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第2章
玉川のほとりで
しおりを挟む川面を撫でる黄昏が美しくて、どこか物悲しい。
僕と涼乃は玉川のほとりで護岸ブロックに腰掛け、きらきらと流れていく川の流れを見守っていた。
結局涼乃のお母さんは面談に参加せず帰宅してしまって、涼乃は一人で担任の先生と話をすることになった。
その終わりを待って、僕たちは二人で正門を出て、帰りたくないなぁ、とぼんやりこぼした涼乃と一緒に歩いて歩いて歩いた。
そして玉川のほとりにたどりついたんだ。
「さっきはごめんね、余計なことして」
涼乃はきっとすごく苦労して母親を学校に連れて来たんだろう。なのに僕がその労力を台無しにしてしまった。
涼乃は僕のために母親に言い返してくれたけど、そのせいでこれから君の立場が悪くなったらどうしよう。彼女はこれからもあのお母さんと生活していかなきゃいけないのに。
僕の謝罪に、涼乃は首を振った。
「謝らないで。私、今少しだけすっきりしてるの」
淡々と彼女は続ける。
「あんな風にお母さんに言い返すの初めてだったんだ。これまでは勇気がなくて。少しでも口答えしたら、もっと怖いことが待ってそうな気がしてて……でも、違った」
湿った風が、彼女の長い髪を撫でていく。
「別に、いつもと同じだったなぁ。ただめんどくさがられるだけ。私が何をやってても、何を考えてても、ほんっとにどうでもいいと思ってるんだよ、うちの親は」
「……うん」
「それがはっきり分かって、なんか妙にすっきりしちゃったな」
「そういうもの?」
そんな風に割り切れるものなんだろうか? 涼乃は僕に気を遣って、平気なふりをしてるんじゃないか?
「今までだったらそんな風には思えなかったけど……さっきは山丘君が一緒にいてくれたから」
彼女は視線を川面に向けたまま話し出した。
「嬉しかったんだ。『涼乃さんを産んでくれてありがとうございます』ってやつ」
僕の言葉を、彼女は照れくさそうに思い出している。涼乃の瞳が水面のようにゆらゆらと揺れていた。
「私ね、六月になるといつも苦しかったの。ひとりぼっちで、誰にも必要とされてなくて、愛されてなくて――そういう事実を突きつけられるのが六月なのよ。生まれてこなければよかったって、今年もずっとそればっかりに心が支配されちゃって……」
「うん」
「でも、さっき君が『産んでくれてありがとう』って言ってくれたから……」
そこから涼乃の言葉は続かなかった。
ぽろぽろと彼女の頬を美しいものが伝っていく。夕焼けの光を映して、その一粒一粒は黄金みたいに輝いていた。
僕はそれを見守りながら、涼乃にかける言葉を探した。でもそれは見つからない。
だけど、ずっと君に渡したいものがあったんだ。
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