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◇
暗いテラスに残されたのは、僕と、ウォールデンが置いていった空きグラスだけだった。
それをボーイに返してしまったら、後はもうすることがない。
どうしよう――と周りを見渡したとき、ユージーンと目が合った。
「カナン。待たせたね」
「おかえりなさい」
ユージーンの顔を見るとほっとする。
手を引かれて室内に戻ると、舞踏会はほぼ解散状態で、人がみんな帰っていくところだった。
「帰ろうか」
「……はい」
頷くと、ユージーンが声を落とした。
「カナンはこういう場所に来たことがないかと思って連れてきたんだけど……疲れさせただけだったかな」
「ううん」
上の空だった僕は、沈んだ声を聞いて慌てて否定した。
「そんなことないよ。新鮮で楽しかったし……ここに来なかったら、北斗に会えることもなかったから」
「君が愛しているのは彼?」
「え」
顔を上げると、感情のない瞳に見下ろされていた。
「愛……?」
「君は彼のもとに戻りたいの?」
建物を出て、宿までの帰り道を歩きながら、ユージーンは前をぼうっと眺めていた。僕を見もしない。
「僕、北斗のことは大好きだし、大切だよ。でも、ユージーンが言ってるのってそういうことじゃないよね」
来たときと同じですぐ隣に彼が立っているのに、二人の距離が遠い気がする。
「そうだよ」
ユージーンはぶっきらぼうに答えて、角を曲がった。この薄暗い小道を抜ければ泊まっている宿がある。
「僕はカナンと番いたい。それは、僕が君を好きだからだ。だけどカナンは――あの子に惚れてるんじゃないの?」
「違うよ!」
思わず声を荒らげてしまった。どうしてそんな誤解されたんだ。
「――そう?」
ユージーンが足を止め、僕を見下ろす。その目が見たこともないくらい冷たくて、どきりとした。
「触らせて、抱き締められて、額にキスさせるくらいなのに?」
「見てたの?」
ユージーンが横を向いて、一歩詰めてくる。その一歩が大きくて、僕はアパートの壁に追いやられてしまった。
「うん、見てた。すごく腹が立ったよ」
とん、と背中が壁について、反射的に肩が跳ねた。追い込むように顔の横に手をつかれて――ぶつかるように口付けられる。
「ん……っ!」
ちゅっ♡ ぷちゅ♡ くちゅくちゅ……♡
口の中でユージーンの舌が暴れて、荒々しく掻き回す。気持ちいいけど、息をする間もなくて苦しい。
「やめ、ユージーン、ぅっ……!」
耐えきれなくなって目の前の胸を叩くと、やっと解放された。
「っは、う……っなんで、こんなことするの、……っ!?」
相手の表情を確かめようとして顔を上げたとたん、ぎょっとした。
あの優しくて綺麗な顔は陰に隠れて見えない。
代わりに、暗闇に青い光が二つぽっかりと浮かんでいるように見えた。
「ユー、ジーン……?」
この人は、こんなに背が高かっただろうか。
『リベラ当主がジギタリスに番を閉じ込めた気持ちが、いま本当に分かった』
いつもより数段低い声。まるで狼が敵を威嚇するときの唸り声みたいに、ユージーンは喉から言葉を絞り出した。
ガチン、と首輪が鳴った。
暗いテラスに残されたのは、僕と、ウォールデンが置いていった空きグラスだけだった。
それをボーイに返してしまったら、後はもうすることがない。
どうしよう――と周りを見渡したとき、ユージーンと目が合った。
「カナン。待たせたね」
「おかえりなさい」
ユージーンの顔を見るとほっとする。
手を引かれて室内に戻ると、舞踏会はほぼ解散状態で、人がみんな帰っていくところだった。
「帰ろうか」
「……はい」
頷くと、ユージーンが声を落とした。
「カナンはこういう場所に来たことがないかと思って連れてきたんだけど……疲れさせただけだったかな」
「ううん」
上の空だった僕は、沈んだ声を聞いて慌てて否定した。
「そんなことないよ。新鮮で楽しかったし……ここに来なかったら、北斗に会えることもなかったから」
「君が愛しているのは彼?」
「え」
顔を上げると、感情のない瞳に見下ろされていた。
「愛……?」
「君は彼のもとに戻りたいの?」
建物を出て、宿までの帰り道を歩きながら、ユージーンは前をぼうっと眺めていた。僕を見もしない。
「僕、北斗のことは大好きだし、大切だよ。でも、ユージーンが言ってるのってそういうことじゃないよね」
来たときと同じですぐ隣に彼が立っているのに、二人の距離が遠い気がする。
「そうだよ」
ユージーンはぶっきらぼうに答えて、角を曲がった。この薄暗い小道を抜ければ泊まっている宿がある。
「僕はカナンと番いたい。それは、僕が君を好きだからだ。だけどカナンは――あの子に惚れてるんじゃないの?」
「違うよ!」
思わず声を荒らげてしまった。どうしてそんな誤解されたんだ。
「――そう?」
ユージーンが足を止め、僕を見下ろす。その目が見たこともないくらい冷たくて、どきりとした。
「触らせて、抱き締められて、額にキスさせるくらいなのに?」
「見てたの?」
ユージーンが横を向いて、一歩詰めてくる。その一歩が大きくて、僕はアパートの壁に追いやられてしまった。
「うん、見てた。すごく腹が立ったよ」
とん、と背中が壁について、反射的に肩が跳ねた。追い込むように顔の横に手をつかれて――ぶつかるように口付けられる。
「ん……っ!」
ちゅっ♡ ぷちゅ♡ くちゅくちゅ……♡
口の中でユージーンの舌が暴れて、荒々しく掻き回す。気持ちいいけど、息をする間もなくて苦しい。
「やめ、ユージーン、ぅっ……!」
耐えきれなくなって目の前の胸を叩くと、やっと解放された。
「っは、う……っなんで、こんなことするの、……っ!?」
相手の表情を確かめようとして顔を上げたとたん、ぎょっとした。
あの優しくて綺麗な顔は陰に隠れて見えない。
代わりに、暗闇に青い光が二つぽっかりと浮かんでいるように見えた。
「ユー、ジーン……?」
この人は、こんなに背が高かっただろうか。
『リベラ当主がジギタリスに番を閉じ込めた気持ちが、いま本当に分かった』
いつもより数段低い声。まるで狼が敵を威嚇するときの唸り声みたいに、ユージーンは喉から言葉を絞り出した。
ガチン、と首輪が鳴った。
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