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クイン

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『十四の夏と金魚すくい』

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 祭囃子まつりばやしが聞こえ出し、世知辛い初恋の終わりを告げた。失恋を経験した後に、恋愛成就の神様のお祭りにいくとは、なんて皮肉だ。横断歩道を渡りながら、後ろを振り返る。ここに至るまでの経緯はこうである――引退を控えたバトミントン部の先輩に思い切って祭りに誘おうと声をかけにいったら、美人(一つ上の先輩)とキスをしていた。さよなら十四歳の夏。

「お姉ちゃん。早く!」

 弟のゆうと(小学校一年生)がちんたら歩いている私を急かした。

 失恋に落ち込んでいるとお母さんに――今日、お祭りでしょ? ゆうとを連れて行ってあげて――と言われたのでしぶしぶ重い腰を上げて神社へと向かった。目的地に近づくにつれ、人の数が多くなっていく。よそ見をすればはぐれてしまいそうなので、弟のゆうとと手をつないだ。小さい頃は幼馴染のヒデトとよく行ったが、中学に上がる前に引っ越していった。それ以来、私は祭りに行っていない。

 出店が立ち並ぶ姿に弟のゆうとは感動し、はしゃいでいた。夜の出店でここまで喜ぶことができるなんて羨ましい限りだ。

 しばらく歩いていると鳥居が見えてきた。お参りでもして、失恋している気持ちを少しでも和らげようと、滅多にない信仰心をだしたところで、その光景が目に飛び込んできた。憧れの先輩があの美人の彼女と並んでいるところを目撃してしまったのだ。しかもこちらに向かって来ている。私はあわてて、弟のゆうとの手を引っ張り、その辺に出ている出店に飛び込んだ。金魚すくいの店だった。まあよい。ポイが破けるまで、この店で隠れられる。彼らが去るまで時間をつぶそうとポケットに手を入れた。

「ない!」

 ポケットに入れていた財布がない。どこで落としたのかわからない。なんてことだ、ゆうとの付き添いのお礼として、母がお小遣いを奮発してくれたのに……。私の様子を見て泣き出しそうな弟。泣きたいのはこっちだよコンチクショー……。

 そんな私の姿に同情したのか、金魚すくい屋のおじさんがポイを私と弟に『サービスだ』 と言って、渡してくれた。弟はすぐに上機嫌になったが、私はみじめな気持ちで仕方がなかった。

 そんな時である。金魚達がうごめく水槽の中に、掌サイズの大きさで十二単衣を着た和の美人が金魚の背に腰かけて、水上を遊覧している。私は目を疑った。弟のゆうとにあれ見て! といってもキョトンとした顔をして、すぐに金魚すくいに戻った。

――私にしか見えていないのだ。と私は確信する。

 そういえば死んだおばあちゃんに聞いたことがある。ここの神様は金魚が好きで時々、金魚を見にくるのだと。その時に、捕まえることができたら願いが叶うという言い伝えがあるのだとかなんとか――。

 その話を聞かされた時は笑っていたが、まさか本当だったとは……。

 私はポイを構えなおし、そっと神様の近くにポイをつける。そのまま気づかれないように近づけ、一気にすくおうとした所で、手を止めた。神様と目が合ってしまったのだ。私はなんだか、いけないことをしているのではないかという罪悪感に襲われ、気まずくなった。

 やめよう……。よく見れば金魚に乗って楽しそうにしているのに、水を差すのは悪い。それに私の叶えたいことはついえている。むしろこの貴重な体験を喜び、後世に伝えていこう。おばあちゃん、あの時は信じてあげなくてごめんね。と亡き祖母を偲んでいると、

「お姉ちゃん、次はスーパーボールすくいしたい!」

 と言われ、現実に引き戻された。肩を落としながら、弟のゆうとに辛い現実を言い渡そうとした瞬間、

――危ない! 

 という声が聞こえ、目の前にすごい水しぶきが舞い起こり、私は尻もちをついた。

「気をつけろ!」

 と金魚すくいのおじさんが声を荒げている。現状を把握するとこうだ――誰かが、スーパーボールで遊んでいたみたいで、それが金魚が入っている水槽に飛び込んできたのだ。おかげで、顔と服が少し濡れた。気づけばあの小さな神様も居なくなっている。ほんと踏んだり蹴ったりだ。

 そう落ち込んでいると隣から、

「大丈夫かい?」と声をかけられた。

「ええ、少し濡れただけです」

「大変だね。これ使って」

 とハンカチを渡された。礼を言って、ハンカチを受け取った。その際に相手の顔をみると、まあなんてイケメン。思わず見とれてしまった。

「あれ? みっちゃん?」

 と呼ばれて私はドキリとした。こんなイケメンの知り合いはいないはずだが……。

「ほら、僕だよ。ヒデト。昔よく一緒に祭りにいった」

「え! 嘘」

 驚いた。声をかけてきたのが、偶然にも幼馴染のヒデトだとは、昔は私よりも小さくて、鼻たれ小僧だったのが、今は見る影もない。彼は照れ臭そうに、

「最近こっちに戻ってきたんだ。親父の仕事の都合でね。みっちゃんにまた会いたかったからすごくうれしいよ」

 さわやかスマイルを向けられ、私の心拍数が上昇する。

「お兄ちゃん早く届けようよ」

 とヒデトの後ろから声がした。

「待ってくれよ。あ、これ妹のサエコ。覚えてる?」

 私は首を横に振る。

「そっか、あの時はまだ小さかったし、病弱だったからな」

 とかわいらしい浴衣を着た少女が、兄であるヒデトの足にしがみつきながら、こっちを見ていた。

――おや?

「それ……」

「ああ、さっきそこの鳥居で拾ったんだ。もしかしてみっちゃんの?」

 私は激しく頷く。

「そうか! それなら本当によかった」

 ヒデトはそう言って、私に財布を差し出した。私はというと両手にハンカチとすくった金魚を入れる器を持っていたため、すぐに受け取ることはできなかった。とりあえず、器の方を返そうと手元を見てとギョッとした。

 器の中にあの十二単を着た神様が、金魚の背に腰かけて優雅に扇子を仰いでいた。

 私は新しい恋の出会いに喜んだ。失恋の悲しみは、器の中の金魚が跳ねたと同時にどこかにはじけ飛んでいた。

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