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6【転生直後、俺は謎の美形執事に見守られていました。】
しおりを挟む……と、まあ、俺が転生した直後はこんな感じだった。
後からエドワードに聞いたところ、ユーリは納税が遅れている村の視察に向かう途中で落馬した。
それから半日、昏々と眠り続けていたそうだ。
以降俺が晒した醜態については、ここでは省略する。
とにかく俺はテンパって、ホワイトハート家の人たちからは正気を疑われ、散々な光景が繰り広げられたのだった。
「まさか、ご自分が誰であるか覚えておられないのですか?」
動揺してお湯をひっくり返したり、家中の鏡を覗きこんで回ったり、ほっぺを抓ってみたり。
思いつく限りの愚行をひとしきりこなした後で、俺は元のベッドに戻ってきていた。
青ざめている俺をエドワードが心配そうに覗き込む。
「あなたはホワイトハート家子爵、ユーリ・ホワイトハート様でございます。
御年十八歳で、こちらのお嬢様は妹君のレジーナ様であられます」
――その名前は。
ざわざわ、胸が掻き回されるような感覚に陥る。
その奇妙な焦燥感をこらえて、泣きそうな顔をしている青ドレスの金髪美少女――レジーナを見て、それから後ろに控えていた赤毛の美少女を見た。
「あの人は?」
「えっ」
エドワードは一瞬動揺を見せたが、それはすぐに端整な顔の下に隠された。
「あちらは、メイドのユマでございます。…………」
「?」
なにか言いたげな表情を見て、俺はあることを察した。
「もしかして、俺の婚約者だった?」
「は」
「違いますわ、お兄さま!
あの女はお兄さまを誑かして、うちに取り入ろうとしていた卑しい者です!」
だが、エドワードの目は『そうです』と告げていた。
それにレジーナの台詞を聞いて――俺の予想は確定した。してしまった。
――俺、『けど恋』の世界に転生してる!
しかもよりによって、ストーリー中盤で主人公とカイに悪事を暴かれ、国から追放されてその後消息不明になるとかいう不穏な役回りの悪役令息に!!!!
「ユーリ様、少し記憶がお戻りになられましたか」
「あ、ああ……馬から落ちたときに頭を打ったらしいな。
詳しいことはその、曖昧なんだけど、俺はユーリだな?
レジーナの兄で、ユマの元婚約者の」
とりあえず、俺はユーリとして振る舞うことにした。
これ以上テンパッてどこかの病院にぶちこまれたりしたら、それはひじょーーにまずい気がする。
転生システムのことはよく分からないけど、俺の本能が狂人ENDだけはやばいぞと囁いている!
「はい。ああ、おいたわしい」
本当に心を痛めている様子のエドワードに、俺は笑顔とも泣き顔ともつかない、あいまいな表情を浮かべた。
――内心の動揺は隠すことにしたが、これは一体どういう状況なんだ?
転生した、ってことは、俺は日本では死んだのか?
「……っ」
気を失う直前のことを思い出そうとすると頭が痛む。
自分が誰で、どこに住んでいたかは思い出せるのに。
俺は、羽白ゆう。
東京に住む高校三年生で、四月に十八歳になったばかりだ。
友達の顔も先生の顔も思い出せるし、家族も――。
「痛っ」
「ユーリ様!?」
「平気。ちょっと頭痛がしただけ」
体を支えてくるエドワードに片手を上げて、俺はこめかみのあたりを抑えた。
――顔が、わかんねー……。
なぜか両親の顔だけは、黒いマジックで塗り潰されたようだった。
あの人たちが話していた言葉も、いろんな音が混ざり合ってひどい雑音になる。
「……どうして――」
急に頭痛が増して、目の前がクラクラしてきたとき。
混濁した記憶の中に明るい光が差した。
「……奏」
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