69 / 110
第3章 ワイラ編
第67話「異界化再び」
しおりを挟む
修と千祝がラブホテルに討ち入りを決行したその夜、二人は上野の公園にいた。警官隊の国立博物館への突入をサポートするためである。
何故このような事になったのかというと、この突入が修達のもたらした情報によるものだからだ。
この日の午前中、修達は夢に出てきた縄文時代の外つ者に関する情報を得るため、囲碁会所の情報屋に会いに行っていた。この情報屋は、情報屋と言っても何らかの情報網を持っているのではなく、囲碁の結果から陰陽を読み取るという、占いに近い手法をとる者である。
結果は、「陰の土の気が封じられし器が、関東に集まろうとしている」というものであった。
修達はこの占いの結果を、土偶によって外つ者が封じられており、それが復活しようとしているのではないかと考えた。これは、縄文時代と土の器の関連するのが、土偶であろうと連想されたことによるものである。最近、博物館で怪獣土偶を見たのもその発想を助けている。
というわけで、土偶に関して何か妙な動きはないか、別の情報屋に問い合わせたところ、遺跡の発掘現場から盗み出された土偶の密売が、ラブホテルで行われる予定だと知らされた。まさかこんな所で盗品の密売が行われているとは思われないし、防音等の設備面を考慮して、この密売組織はその場所をよく使っているらしい。
よく土偶の密売などという訳の分からない情報を持っていたものだと疑問に思ったが、蛇の道は蛇というものらしい。
情報を得た修達は、対外つ者の警察の特殊部隊である抜刀隊に所属しており、太刀花道場の同門である大久保に通報した。
所轄の警察への調整に時間を要したため、警官隊の到着が取引の時間に間に合わない可能性があったため、修と千祝は取引現場であるラブホテルに二人だけで突入した。
結果、十数人の密売人を制圧し、ただ一人逃走した密売人もたまたま通りかかった修達の同級生が撃破したため、全員捕えることが出来たし、外つ者の封じられた土偶も確保出来た。
そして、密売人達を警察署に連行すると、彼らへの尋問もそこそこに、もう一つ残った土偶である国立博物館の展示品を確保しに上野に来たのだった。
国立博物館は昼間は特別展でごった返しているため、営業中に土偶を回収しようとした場合混乱が生じる可能性があるため、夜になるのを待っていたのだ。
修達が近くの公園で待機しているのは、何かあった時の予備戦力として期待されているためだ。一緒に突入するという手もあったのだが、修と千祝が警官の精鋭部隊より優れているのは、外つ者に対する戦闘力のみであり、銃器を持った相手だったりするとそれほど強みは無い。いくら武芸に優れていても、近代兵器に対しては有効ではないのだ。
もっとも、達人の中には銃器で武装した特殊部隊を圧倒する者もいるのだが。
「もうそろそろ突入部隊が土偶を回収したころですかね?」
修が時計を見ながら大久保に尋ねた。そんなに大きな声を出したつもりは無かったのだが、夜の静寂に修の声は強く反響した。
「さあ? 確かに連絡が来てもおかしくない頃なのですが」
大久保が無線機を手にしながら答えた。大久保は先ほどからうろうろと同じところを歩き回っている。彼も修と同じく落ち着かないのだ。
修達はつい最近、今回と同じように外つ者の復活を防ぐために戦ったことがある。その時は、復活したての下級の外つ者の再封印に一旦は成功したのだが、その場を離れたすきに何者かが上級の外つ者であるダイダラボッチを復活させてしまったのだ。
最終的にはダイダラボッチの討伐に成功したものの、あのような事態はなるべく防ぎたいというのが修達の思いである。
「修ちゃん! あっち!」
「ああ! 俺も感じるぞ!」
大久保に無線で状況を確認できないか、尋ねようとした時にそれは起きた。
「ん? 何かありましたか?」
大久保はまだ、修と千祝が気が付いた何かに気付いていない。
「気が付きませんか? 空気が外つ者のせいで異界化した時に似ていますよ」
「何ですって? しかし、携帯電話を見るに電波が来ていますよ? 異界化したならば、電波が通らなくなるはずでは?」
大久保は信じられないといった表情だ。
「この場が異界化したわけではないと思います。あっちの方向、そこから嫌な気配を感じるのです」
「あっちの方向には何があったかしら?」
「確か、科学博物館があったはずですが……」
大久保は考え込んだ。国立博物館で妨害があることは想定していたが、その近くで異変が起こることは想定外であった。
「大久保さん。俺達で様子を探ってきます。危なそうならすぐに戻ってきますが何かあった時は救援をお願いします」
「分かった。本部への報告と、国立博物館に行った部隊へ警告が終わったらすぐに向かうから、あまり急ぎ過ぎないように」
「了解。行くぞ、千祝」
「うん。気を付けていきましょうね」
修と千祝は、手にした刀に巻き付けてあった布を取り払い、すぐに抜刀できるよう腰に差した。
「ここに突入する羽目になるんなら、この前国立博物館に来た時についでに見ておくんだったな」
「しょうがないわよ。子供たちの面倒を見るのに結構疲れていたから、そんな余裕なかったもの」
事前に偵察できる機会があったのにも関わらず、それをせずに死地に飛び込む羽目になったことを愚痴りながら、修達は異界化した科学博物館に侵入していくのだった。
何故このような事になったのかというと、この突入が修達のもたらした情報によるものだからだ。
この日の午前中、修達は夢に出てきた縄文時代の外つ者に関する情報を得るため、囲碁会所の情報屋に会いに行っていた。この情報屋は、情報屋と言っても何らかの情報網を持っているのではなく、囲碁の結果から陰陽を読み取るという、占いに近い手法をとる者である。
結果は、「陰の土の気が封じられし器が、関東に集まろうとしている」というものであった。
修達はこの占いの結果を、土偶によって外つ者が封じられており、それが復活しようとしているのではないかと考えた。これは、縄文時代と土の器の関連するのが、土偶であろうと連想されたことによるものである。最近、博物館で怪獣土偶を見たのもその発想を助けている。
というわけで、土偶に関して何か妙な動きはないか、別の情報屋に問い合わせたところ、遺跡の発掘現場から盗み出された土偶の密売が、ラブホテルで行われる予定だと知らされた。まさかこんな所で盗品の密売が行われているとは思われないし、防音等の設備面を考慮して、この密売組織はその場所をよく使っているらしい。
よく土偶の密売などという訳の分からない情報を持っていたものだと疑問に思ったが、蛇の道は蛇というものらしい。
情報を得た修達は、対外つ者の警察の特殊部隊である抜刀隊に所属しており、太刀花道場の同門である大久保に通報した。
所轄の警察への調整に時間を要したため、警官隊の到着が取引の時間に間に合わない可能性があったため、修と千祝は取引現場であるラブホテルに二人だけで突入した。
結果、十数人の密売人を制圧し、ただ一人逃走した密売人もたまたま通りかかった修達の同級生が撃破したため、全員捕えることが出来たし、外つ者の封じられた土偶も確保出来た。
そして、密売人達を警察署に連行すると、彼らへの尋問もそこそこに、もう一つ残った土偶である国立博物館の展示品を確保しに上野に来たのだった。
国立博物館は昼間は特別展でごった返しているため、営業中に土偶を回収しようとした場合混乱が生じる可能性があるため、夜になるのを待っていたのだ。
修達が近くの公園で待機しているのは、何かあった時の予備戦力として期待されているためだ。一緒に突入するという手もあったのだが、修と千祝が警官の精鋭部隊より優れているのは、外つ者に対する戦闘力のみであり、銃器を持った相手だったりするとそれほど強みは無い。いくら武芸に優れていても、近代兵器に対しては有効ではないのだ。
もっとも、達人の中には銃器で武装した特殊部隊を圧倒する者もいるのだが。
「もうそろそろ突入部隊が土偶を回収したころですかね?」
修が時計を見ながら大久保に尋ねた。そんなに大きな声を出したつもりは無かったのだが、夜の静寂に修の声は強く反響した。
「さあ? 確かに連絡が来てもおかしくない頃なのですが」
大久保が無線機を手にしながら答えた。大久保は先ほどからうろうろと同じところを歩き回っている。彼も修と同じく落ち着かないのだ。
修達はつい最近、今回と同じように外つ者の復活を防ぐために戦ったことがある。その時は、復活したての下級の外つ者の再封印に一旦は成功したのだが、その場を離れたすきに何者かが上級の外つ者であるダイダラボッチを復活させてしまったのだ。
最終的にはダイダラボッチの討伐に成功したものの、あのような事態はなるべく防ぎたいというのが修達の思いである。
「修ちゃん! あっち!」
「ああ! 俺も感じるぞ!」
大久保に無線で状況を確認できないか、尋ねようとした時にそれは起きた。
「ん? 何かありましたか?」
大久保はまだ、修と千祝が気が付いた何かに気付いていない。
「気が付きませんか? 空気が外つ者のせいで異界化した時に似ていますよ」
「何ですって? しかし、携帯電話を見るに電波が来ていますよ? 異界化したならば、電波が通らなくなるはずでは?」
大久保は信じられないといった表情だ。
「この場が異界化したわけではないと思います。あっちの方向、そこから嫌な気配を感じるのです」
「あっちの方向には何があったかしら?」
「確か、科学博物館があったはずですが……」
大久保は考え込んだ。国立博物館で妨害があることは想定していたが、その近くで異変が起こることは想定外であった。
「大久保さん。俺達で様子を探ってきます。危なそうならすぐに戻ってきますが何かあった時は救援をお願いします」
「分かった。本部への報告と、国立博物館に行った部隊へ警告が終わったらすぐに向かうから、あまり急ぎ過ぎないように」
「了解。行くぞ、千祝」
「うん。気を付けていきましょうね」
修と千祝は、手にした刀に巻き付けてあった布を取り払い、すぐに抜刀できるよう腰に差した。
「ここに突入する羽目になるんなら、この前国立博物館に来た時についでに見ておくんだったな」
「しょうがないわよ。子供たちの面倒を見るのに結構疲れていたから、そんな余裕なかったもの」
事前に偵察できる機会があったのにも関わらず、それをせずに死地に飛び込む羽目になったことを愚痴りながら、修達は異界化した科学博物館に侵入していくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜
万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。
こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?!
私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。
バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。
その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。
鬼が現れ戦う羽目に。
事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの?
この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。
鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます!
一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。
はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる