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しおりを挟むアナスタシア第一王女が口論の末に、とうとう妹、マリアベル第二王女を突き落とした。
一時期は、そのゴシップで国中が夢中になった。わたしの思い通り、縁談は白紙になりそうな雰囲気すらも出たのだ。…まあ、それ以前に、妹を突き飛ばすような人間を女王にするのもどうなのだ、そもそも王位を剥奪すべきなのでは、という話も出た。
これでいい。わたしは内心ほくそ笑んだ。
レオンハルトは渡さない。
王国もあなたには渡さないわ、お姉さま。
あの見目麗しい皇子様は、わたしにこそふさわしいし、リリアン王国にお姉さまの居場所はない。
万事上手くいきそうだったのに。
やっぱりお姉さまは、変な所で諦めが悪かった。お姉さまはとうとう、自分の潔白を証明するために動き始めたのだ。そしてわたしの浅知恵は断罪され、わたし、第二王女マリアベル・ド・リリアンは、あれよあれよという間に、実姉を嵌めた恐ろしい悪女として知れ渡ったのである。
✴︎
でも、やはり王国の人間は皆、頭が回らない、鈍い奴らばかりだと思う。見る目がないとはこのことだ。
最後に姉に会いたい、会って謝りたいと泣いたわたしに、お姉さまは慈悲深く会ってくださることになった。お姉さまの取り計らいで、わたしとお姉さまが、二人きりで、わたしが軟禁されている部屋に残された。
「……マリアベル。マリアベルの国外追放が、決まったそうよ」
お姉さまの方は見ない。ドレッサーの前に座りながら、鏡越しにその瞳を見た。エメラルドの瞳は、ずっと戸惑ったように揺れている。
「そう」
淡々と答えた。謝る気があるなんて全くの嘘だったので、取り繕う気もない。必要なのは、監視の目がない状況で、姉が、わたしに会うという、そのシチュエーションだけだったのだから。
「……マリアベル、どうして?ずっと考えていたの。でも、わからない。…そんなに、レオンハルト様が好きだったの?私に…罪を着せたいぐらいに?」
「そうよ、お姉さま。わたし、ずっとずっと、レオンハルト様が欲しかった。でも、もういいわ。お姉さま、あなたを陥れられるのなら、それでいい」
「……そんなに、私は……あなたに、憎まれていたの?マリアベル…」
答えてはやらなかった。
そのまま立ち上がって、お姉さまの方に歩いた。お可哀想に、あまり眠れていないのね。目の下に隈ができていた。まるで王子様がそうするように、お姉さまの、わたしと全く同じ顔に手で触れる。
「ねえ、お姉さま」
にっこり笑ってやった。少しばかり怯えたような姉の顔が、きっとわたしの赤い瞳には写っているのだろう。
「これで終わりだと、思わないでね」
姉が簡素なドレスを着てくれていて助かった。このタイプのドレスだろうと踏んでいたので、わたしも同じものを着ていたのだ。
髪の長さと、瞳の色と。それ以外にわたしたちは違わなかったけれど、幽閉生活でわたしの髪は結構伸びてしまったから、今のわたしたちを区別するのは、本当に"瞳の色"という、ただそれだけだった。
愛おしむように頬を撫でてやって、一言、詠唱を口の中で転がした。ずっと、ずぅっと研究していた魔法が、なんとか間に合って、本当に安堵した。
お姉さまは、なにが起きたのかわからなかったのだろう。わたしは、満足げにお姉さまの顔を眺めた後に、手を降ろした。部屋の扉が開いて、衛兵が「アナスタシア」を迎えに来た。
「…お時間です、アナスタシア殿下」
お姉さまが声を発する前に、わたしは、声を上げた。お姉さまと、全く変わらない声を。昔から、一緒に喋られるとどちらがどちらか分からないと言われた声を。
「ええ、今行くわ」
お姉さまが、か細く声を漏らす。わたしは嫌味ったらしく、お姉さまの方を向いて。
"入れ替わったその赤い瞳"に、エメラルドの瞳を細めて、笑ってやった。
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