとして断定し考えていた。それはリヒトルも同じで、犯人が教団関係者を狙っていると言うのも分かっていたようだ。

 それを踏まえて、教団関係者のいなくなった今、犯人はこのまま犯行を続けるのか否か。

 「それは犯人の心理状態や考えを憶測の範囲で語るものであって私はあまり好きではないし理解もない。だが状況から見てこれ以上の犯行は無いように思えるな」

 「そうですか・・・」

 リヒトルの解答に、アンドレイは浮かない表情を浮かべる。彼の答えがアンドレイの期待していたものとは違っていたからだろう。

 確かにこれまでの犯行の流れを汲むのであれば、これ以上狙うべきターゲットはいない。それにこのまま次なる犯行も行われず雲隠れされてしまっては、謎を残したままいつまで宮殿内に囚われのままなのかも分からなくなる。

 このまま宮殿に閉じ込められたままの者達の不満を溜めて暴動を起こさせる。それが犯人の最終的な目的だとでも言うのだろうか。現にブルースの護衛は既に一触即発の場面を何度も起こし掛けている。痺れを切らすのも時間の問題だろう。

 「何だ、期待する答えではなかったか?」

 「またおかしな事を。そもそもこの質問に答えを導き出せる人間など、現状犯人以外にいないでしょうに・・・」

 「確かにな。ならお前はどう考える?」

 「私は・・・」

 アンドレイは犯行はまだ続くのではないかと考えていた。教団に関係するものならまだこの宮殿内にはいる。それは教団の護衛隊の隊長を務めるオイゲン。そして立場上、彼と近い位置にあるニノンが、次なる被害者になるのではと考えていた。

 彼らを殺害する動機については思いつかないが、本来の目的である教団の役職に就く者達の排除を完了した犯人は、捜査を撹乱させ身を隠しやすくする為に、指揮系統を崩そうとしてくるのではないかと言うものだった。

 現在宮殿内にて様々な部隊を指揮しているのは、教団の護衛隊として編成された騎士達。とりわけオイゲンとニノンであることをアンドレイは把握していた。要するに、この二人を三人と同じ方法、或いは一辺に始末することで現場となっている宮殿内を混乱させようとしているのかも知れない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...