World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,478 / 1,646

音響玉と風弾

しおりを挟む
 その気泡は当然ながらただの気泡ではなく、どうやらアンブロジウスの音の振動に関係する性質と特性を持ったモノであるようだ。

「音に反応・・・?」

「そう、謂わばこれは“音響玉”。指定された特定の音や音階を蓄積したり、その場で響かせたりするモノ。貴方の中にあったのは、恐らく彼の音を拾い遠隔で共鳴させるモノだったんじゃないかしら」

 音は振動であり、その振動は彼の魔力で衝撃と成す。つまり周囲に衝撃を放つ気泡を体内に生成されていたという訳だ。しかしそんなモノを植え付けられた記憶など何処にもない。

 それは彼女らの失われた記憶の中も同様のことであり、植え付けられたのは宮殿での事件発生から少し前の事であるとシルフは言う。

「私が辿れる魔力の記憶からだと、この騒動よりもだいぶ前に貴方の体内に生成されていたようね。けどこの街に入る前ってほど以前の出来事でもない・・・。つまりこの街に来てから、貴方達が宮殿の騒動に巻き込まれる前の間に作られた事になるようね」

 「それはアタシの中にだけあるモノじゃない。あそこにいるニノンや音楽学校の生徒、それに別の場所にいる仲間達の中にも恐らく・・・。誰の中にあり誰の中に無いのか分かれば、ある程度生成された出来事を特定出来そうだが・・・」

 ミアが言葉を濁らせた先の言葉、それはこの場にいる者達だけでは生成時期の特定はほぼ不可能であろうというものだった。だが同時に、ニノンやレオンらと同時期にいた場所で生成されたとも言える。

「これでもうアタシは、あの攻撃を受け付けなくなったって訳か・・・?」

「私の言ったことが信じられない?そうよね、実際に攻撃を受けるのは貴方だものね。疑心暗鬼になるのも無理もないわ」

 実際のところ、ミアがシルフに対して疑心暗鬼になっているのはそれだけではなかった。ミアやシンの本来あるべき世界では、妖精とは悪戯好きで人を惑わせたり騙したりする事も少なくないという。

 ファンタジーの世界観を持った物語では、主人公サイドに肩入れしてくれがちのものは多いが、そういった神話上の話などを知っていると、如何にも妖精といった見た目をしたシルフの話を完全に信じ切るというのは危険かもしれない。

「試してみれば良いんじゃないかしら?多分貴方がここから身を乗り出して攻めに転じれば、きっとまたさっきの攻撃を仕掛けてくると思うわ。貴方はあの子達と違って物陰にいたから、まさか相手も攻撃が通用していないとは思ってもいないでしょうしね」

 シルフの言う通り、先程その音響の気泡を使った攻撃を受けた時、ミアはその姿をアンブロジウスに見られていなかった。だが同時に仕掛けたであろうニノンやレオンのリアクションから、アンブロジウスはミアも同じくダメージを負っていると思っても不思議ではない。

「次の一撃は確定でいれられるって事か・・・」

 察しのいいミアに満面の笑みで頷くシルフ。その反応もまた彼女を騙そうとしているのではないかと勘繰ってしまうほど怪しかった。しかしシルフに言われた通りにするほかないのも事実。

 このまま物陰に隠れていても、野晒しにされてしまっているニノンとレオンを、アンドレイと同様に消し去られてしまいかねない。今は動ける自分が何とかするしかないと、もう一度あの痛みを覚悟して攻撃を試みるしかないと、もう一度銃に魔弾を装填しようとするミアに、シルフが力を貸すと申し出た。

「いいわ、今回は初回サービス。前回は姿も見せてなかったし、ノーカンでいいわよね?」

「何を言ってるの?」

「銃に弾を込める必要はないわ。そのまま狙いを定めて、引き金を引いてみて?」

「馬鹿なッ・・・攻撃をしなければ折角のチャンスが無駄になるんだぞ!?」

「別に私はどっちでも構わないけど?信じるも信じないも貴方次第だもの。でも私のサービスはそれでお終い。つまらない主人に私は興味ないもの」

 シルフをウンディーネのように使役するには、彼女の言葉に乗るしかない。例えそれが掌の上で踊らされる事であっても、今はそれに従うしかない。

 ミアは覚悟を決め、銃に弾を込めずにそのまま遮蔽物から身を乗り出し、演奏を再開するアンブロジウスに銃口を向けて引き金を引く。だが当然の事ながら、銃声は響き渡らない。

 しかし引き金を引いたという感覚は確かにそこにあった。肉眼でも弾丸が放たれた様子は見受けられない。完全におもちゃの銃でも撃ったかのような感覚だった。

 姿ばかり銃で攻撃をする格好をしているものの、実際ミアは敵の前に姿を晒しただけに過ぎなかった。

「クソッ!!やっぱり騙しやがッ・・・!?」

 ミアの姿を捉えたアンブロジウスが彼女の方を向き、ヴァイオリンの弦を弓で擦ると同時に、その弓の先端を再びミアの方へ向ける。また体内への直接攻撃が来る。大粒の汗を垂らし、衝撃に備えるミア。

 だが次の瞬間、彼女の警戒するシナリオ通りの展開にはならなかった。シルフの話からも、弓の先端から何か音響玉に信号を送っていることは分かっている。実際その時、アンブロジウスの弓の先端からは僅かな振動が生まれているのが見えた。

 それでもミアの身体に例の攻撃は発動しなかったのだ。恐る恐る閉じた目を開くミア。すると次の瞬間、まるで時が遅くなったかのように感覚が研ぎ澄まされ、ミアとアンブロジウスの間を駆け抜ける球体上の空間の歪みが、撃ち放たれた弾丸のようにアンブロジウスの身体に命中する。

 そして着弾したと同時に、アンブロジウスの胴体はその歪みと同じ大きさの風穴を開けて周囲の空気を取り込むと、一気に吹き荒ぶ強風となってアンブロジウスの霊体を爆散させたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...