短いお話

クイン

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『血と入れ子』

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 ビジネスが成功しそうとのことで前祝いに飲みにいった帰り、酔った勢いで、よく当たるという占い師のところにいき、占ってもらった。占いの結果、『一週間後にあなたの母親は死にます』という事を告げられた。

 その日はあまりにも大仰なことを言われ笑って帰った。母親とは一緒に暮らしているが、あの人は『憎まれっ子世に憚る』を体現したような人、あり得ないとこの時の私は思っていた。

 

 翌日、救急車で病院に搬送されたと病院関係者から連絡がきた。その時、私は仕事していた。

「もう、大げさね。ただの貧血で倒れただけで、精密検査なんかしなくていいのに」

 袖で口元を隠し、病院のベットで微笑でいる。あきれ口調でその後も何かを話していたが、私は上の空だった。

 あの占い師に占ってもらった直後のことで、半信半疑だったものが、急に現実味をおびてしまい不安と恐怖に心が染まっていった。

 そして三日経ち、検査の結果、母の胃に腫瘍があることがわかった。さすがの母も動揺していた。医師が言うには、発見が早いから手術をして、腫瘍を切除すれば大丈夫といわれたが、私の頭にはあの占い結果が、じわじわと広がっていく。

 蝉がやかましいほど鳴いている病院のテラスで、ベンチに座り、肩を落としていると、母と同じくらいの女性に声をかけられた。

「そう、お母さんが入院して……」

「はい。ぜんぜん母親らしくない人で、若い時は犯罪めいたことを平然とやっていたみたいなんです。どうなってもいいと思っていたんですけど、いざこんなことになったら、なんだか……」

「大丈夫よ。あなたみたいな母親想いの息子を残して、死にはしませんよ」

 そんなやさしい言葉をくれた彼女にどんな顔をしていいのかわからなかった。ただ黙っていると、隣に座っていた女性が私を覗き込む。

「すいません。ボーとしてしまって」

 女性は首を振る。

「不謹慎だったらごめんなさい。なんだか羨ましいと思ってしまって。私の一人息子は二十五年前に誘拐されてしまって、未だに消息は不明。警察も匙を投げているわ。そのおかげで離婚して独り身おばちゃんになってしまったわ。その上、重い病気にかかってしまったの。手の施しようがないと医者に宣告されたわ」

 そう言って、笑っている女性。――どうしてそんな状況で笑っていられるのだろう?

「なんだろう。子どもが生きていたら、あなたみたいに心配してくれるのだろうと思ってしまってね。ちょっぴりあなたのお母さんに嫉妬してしまったわ」

 女性は何か思いついた顔をした。

「あのーもしよろしければ、お母さんって呼んでくれませんか?」

 少し驚いたが、彼女の過去に同情しているので、私は承諾した。

「お母さん」

 と照れくさく呼んでみた。女性は〝ありがとう〟と震えた声で、頭を下げた。

 

 善行を積んだからかわからないが、母の手術は無事成功した。占いの結果では一週間後に死ぬと言われていたが母は元気そうだった。病は気から――といって仕事終わりに駆け付けた私の前で、お見舞いのリンゴをむしゃくしゃ食べていた。

 病室に置いているテレビからニュースが流れる。芸能人の不倫・詐欺事件等々の流れで最後に特集として、昔に起きた誘拐事件のことが流れた。当時の被害者の女性がそこに映っていた。よく見ると、昨日私と話していた女性に似ている。

「ちょっとテレビを消して」

 と言われ、テレビの電源を切る。

「年々、あーいったかわいそうなニュースを聞くのが嫌になったわ」

 といって眠いからと席を外してと言われた。

 私はまたあのテラスに行く。蝉の鳴き声はしていなかった。昨日の女性は来ていないみたいだ。なんだか不安を感じる。たまたま通りかかった看護師さんに聞いてみると、

「川田さんね。さっき亡くなったのよ。それで今息子さんが来てるわ」

 私はその言葉を聞いて、すぐ病室に案内してほしいと頼んだ。

 病室につくと中年の男性と女性がそこにいた。

「誰ですか?」

 不思議そうな顔をしている二人に私は問い詰めるように、

「あなたたちこそ誰ですか!」

 私は知っている。彼女にもう子供がいないということに。彼らはおそらく独り身の老人を家族と偽って、財産や所有物を奪おうとしている輩だと悟った。私は咄嗟に思い付いたことを述べた。

「私は彼女の本当の子です」

 そう言うと男と女は顔を見合わせこう言った。

「それでは証明できますか?」

 言葉に詰まった。相手は確実に偽物であるが、だからといって私も本物ではない。どうする……えーい、ここまでくれば勢いだ。

「だったらDNA鑑定をしましょう。確か、ここにはそういう設備もあったはず」

 傍らにいた看護師がすぐに準備しますと言って出ていった。

 

 あれから検査を受け、私は逃げるように病院を後にした。母にしばらく仕事でそちらにいけないと連絡を入れた。

一週間経ち、部屋の物を整理していると、インターフォンが鳴った。

――どうして……。私は驚愕した。それもそのはず、病院であったあの男と女がそこにいたからだ。

 しぶしぶとドアを開ける。

「はい」

「どうも。おそらくこちらに居られるのだろうと思ってきて正解でした。この前のDNAの結果を伝えに参りました」

 私の胸は張り裂けそうだった。この二人はきっと報復にきたのだ。そうじゃなければわざわざこんなところにまできたりはしない。インターフォンなんかでるのではなかった。

「DNA鑑定の結果から亡くなった川田ミエコさんとの血縁関係が認められました」

 自分の想像していたこととまったく違うことを言われ理解できなかった。

「申し遅れました。私は探偵をしていまして、生前の川田様に依頼を受けていました。川田様はお亡くなりになる前、ある占い師に誘拐された息子と再び会えるのかと占ってもらったところ、死を間近になった時に現れると告げられたそうです」

 この状況に目をぱちくりさせるばかりであった。

「ではなんですか? 私を育ててくれた母親は、私と血が繋がっていないということですか?」

 男は冷静に、「はい」と言った。

 衝撃の事実を告げられ私の頭は混乱の極みである。

「言うのをためらいますが、あなたの育ての母親にあたる方は、二十五年前の児童誘拐事件の犯人なんです」

 私は何も考えず、そうですか――と応えた。蝉は絶え間なく鳴き続けている。揺らぐ足元、私は今すぐこの場から立ち去りたかった。自分の今までの行為はあの人の血がそうさせているのではなかったのか? 

「それと、もう一つ。あなたはどうしてあの病院にいたんですか?」

「質問の意図が……」

「だってあなたの育ての母である女性は、あの病院に?」

 ひぐらしのきれいな鳴き声が響きわたる。

「なにもおっしゃらないのなら私から」

 背が低いが、威圧感のある女性が一歩前に出て、私を見据えた。

「ずばり、あなたはあの病院に入院している年配の女性にすりよって結婚詐欺を働こうとしていますね。あの人の資産をむさぼり尽くし、また別の女性へと移り変わる。その証拠にあなたは今、その女性の家で金目の物を物色していたのではありませんか?」

 くすくすと笑う女。

「失礼、彼女のことも紹介がまだでしたね。彼女、キュートな顔をしていますが立派な刑事さんなんですよ」

 ささ! と男は私に家から出てくるよう促した。女の方は、カバンから紙切れを出し、

「これが令状です。御同行をお願いします」

 言われるがまま、私は外へとでた。サイレンの音がけたたましく鳴り、蝉の声はもう聞こえなくなっていた。
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