専業ネカマの生態

16話 引かせる後ろ髪

　薬草採取人？　称号なのにスキルが貰えるのか？　いやそれは良いとしても称号ってセットして効果を発揮するものだろう？　セットしなくても恩恵を貰える称号をゲットしても良いのか？

　それに、一定時間内に大量にってなんと曖昧な表現なんだ。こういう再現性のない言い方がオタクにとっては一番の天敵だというのにぃー。

　ま、俺がその益を享受できたからいいか。さっさとあのおっさんに薬草渡してクエストクリアしちゃお。

　冒険者ギルドの薬草採取クエでは全然経験値が貰えなかったからな。未だにレベル1ってどれだけ貰える量が少なかったんだ、おい。

　ふぅ、切り替えて行きますか。不満ばっかり言っても仕方ない、それに綺麗なお顔なのに眉間にシワを寄せてたら不味いだろ？　

「あのー？」

「あぁん？」

　俺は今まさに歩みだそうとしたところで背後から声をかけられた。色々情報が混濁して、やっと進めるってなった所でその腰をガックリと折られたからついつい男らしい声が出てしまった。そして、そんな声を出せば当然……

「え？」

「あ、」

　怪しまれるのは必須だった。

「す、すみませんっ、お急ぎでしたか？　あまりにも困っている様子でしたのでお声がけしたのですが……」

「あぁ、そう。でももう大丈夫よそれじゃあね」

「あっ……！」

　話をかけてきたのは少年のような見た目をしていたが、どうせ私の美貌に惹かれてきたんでしょ？　そして手助けをすれば貸しとまではいかないにしても繋がりくらいはできると思ったんだろう。

　こちとらそんな甘くはない。お前の考えは手に取るように分かるぞ少年。なぜなら私もまたお前の道を歩んできた男だからな。

　だが、気持ちが分かるのと優しくするのはまた違う。なぜなら俺は女が、ヘヴィちゃんが好きだからだ。すまんな少年よ。大丈夫、俺じゃなくてもまだ女はたくさんいるからな。

　俺は後ろ髪を引かれつつ少年を振り払いクエスト完了に向かった。

　❇︎

「おぉ、嬢ちゃん本当にきてくれたのか……でも見つからなかっただろう？　大丈夫、俺はそんなことで責めたりしない。嬢ちゃんが心配してくれただけでも

「いえ、ありましたよ。ほら、上級薬草」

「え？」

「はい、どうぞ。これでよくなるんでしょう？　しっかり元気を出してくださいね！　また困った事があればいつでも言ってください！　では私はこれで」

「あっ、おい」

　ふっ、完璧だ。NPCにも決して手は抜かない。完璧な女を演じ切る。まあ、さっきは気を抜いていたがここからはボロを出さずに行くからな。

『クエストを完了しました。報酬を受け取ります……』

『レベルアップしました』

　お、遂にレベルアップか。まあ、ここからが俺の始まりだ。今から俺は天下を取るっ！