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第四章 復讐その四 アルグレア王国と神の眷属 前編
地下水路探索①
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「ここです」
大通りから一つ外れた路地の裏手。
ここには、この街の地下水路の入口となる丸い蓋が設置されている。
「ここに、『天国への階段』が……」
蓋を開け、中を覗き込むソフィア様が、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「仮にここでなかったとしても、手掛かりの一つでも見つけたいですね」
「はい」
僕の言葉に、ライラ様が頷く。
そもそも『天国への階段』の調査はソフィア様の目的ではあるけれど、これはライラ様にも関係することだから、ライラ様も思うところがあるのかもしれない。
ライラ様の左胸と羊皮紙、鍵に同じ紋様があることもそうだし、こんなことを考えるのは何だけど、王国がライラ様や先代伯爵様を狙ったことと関係があるのかもしれないのだから。
「では、参りましょう」
ソフィア様がそう言うと、僕達全員が頷く。
もちろん、その中にはカルラも。
そして、守りの堅い[騎士]のセシルを先頭に、ロロ、エリアル、カルラ、レジーナといった順で、“黄金の旋風”の面々が先に下に降りる。
「では、次は僕が……「お待ちください」」
そう言って穴に手を掛けたところで、ライラ様に止められてしまった。
「え、ええと……?」
「次は私が行きます。アデル様達はその後に続いてください」
真剣な瞳でライラ様が僕達に告げる。
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
「おそらく何も問題はないとは思いますが、アデル様とソフィア様は“黄金の旋風”……特に、あのレジーナとかいう女に恨まれてますので」
「あ……」
成程……僕やソフィア様がレジーナにこの狭い穴の中で攻撃魔法を撃たれでもしたら、逃げ場がないってことか……。
ソフィア様にそんな真似をすれば、それこそこの国……いや、世界のどこにも居場所を失くし、その先は破滅しか残されていないとは思うが、あの短気ですぐにかんしゃくを起こすレジーナならあり得なくはない。
とはいえ。
「ですが、その危険性はライラ様も同じです。やっぱりここは僕が」
「ふふ……お忘れですか? 私のこの鎌や防具は、アデル様が対魔法用にミスリルを編み込んでくださっているのを」
もちろん僕が作ったんだから、ライラ様が仰っているのは分かっている。
だけど、だからといってこの狭い空間で鎌を振るうのは至難の業だし、防具だってライラ様の身体を全てカバーしている訳じゃない。
「いえ……忘れてはおりません。ですが、危険なのはライラ様だって同じです。だから……」
「お気遣いありがとうございます。とはいえ、クロウ=システムで下へと降りる私に、あの女は攻撃を仕掛ける度胸があると思いますか?」
……まあ、クロウ=システムを初めて見たら、驚きのあまり魔法を撃つことだって忘れてしまいそうではある。
それにモーカムの街まで護衛につけた際、ライラ様にかなり恐怖を植え付けられていたっけ……。
「……危険を感じたら、すぐに引き返すこと、よろしいですね?」
「ふふ、はい。心配してくださり、ありがとうございます」
ライラ様は僕の頬を白銀の手でそっと撫でた後、入口の穴の前に立つ。
——キイイイイイイイインンン……!
そしてクロウ=システムを発動させ、穴の中へとゆっくり降りて行った。
「…………………………!?」
穴の奥から“黄金の旋風”が何やら騒いでいるが、クロウ=システムの音でかき消され、何を言っているかは分からない。
「ア、アデル様……カートレット卿のアレは一体……!?」
ソフィア様がわなわなと肩を震わせ、僕に尋ねる。
「はい、ライラ様が高速かつどんな地形にも対応できるように僕が作った、“クロウ=システム”という装置です」
「す、すごい……」
ソフィア様は驚きのあまり呆然とする。
だけどそれも一瞬で、すぐにその双眸はこの僕を捉えた。
「やはり……アデル様は……!」
……ま、また僕のことを変に評価しちゃったみたいだな……。
ソフィア様の僕を見る尊敬のような眼差しをどうしたものかと首を捻らせていると。
「アデル様ー! 無事、下に到着しましたー!」
タイミングよくクロウ=システムを停止したライラ様が、上にいる僕達に向かって叫んだ。
「さ、さあ、今度こそ降りましょう」
「は、はい」
僕はソフィア様の視線から逃れるように急いで穴の中に入り、梯子を伝って下に降りた。
中では、ライラ様が“黄金の旋風”を監視するように眺めており、レジーナは舌打ちしながら顔を背け、他の面々は困ったような表情を浮かべていた。
「ふう……ここが街の地下水路ですか……」
次に降りてきたソフィア様が、地下水路の中をキョロキョロと見回す。
「それにしても、ここはヘイドンの街と違ってイヤな臭いもしないですし、その作りも真新しいですね」
いつの間にか降りていたハンナさんが眼鏡をクイ、と持ち上げ、僕の左隣でそう話した。
今の口ぶりだと、少なくともハンナさんは地下水路についての事情を知らないようだから、彼女がカートレット家に仕える九年前より以前にこの地下水路を作ったか、改修したかということになる。
だけど。
「十年……いや、それより前に作るなり改修したものが、ここまで綺麗さを保てるものなのか?」
駆け出しの冒険者の頃にここに来た時には違和感はなかったけど、あれから四年たった今なら、その異様さが分かる。
「……この水路、何かある」
僕はポツリ、とそう呟いた。
大通りから一つ外れた路地の裏手。
ここには、この街の地下水路の入口となる丸い蓋が設置されている。
「ここに、『天国への階段』が……」
蓋を開け、中を覗き込むソフィア様が、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「仮にここでなかったとしても、手掛かりの一つでも見つけたいですね」
「はい」
僕の言葉に、ライラ様が頷く。
そもそも『天国への階段』の調査はソフィア様の目的ではあるけれど、これはライラ様にも関係することだから、ライラ様も思うところがあるのかもしれない。
ライラ様の左胸と羊皮紙、鍵に同じ紋様があることもそうだし、こんなことを考えるのは何だけど、王国がライラ様や先代伯爵様を狙ったことと関係があるのかもしれないのだから。
「では、参りましょう」
ソフィア様がそう言うと、僕達全員が頷く。
もちろん、その中にはカルラも。
そして、守りの堅い[騎士]のセシルを先頭に、ロロ、エリアル、カルラ、レジーナといった順で、“黄金の旋風”の面々が先に下に降りる。
「では、次は僕が……「お待ちください」」
そう言って穴に手を掛けたところで、ライラ様に止められてしまった。
「え、ええと……?」
「次は私が行きます。アデル様達はその後に続いてください」
真剣な瞳でライラ様が僕達に告げる。
「……理由を伺ってもよろしいですか?」
「おそらく何も問題はないとは思いますが、アデル様とソフィア様は“黄金の旋風”……特に、あのレジーナとかいう女に恨まれてますので」
「あ……」
成程……僕やソフィア様がレジーナにこの狭い穴の中で攻撃魔法を撃たれでもしたら、逃げ場がないってことか……。
ソフィア様にそんな真似をすれば、それこそこの国……いや、世界のどこにも居場所を失くし、その先は破滅しか残されていないとは思うが、あの短気ですぐにかんしゃくを起こすレジーナならあり得なくはない。
とはいえ。
「ですが、その危険性はライラ様も同じです。やっぱりここは僕が」
「ふふ……お忘れですか? 私のこの鎌や防具は、アデル様が対魔法用にミスリルを編み込んでくださっているのを」
もちろん僕が作ったんだから、ライラ様が仰っているのは分かっている。
だけど、だからといってこの狭い空間で鎌を振るうのは至難の業だし、防具だってライラ様の身体を全てカバーしている訳じゃない。
「いえ……忘れてはおりません。ですが、危険なのはライラ様だって同じです。だから……」
「お気遣いありがとうございます。とはいえ、クロウ=システムで下へと降りる私に、あの女は攻撃を仕掛ける度胸があると思いますか?」
……まあ、クロウ=システムを初めて見たら、驚きのあまり魔法を撃つことだって忘れてしまいそうではある。
それにモーカムの街まで護衛につけた際、ライラ様にかなり恐怖を植え付けられていたっけ……。
「……危険を感じたら、すぐに引き返すこと、よろしいですね?」
「ふふ、はい。心配してくださり、ありがとうございます」
ライラ様は僕の頬を白銀の手でそっと撫でた後、入口の穴の前に立つ。
——キイイイイイイイインンン……!
そしてクロウ=システムを発動させ、穴の中へとゆっくり降りて行った。
「…………………………!?」
穴の奥から“黄金の旋風”が何やら騒いでいるが、クロウ=システムの音でかき消され、何を言っているかは分からない。
「ア、アデル様……カートレット卿のアレは一体……!?」
ソフィア様がわなわなと肩を震わせ、僕に尋ねる。
「はい、ライラ様が高速かつどんな地形にも対応できるように僕が作った、“クロウ=システム”という装置です」
「す、すごい……」
ソフィア様は驚きのあまり呆然とする。
だけどそれも一瞬で、すぐにその双眸はこの僕を捉えた。
「やはり……アデル様は……!」
……ま、また僕のことを変に評価しちゃったみたいだな……。
ソフィア様の僕を見る尊敬のような眼差しをどうしたものかと首を捻らせていると。
「アデル様ー! 無事、下に到着しましたー!」
タイミングよくクロウ=システムを停止したライラ様が、上にいる僕達に向かって叫んだ。
「さ、さあ、今度こそ降りましょう」
「は、はい」
僕はソフィア様の視線から逃れるように急いで穴の中に入り、梯子を伝って下に降りた。
中では、ライラ様が“黄金の旋風”を監視するように眺めており、レジーナは舌打ちしながら顔を背け、他の面々は困ったような表情を浮かべていた。
「ふう……ここが街の地下水路ですか……」
次に降りてきたソフィア様が、地下水路の中をキョロキョロと見回す。
「それにしても、ここはヘイドンの街と違ってイヤな臭いもしないですし、その作りも真新しいですね」
いつの間にか降りていたハンナさんが眼鏡をクイ、と持ち上げ、僕の左隣でそう話した。
今の口ぶりだと、少なくともハンナさんは地下水路についての事情を知らないようだから、彼女がカートレット家に仕える九年前より以前にこの地下水路を作ったか、改修したかということになる。
だけど。
「十年……いや、それより前に作るなり改修したものが、ここまで綺麗さを保てるものなのか?」
駆け出しの冒険者の頃にここに来た時には違和感はなかったけど、あれから四年たった今なら、その異様さが分かる。
「……この水路、何かある」
僕はポツリ、とそう呟いた。
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