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プロローグ
ライラ=カートレット
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次の日
領主邸まで来た僕は、その門の前で思わず立ちすくむ。
でも。
「……まあ、どうせまともな仕事もないし、今さらどうなっても怖くないし、ね……」
そして僕は、門の両脇に控える二人の騎士のうちの一人に声を掛ける。
「すいません……伯爵様からの依頼の件で来た者ですが……」
そう言うと、僕は騎士に依頼紙を見せた。
「ああ……少し待て」
騎士の一人が屋敷の中へと入っていく。
もう一人の騎士はといえば、僕を訝し気に眺めていた。
しばらくすると、先程の騎士と……眼鏡を掛け、メイド服を着た一人の侍女がやって来た。
「領主様がお会いになります。どうぞこちらへ」
メイドの後に続いて僕は屋敷の中に入ると、そのまま応接室へと通された。
「しばらくお待ちください」
……とりあえず、このまま立って待っているか。
僕はキョロキョロと部屋の中を見回しながら待っていると。
——コンコン。
「失礼します」
そう言うと、先程の侍女が扉を大きく開く。
「……っ!?」
そして、僕は思わず声を失った。
だって……今、僕の目に映っているモノ、それは——
——車椅子に座る、両腕、両脚のもがれた、唯一残った右眼で虚空を見つめる、少女の姿だった。
◇
その少女は、失礼だけど異様な姿だった。
腰まで伸びる艶やかな藍色の髪に、人形のような端麗な顔立ち。
でも、左眼は前髪で隠され、虚ろな右の瞳だけがあらわになっていた。
その身体は車椅子に鎮座し、そして……その両腕、両脚はなかった。
その姿は、まるで極北にある国の民芸品のような……そんな喩えこそが的を射ていた。
「カートレット伯爵家ご当主、“ライラ=カートレット”様です」
その少女の代わりを務めるかのように、侍女がその名を告げた。
「あ……は、初めまして……アデル、と申します……」
僕はハッと我に返ると、膝をつき、少女に恭しく首を垂れた。
「頭をお上げください。それで、アデル様は私共の依頼を受けに来た、ということでよろしいでしょうか?」
「あ、は、はい……」
侍女は頭を上げるように促すが、僕は……少女を見るのが怖かったので、頭だけ上げて視線は下に落としたままだった。
だって、こんな……こんな姿を見て、僕はどうすれば……。
「そ、それで、依頼、というのは……?」
「はい。依頼内容は、ライラ様のお身体を元通りにしていただきたいのです」
「はあっ!?」
侍女から放たれた言葉に、僕は思わず声を上げた。
だ、だってこの少女の身体を元通りになんて、そんなの無理に決まってる!
「失礼、言葉が足りませんでした。正確には、誰が見ても元通りに見えるようにして欲しいのです」
「あ……そ、それは……義手や義足を作れ、ということですか……?」
「はい」
ああ……そういうこと、か……。
「そして、それを誰にも悟られないようにしていただきたいのです。ライラ様が、健在であると誰が見ても分かるように」
「……それは、どうして?」
聞いてはいけないと分かっているのに、僕の口が勝手に動いて侍女に尋ねてしまった。
これは、絶対に関わり合いになってはいけない類、なのに……。
でも。
「……お聞きになられますか?」
「……(コクリ)」
僕は……頷いてしまった。
「……分かりました。ですが、決して口外なさいませんよう。でなければ……」
「……分かっている、よ」
「よろしい。では……」
侍女の説明はこうだった。
前当主夫妻が賊に殺されたことにより、カートレット伯爵家は存続の危機にあること。
しかも、前当主の弟である“ジェイコブ”がこの家を乗っ取ろうと画策していること。
「……なので、ライラ様がご健在であると内外に示し、この伯爵家を継がなければ家は断絶またはジェイコブ様によって荒らされ、ライラ様は路頭に迷われてしまいます……」
そう言うと、侍女は視線を落とす。
ふう……だから、腕のいい職人の義手、義足を付けて、健在であると見せかけようってことか……。
「……だけど、他にも依頼を受けようって職人はいくらでもいそうだけど……?」
「……腕のいい職人というのは、それだけで目立ちます。なので、ギルドを介してそういった方を紹介してもらう方法を選びました」
「まあ……冒険者は依頼主の情報や依頼内容の詳細は明かさないルールがあるしね……」
それもあるけど、一番の理由は、いざとなれば冒険者の一人くらい消えたところで問題にならない、ってところかな。
「はは……サラめ……!」
結局サラの奴は、この僕なんかいなくなっても困らないって訳だ。
確かに、アイツにとって僕はうってつけ、かもな……。
「それで……お願いできますでしょうか……?」
侍女は縋るような瞳で僕を見つめる。
一方で、肝心の本人は相変わらず虚空を見つめたままだ。
「……少し、伯爵様とお話させていただいてもいいですか?」
「……ご無理だとは思いますが」
そう言うと、侍女はス、と後ろに下がった。
だけど、僕はどうしてもこの少女に聞きたい。
侍女はそう言っているけど、この少女自身はどうしたいのか。
本当に、この伯爵家を継ぎたいんだろうか。
だから。
「伯爵様……あなたは、何をご希望ですか?」
彼女の右の瞳を見つめながら、僕は静かに尋ねた。
すると。
「…………………………したい(ポツリ)」
聞き取れない程小さくかすれた声で、少女が呟く。
そして。
「殺したい……お父様とお母様を殺したアイツ等を。私を穢して、壊して、こんな姿にしたアイツ等を。アイツ等に関わる、全てのニンゲンを!」
少女の声はやはり聞き取れない程に小さい。
だけど、その言葉は僕の心を穿った。
僕の悲しみや絶望なんて、この少女から見れば取るに足らないものだけど……だけど、同じく恨みや憎しみを持つ僕を、そんな少女の魂の叫びが激しく揺さぶったんだ。
「……分かりました」
「…………………………」
「……僕が、あなたの望み……叶えてみせます」
「っ!?」
僕の言葉に、少女がその右眼を見開いた。
今までどこまでも深い色だったその瞳の奥に、小さな光が宿る。
「……ライラ様はお疲れのご様子なので、一旦失礼させていただきます」
すると、何故か侍女は僕と少女の会話を打ち切るかのように、少女を連れて部屋を出て行ってしまった。
「さて……だけど、僕にできるかな……?」
少し弱気な言葉をポツリ、と呟く。
でも、僕はあの少女と約束したんだ。
必ず……やり遂げてみせる。
そう、心に誓った。
領主邸まで来た僕は、その門の前で思わず立ちすくむ。
でも。
「……まあ、どうせまともな仕事もないし、今さらどうなっても怖くないし、ね……」
そして僕は、門の両脇に控える二人の騎士のうちの一人に声を掛ける。
「すいません……伯爵様からの依頼の件で来た者ですが……」
そう言うと、僕は騎士に依頼紙を見せた。
「ああ……少し待て」
騎士の一人が屋敷の中へと入っていく。
もう一人の騎士はといえば、僕を訝し気に眺めていた。
しばらくすると、先程の騎士と……眼鏡を掛け、メイド服を着た一人の侍女がやって来た。
「領主様がお会いになります。どうぞこちらへ」
メイドの後に続いて僕は屋敷の中に入ると、そのまま応接室へと通された。
「しばらくお待ちください」
……とりあえず、このまま立って待っているか。
僕はキョロキョロと部屋の中を見回しながら待っていると。
——コンコン。
「失礼します」
そう言うと、先程の侍女が扉を大きく開く。
「……っ!?」
そして、僕は思わず声を失った。
だって……今、僕の目に映っているモノ、それは——
——車椅子に座る、両腕、両脚のもがれた、唯一残った右眼で虚空を見つめる、少女の姿だった。
◇
その少女は、失礼だけど異様な姿だった。
腰まで伸びる艶やかな藍色の髪に、人形のような端麗な顔立ち。
でも、左眼は前髪で隠され、虚ろな右の瞳だけがあらわになっていた。
その身体は車椅子に鎮座し、そして……その両腕、両脚はなかった。
その姿は、まるで極北にある国の民芸品のような……そんな喩えこそが的を射ていた。
「カートレット伯爵家ご当主、“ライラ=カートレット”様です」
その少女の代わりを務めるかのように、侍女がその名を告げた。
「あ……は、初めまして……アデル、と申します……」
僕はハッと我に返ると、膝をつき、少女に恭しく首を垂れた。
「頭をお上げください。それで、アデル様は私共の依頼を受けに来た、ということでよろしいでしょうか?」
「あ、は、はい……」
侍女は頭を上げるように促すが、僕は……少女を見るのが怖かったので、頭だけ上げて視線は下に落としたままだった。
だって、こんな……こんな姿を見て、僕はどうすれば……。
「そ、それで、依頼、というのは……?」
「はい。依頼内容は、ライラ様のお身体を元通りにしていただきたいのです」
「はあっ!?」
侍女から放たれた言葉に、僕は思わず声を上げた。
だ、だってこの少女の身体を元通りになんて、そんなの無理に決まってる!
「失礼、言葉が足りませんでした。正確には、誰が見ても元通りに見えるようにして欲しいのです」
「あ……そ、それは……義手や義足を作れ、ということですか……?」
「はい」
ああ……そういうこと、か……。
「そして、それを誰にも悟られないようにしていただきたいのです。ライラ様が、健在であると誰が見ても分かるように」
「……それは、どうして?」
聞いてはいけないと分かっているのに、僕の口が勝手に動いて侍女に尋ねてしまった。
これは、絶対に関わり合いになってはいけない類、なのに……。
でも。
「……お聞きになられますか?」
「……(コクリ)」
僕は……頷いてしまった。
「……分かりました。ですが、決して口外なさいませんよう。でなければ……」
「……分かっている、よ」
「よろしい。では……」
侍女の説明はこうだった。
前当主夫妻が賊に殺されたことにより、カートレット伯爵家は存続の危機にあること。
しかも、前当主の弟である“ジェイコブ”がこの家を乗っ取ろうと画策していること。
「……なので、ライラ様がご健在であると内外に示し、この伯爵家を継がなければ家は断絶またはジェイコブ様によって荒らされ、ライラ様は路頭に迷われてしまいます……」
そう言うと、侍女は視線を落とす。
ふう……だから、腕のいい職人の義手、義足を付けて、健在であると見せかけようってことか……。
「……だけど、他にも依頼を受けようって職人はいくらでもいそうだけど……?」
「……腕のいい職人というのは、それだけで目立ちます。なので、ギルドを介してそういった方を紹介してもらう方法を選びました」
「まあ……冒険者は依頼主の情報や依頼内容の詳細は明かさないルールがあるしね……」
それもあるけど、一番の理由は、いざとなれば冒険者の一人くらい消えたところで問題にならない、ってところかな。
「はは……サラめ……!」
結局サラの奴は、この僕なんかいなくなっても困らないって訳だ。
確かに、アイツにとって僕はうってつけ、かもな……。
「それで……お願いできますでしょうか……?」
侍女は縋るような瞳で僕を見つめる。
一方で、肝心の本人は相変わらず虚空を見つめたままだ。
「……少し、伯爵様とお話させていただいてもいいですか?」
「……ご無理だとは思いますが」
そう言うと、侍女はス、と後ろに下がった。
だけど、僕はどうしてもこの少女に聞きたい。
侍女はそう言っているけど、この少女自身はどうしたいのか。
本当に、この伯爵家を継ぎたいんだろうか。
だから。
「伯爵様……あなたは、何をご希望ですか?」
彼女の右の瞳を見つめながら、僕は静かに尋ねた。
すると。
「…………………………したい(ポツリ)」
聞き取れない程小さくかすれた声で、少女が呟く。
そして。
「殺したい……お父様とお母様を殺したアイツ等を。私を穢して、壊して、こんな姿にしたアイツ等を。アイツ等に関わる、全てのニンゲンを!」
少女の声はやはり聞き取れない程に小さい。
だけど、その言葉は僕の心を穿った。
僕の悲しみや絶望なんて、この少女から見れば取るに足らないものだけど……だけど、同じく恨みや憎しみを持つ僕を、そんな少女の魂の叫びが激しく揺さぶったんだ。
「……分かりました」
「…………………………」
「……僕が、あなたの望み……叶えてみせます」
「っ!?」
僕の言葉に、少女がその右眼を見開いた。
今までどこまでも深い色だったその瞳の奥に、小さな光が宿る。
「……ライラ様はお疲れのご様子なので、一旦失礼させていただきます」
すると、何故か侍女は僕と少女の会話を打ち切るかのように、少女を連れて部屋を出て行ってしまった。
「さて……だけど、僕にできるかな……?」
少し弱気な言葉をポツリ、と呟く。
でも、僕はあの少女と約束したんだ。
必ず……やり遂げてみせる。
そう、心に誓った。
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