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17【お兄ちゃん、弟じゃなきゃダメなんです】
しおりを挟む「殺しはしないよ。
そんなことしたら君を抱けなくなるじゃないか」
デイビッドは笑って、ほとんど脱げかけていた俺のズボンをずり落とす。
「ただ……怯える君は、すごく可愛い」
キッモ…………!
「~~~~っ」
粘着質な声が鼓膜に絡みつき、べったりとこびりつくような感覚。
言葉にならない気持ち悪さで身を震わせていると、あらぬところに指が這わされた。
「ひっ!?」
ぐぷ、と孔の中へ指がめり込んでくる。
「何をっ……!」
「こうしないと、ユーリが辛いんだよ?」
そこを触るということは。
デイビッドは本当にここで最後までやるつもりなんだ。
「嫌……っ!」
「平気だよ、大人しくしていれば痛くないから。ほら」
中で一本の指が蠢く。
すると、ぐちゅりと水気を含んだ音を立ててわずかに孔が緩んだ。
「う……っ」
「簡易魔法で指を濡らしてあるんだ。
この液体には媚薬作用もあるから、身を委ねていれば気持ち良くなれるよ」
「媚薬!?」
そんな……!
エロ小説でしか見たことない設定が『けど恋』の世界にあったのか!? えっあれって全年齢向けじゃなかったっけ!?
ぐちゅぐちゅと中を弄られながら、俺は必死でこの世界の設定を反芻する。
……うん、思い返してみてもえっちなシーンはなかったです。よかった、ユマ様がこんな目に遭ってたら俺ちょっとショックだったし。
だが、記憶を掘り返しているうちに毒霧カナリアの一件を思い出した。
没ネタ。
あらゆる作品には、表に出なかった没設定というものが存在する。
もしかすると『けど恋』もネタ出しの段階ではこんなシーンを書く予定があったのかもしれない。
……ん? 待てよ。だとすれば……。
考えを深めているうちに、別の問題にも気が付いた。
小説になっていない部分にも本当は色々なエピソードが練り込まれていたんだとしたら、このデイビッドという男も本来なら『けど恋』にいるはずだったのか。
ユーリに悪の道を進むようそそのかした男。
そもそもユーリが大虐殺を行うまで追い込まれる大元の原因を作った――リチャード・ホワイトハート子爵を殺した男。
原作にはないストーリーだけど、これらは『既定路線』なのか?
……待て。それなら――。
ユマがユーリに婚約破棄されたのは、この世界で一年前のこと。
ホワイトハート家の運命が一変した後の話なのだ。
思い出せ、ユマが婚約破棄を突き付けられたときにユーリが放った言葉を――。
「ユーリ様っ! どうしてですか? なぜ私との結婚を破談にされたのですか?」
『けど恋』冒頭のシーンだ。
ユマは家を失くして、ホワイトハート家に予定より早い身請けを願った。
公爵だった父親を亡くした彼女は、すでに祖父母もなく、母親を幼い頃に喪っていたので誰も頼る者がなかったからだ。
この国では女性や子供でも爵位を継ぐことはできるのだが、それは実際のところ難しい。
屋敷を保ち、使用人を雇い続けるお金を作る力が、まだ成人前のユマには足りなかった。
それでもユーリとの婚姻を早めて両家の資産を統合すれば、どうにかなる――もちろん、ユマがユーリを愛していることが前提で、手紙を送って逆プロポーズをした。
だけど、ユーリの答えは。
「君が公爵令嬢でなくなった今、わざわざ結婚する意味が見いだせない」
「えっ……?」
「使用人への退職金を払うため領地を手放し、会社を経営する手腕もない。そのような足手まといを娶るメリットが俺にあるか?」
外門の前で彼女を屋敷に入れることもなく、ユーリは氷のような瞳で見下ろした。
「当家には今、負債を背負いこむ余裕がない。すまないが二度とうちには来ないでくれ」
――そうそうそう、そうだった。
呆然とするユマの前で無情にも門扉は閉じられて、金でしか人を判断しない非道な男・ユーリが縁談を反故にするところから『けど恋』のお話が始まる。
だけど……。
本編にはなかった、俺の頭にだけ流れてきたユーリの記憶を思い出す。
あいつは冷たい吹雪に吹かれながらユマの名を呼んだんだ。
“ユマ。俺は……消えてしまいたい”
人を地位や資産で判断するような銭ゲバが、あんな殊勝なことを言うか?
それにユマがどうしてもと屋敷の外で座り込んでいると、若い執事長がやってきて、結局彼女を使用人として家に置くことが認められるんだ。
金目当てで婚約してなんの情も持っていなかった相手に、そこまでするか?
疑問を抱いたとたん、ユーリの身体に刻まれた残留思念のようなものがまた溢れ出してくる。
“あの男、ウィングフィールドと結ばれた彼女は、とても幸せそうに見えた。
……そう、これでよかったのだ。
いまの俺にあの人を幸せにする力はなかったのだから。
――酷く当たってしまい、すまなかった。
後悔しているが、ああするしかなかった。君は優しいから、本当のことを告げれば俺の傍を離れようとしなかっただろう。
俺と、共倒れさせるわけにはいかない。
せめてもの償いとして、この言葉は死ぬまで俺の心に秘めたまま、墓場まで持っていこうと思う“
「なんだ、この設定は……?」
俺は今自分が置かれている状況も忘れ、呟いていた。
ネットで気軽に読めるラブコメ小説にしちゃ、重すぎる。ああ、だから没になったんだ。
でもユーリ・ホワイトハートというキャラクターを構成する要素として、明るい物語の底にひっそりと沈められていた……。
消えてしまいたい、と本人が願うほどに苦しい人生が。
「……っ!」
また頭痛がする。
消えたい、自分の存在をなかったことにしたい、そのユーリの遺志が俺のなかにあるなにかを突く。
同時に心臓まで痛んできて、胸を掻き毟りたい衝動に駆られた。
けれど、拘束のせいでそれはできない。
「は……っ」
「媚薬が効いてきたかな?」
デイビッドが笑って、中に挿れる指を一本増やす。
――こいつ、諸悪の根源じゃねーか。
屑野郎に内臓を探られる不快感に呻いていると……無視できない違和感が生じた。
こりゅ、と指が何かに触れる。
「ふ……っ?」
びくりと腰を引くと、狙ったように同じ場所をぐりぐり押された。
「ぁっ、あう……っ」
「ここか」
「や、何っ? ひぁっ!」
おかしい。
気色悪くて仕方ないはずなのに、体は違う反応を示している。
萎えっぱなしだった前が緩く勃起して、たらりと蜜を零し始める。
ぐちぐちぐちと執拗に中を責め立てながら、デイビッドは熱い息をついた。
「ユーリの中、拡がっていってるよ……ほら、僕のを早く咥えたくって、こんなに……」
「ちが、ひっ……あ!」
ぐぷ、と二本の指で孔を広げられて、くぱくぱと開閉させられる。羞恥に耐えられず首を振って否定すると、デイビッドはより興奮を増しながら指を追加した。三本の指が肉壁をばらばらに蠢きながら、体内に媚薬入りの粘液を擦り込んでいく。
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