奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part1

Б.г 目には目を - 07

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 まず、第一に、他人を痛めつけることだけに長けて、威張り散らしているような男に限って、自分が痛めつけられると、一気に形勢逆転することがある。

 ケンカ慣れしているようなゴロツキやら、ヤサグレなら、殴られ、蹴られ、反撃されても慣れているから尻込みしないだろうが、自分の痛みを知らずに、他人だけを痛めつけている奴に限って、自分の痛みに耐えらないというケースが多い。

 第二に、男の急所は、大抵、いつもすぐに思い浮かぶ場所だが、実は、その隣の方が更に敏感で、幅が小さい分、押し潰しやすい。

 まあ、どちらを取っても、男性にとってはご愁傷様……(南無南無) ――な状態になってしまうのだが。

「誰がそれを教えてやったんだ? うん?  ――さあ、ここ、もう一回、押し潰そうか?」
「(…………ぃぃっあぁぁっ……!#▼□●%※……っっっ……!!!!)」(注:声にならない悲鳴……)

 スッと、リアーガの足が離れていく。

 はっ……、はぁ……、はっっ……と、全身で激しい呼吸を繰り返している暗殺者も酸欠だ。

 視界は水の中にいるかのようにぼやけて、それでも、輪郭だけ見えて、何も見えなくて、股の間は、表現もできないほどの痛さが襲ってくる。

「誰に聞いたんだ?」
「…………っひ……ぅく……兵士……ヤコフ…………」

「そいつ誰だ? か? 仲良しこよし、の?」
「……ちが……金……積ませ、て……」

 ふうんと、リアーガは、もう、暗殺者に興味はないようだった。

 ただ、その冷たい視線だけが、王太子殿下に向けられる。責めるような、それ以上に、侮蔑を明らかに含んだ敵意丸出しの視線。

 王太子殿下の表情は硬く、隣にいるハーキンだって、グッと、怒りを押し込めるように、歯を食いしばっているほどだ。

「王太子殿下が狙われようと、そんなこと知ったことじゃないけど、そのせいで、マスターが傷つけられたなんて、絶対に許せないね」

 ベッドの傍らでセシルに付き添っているフィロが、あまりに淡々と、それを言い切っていた。

「確かにな」
「じゃあ、叩き潰そうか」

「当然だ」
「なにを――」

 突然、意味不明なことを口に出した二人に、王太子殿下が口を挟みかけた。

「うるせーよ。お前なんかに用はねーんだよ」

 隣国の王太子殿下に向かって、偉そうな口調だ。

 だが、リアーガは、王太子殿下など構わずに、さっさとテントから出て行ってしまった。

 その場に勝手に取り残されてしまった王太子殿下は、微かに困惑を映した視線を、後ろのフィロに向ける。

「あなたには関係ないよ。でも、この落とし前は、付けさせてもらうから」
「なにを――」

 反論しかけた王太子殿下を無視して、ツーンと、フィロがあからさまにそっぽを向く。

 王太子殿下に向かってこの非礼。信じられない態度である。


* * *


 テントの外で、数人の気配と足音がすると同時に、テントの入り口が、バサッと、開けられた。

 外から数人の――が中に走り込んできたのだ。

 全員が全員、真っ黒なマントにスッポリと身を隠し、頭もケープハットで隠れ、真っ黒な布で覆面をしている。
 真っ黒なの集団だった。

 王太子殿下と騎士団長を完全無視して(目にも入れず、目にも留めず)、その横をさっさと通り過ぎて、ベッドにいるセシルの元に全員が寄っていった。

「マスター……」
「……大丈夫、です……。心配を、かけました……」

 リアーガがさっさとテントを出て行ってしまって、全く状況が理解できずにその場に残されてしまった王太子殿下と騎士団長は、テント内に置かれている机の横で、椅子に座っていた。

 それからしばらくして、水の飲み過ぎのセシルの限界がやってきて、イシュトールに抱き上げられながら、(仕方なーく……) トイレの出番である。それも、そこらの野原で。

 だが、王太子殿下のテントも、奥まった場所に設置されていたので、そこから少し離れた場所の木々の影で、(本当に仕方なーく) 用を済ますセシルだ……。

 もちろん、その間、イシュトールとフィロが離れた場所で護衛をしてくれてはいるが、周り中ヤローばかり。気も休まる暇もないのに、外で用を済ませなければならない悲惨さ……。

 私、一応、このお話の主人公なのですけれどぉ……?

 ヤロー達に囲まれている場所で、お外で――(ものすごい仕方なく) に行かなければならないのです。
 普通、小説や漫画なんて、そこまで現実的な要求だって書かないでしょう?

 一体、どういうことなのかしら……(プンプン)!

 でも、このお話では、トイレだって必死です。なにせ、この時代ですからねえ。
 その必死さ。悲惨さ。セシルに取っては、全部、“現実”です。

 それで、テントに戻ってきてベッドに寝かされたセシルは、またも、水飲みの繰り返しである。

 せめて、塩でも、さっきのチリペッパーでも、なんでもいいから水の中に入れてしまえば、味のない水も、多少は刺激的になるのかしらねえ……?

 顔色が真っ青で、後ろに寄りかかってはいても、今にもセシルの細身の身体は、倒れ込んでいきそうな気配だ。

 それで、全員の表情が硬く曇っていく。

「これから、敵、叩き潰すから」

 その一言で、全員の注意が、一気にフィロに向けられた。

「どういうことだよ」
「王太子殿下を狙えば、戦の士気が下がるから、暗殺者」

「なんだよ、それっ」
「それで、マスターが巻き添えに?!」

「そう」
「許せねーっ」

 ギラギラと、覆面で顔を半分以上隠していても、露わになっている瞳だけが、ものすごい敵意を映す。

「絶対にね」

 サーっと、絶対零度まで下がったフィロの気配が、凍え縮みそうだ。

「当然だ」

 だが、残りの全員は、そんなフィロの様子を気にもかけない。

「目には目を、ってね」
「何するんだよ」

 フィロの瞳が、ほんの微かにだけ細められ、
「例えば――串刺し、とか?」

「うわぁ、相変わらずえげつないな」
「なに? 文句あるの?」

「いんや」
「全然」

 なにしろ、フィロは“悪の大玉”、“悪巧み大王”サマだ。逆らう方が間違っている。

 悪巧みにかけての天才的(それを更に上回る悪魔的) な能力を発揮し、苛烈で、加減もなく、そして、時には大人さえも、身を凍らせるほどの冷酷さをみせて、徹底的にこらしめる。

 スラム街にいた時だって、何度も、フィロの悪巧みに助けられたことがあるが、何度も、フィロだけは絶対に相手にしたくないな、と全員一致で思ったことだった。

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