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第2章「閻羅王の情け」
第20話「墓荒らし」
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孫鈴の墓を、劉陽華と袁閃月はしばらく見守ることにした。
もう日が暮れようと言うのに墓の前に立ち続ける少年と少女など、怪しくてたまらないので本来なら官憲に通報されても文句は言えないだろう。しかし、既に死んで鬼となっている彼女らの事を訝しむ者はいなかった。もとより人気のない墓場であり、見咎める者も現れなかったのであるが。
この日は新月だったため、日が沈むと頼りになるのは星の光だけだ。都でも繫華街では深夜になっても煌々と明かりが灯されている。しかし、好き好んで夜の墓場を明るくしようなどと無駄な事を考える者はいない様だ。
月の光さえ無い夜の墓場と言うのは、普通の者なら肝を冷やしてしまうだろう。物の怪の類に出くわしそうな雰囲気があるし、それによって人気が無い事を利用して盗賊の類が出没するのだ。だが、すでに死んでいる陽華と閃月は怖いものなしである。もとより閃月はかなり腕に自信があるし、陽華も死後の世界を見てきたのだから恐れるものなどない。と言うか、死人である陽華達自身が物の怪の類である。
「なあ、何か聞こえないか?」
しばらく経ってから、閃月が小声で言った。
それを聞いた陽華が注意深く耳を凝らすが、何も聞こえてこない。
「そうかしら? 何も聞こえないけど」
「いや、絶対に何かが聞こえている。それも二つだ。何かが近づいてくる音がするし、もう一つはよく分からないけど確かにする」
「本当かしら……あっ」
閃月の言を疑っていた陽華であったが、それが間違いであることにすぐに気づいた。人影が暗闇の中から出現したのである。
その人影は、陽華の目にも見えるほど近づいているにも関わらず、ほとんど足音を立てていなかった。恐るべき忍びの業だ。そしてもっと前から気付いていた閃月の聴力もまた、凄まじいものがある。
「あれが、何か冥界の事件に関係があるのかしら?」
「どうだろう。確かに怪しいけど……っておい、奴の顔を見てみろ、何やってやがんだ?」
「え? あ、あいつ、呉開山じゃないの。なんでこんな所に?」
暗闇から出現した人影の顔をよく見てみると、知っている顔であった。前回の事件の発端である、呉開山だったのだ。彼は、盗賊団の首領であるが、その美貌や話術を生かして結婚詐欺師として数々の女性を騙して来た。そして、そのせいで一人の女性が命を落としたのである。
その後、色々あって一応事件は解決したのであるが、一体彼は何をやってるのだろうか。
「そういえば、確かにこの近辺は奴の縄張りだけど、どういう事だ?」
「あ、お供え物を頭陀袋に入れてる。もしかして、墓場泥棒をしに来たのかしら?」
陽華の言う通り、開山は立ち並ぶ墓に供えられた物を片っ端から回収しながら歩いている。供え物は、食べ物が多いので価値の無い物がほとんどだが、中には生前を偲んでの事か、高価に見える器や細工物、場合によっては剣まで捧げられている。これらを回収して売り捌けば、結構な金になるだろう。普通は、あまりにも罰当たりなので誰もやらないのだが、悪人にはその様な枷は無い。
「あいつ、泣きながら『もうしません』とか言ってたくせに」
「もうしないと言ってた対象は結婚詐欺だと解釈するなら、別に嘘はついてないことになるけど」
「だとしても釈然としないわね」
「全くだ」
二人としては開山に天誅を下してやりたいが、実体を持たない彼女らには開山に手を出す手段が無い。二人の世話役の疫凶の様に冥府でも高位の存在になれば、自由に実体化する事も出来るだが、まだ未熟な二人にはその様な事は困難だ。
残念であるが、不愉快な行為を黙って見ているしかなかった。
「お? この墓、まだ埋葬されたばかりか? しめしめ」
墓荒らしを続けていた開山は、孫鈴の墓の土がまだ埋められて間もない事に気が付いた様だ。埋葬されたばかりの棺桶の中には、副葬品がまだ良好な状態で入っている。当然ながら高く売れる可能性が高い。また、高価な副葬品が無かったとしても、他の墓荒らしの被害に遭っていないなら、確実に銭を手に入れる事が出来る。
冥銭だ。
枢華世界において、死後の世界で銭に困らない様に遺体と共に銭を埋めるのは常識だ。これは、どれだけ貧しい者でもだ。例え身寄りが無く無縁墓地に葬られる時ですら、地域の住人が銭を出し合って死者に持たせてやるのだ。
この死者に持たせる冥銭は、本物の銭を使用するのが殆どだ。紙で出来た紙銭を燃やすことでも同じ効果が得られるのだが、まだ紙は高価な物だ。実は庶民にとっては本物の銭の方が手に入りやすい。
このため、棺桶を漁れば銭が手に入るのである。もちろん、褒められた行為ではない。
「へへへへ、こいつは掘りやすそ……ん? なんか変だぞ。まるで、逆に地面の中から掘っている様な? ぎゃああっ!」
孫鈴の墓を掘り返すため、短剣を手に地面に伏せていた開山は、何か異変に気付き掘るのを止めた。そして、地面に耳をつけて何かを聞き取ろうとした瞬間、開山の頭が土に埋まった。
そして次の瞬間、墓の前には一人の若い女性が立っていたのであった。
もう日が暮れようと言うのに墓の前に立ち続ける少年と少女など、怪しくてたまらないので本来なら官憲に通報されても文句は言えないだろう。しかし、既に死んで鬼となっている彼女らの事を訝しむ者はいなかった。もとより人気のない墓場であり、見咎める者も現れなかったのであるが。
この日は新月だったため、日が沈むと頼りになるのは星の光だけだ。都でも繫華街では深夜になっても煌々と明かりが灯されている。しかし、好き好んで夜の墓場を明るくしようなどと無駄な事を考える者はいない様だ。
月の光さえ無い夜の墓場と言うのは、普通の者なら肝を冷やしてしまうだろう。物の怪の類に出くわしそうな雰囲気があるし、それによって人気が無い事を利用して盗賊の類が出没するのだ。だが、すでに死んでいる陽華と閃月は怖いものなしである。もとより閃月はかなり腕に自信があるし、陽華も死後の世界を見てきたのだから恐れるものなどない。と言うか、死人である陽華達自身が物の怪の類である。
「なあ、何か聞こえないか?」
しばらく経ってから、閃月が小声で言った。
それを聞いた陽華が注意深く耳を凝らすが、何も聞こえてこない。
「そうかしら? 何も聞こえないけど」
「いや、絶対に何かが聞こえている。それも二つだ。何かが近づいてくる音がするし、もう一つはよく分からないけど確かにする」
「本当かしら……あっ」
閃月の言を疑っていた陽華であったが、それが間違いであることにすぐに気づいた。人影が暗闇の中から出現したのである。
その人影は、陽華の目にも見えるほど近づいているにも関わらず、ほとんど足音を立てていなかった。恐るべき忍びの業だ。そしてもっと前から気付いていた閃月の聴力もまた、凄まじいものがある。
「あれが、何か冥界の事件に関係があるのかしら?」
「どうだろう。確かに怪しいけど……っておい、奴の顔を見てみろ、何やってやがんだ?」
「え? あ、あいつ、呉開山じゃないの。なんでこんな所に?」
暗闇から出現した人影の顔をよく見てみると、知っている顔であった。前回の事件の発端である、呉開山だったのだ。彼は、盗賊団の首領であるが、その美貌や話術を生かして結婚詐欺師として数々の女性を騙して来た。そして、そのせいで一人の女性が命を落としたのである。
その後、色々あって一応事件は解決したのであるが、一体彼は何をやってるのだろうか。
「そういえば、確かにこの近辺は奴の縄張りだけど、どういう事だ?」
「あ、お供え物を頭陀袋に入れてる。もしかして、墓場泥棒をしに来たのかしら?」
陽華の言う通り、開山は立ち並ぶ墓に供えられた物を片っ端から回収しながら歩いている。供え物は、食べ物が多いので価値の無い物がほとんどだが、中には生前を偲んでの事か、高価に見える器や細工物、場合によっては剣まで捧げられている。これらを回収して売り捌けば、結構な金になるだろう。普通は、あまりにも罰当たりなので誰もやらないのだが、悪人にはその様な枷は無い。
「あいつ、泣きながら『もうしません』とか言ってたくせに」
「もうしないと言ってた対象は結婚詐欺だと解釈するなら、別に嘘はついてないことになるけど」
「だとしても釈然としないわね」
「全くだ」
二人としては開山に天誅を下してやりたいが、実体を持たない彼女らには開山に手を出す手段が無い。二人の世話役の疫凶の様に冥府でも高位の存在になれば、自由に実体化する事も出来るだが、まだ未熟な二人にはその様な事は困難だ。
残念であるが、不愉快な行為を黙って見ているしかなかった。
「お? この墓、まだ埋葬されたばかりか? しめしめ」
墓荒らしを続けていた開山は、孫鈴の墓の土がまだ埋められて間もない事に気が付いた様だ。埋葬されたばかりの棺桶の中には、副葬品がまだ良好な状態で入っている。当然ながら高く売れる可能性が高い。また、高価な副葬品が無かったとしても、他の墓荒らしの被害に遭っていないなら、確実に銭を手に入れる事が出来る。
冥銭だ。
枢華世界において、死後の世界で銭に困らない様に遺体と共に銭を埋めるのは常識だ。これは、どれだけ貧しい者でもだ。例え身寄りが無く無縁墓地に葬られる時ですら、地域の住人が銭を出し合って死者に持たせてやるのだ。
この死者に持たせる冥銭は、本物の銭を使用するのが殆どだ。紙で出来た紙銭を燃やすことでも同じ効果が得られるのだが、まだ紙は高価な物だ。実は庶民にとっては本物の銭の方が手に入りやすい。
このため、棺桶を漁れば銭が手に入るのである。もちろん、褒められた行為ではない。
「へへへへ、こいつは掘りやすそ……ん? なんか変だぞ。まるで、逆に地面の中から掘っている様な? ぎゃああっ!」
孫鈴の墓を掘り返すため、短剣を手に地面に伏せていた開山は、何か異変に気付き掘るのを止めた。そして、地面に耳をつけて何かを聞き取ろうとした瞬間、開山の頭が土に埋まった。
そして次の瞬間、墓の前には一人の若い女性が立っていたのであった。
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