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第3章 ワイラ編
第68話「科学博物館警備員藤田」
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夜の上野公園で待機していた修と千祝は、科学博物館の方から外つ者の気配を感じたため、警官の大久保を残し、科学博物館に突入することにした。
科学博物館の敷地に入った瞬間、以前に経験した異界化した空間と同じ感覚が二人を襲った。
「修ちゃん」
「ああ、分かっている。俺が先に行くから背中を頼む」
修と千祝は抜刀すると、修を先頭にゆっくりと歩みを進めた。最早、この科学博物館に外つ者がいるのは間違いないと判断したため、二人は戦闘モードに気持ちを素早く切り替えた。
入り口は当然ながら閉鎖されていたが、二人で同時に蹴りを入れると脆くも蹴破られた。入り口の防護が弱かったというよりも、二人の攻撃の威力が常識外れだったというべきだろう。
館内は照明がほとんどついておらず、常夜灯のみが光源であった。修はマグライトを持ってきていたが、これ位の明かりがあれば二人は十分戦えるため、点灯しないことにした。
中に入って少し進むと少し開けた空間に出た。ミュージアムショップの表示が近くに見える。
しかし、そんなものよりももっと目を引く事象が目の前に広がっていた。数多の外つ者が徘徊していたのだ。十数体はいる。蠢く外つ者どもは、四つ足、二足歩行、骨だけの者など多種多様である。
「兵級ってとこかな」
修は千祝に小さな声で考えを述べた。兵級は外つ者の中でも最下級の存在で、神聖な気を帯びていない銃弾でも簡単に倒すことが出来る。しかし、彼らは通常の人間を遥かに超える怪力を有しており、その爪牙は人間を容易く引き裂く。そしてなにより、その数は圧倒的であり、決して侮ることは出来ない。
「何であんなに種類が多いのかしら?」
千祝が疑問をこぼす。
修達が今まで戦ってきた兵級の外つ者は、彼らと同時に出現した上級の外つ者に似た外見をしていた。言わば眷属ともいうべき存在であった。
蛇の姿であるヤトノカミと同時に出現した兵級は、蛇頭に尻尾、巨人であるダイダラボッチの場合は人型の外つ者達であった。
今回は統一感がまるでない。一体彼らを率いる存在とは何者であろうか。
「まあ考えても仕方がない。原因を排除するのに邪魔な奴らは倒すしかあるまい? 行くぞ!」
「了解!」
修と千祝は気合を入れ直して外つ者達に向かって突撃した。人間を相手にするのと違い、気合で圧倒することは出来ないため大音声の気勢は発しないが、全身に闘気が漲っており怪物相手にもまるで気後れすることは無い。
二人は切りかかると、たちまち外つ者達を圧倒した。外つ者達の数は脅威であるものの、それを率いる上位種がいないため、連携は取れていない。それに対して修と千祝は、声や視線を合図にすることなく、完全に息のあった連携をすることが出来る。
連続で相手に突進して攻撃を仕掛けたり、挟み撃ちにより防御が困難な攻撃を仕掛けるなど、一人で戦うことが多い通常の武道家が稽古しない技を二人は習熟している。
この連携技は、修の父親が警察庁抜刀隊に所属しており、彼から伝授されたことにより習得したものだ。
武芸者の集団であり、しかも、警察の特殊部隊ということで、集団戦に習熟することが必要であった抜刀隊ならではの技と言えるだろう。
修達は、数分もかけることなく、広間の外つ者達を殲滅した。撃破した外つ者達の死体は跡形もなく消えてしまう。これはいつも通りの現象だ。
「っ……」
「……」
とりあえずの勝利を喜ぼうとした二人であったが、どちらが合図するでもなく押し黙った。建物の奥の方から何かの気配がしたのだった。しかも、この気配は今しがた殲滅した外つ者達よりもはるかに強い。
修達が知る強者と比較するとすれば、師匠である太刀花則武や、則武の旧知の武芸者である鞍馬に匹敵する。どちらが上かは修達が判断できる域を超えているので分からないが、想像を超える強者であることは分かる。
この気配の持ち主が、この異界化を引き起こした外つ者である可能性が高いと修達は考えた。ヤトノカミやダイダラボッチのような将級の外つ者かもしれない。
だとすれば、この気配の主を撃破すればこの事態は解決するだろう。修や千祝、各個ではまず敵わないが、二人の連携技は場合により師匠である太刀花則武やそれに匹敵する達人である鞍馬にも通用する。勝ち目が全くない訳ではない。
さらに言えば、二人は以前数十メートルのヤトノカミや、百メートルのダイダラボッチを倒している。この建物内にいるということはそこまで大きくないはずであり、耐久力もそこまで無い可能性がある。
なので、隙をついて必殺の一撃を届かせることが出来れば、案外あっさりと片付けることが出来る可能性がある。もちろん油断は禁物であるのだが、勝機は十分ある。
二人は覚悟を決め、刀を構え直す。しかし、奥から現れたのは将級の外つ者ではなかった。
奥から兵級の外つ者が数体こちらに向かって走ってくる。その様子は、まるで何かに怯えるかのようであった。これは、修と千祝にとって衝撃的な事象である。何せ今まで屠ってきた外つ者は、いくら切っても刺しても爆破しても、一切感情を見せることなく襲い掛かってくる存在だったからだ。
そして、彼らを追いかけて一つの人影が現れ、手にした刀で後ろから切り捨てていく。
修達は状況にいまいちついていけないものの、敵である外つ者達がこちらに駆け寄ってくるため迎撃することに決めた。
いつも通りの連携技で、あっさりと人型の外つ者を葬り去る。
「ほう? 草攻剣か……」
いつの間にやら外つ者を全滅されていた人影が、修達に向かって独り言をこぼす。
草攻剣とは、相手に向かって複数で順番に間髪を入れず切りかかる技で、抜刀隊の技である。それを知る者は少ないため、修と千祝は驚いた。
そして何より驚くべきは、人影の強さだ。修達が二人がかりで倒すのよりも早く、より多くの外つ者を倒してしまったのだ。その強さは脅威的だ。
人影の姿がはっきりと見て取れた。人影の主は、映画の中から飛び出てきたような古臭い警備員の服装をした老人であった。中肉中背、ではあるが、その制服の中には鍛え抜かれた肉体が隠されているのだろう。その左手には日本刀が握られている。
そして何よりもその存在を際立てているのは、その外見ではなく、全身から発している圧倒的な剣気だ。
まさかこれほどの圧倒的強者が、こんな老人であるとは二人は想像していなかった。二人が知っている老武人はいずれも技には優れているものの、すでに枯れた存在だったからだ。
もっとも、修達がそのような老人しか知らないのには原因があり、五年前の外つ者との大戦で、年老いた武芸者の大半が討ち死にし、生き残った者もその影響で気力を失ってしまっているからであった。
ともかく、修達にとって、長い人生をかけて武を磨き上げ、しかも気迫が衰えていない怪物的な存在は初めて遭遇する者であったのだ。
「え~と、あなたは?」
修は恐る恐る老警備員に問いかける。
「人に名を問う時は、まず自分……ん?」
ピシャリと修の発言に叱責しようとした老警備員は、何かに気付いたようで、何事か考え込んだ。
「ふむ。まあよかろう。おんしらの素性を当てて見せようか。坊主は鬼越の、嬢ちゃんは太刀花の縁者だろ?」
「何故分かったんですか?」
「何故って、前に一緒に戦ったことがあるからな。顔立ちや雰囲気、それに太刀花流の剣術を見れば何となくな。鬼越家の人間が太刀花流を修めているとは知らなんだが」
修と千祝は顔を見合わせた、ここまで見事に言い当てられたことは驚きであった。
「あと、まさか太刀花流のもんが、新選組の技を使うとは、まったくどこで教わったんだか」
「新選組の技?」
「ん? さっき使ってたじゃねえか。草攻剣だよ。まああれだけ見事に使いこなす奴は中々いないがな。普通あれだけ息を合わせて切りかかるなんて出来ないぜ。かく言う俺もできん。自慢していいぞ」
これだけの強者に褒められて悪い気はしないが、抜刀隊の技と思っていたものを、新選組の技と言われて二人は驚いた。そのことは初耳であったのだが、抜刀隊に新選組から伝わった技術だったのかもしれない。
「おっと、わしの事を言ってなかったな。わしは、藤田というこの博物館で警備をしておる。よろしくな」
まさか、この剣豪がただの警備員だとは予想だにしてなかった二人は、更に驚いていたのだった。
科学博物館の敷地に入った瞬間、以前に経験した異界化した空間と同じ感覚が二人を襲った。
「修ちゃん」
「ああ、分かっている。俺が先に行くから背中を頼む」
修と千祝は抜刀すると、修を先頭にゆっくりと歩みを進めた。最早、この科学博物館に外つ者がいるのは間違いないと判断したため、二人は戦闘モードに気持ちを素早く切り替えた。
入り口は当然ながら閉鎖されていたが、二人で同時に蹴りを入れると脆くも蹴破られた。入り口の防護が弱かったというよりも、二人の攻撃の威力が常識外れだったというべきだろう。
館内は照明がほとんどついておらず、常夜灯のみが光源であった。修はマグライトを持ってきていたが、これ位の明かりがあれば二人は十分戦えるため、点灯しないことにした。
中に入って少し進むと少し開けた空間に出た。ミュージアムショップの表示が近くに見える。
しかし、そんなものよりももっと目を引く事象が目の前に広がっていた。数多の外つ者が徘徊していたのだ。十数体はいる。蠢く外つ者どもは、四つ足、二足歩行、骨だけの者など多種多様である。
「兵級ってとこかな」
修は千祝に小さな声で考えを述べた。兵級は外つ者の中でも最下級の存在で、神聖な気を帯びていない銃弾でも簡単に倒すことが出来る。しかし、彼らは通常の人間を遥かに超える怪力を有しており、その爪牙は人間を容易く引き裂く。そしてなにより、その数は圧倒的であり、決して侮ることは出来ない。
「何であんなに種類が多いのかしら?」
千祝が疑問をこぼす。
修達が今まで戦ってきた兵級の外つ者は、彼らと同時に出現した上級の外つ者に似た外見をしていた。言わば眷属ともいうべき存在であった。
蛇の姿であるヤトノカミと同時に出現した兵級は、蛇頭に尻尾、巨人であるダイダラボッチの場合は人型の外つ者達であった。
今回は統一感がまるでない。一体彼らを率いる存在とは何者であろうか。
「まあ考えても仕方がない。原因を排除するのに邪魔な奴らは倒すしかあるまい? 行くぞ!」
「了解!」
修と千祝は気合を入れ直して外つ者達に向かって突撃した。人間を相手にするのと違い、気合で圧倒することは出来ないため大音声の気勢は発しないが、全身に闘気が漲っており怪物相手にもまるで気後れすることは無い。
二人は切りかかると、たちまち外つ者達を圧倒した。外つ者達の数は脅威であるものの、それを率いる上位種がいないため、連携は取れていない。それに対して修と千祝は、声や視線を合図にすることなく、完全に息のあった連携をすることが出来る。
連続で相手に突進して攻撃を仕掛けたり、挟み撃ちにより防御が困難な攻撃を仕掛けるなど、一人で戦うことが多い通常の武道家が稽古しない技を二人は習熟している。
この連携技は、修の父親が警察庁抜刀隊に所属しており、彼から伝授されたことにより習得したものだ。
武芸者の集団であり、しかも、警察の特殊部隊ということで、集団戦に習熟することが必要であった抜刀隊ならではの技と言えるだろう。
修達は、数分もかけることなく、広間の外つ者達を殲滅した。撃破した外つ者達の死体は跡形もなく消えてしまう。これはいつも通りの現象だ。
「っ……」
「……」
とりあえずの勝利を喜ぼうとした二人であったが、どちらが合図するでもなく押し黙った。建物の奥の方から何かの気配がしたのだった。しかも、この気配は今しがた殲滅した外つ者達よりもはるかに強い。
修達が知る強者と比較するとすれば、師匠である太刀花則武や、則武の旧知の武芸者である鞍馬に匹敵する。どちらが上かは修達が判断できる域を超えているので分からないが、想像を超える強者であることは分かる。
この気配の持ち主が、この異界化を引き起こした外つ者である可能性が高いと修達は考えた。ヤトノカミやダイダラボッチのような将級の外つ者かもしれない。
だとすれば、この気配の主を撃破すればこの事態は解決するだろう。修や千祝、各個ではまず敵わないが、二人の連携技は場合により師匠である太刀花則武やそれに匹敵する達人である鞍馬にも通用する。勝ち目が全くない訳ではない。
さらに言えば、二人は以前数十メートルのヤトノカミや、百メートルのダイダラボッチを倒している。この建物内にいるということはそこまで大きくないはずであり、耐久力もそこまで無い可能性がある。
なので、隙をついて必殺の一撃を届かせることが出来れば、案外あっさりと片付けることが出来る可能性がある。もちろん油断は禁物であるのだが、勝機は十分ある。
二人は覚悟を決め、刀を構え直す。しかし、奥から現れたのは将級の外つ者ではなかった。
奥から兵級の外つ者が数体こちらに向かって走ってくる。その様子は、まるで何かに怯えるかのようであった。これは、修と千祝にとって衝撃的な事象である。何せ今まで屠ってきた外つ者は、いくら切っても刺しても爆破しても、一切感情を見せることなく襲い掛かってくる存在だったからだ。
そして、彼らを追いかけて一つの人影が現れ、手にした刀で後ろから切り捨てていく。
修達は状況にいまいちついていけないものの、敵である外つ者達がこちらに駆け寄ってくるため迎撃することに決めた。
いつも通りの連携技で、あっさりと人型の外つ者を葬り去る。
「ほう? 草攻剣か……」
いつの間にやら外つ者を全滅されていた人影が、修達に向かって独り言をこぼす。
草攻剣とは、相手に向かって複数で順番に間髪を入れず切りかかる技で、抜刀隊の技である。それを知る者は少ないため、修と千祝は驚いた。
そして何より驚くべきは、人影の強さだ。修達が二人がかりで倒すのよりも早く、より多くの外つ者を倒してしまったのだ。その強さは脅威的だ。
人影の姿がはっきりと見て取れた。人影の主は、映画の中から飛び出てきたような古臭い警備員の服装をした老人であった。中肉中背、ではあるが、その制服の中には鍛え抜かれた肉体が隠されているのだろう。その左手には日本刀が握られている。
そして何よりもその存在を際立てているのは、その外見ではなく、全身から発している圧倒的な剣気だ。
まさかこれほどの圧倒的強者が、こんな老人であるとは二人は想像していなかった。二人が知っている老武人はいずれも技には優れているものの、すでに枯れた存在だったからだ。
もっとも、修達がそのような老人しか知らないのには原因があり、五年前の外つ者との大戦で、年老いた武芸者の大半が討ち死にし、生き残った者もその影響で気力を失ってしまっているからであった。
ともかく、修達にとって、長い人生をかけて武を磨き上げ、しかも気迫が衰えていない怪物的な存在は初めて遭遇する者であったのだ。
「え~と、あなたは?」
修は恐る恐る老警備員に問いかける。
「人に名を問う時は、まず自分……ん?」
ピシャリと修の発言に叱責しようとした老警備員は、何かに気付いたようで、何事か考え込んだ。
「ふむ。まあよかろう。おんしらの素性を当てて見せようか。坊主は鬼越の、嬢ちゃんは太刀花の縁者だろ?」
「何故分かったんですか?」
「何故って、前に一緒に戦ったことがあるからな。顔立ちや雰囲気、それに太刀花流の剣術を見れば何となくな。鬼越家の人間が太刀花流を修めているとは知らなんだが」
修と千祝は顔を見合わせた、ここまで見事に言い当てられたことは驚きであった。
「あと、まさか太刀花流のもんが、新選組の技を使うとは、まったくどこで教わったんだか」
「新選組の技?」
「ん? さっき使ってたじゃねえか。草攻剣だよ。まああれだけ見事に使いこなす奴は中々いないがな。普通あれだけ息を合わせて切りかかるなんて出来ないぜ。かく言う俺もできん。自慢していいぞ」
これだけの強者に褒められて悪い気はしないが、抜刀隊の技と思っていたものを、新選組の技と言われて二人は驚いた。そのことは初耳であったのだが、抜刀隊に新選組から伝わった技術だったのかもしれない。
「おっと、わしの事を言ってなかったな。わしは、藤田というこの博物館で警備をしておる。よろしくな」
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