39 / 65
10
「いい人……なのかな?」
後に取り残された僕たちは、なんともいえない顔で見つめ合う。
「北斗のこと――プラウって、何かあだ名で呼んでたけど。あの人なりに守ってくれてる、ような……」
「ひねくれてるんだよ」
にべもなく言って、彼は僕の髪を撫でた。
「ユージーンの知り合いだったんだね」
「貴族同士であれば、嫌でも方々で顔を合わせるからね。
王立軍の陸軍少佐……テオ・ウォールデン。中央のエリートだけど、北の端にある彼の生家は、ユスラ建国に貢献した古い名家でもある」
「建国……って、ユージーンのご先祖様と同じってこと?」
ユージーンは頷いた。
「かつては戦友だったらしいな。今どき、その繋がりを意識することはないけどね。彼についてはあまり深く考えないことだ」
そう言って、僕をぎゅうっと抱きしめてくれた。
「怖かったね」
「本音を言うと、足が震えそうだったよ」
「そうだろう」
そばでシャンパンを飲んでいた燕尾服やドレス姿の貴族さまたちが、ぎょっとして僕たちを見る。
「氷血卿が」「あのリベラ様が」と、お決まりの囁き声が聞こえてくるのも構わず、ユージーンは僕を撫で続けていた。
「友達を守りたい、とウォールデン相手に啖呵を切った君は格好良かった」
「聞いてたの?」
僕たちが見つめ合っている間に、会場に優雅な曲が流れ始めた。
ユージーンは自然な動作で僕の手を取って、淀みないステップを踏む。
「もちろん。すぐにでも僕が出ていってあげたかったけど、そのときカナンの顔を見て――彼は、君が立ち向かうべき壁なのかもしれないと思った。だからそばで見守っていたよ」
「そうだったんだ……っわ!」
手をぐるりと引かれた瞬間、足がもつれてしまう。
もちろんダンスなんて踊ったことがないから、うまくユージーンのテンポについていけなかった。
「――っと」
転びかけた僕を、彼は軽く受け止めた。その勢いを利用して、僕がこけたなんてなかったことにするように踊り続ける。
「ありがとう、ございます」
「初めは誰でも転ぶものだ」
見上げた彼は……シャンデリアの明かりに照らされて、きらきら輝いていた。
見た目の白さからは想像できないほど温かい掌に手を握られて、その胸に抱き寄せられる。
二人一組の人ごみの中を器用にくぐり抜けて、広い会場を泳ぐように渡っていく。
「たとえ躓こうと、挑戦する君はたくましい。カナン、君はきっとこれからもっと強くなれる」
ユージーンに手を引かれていれば、僕はこの広い海の中を進んでいける気がする。彼が誘導灯のように導いてくれるから。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命よりも先に、愛してしまった
AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。
しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、
2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。
その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。