World of Fantasia

神代 コウ

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不可思議な行動

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 シンの心配とは他所に、ツクヨはその血の匂いを逆に利用してモンスター達を誘き出そうとしていた。彼はまだ気配を消して追い掛けて来ているシンのことを知らない。

「さてと・・・。そろそろシンとも十分に距離を離せたかな?周りにも敵が集まって来たね。それじゃぁそろそろ始めるか・・・」

 何か考えがるのか、ある程度森を駆けたところで、ツクヨは周りにいるモンスターの中から一体を選び、その方角へと進路を変えた。突然向きを変えたツクヨの気配に、慌ててシンも進路を変える。

「おっおい、ツクヨの奴一体どうするつもりだ?そっちにはモンスターが・・・」

 このままでは向かって来るモンスターと鉢合わせになる。しかし今からではもう回避の仕様のない出来事だ。先程のモンスターの実力からして、手を抜いて相手が出来るほど生ぬるい敵ではなかった。

 だが光脈の精気を纏った生物は神聖化された者であり、命を奪って仕舞えばどうなるか分からない。一体どうするつもりなのか、ツクヨの考えが分からないシンは、ただ彼の後を追い無茶をしないよう手助けをする他なかった。

 ツクヨが進路を変えて間も無く、彼はシンが危惧していた通り別のモンスターと鉢合わせになった。今度のモンスターは先程の二足歩行の獣人型とは違い、四足歩行の獣型のモンスターだった。

 カガリ救出の際に出会した群れのモンスターよりも筋肉質で身体も大きい。四足歩行であるにも関わらず、その頭部は成人男性の身長よりも随分と高い位置にある。

 その目はやはり光脈の精気にやられ正気を失っているようだ。牙を剥き出しにして目の前に立ちはだかるツクヨに敵意を向ける。それでも警戒心は無くしていないのか、無闇に突っ込んで来ることはなく、ツクヨの出方を伺っているようだった。

「早く走れそうだ・・・。うん、悪くない。出来ればもうちょっと小さくあって欲しかったけど、この際贅沢は言えないね。さっきのモンスターを傷付けてしまった事が悔やまれる・・・。私には何かしらの罰があるかも知れないから、暫くみんなには近づかない方がいいかな・・・」

 自身の未熟さ故の後悔に表情を歪めるツクヨ。そして次は失敗しないといった決意に満ちた目に変わると、ツクヨはモンスターとの間にある互いの間合いを突き抜け、モンスターへと飛び掛かる。

 だが彼は武器を手にしてはいなかった。当然、モンスターはそんな事などお構いなしにツクヨへと飛び掛かり、フェイントを交えた前足による攻撃を繰り返す。

 ツクヨはそれを一つ一つ丁寧に避けていく。素早いモンスターの動きを注意深く観察し、確実に避ける為に一切の無場のない動きで。しかしそれはあくまで“避け”に徹した動きだった。まるでツクヨからは攻撃を仕掛ける気など無いかのように。

 暫くしてツクヨとモンスターが戦う現場が見えるところまでやって来たシンは、双方に気づかれぬ前に立ち止まり、気配を消したまま木の陰に隠れる。

「何をしてるんだ?ツクヨの奴・・・武器も持たずに。一体何をする気だ?」

 直ぐには飛び出さず、先ずはツクヨの思惑を探ろうとするシンは、それを確かめるまで彼の邪魔をさせない為、近づいて来る別のモンスター達の排除する。

 暫く様子を見ていると、次第にツクヨがモンスターに押され始める。余裕を持って避けていた筈のツクヨの動きに、モンスターが対応してきていたのだ。ツクヨの初段の攻撃を避ける癖を学習し、誘い出すような動きを取り始めるモンスター。

 急なモンスターの対応力に驚かされたツクヨは、何回か擦り傷を負わされるも、ツクヨも次第にモンスターの思惑に気が付き避けられるようになって来るのだが、一度はモンスターの動きを見切れたものの、何故か擦り傷を負う回数が増えてきたのだ。

 避ける事に徹すれば、ツクヨなら決して避けられない攻撃ではない筈。だがそれでもツクヨの身体に傷が増えていく一方だった。

「何でだ・・・何故そんなにギリギリで避けてんだ?ツクヨ。そんなの、避けられないお前じゃないだろ!?」

 明らかに動きのおかしいツクヨに疑問を抱きながらも、まだ彼の思惑が分からないシンはいつ助けに入るべきか迷っていた。ツクヨの返り血でモンスターの顔や爪が赤く染まっていく。

 ツクヨにも疲労の色が見え始める。まさかこのまま嬲り殺しにされるつもりではないかと心配したところで、注意を逸らされていたシンの包囲網から抜けた別のモンスターが、ツクヨとモンスターの戦いに割って入る。

 新たに乱入したモンスターはツクヨだけでなく、ツクヨの返り血を浴びたモンスターにも襲い掛かる。三つ巴の戦況となりいよいよツクヨにも避ける余裕がなくなったかと思われた。

 だがそのシンの心配を他所に、ツクヨは口角を上げて笑みを浮かべると、その乱入して来たモンスターの攻撃に自ら飛び込んで行ったのだ。今度の傷はそれまでの擦り傷とは違い、出血の量が多く派手にやられていた。

「おいおいッ!?まさか本当に・・・!?」

 しかしながら依然としてツクヨの表情には笑みが浮かべられている。何処にそんな余裕があるのかと疑いたくなる程だ。シンは痺れを切らし、彼の救助へと向かおうとしたところで、周囲の気配を警戒していたシンの感覚に、複数に生物の反応が浮かび上がる。

 既にツクヨ達は、精気を纏ったモンスター達に囲まれてしまっていたのだ。
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