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音響玉と風弾
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その気泡は当然ながらただの気泡ではなく、どうやらアンブロジウスの音の振動に関係する性質と特性を持ったモノであるようだ。
「音に反応・・・?」
「そう、謂わばこれは“音響玉”。指定された特定の音や音階を蓄積したり、その場で響かせたりするモノ。貴方の中にあったのは、恐らく彼の音を拾い遠隔で共鳴させるモノだったんじゃないかしら」
音は振動であり、その振動は彼の魔力で衝撃と成す。つまり周囲に衝撃を放つ気泡を体内に生成されていたという訳だ。しかしそんなモノを植え付けられた記憶など何処にもない。
それは彼女らの失われた記憶の中も同様のことであり、植え付けられたのは宮殿での事件発生から少し前の事であるとシルフは言う。
「私が辿れる魔力の記憶からだと、この騒動よりもだいぶ前に貴方の体内に生成されていたようね。けどこの街に入る前ってほど以前の出来事でもない・・・。つまりこの街に来てから、貴方達が宮殿の騒動に巻き込まれる前の間に作られた事になるようね」
「それはアタシの中にだけあるモノじゃない。あそこにいるニノンや音楽学校の生徒、それに別の場所にいる仲間達の中にも恐らく・・・。誰の中にあり誰の中に無いのか分かれば、ある程度生成された出来事を特定出来そうだが・・・」
ミアが言葉を濁らせた先の言葉、それはこの場にいる者達だけでは生成時期の特定はほぼ不可能であろうというものだった。だが同時に、ニノンやレオンらと同時期にいた場所で生成されたとも言える。
「これでもうアタシは、あの攻撃を受け付けなくなったって訳か・・・?」
「私の言ったことが信じられない?そうよね、実際に攻撃を受けるのは貴方だものね。疑心暗鬼になるのも無理もないわ」
実際のところ、ミアがシルフに対して疑心暗鬼になっているのはそれだけではなかった。ミアやシンの本来あるべき世界では、妖精とは悪戯好きで人を惑わせたり騙したりする事も少なくないという。
ファンタジーの世界観を持った物語では、主人公サイドに肩入れしてくれがちのものは多いが、そういった神話上の話などを知っていると、如何にも妖精といった見た目をしたシルフの話を完全に信じ切るというのは危険かもしれない。
「試してみれば良いんじゃないかしら?多分貴方がここから身を乗り出して攻めに転じれば、きっとまたさっきの攻撃を仕掛けてくると思うわ。貴方はあの子達と違って物陰にいたから、まさか相手も攻撃が通用していないとは思ってもいないでしょうしね」
シルフの言う通り、先程その音響の気泡を使った攻撃を受けた時、ミアはその姿をアンブロジウスに見られていなかった。だが同時に仕掛けたであろうニノンやレオンのリアクションから、アンブロジウスはミアも同じくダメージを負っていると思っても不思議ではない。
「次の一撃は確定でいれられるって事か・・・」
察しのいいミアに満面の笑みで頷くシルフ。その反応もまた彼女を騙そうとしているのではないかと勘繰ってしまうほど怪しかった。しかしシルフに言われた通りにするほかないのも事実。
このまま物陰に隠れていても、野晒しにされてしまっているニノンとレオンを、アンドレイと同様に消し去られてしまいかねない。今は動ける自分が何とかするしかないと、もう一度あの痛みを覚悟して攻撃を試みるしかないと、もう一度銃に魔弾を装填しようとするミアに、シルフが力を貸すと申し出た。
「いいわ、今回は初回サービス。前回は姿も見せてなかったし、ノーカンでいいわよね?」
「何を言ってるの?」
「銃に弾を込める必要はないわ。そのまま狙いを定めて、引き金を引いてみて?」
「馬鹿なッ・・・攻撃をしなければ折角のチャンスが無駄になるんだぞ!?」
「別に私はどっちでも構わないけど?信じるも信じないも貴方次第だもの。でも私のサービスはそれでお終い。つまらない主人に私は興味ないもの」
シルフをウンディーネのように使役するには、彼女の言葉に乗るしかない。例えそれが掌の上で踊らされる事であっても、今はそれに従うしかない。
ミアは覚悟を決め、銃に弾を込めずにそのまま遮蔽物から身を乗り出し、演奏を再開するアンブロジウスに銃口を向けて引き金を引く。だが当然の事ながら、銃声は響き渡らない。
しかし引き金を引いたという感覚は確かにそこにあった。肉眼でも弾丸が放たれた様子は見受けられない。完全におもちゃの銃でも撃ったかのような感覚だった。
姿ばかり銃で攻撃をする格好をしているものの、実際ミアは敵の前に姿を晒しただけに過ぎなかった。
「クソッ!!やっぱり騙しやがッ・・・!?」
ミアの姿を捉えたアンブロジウスが彼女の方を向き、ヴァイオリンの弦を弓で擦ると同時に、その弓の先端を再びミアの方へ向ける。また体内への直接攻撃が来る。大粒の汗を垂らし、衝撃に備えるミア。
だが次の瞬間、彼女の警戒するシナリオ通りの展開にはならなかった。シルフの話からも、弓の先端から何か音響玉に信号を送っていることは分かっている。実際その時、アンブロジウスの弓の先端からは僅かな振動が生まれているのが見えた。
それでもミアの身体に例の攻撃は発動しなかったのだ。恐る恐る閉じた目を開くミア。すると次の瞬間、まるで時が遅くなったかのように感覚が研ぎ澄まされ、ミアとアンブロジウスの間を駆け抜ける球体上の空間の歪みが、撃ち放たれた弾丸のようにアンブロジウスの身体に命中する。
そして着弾したと同時に、アンブロジウスの胴体はその歪みと同じ大きさの風穴を開けて周囲の空気を取り込むと、一気に吹き荒ぶ強風となってアンブロジウスの霊体を爆散させたのだ。
「音に反応・・・?」
「そう、謂わばこれは“音響玉”。指定された特定の音や音階を蓄積したり、その場で響かせたりするモノ。貴方の中にあったのは、恐らく彼の音を拾い遠隔で共鳴させるモノだったんじゃないかしら」
音は振動であり、その振動は彼の魔力で衝撃と成す。つまり周囲に衝撃を放つ気泡を体内に生成されていたという訳だ。しかしそんなモノを植え付けられた記憶など何処にもない。
それは彼女らの失われた記憶の中も同様のことであり、植え付けられたのは宮殿での事件発生から少し前の事であるとシルフは言う。
「私が辿れる魔力の記憶からだと、この騒動よりもだいぶ前に貴方の体内に生成されていたようね。けどこの街に入る前ってほど以前の出来事でもない・・・。つまりこの街に来てから、貴方達が宮殿の騒動に巻き込まれる前の間に作られた事になるようね」
「それはアタシの中にだけあるモノじゃない。あそこにいるニノンや音楽学校の生徒、それに別の場所にいる仲間達の中にも恐らく・・・。誰の中にあり誰の中に無いのか分かれば、ある程度生成された出来事を特定出来そうだが・・・」
ミアが言葉を濁らせた先の言葉、それはこの場にいる者達だけでは生成時期の特定はほぼ不可能であろうというものだった。だが同時に、ニノンやレオンらと同時期にいた場所で生成されたとも言える。
「これでもうアタシは、あの攻撃を受け付けなくなったって訳か・・・?」
「私の言ったことが信じられない?そうよね、実際に攻撃を受けるのは貴方だものね。疑心暗鬼になるのも無理もないわ」
実際のところ、ミアがシルフに対して疑心暗鬼になっているのはそれだけではなかった。ミアやシンの本来あるべき世界では、妖精とは悪戯好きで人を惑わせたり騙したりする事も少なくないという。
ファンタジーの世界観を持った物語では、主人公サイドに肩入れしてくれがちのものは多いが、そういった神話上の話などを知っていると、如何にも妖精といった見た目をしたシルフの話を完全に信じ切るというのは危険かもしれない。
「試してみれば良いんじゃないかしら?多分貴方がここから身を乗り出して攻めに転じれば、きっとまたさっきの攻撃を仕掛けてくると思うわ。貴方はあの子達と違って物陰にいたから、まさか相手も攻撃が通用していないとは思ってもいないでしょうしね」
シルフの言う通り、先程その音響の気泡を使った攻撃を受けた時、ミアはその姿をアンブロジウスに見られていなかった。だが同時に仕掛けたであろうニノンやレオンのリアクションから、アンブロジウスはミアも同じくダメージを負っていると思っても不思議ではない。
「次の一撃は確定でいれられるって事か・・・」
察しのいいミアに満面の笑みで頷くシルフ。その反応もまた彼女を騙そうとしているのではないかと勘繰ってしまうほど怪しかった。しかしシルフに言われた通りにするほかないのも事実。
このまま物陰に隠れていても、野晒しにされてしまっているニノンとレオンを、アンドレイと同様に消し去られてしまいかねない。今は動ける自分が何とかするしかないと、もう一度あの痛みを覚悟して攻撃を試みるしかないと、もう一度銃に魔弾を装填しようとするミアに、シルフが力を貸すと申し出た。
「いいわ、今回は初回サービス。前回は姿も見せてなかったし、ノーカンでいいわよね?」
「何を言ってるの?」
「銃に弾を込める必要はないわ。そのまま狙いを定めて、引き金を引いてみて?」
「馬鹿なッ・・・攻撃をしなければ折角のチャンスが無駄になるんだぞ!?」
「別に私はどっちでも構わないけど?信じるも信じないも貴方次第だもの。でも私のサービスはそれでお終い。つまらない主人に私は興味ないもの」
シルフをウンディーネのように使役するには、彼女の言葉に乗るしかない。例えそれが掌の上で踊らされる事であっても、今はそれに従うしかない。
ミアは覚悟を決め、銃に弾を込めずにそのまま遮蔽物から身を乗り出し、演奏を再開するアンブロジウスに銃口を向けて引き金を引く。だが当然の事ながら、銃声は響き渡らない。
しかし引き金を引いたという感覚は確かにそこにあった。肉眼でも弾丸が放たれた様子は見受けられない。完全におもちゃの銃でも撃ったかのような感覚だった。
姿ばかり銃で攻撃をする格好をしているものの、実際ミアは敵の前に姿を晒しただけに過ぎなかった。
「クソッ!!やっぱり騙しやがッ・・・!?」
ミアの姿を捉えたアンブロジウスが彼女の方を向き、ヴァイオリンの弦を弓で擦ると同時に、その弓の先端を再びミアの方へ向ける。また体内への直接攻撃が来る。大粒の汗を垂らし、衝撃に備えるミア。
だが次の瞬間、彼女の警戒するシナリオ通りの展開にはならなかった。シルフの話からも、弓の先端から何か音響玉に信号を送っていることは分かっている。実際その時、アンブロジウスの弓の先端からは僅かな振動が生まれているのが見えた。
それでもミアの身体に例の攻撃は発動しなかったのだ。恐る恐る閉じた目を開くミア。すると次の瞬間、まるで時が遅くなったかのように感覚が研ぎ澄まされ、ミアとアンブロジウスの間を駆け抜ける球体上の空間の歪みが、撃ち放たれた弾丸のようにアンブロジウスの身体に命中する。
そして着弾したと同時に、アンブロジウスの胴体はその歪みと同じ大きさの風穴を開けて周囲の空気を取り込むと、一気に吹き荒ぶ強風となってアンブロジウスの霊体を爆散させたのだ。
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