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『セピア色の空』
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肩を三回、中指で叩く。その行動は彼女が、好意を示している人にする行為であった。
「よ! 久しぶり」
この晴天の空に似つかわしくない、なめらかなブロンドヘアーが、彼女を都会の色に染めていた。
「何年ぶりかな?」
小綺麗に化粧をした彼女は僕に訊く。
「十年ぶりだよ」
彼女はきょろきょろ辺りを見渡し変わらないねーと僕の顔を見ながら言った。
「東京は人を変えるというけど、本当にそうだと思わなかった」
「そうかな? まあ、こっちでは化粧なんかろくにしなかったもんね」
煌びやかな彼女。東京に行く前は、でかい黒縁眼鏡をかけて、あまりハッキリと話をするタイプではなかった。
「それにしても、君は変わらないねー。相変わらずごつい腕」
彼女は僕の腕をさする。なんとも照れくさく、悟らせないように鼻を掻きながら、鍛えたりしているから――と返した。
僕たちは久しぶりに肩を並べて歩いていた。彼女は終始なつかしい、なつかしいと連呼している。
「ねえ、ゆずるは元気?」
彼女は唐突に質問をしてきた。僕達兄弟は双子である。一卵性で、そっくりであった。小さい頃は村中の皆をだますことができた。大きくなれば、がたいの良い兄・ひょろひょろの弟と周囲からは見分けられた。
「ああ、元気だよ」
「ねえ、今忙しいかな?」
僕は返事を濁していると、向こうの方で警官が手を振っている。よく僕らに気づいたものだ。僕は関心しながら、手を振り返した。自転車のベルを二回鳴らし、警官は僕たちと反対の方に走っていった。
「大丈夫だよ、バレてない」
彼女は僕の後ろで肩を縮めていた。彼女は僕の言葉に顔をこわばらせた。
「知ってたの?」
彼女の言葉の意図がわからず沈黙する僕に、
「昔からそういう所あるよね。真っすぐでさ。曲がったことが嫌い。一度気を引きたくてゆずるに迫った時も、すごい剣幕で私に怒ったよね。まあ、それがきっかけで私は東京に行く決心がついたんだけど。そうよ、今回もだまそうと思ったの……。ゆずる、実家の農家を継いだんでしょ? 私のカモにできると思った。そう、取り込み詐欺だよ。聞いたことあるでしょ? やっぱり網張ってたんだね」
そう告白した彼女の表情は、あの頃の面影を一切残していない別の誰かであった。この十年で彼女の身の上に一体何が起こったのだろうか……。それから僕たちは無言で歩き続けた。よく遊んだ原っぱや川を通り過ぎ、それらすべてが遠く馳せていくのを僕は感じた。再び駅についた。
「一時間後に電車が来る。今度はどこに行くの?」
「わからないわ」
遠い目をした彼女はそういった。
「それじゃあ」
「ねえ」
立ち去ろうとした僕の腕を彼女は掴む。
「なんで捕まえないの? あなた警察官でしょ?」
僕は振り向き、彼女と見つめあった。青空はだんだんと茜色に染まっていく。
「おーい」
一人の男が僕たちの所に駆けてきた。その男は僕に瓜二つであった。
「ゆずる、すまん! 遅くなった……って、嘘! たえ子なのか! すげえ~都会の女になってる」
兄のみつるが、僕たち二人に申し訳なさそうにしている。彼女は狐につままれた顔をしていた。
「いやー、急遽本部から呼び出されてさ。山で人が遭難したから捜索隊に駆り出されちまってよ。たえ子に連絡する暇がなくて、ゆずるに代役を頼んだんだよ。それよりたえ子。ゆずる、いい体格になっただろ? もう昔の見分け方じゃ、俺たちを見分けることができないぜ」
何も知らず笑っている兄のみつる。僕は二人の肩を押し、
「さ、その事は歩きながら、二人で話して。たえ子ちゃんも後一時間しかないんだから」
兄のみつるはそうだなと言って、彼女の手を引いた。
遠ざかる二人を僕はじっと見つめていた。憧れたその光景……実際そうなってみると想像していたものと違っていた。夜の帳が二人を追いかけるように空を侵す。澄み切ったあの大空は、心の中ですらもう描かれることはないのだと僕は悟った。
「よ! 久しぶり」
この晴天の空に似つかわしくない、なめらかなブロンドヘアーが、彼女を都会の色に染めていた。
「何年ぶりかな?」
小綺麗に化粧をした彼女は僕に訊く。
「十年ぶりだよ」
彼女はきょろきょろ辺りを見渡し変わらないねーと僕の顔を見ながら言った。
「東京は人を変えるというけど、本当にそうだと思わなかった」
「そうかな? まあ、こっちでは化粧なんかろくにしなかったもんね」
煌びやかな彼女。東京に行く前は、でかい黒縁眼鏡をかけて、あまりハッキリと話をするタイプではなかった。
「それにしても、君は変わらないねー。相変わらずごつい腕」
彼女は僕の腕をさする。なんとも照れくさく、悟らせないように鼻を掻きながら、鍛えたりしているから――と返した。
僕たちは久しぶりに肩を並べて歩いていた。彼女は終始なつかしい、なつかしいと連呼している。
「ねえ、ゆずるは元気?」
彼女は唐突に質問をしてきた。僕達兄弟は双子である。一卵性で、そっくりであった。小さい頃は村中の皆をだますことができた。大きくなれば、がたいの良い兄・ひょろひょろの弟と周囲からは見分けられた。
「ああ、元気だよ」
「ねえ、今忙しいかな?」
僕は返事を濁していると、向こうの方で警官が手を振っている。よく僕らに気づいたものだ。僕は関心しながら、手を振り返した。自転車のベルを二回鳴らし、警官は僕たちと反対の方に走っていった。
「大丈夫だよ、バレてない」
彼女は僕の後ろで肩を縮めていた。彼女は僕の言葉に顔をこわばらせた。
「知ってたの?」
彼女の言葉の意図がわからず沈黙する僕に、
「昔からそういう所あるよね。真っすぐでさ。曲がったことが嫌い。一度気を引きたくてゆずるに迫った時も、すごい剣幕で私に怒ったよね。まあ、それがきっかけで私は東京に行く決心がついたんだけど。そうよ、今回もだまそうと思ったの……。ゆずる、実家の農家を継いだんでしょ? 私のカモにできると思った。そう、取り込み詐欺だよ。聞いたことあるでしょ? やっぱり網張ってたんだね」
そう告白した彼女の表情は、あの頃の面影を一切残していない別の誰かであった。この十年で彼女の身の上に一体何が起こったのだろうか……。それから僕たちは無言で歩き続けた。よく遊んだ原っぱや川を通り過ぎ、それらすべてが遠く馳せていくのを僕は感じた。再び駅についた。
「一時間後に電車が来る。今度はどこに行くの?」
「わからないわ」
遠い目をした彼女はそういった。
「それじゃあ」
「ねえ」
立ち去ろうとした僕の腕を彼女は掴む。
「なんで捕まえないの? あなた警察官でしょ?」
僕は振り向き、彼女と見つめあった。青空はだんだんと茜色に染まっていく。
「おーい」
一人の男が僕たちの所に駆けてきた。その男は僕に瓜二つであった。
「ゆずる、すまん! 遅くなった……って、嘘! たえ子なのか! すげえ~都会の女になってる」
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「いやー、急遽本部から呼び出されてさ。山で人が遭難したから捜索隊に駆り出されちまってよ。たえ子に連絡する暇がなくて、ゆずるに代役を頼んだんだよ。それよりたえ子。ゆずる、いい体格になっただろ? もう昔の見分け方じゃ、俺たちを見分けることができないぜ」
何も知らず笑っている兄のみつる。僕は二人の肩を押し、
「さ、その事は歩きながら、二人で話して。たえ子ちゃんも後一時間しかないんだから」
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遠ざかる二人を僕はじっと見つめていた。憧れたその光景……実際そうなってみると想像していたものと違っていた。夜の帳が二人を追いかけるように空を侵す。澄み切ったあの大空は、心の中ですらもう描かれることはないのだと僕は悟った。
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