【完結】お姉様には勿体ないので、皇子様は私がいただきますわ。お姉様は追放です。

海崎凪斗

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 肉が焼け焦げる匂いが鼻に付く。

 焦土の匂いなど人生で嗅いだことはないけれど、こういう匂いをしているのかもしれないわねと、少しだけそう思った。

 寝室で、布団に入ったまま、わたしは少しだけ開けた窓から香るその香りを知覚した。漸く、始まったようだ。もぞりと起き上がって、裸足のまま、重厚なドアをゆっくりと開けた。ドアの隙間から覗く光景は、まだ平穏なように見えた。

 だが、あちこちから剣戟の音と、詠唱の声。それに、"帝国で最近導入されたらしい銃声"が聞こえてきた。

「アナスタシア殿下……っ!」

 騎士の一人が、脇腹を抑えながら歩いてきた。慌ててその側に寄って、その体を支えるが、わたしの華奢な腕で、重装備をした騎士を受け止めることなどできず、そのまま一緒に床に座り込んでしまう。
 
 ざっと、騎士の様子を観察した。

 皮膚は、あちこちが焼けこげている。大方、範囲型の炎魔法の中にいたのだろう。軽く回復魔法をかけてやったが、恐らく、気休めにしかならない。せいぜい、地獄の苦痛の中で死ぬことがないかもしれない、程度のレベルのものだ。

「しっかり!一体、なにが……!」
「……っ、帝国軍です、……はやく、にげて……狙いは、あなた、で…」

 騎士はそこまで言うと、意識を失った。かすかにまだ、生きているが、最早永くはないだろう。せめて安らかに死ねるようにと、わたしは騎士を引きずって、自分の部屋――――アナスタシア第一王女の部屋に――――引き摺り込んでやった。ここでなら、なんとか、落ち着けはするだろう。

 父王の部屋に走る。最近はなかなか走っていなかったので、息がすぐに切れた。なんとか壁に手をつきながら、父の部屋の扉の前について、勢いよく、開ける。

 ――――ごろんと、何かが、目の前に転がってきた。それが父の首だと認識できるまでに、少しの時間を要した。

 知覚すると同時に、いくら覚悟していたとはいえ、口から酸っぱいものが込み上げてきて、吐いた。なんとか父の首に吐瀉物をかけずに済んで良かったとは思った。

 こつりと、軍靴の音が響く。父の頭部から流れ出た血を、わたしの吐瀉物を、なにも気にする様子も見せずに踏みつけた黒い軍靴が、わたしの前で足を止める。


「……あぁ、アナスタシア」

 目の前に、美しい男が居た。

 眩い金髪。太陽に愛されたような色彩。
 マリアベルや、リリアン国王よりも少し濃い、ガーネット色の瞳。どんな宝石よりも美しい深みのある色。神が七日かけて世界を作ったのなら、同じだけの時間をかけて、目の前の美丈夫を作ったのだろうと、そう思わせるほど、端正な顔立ち。

「レオン、ハルト、さま」
「レオでいい。そう言っただろう?」

 うっそりとレオンハルトが微笑んで、わたしに手を伸ばしてきた。

 頬を愛おしむようにゆっくり撫でられる。恐怖に震える演技が必要かと思ったが、そうでもないようだった。
 体は正直なもので、本当に目の前の男に震えている。血と、その香りを纏う男に怯えるぐらいには、わたしもきちんと少女だったみたいだわ。
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