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33【はじめての夜】※
しおりを挟むホワイトハート邸に戻ると、俺と奏は即休養の処置を下された。
デイビッドとの闘いで酷く消耗した分を取り戻すためだ。
「わざわざ休養なんてさせてくれなくても、魔法でパパッと治したらいいのに」
俺たちのためにバタバタ支度してくれた屋敷の人に申し訳ない。だが、廊下の先を歩いていた奏が渋い顔をする。
「うーん……もちろん治癒魔法はあるけど、あれはあくまで体力の前借り的な応急処置だからね。
一番身体に負担がかからないのは、やっぱり自然回復じゃない?」
「そうなのか?」
魔法でパッと治して終わり、じゃないんだ。
首を傾げる俺に、奏が答える。
「俺たちの世界でいう、栄養ドリンクやドーピングと似たような原理だから。どうしても休む暇がないときのその場しのぎだよ」
「お前、ほんと詳しいなあ」
「それにさ」
奏は自分の寝室の前で足を止める。
そこで、こっちを振り返った。
「せっかく二人きりでゆっくりさせてくれるって言うんだから、お言葉に甘えてそうしない?」
微笑むと、俺の手を握ってくる。
雰囲気の変化を感じてつい体がこわばってしまう。
振り解く理由はないけれど、どんな顔をしたらいいのか分からない。
奏は俺の緊張を見てとって、溶けるように甘い笑みを浮かべた。
「俺、兄ちゃんを抱きたい。駄目?」
「……おっ、前は……! よくそんなド直球でっ」
なんとなく感づいていたことをはっきり口にされ、ぼっ、と顔が熱くなる。奏の目も熱っぽかったが、余裕のある笑顔で俺の手を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた。
「何年待ったと思ってんの。
もう、取り繕う余裕ねぇの」
「かな……っ」
名前を呼ぼうとした唇を塞がれて、優しく啄まれる。
「……ふ」
「今すぐ俺のものにしたい」
握られた手の指同士を絡めて、壁に押しつけられる。
言葉も態度も一方的なくせに、見下ろしてくる瞳は不安げに揺れていた。
「嫌なら逃げて。……今が、最後のチャンスだよ」
どうしていきなりそんなことを言い出すのか――と思うが。
でも兄弟だから、なんとなく考えてることは分かる。
前世から、俺たちはお互いしか縋るものがなくて、いつも二人ぼっちだった。
相手しかいなかった。
だから、奏が俺を好きだと言うのはひよこの刷り込みみたいなものじゃないか、と俺が疑うように――
――奏も、自分しかいないから俺が弟を受け入れようとしているんじゃないかと思っている。きっと。
「……今日まで勢いで来ちゃったけど、本当にいい?
もうユーリの体が危険にさらされることはないし、必ずしも俺と居る必要ないんだよ」
奏の行動原理はすべて俺なんだ。
突然結婚するなんて言い出したのも、俺の傍にぴったりくっついていたのも。
全部、兄を守るためだ。俺を生かすため。
その目的が達成された今は、自分の元にいなくてもいいと思っている。それも俺を思っての考えだ。
「お前はどうしたいの」
答える代わりに訊ねると。
俺を見つめる目が潤んで、ゆるく垂れ下がった。
「俺はっ、ゆうが好きだよ!
出会ったときから、ずっと、ずっと。
ホントは別れるなんて嫌だ。一生、俺と生きていてほしい」
声を震わせて叫ぶ奏の頬を撫でて、唇を寄せる。
「……いいよ」
触れ合うだけのキスをすると、俺は奏の首に腕を回して抱き返した。
「俺は奏のものになるよ。
その代わり、お前も俺のものになってほしい」
奏は長いまつ毛に縁取られた目を大きく見開く。
泣きそうな表情になって、俺の顔のあちこちにキスを降らせながら、
「あげる。
俺、いくらでもあげるよ、兄ちゃん限定大特価サービス。取り放題」
感動すればいいんだか、笑ってやればいいんだか分からないことを言った。
「ぁ、んっ」
寝室に入ってベッドに雪崩れ込むと、奏は黒いタキシードを脱ぎ捨てながら俺の首筋に噛みつき、服を乱していった。
着ていた白いジャケットを剥ぎ取られて、片手で器用にシャツのボタンを外される。
「奏……っ、あ」
俺の胸に顔を埋めている弟を呼ぶと、滑らかな流線を描く目が上を向いた。
「……っ」
焦げ茶の瞳に焼けつくような熱がこもって、心臓を鷲掴みにされた気分になる。
ぎこちなさを早口に誤魔化しながら、奏の肩に手を置く。
「待ってくれ、忘れてた。よく考えたら俺いま、絶対汗臭い」
『で?』とでも言いたげな顔で見られて戸惑う。
「だから、そんな舐め回すなって。それか、一回体洗ってくるとか……」
「それどころじゃない」
「ちょ、ひぁっ!?」
当てつけみたいに喉をべろり、と舐めあげられる。喉仏に軽く歯を立てられながら、ズボンをずり下ろされた。
「ゆうなら何でもいいよ。早く、欲しい」
「なぁ……っ」
熱っぽい顔で、掠れた声で言う奏の後ろに、ぶんぶん振られる尻尾の幻覚が見えた。ついでにぱたぱたする耳まで見えてくる。
犬っぽい――と思うのに。
「ゆう」
「んぅ……っ」
荒っぽく唇を貪られて、下半身にじかに熱い手が触れる。既に硬く芯を持ち始めているそこを強く擦られ、欲情を煽られていった。
「は、ぁ……っかな、んっ」
息継ぎのためにわずかな間解放されて、また深い口付けを交わす。――喰われそう。
「ふぁ……、奏ぇ……」
「ぽーっとしてるゆう、可愛い」
囁く声は砂糖を噛んだみたいに甘くて、体がぶるりと震える。
ぎらぎら光る目に見下ろされながら、犬っていうか狼だ――と思った。
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