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北斗は仏頂面のままだったが、少佐は我に還ったように冷たい愛想笑いに戻る。醒めた目に見下ろされて、今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られた。
……でも。
「なにかな? 少年」
「……っ折檻って、どういうことですか! あなたは北斗を助けてくれたんじゃないんですか?」
楽しげに眇められていた瞳が、わずかに丸くなる。
「これは驚いた。震える子兎が急に吠える子犬になったじゃないか」
ばかにしてるのかと言いたかったが、今は僕の尊厳なんてどうでもいい。
僕より何回りも大きい身体を見上げながら、けっして引き下がらないように足を踏ん張る。
「北斗が僕を恨んでいても、新しい生活を幸せに送れてるならそれでいい。でも、そうじゃないなら――奴隷館にいたころと変わらない暮らしをあなたに強いられているんなら、放っておけません」
「君はどうするつもりなんだ?」
楽しげに顎をさする男を正面から見つめた。
「答えによっては、僕が北斗を連れて帰ります」
今度は鼻で笑われなかった。
「――私からプラウを奪う?」
そのかわり、全ての感情が抜け落ちたかのような無表情が僕を見下した。
「おもしろいことを言う。どこかへ連れ帰って、それで今よりもっと幸せにしてやるとでも言うのか。プラウの身も心も傷付けた君が、か?」
「……っそれは」
痛いところを突かれた。でもここで引き下がりたくない。
――今度会えたら、そのときこそ僕が北斗を守ればいい。
ユージーンがそう教えてくれたんだ。国境でできなかったことを今やり直したい。
「僕が傷付けてしまったからこそ、これからは守りたいんです。もう北斗につらい思いはさせたくない」
目線を逸らさないままじっと対峙していると、ウォールデンの手がすっと伸ばされた。
「私から守る、か。面白い。やってみるか?」
――逃げない。
ぎゅ、と目をつむった瞬間、ふわりと肩を抱き寄せられた。
「ごきげんよう、ウォールデン侯爵」
凍りついていた雰囲気が一瞬で温かい空気に変わる。
まぶたを開けて見上げてみれば、ユージーンが僕の隣に立っていた。
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