氷血辺境伯の溺愛オメガ

ちんすこう

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「いい人……なのかな?」

 後に取り残された僕たちは、なんともいえない顔で見つめ合う。

「北斗のこと――プラウって、何かあだ名で呼んでたけど。あの人なりに守ってくれてる、ような……」
「ひねくれてるんだよ」

 にべもなく言って、彼は僕の髪を撫でた。

「ユージーンの知り合いだったんだね」
「貴族同士であれば、嫌でも方々で顔を合わせるからね。
 王立軍の陸軍少佐……テオ・ウォールデン。中央のエリートだけど、北の端にある彼の生家は、ユスラ建国に貢献した古い名家でもある」
「建国……って、ユージーンのご先祖様と同じってこと?」

 ユージーンは頷いた。

「かつては戦友だったらしいな。今どき、その繋がりを意識することはないけどね。彼についてはあまり深く考えないことだ」

 そう言って、僕をぎゅうっと抱きしめてくれた。

「怖かったね」
「本音を言うと、足が震えそうだったよ」
「そうだろう」

 そばでシャンパンを飲んでいた燕尾服やドレス姿の貴族さまたちが、ぎょっとして僕たちを見る。
「氷血卿が」「あのリベラ様が」と、お決まりの囁き声が聞こえてくるのも構わず、ユージーンは僕を撫で続けていた。

「友達を守りたい、とウォールデン相手に啖呵を切った君は格好良かった」
「聞いてたの?」

 僕たちが見つめ合っている間に、会場に優雅な曲が流れ始めた。
 ユージーンは自然な動作で僕の手を取って、淀みないステップを踏む。

「もちろん。すぐにでも僕が出ていってあげたかったけど、そのときカナンの顔を見て――彼は、君が立ち向かうべき壁なのかもしれないと思った。だからそばで見守っていたよ」
「そうだったんだ……っわ!」

 手をぐるりと引かれた瞬間、足がもつれてしまう。
 もちろんダンスなんて踊ったことがないから、うまくユージーンのテンポについていけなかった。

「――っと」

 転びかけた僕を、彼は軽く受け止めた。その勢いを利用して、僕がこけたなんてなかったことにするように踊り続ける。

「ありがとう、ございます」
「初めは誰でも転ぶものだ」

 見上げた彼は……シャンデリアの明かりに照らされて、きらきら輝いていた。
 見た目の白さからは想像できないほど温かい掌に手を握られて、その胸に抱き寄せられる。
 二人一組の人ごみの中を器用にくぐり抜けて、広い会場を泳ぐように渡っていく。

「たとえ躓こうと、挑戦する君はたくましい。カナン、君はきっとこれからもっと強くなれる」

 ユージーンに手を引かれていれば、僕はこの広い海の中を進んでいける気がする。彼が誘導灯のように導いてくれるから。

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