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見える者と見えぬ者
しおりを挟む一人のある少女が夜空を見上げてこう呟いた。
「ああ、なんて綺麗なお月様なんでしょう」
❇︎
ある時、ごくありふれた一般的な家庭のもとに一人の少女が誕生した。
可愛らしい目をしたその子は二人の温かい愛情に育まれ、すくすくと育っていった。
この時はまだ、この少女には何も異変を感じなかった。
❇︎
彼女が幼稚園に通うようになってから、何年か経ち、少しずつ会話ができるようになってきた。
両親たちは今までの苦労から少し解放され、自分の愛する娘と交流することを楽しむようになった。
「ままー、きゅうり食べたーい」
「あら、きゅうり食べたいの? 本当にキュウリが好きなのね。どうしてそんなに好きなの?」
初めてキュウリを食べた日から、ことあるごとにキュウリを求めるようになった少女。キュウリが好きなことに意味なんてないと知りつつも、母親はなんの気なしに聞いた質問だった。
しかし、返ってきた質問は意外で少しおかしな答えだった。
「だってきれいだもーん」
「ふふふっ、綺麗ですって」
お世辞にもキュウリを綺麗と思えなかった母親は、小さい子の戯言だと、もしくは美味しいと綺麗を間違えたのだと思い、特段気にするでも無かった。
❇︎
更に月日が経ち、娘が幼稚園からお絵描きした絵を持ってきた。どうやら幼稚園の活動の一環として絵を描いたようだった。
少女はもう随分と成長し、言葉もかなり喋れるようになり、自信ありげにその絵を自分の母親に見せた。
母親も娘の成長を感じ嬉しく思い、嬉しい気持ちでその絵を見た。そこには、チューリップが描かれていた。
「……っ! これ、チューリップよね?」
「そーだよ! じょーず? きれいでしょ!」
母親はどうにも言葉を詰まらせてしまっていた。チューリップといえば赤、黄、白のイメーシを持った母親は、そこに描かれているチューリップが自分の知っているものとは到底思えなかったのだ。
母親は多少なりと困惑していたのだ。
確かに、いくら成長したといえ、まだ幼稚園生だ。色遣いなんてめちゃくちゃだろう。しかし、葉っぱ部分すら緑を使わないなんてことがあるのだろうか、と。
「ままー、どー? きれいでしょー!」
その言葉で我に返った母親はもう一度その奇妙なチューリップを見た。すると、一概に汚いと一蹴することはできない、何か神秘的なものを感じた気がした。
しかし、すぐに気のせいだと思い、幼稚園生のお絵描き一つ、気にすることはないと思い、考えることをやめた。
「ふふふー、上手ねー、とーっても綺麗よ」
❇︎
更に月日が経ち、少女が黄色い帽子と赤いランドセルを背負うようになった時、徐々に少女の特異性が目立ってきた。
それはランドセルを買う時であった。六年間使うものだからちゃんと選ぶのよ、と言われた少女がいつになく真剣な眼差しでランドセルを選んでいた。
しっかりと時間を使い、どうやら最終的に二つの候補までに絞れたようだ。そして少女は母親に意見を求めにいった。
「ねーねー、どっちが良いと思うー?」
彼女が候補に挙げたランドセルは二つの真っ赤なランドセルだった。
母親は一瞬面食らった。なんせこの店には赤以外の色もあるのだ、それこそ水色や紫など、可愛らしいランドセルはたくさんあるのだ。
しかし、娘が持ってきた候補はどちらも赤で、ほとんど色の違いは見受けられなかった。
「あら、赤色が大好きなのね!」
細部までよく見ると、少し模様が違うことが判明した母親は、自分なりの素直な意見を伝えた。
「んー、こっちの方がいんじゃない? それより他の色にしなくて良いの?」
「じゃあ、こっちにするー! 他の色はしないのー、だってこの色がきれいなんだもん!」
その可愛らしい仕草、表情を見て、母親の愛情は深まるばかりだった。
❇︎
ある時少女が喧嘩をした。その喧嘩内容は別の女の子のランドセルを欲しがったというのだ。
それを母親が聞かされた時は耳を疑った。あれだけいろんな色から悩みに悩み抜いて選んだあのランドセルだ。それなのに他人のものを欲しがるわけない、と。
しかし、担任の先生から気く内容からするとどうやら実際に起きたらしい。今回はたまたま先生が通りかかったため大事にはならなかったが、一応のため報告をしてくれたそうだ。
これはじっくり娘と話し合う必要がある。
「ねえ、どうしてお友達のランドセルが欲しくなったの? 可愛いランドセル買ったじゃないの」
「だって、あっちの方がきれいだったんだもん」
「この前買ったランドセルも十分綺麗よ?」
「うんん、あっちの方がぜったいきれいなんだもん!」
何度話しても全く聞く耳を持たなかった少女に対しとうとう母親が折れ、また新たなランドセルを買いに行くこととなった。幸い、少女の家庭は一人娘でランドセルをもう一つ余分に買うだけの金銭的余裕はあった。
以前と別のお店に来た少女はキラキラした目でランドセルを探しに駆け出した。
そして、再び母親の前に現れた時、少女が抱えていたランドセルの色は、どう見ても以前と変わらぬ赤だった。
この時から少し、母親は少女に対し違和感を覚え始めた。
❇︎
更に月日が経ち、背丈も少し伸びたがまだあどけない可愛らしい顔をしていた少女は、母親の顔を見るなり、
「ママ! 大丈夫!? 顔色がわるいよ?」
そう言った少女の剣幕は今までに見たことの無いものだった。
しかし、母親が実際鏡を見てみるといつもと変わらぬ顔があるだけだった。
「ママ! びょういんに行った方がいいよ!?」
それでも変わらぬ態度で母親を心配する娘。
娘がこれほど心配してくれているのだし、たまたま予定も無かったため、次の日健康診断に行くことにした。
次の日、病院で母親は胃がんと診断された。医者からは、
「良かったですね。かなり早期の発見ですので完治の可能性は高いです。今すぐにでも治療を始めましょう。運が良かったですね」
❇︎
完治し、無事退院した母親はすぐさま娘のもとに向かった。
「本当にありがとう! あなたのおかげで私の命が助かったわ! で、でもどうして分かったの?」
「だって、お母さんの顔色がわるかったんだもん。今はとってもきれいないつものお母さんだよ!」
どれだけ聞いてもこれ以上の返答は得られなかった。
母親は娘はとても霊感が強いのではないか、と思うようになった。
❇︎
ある時、少女が制服を着るようになった頃、学校である検査が行われた。それは全校生徒に対して行われる、色覚検査だ。
そして、少女はその検査において、色覚異常と診断された。しかし、詳しいことは分からないため、専門の病院に行って欲しいと言われた。
母親と二人で向かった先の、専門病院で言われた言葉は、
「どうやら貴方は四色覚の持ち主のようです」
というものだった。
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