機械仕掛けの殲滅少女

サンボン

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プロローグ

役立たずの命と引き換えに

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 必ず……やり遂げてみせる。

 そう誓っていると。

「…………………………」

 いつの間にか、侍女がこの部屋に戻って来ていた。
 もちろん、少女はこの場にはいない。

「あ、あの……!?」

 声を掛けようとした瞬間、侍女がものすごく素早い動きで僕の背後を取ると、首元にナイフを突きつけてきた。

「……先程の“お嬢様”への言葉、あれはどういう意味ですか?」

 “ライラ様”から“お嬢様”と呼び方を変えた侍女が、無機質な声で尋ねてきた。
 ……いや、結構怒ってるかも。

「……言葉通りの意味です。僕は、伯爵様の希望に応える、それだけですよ」
「っ! ふざけるのもいい加減にしてください! そんな、できもしない妄言でお嬢様を惑わすな!」
「ガッ!?」

 僕は首元をナイフの柄で殴られ、もんどりうって倒れる。

「お嬢様は! もうこれ以上ない程のつらい思いをなされたんです! それを……!」

 そう叫ぶと、侍女が僕の身体に馬乗りになる。

「……所詮はただの冒険者。ここで死んだところで、誰も悲しみませんよ」

 誰も悲しまない……ああ、そうだな、そうだよ。
『黄金の旋風』のメンバーも、ギルドの連中も……そして、カルラも。

 だけど。

「……僕を殺せば、復讐するどころか伯爵様は一生あのまま。あなたは、自分の主君が光を失ったまま今後の人生を無為に過ごすことを望むんですか……?」
「っ! 分かったような口を……「僕ならできる! 僕なら……彼女に力を与えることが!」」

 ナイフを振り下ろそうとした彼女に、僕は力強く叫んだ。

 すると。

「……そんなの、どうやって……」

 ゆっくりとナイフを下ろし、侍女はうなだれた。

「……とにかく、信じてもらうしかありません」

 侍女が僕の目を見据えたまま、しばらく沈黙が続く。

 そして。

「……分かりました。今は……信じることにします。今だけは」

 そう言うと、彼女は立ち上がって僕の上から退いた。

 僕は起き上がると、彼女を見つめる。

「失礼ですが、お名前は?」
「……“ハンナ”です」
「ではハンナさん……少し、失礼しますね。【設計デザイン】」

 僕は[技術者エンジニア]の能力の一つ、【設計デザイン】を発動した。
 すると、僕の頭の中に、少女の想いを叶えるために必要な無数の図面が映像となって生まれる。

「ぐ……う……」

 や、やっぱり頭が割れそうだ……!
 せ、せめて必要となる材料だけでも……!

 っ! これか!
 その無数の図面の中から、必要となる材料の種類をピックアップすると、僕は【設計デザイン】を止めた。

「ハアッ……ハアッ……!」
「だ、大丈夫ですか!?」

 憔悴している僕に、ハンナさんが駆け寄って来た。

「ハアッ……ハンナさん、ありったけの鉄とミスリル、それと魔石……できればランクの高い魔物のものを、これもできるだけ用意してください。今すぐ!」
「で、ですが……」
「お願いします!」
「っ! は、はい!」

 僕の様子を察してか、ハンナさんは急いで応接室を飛び出した。

「ハア……ハアー……」

 とりあえず、すぐに【設計デザイン】を止めたから、鼻血程度で済んだ、か……。
 これは、本番・・では僕もいよいよ終わり、かな……。

 はは……でも、僕にはもう未練もない。
 どうせ僕には、居場所も、存在する価値もないんだから。

 せめてハンナさんが戻って来るまでは、本番・・に向けて休息しておこう。

 僕は応接室の床にゴロン、と横になると、そのまま眠りについた。

 ◇

「……様。アデル様」

 ……誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。

 僕はゆっくりと目を開けると……そこには、心配そうに見つめるハンナさんの姿があった。

「ああ、すいません。少し眠らせていただきました」
「あ、いえ……それはよろしいのですが……それより、ご依頼のもの、全てご用意いたしました。どうぞこちらへ」

 僕はハンナさんに別の部屋へと案内されると。

「おお……!」

 そこには、大量の鉄とミスリル、そして、箱にぎっしりと詰まった魔石があった。
 これだけを揃えるとなると、ものすごい金額になっただろうな……。

「それで……これで足りますでしょうか?」
「充分……な筈です」

 本当は具体的な量も【設計デザイン】で確認したかったけど、あれ以上すれば僕の意識が飛んでいただろうし……まあ、何とかなる筈……。

「それでは次に、この部屋に伯爵様をお連れいただいてもよろしいですか?」
「はい」

 ハンナさんは部屋を出ると、すぐに少女の車椅子を押しながらこの部屋にやって来た。

「…………………………」

 感情のない右の瞳で、この部屋にある金属と魔石の数々を眺める少女。

 僕はそんな彼女に近づくと。

「今から……僕はあなたの両腕と両脚、そして、その左眼を作ります。少々痛い思いをするかもしれませんが、よろしいですか?」
「……(コクリ)」

 少女は無言で頷く。

「ありがとうございます。では……!」

 僕は振り返り、大量の金属の山の前に立つと。

「——【設計デザイン】!【加工キャスト】!【製作クラフト】!」

 僕が持つ能力の全てを一斉に発動する。
 それも、最大限に。

「グ……ギギ……!」

 頭が割れるような痛みが襲い掛かり、全身の骨が、筋肉が悲鳴を上げる。
 だけど、全部の能力をまとめて発動させて同時にこなさないと、僕の身体が最後までもたないから……だから……!

 無数に頭の中に浮かぶ図面に沿うかのように、僕の右手が目の前の鉄を加工していく。
 不純物を取り除き、高密度な玉鋼へと作り替えるために。

 そして左手は、ミスリルを糸のように細く、長く変化させる。
 これは、魔力を全身に供給するための管となる。

 今度は、精製された鋼が骨に代わるフレームや外殻、歯車、動力装置など様々な部品となり、それに同化・結合するように細い管となったミスリルが埋め込まれていく。

 さらに、その部品が組み上げられ……!?

 ——ブシュウウウウ!

「……血で目が見えないな」

 どうやら能力で多大な負荷がかかり、目、鼻、耳と、顔にある穴という穴から、血が噴き出したみたいだ。

 でも、問題ない。
 僕の[技術者エンジニア]は、全て自動で作業をこなしてくれるから。

 ——僕の命が続く限りは。

 そしてそのまま作業を続け、僕はグイ、と腕で両目を拭うと……目の前には一対の腕と一対の脚、そして、左眼となる眼球が完成していた。

「つ、次は……核となる魔石を……」

 僕は魔石の入った箱に手を伸ばそうとして……その場で崩れ落ち……!?

「わ、私が支えます!」
「ハ……ンナ、さん……」

 ハンナさんに肩を借り、僕は魔石の箱に手をかざす。

「キャ……【加工キャスト】」

 そう呟き、箱にあった全ての魔石を圧縮する。

「あ……」

 その中に、あの・・オーガの魔石があった。
 でも、オーガの魔石も他の魔石と同じように僕の手で圧縮される。

 過去も、思い出も、握りつぶすように。

 そして、大量にあった魔石は直径十センチ、厚さ三センチ程の円盤へと変化した。

「こ……れ、で……」

 後は……全てを彼女に取り付ける・・・・・だけ。

 ズリ……ズリ……と、身体を引きずりながら、僕は少女の傍へと向かう。

 ふと見ると……彼女は表情を変えないまま、その右の瞳から涙を流していた。

「あ……ああ……!」
「は……は……これ、で、最後……だ、から……」

 僕は、車椅子に座る彼女の身体に両手をかざす、と……。

「【加工キャスト】……【製作クラフト】……」

 ニコリ、と微笑んで、僕は人生最後の能力を使い——全てが黒く染まった。
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