奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
221 / 554
Part2

Б.в お茶会もこりごりです…… - 07

しおりを挟む
「強くなれなければ、泣けば良いのです。慰めてもらえば良いのです。怖ければ、そう言って、抱きしめてもらえば良いのです。国王陛下は、その程度で崩れ落ちるような、弱い殿方には見えませんでした」

「ええ、そうですわ……。アルデーラ様は、強いお方なのです。心が、とても強いお方なのです……」

「それなら、多少、王妃陛下が頼ったところで、問題になどなりませんでしょう? その代わりに、国王陛下が疲れた時、弱さを見せたい時、誰にも気兼ねせず、心を許せることができる唯一の存在場所が、王妃陛下、あなたなのですよ」

 もう、アデラには自分を止められなかった。
 ツーっと、瞳から涙が流れ落ち、今まで押さえつけて来た感情が、一気に溢れ出てくるかのように、涙が止まらない。

「これをどうぞ」

 テーブル越しから、セシルが自分の持っていたハンカチを差し出してきた。

「洗濯したばかりで、汚れていません。まだ使ってもいませんので」
「いえ……」

 そんな文句を口にしたつもりもないのに……。

 ふふと、アデラは笑いながら、涙をこぼす。
 セシルからもらったハンカチで、目元を押さえていく。

「弱さを見せ合っても文句は言われず、怖れることもない唯一の相手、居場所がお二人であれば、どんな時でも、これから二人で支え合っていけるでしょう。一日に一時間程度、誰にも邪魔されない「人」 としての時間、「夫婦」 としての時間、そういった時間を持つことで、自分自身をさらけだしても良いのです」

 そこで、セシルが自分の手を胸に押し当てるようにしてみせる。

「王妃陛下、心に溜まった不安を出しても良いのですよ。そういった負の感情は、いつまでも根付いてしまうものです。脳が記憶したまま、ずっと忘れないものなのです。そういった負の感情を溜めていては、何かの拍子に、簡単に崩れ落ちてしまうこともあります。それこそが、隙を見せてしまう、作ってしまう最大の弱さ。ですから、文句を言われたのなら、「崩れないよう強く進んで行けるように、充電が必要なのだ」 と、文句を言い返せば良いのです」

「じゅうでん?」

「人は、食事を取らなければ死んでしまいます。水分を摂取しなければ、死んでしまいます。それは、人が生きていくことで、動いていく過程で、必要不可欠な要素ですから。それと同様に、強く進んで行ける為に、心にも、ゆとりが必要となってくるでしょう」

 それを話しているセシルの手が胸から離れ、そっと、目の前の紅茶のカップを、手の平で蓋をするようにした。

「このように、グラスでもコップでも、一杯に水を注ぎ入れ、それ以上、注ぐこともできない場で、お水を注いだらどうなりますか? 溢れて、お水がこぼれだしてしまうでしょう?」
「え、ええ……、そう、思いますわ」

「人の心も同じです。ストレスや、負の感情が溜まり過ぎては、心も許容できなくなってしまうのです。ですから、それを減らしていく努力が、必要となるでしょう。それが「充電」 です。楽しいことや、嬉しいこと、安心すること、そういった心に温かい感情で、また力を溜めていく過程のことです。グラスのお水が減ったのなら、また、次の問題やストレスにも。対応できていけるでしょう」

「――――そのようなお話は……、初めてお聞きしましたわ」

「お水は、ただの例えです。ただ、心だって、受け止められることができる許容量があるのですよ。それを超えているのに、更に無理をしてしまったら、心が壊れてしまう。心が壊れてしまったら「人」 としての本質も失い、『王妃』 の仕事どころではないでしょう?」

「そう、かもしれません……」

「弱さを見せるのがお二人だけの間でなら、誰にも知られることはありません。『王妃』 でいる時は、その顔をして、その仕事をして、その責任を果たすように努力なされば良いのです」

「そう……、ですか……。――そのような、お話も……、初めてお聞きしましたわ」
「いい世間話には、なったのではないでしょうか?」
「世間話……。――それも、無理な、お話でしょう……?」

 一体、どこをどうとったら、これだけ――大真面目な話をしておいて、“世間話”などで済ませることができるのだろうか。

 ふふと、アデラがまた笑んでいた。
 ハンカチで濡れた目元を拭きとると、今は――なぜか、少しだけ、心が晴れた気分だった。

 少しだけ――あまりに苦しかったおもりが、軽くなったかのようだった。

「泣くと言う行為は、ストレス解消の一つでもあります」
「ストレス、解消……?」

「ええ、そうです。体の中に溜まっているストレス、心に溜まっている苦しみ、そういったものを、身体的に体内から排除する行為となり、そのように脳も記憶するのです」

「はあ……」

「そして、感情的な涙は少しだけしょっぱいのですよ。ただ、疲れている時などに涙が出てくる時は、それほど味はしないのです」
「そうなのですか……?!」

 それは初耳で、アデラも素直に驚いている。

「ハンカチを舐めて確認なさっても、誰にも言いませんが?」
「まあっ! そのようなはしたないこと……っ」

 ふふふと、それで、アデラもそこで笑い出してしまった。

「それは、さすがに無理ですわ。わたくしの矜持きょうじも、許しませんもの」

「そうでしたか。涙を出すと、体内で分泌されている要素が少し変わり、気分を高揚させる効果が出てきます。ですから、あまり涙を溜め過ぎず、泣きたい時は、お泣きになればよろしいのですよ。その後は、少しスッキリした気分におなりになるでしょう」

「そう、ですか……」

 その行為をアデラ自身がするかどうかは、まだアデラ自身も分からない。
 だが、今は、アデラの心も――久しぶりに落ち着いていた。

 アデラがセシルを真っすぐに見返し、微笑みをみせる。

「――セシル様、とお呼びしても、よろしいかしら……?」
「セシル、とお呼びくださいませ」

「――セシル?」

 セシルは何も言わなかったが、自分の名前を呼び捨てにしてもいいから、王妃に敬語やら礼儀を取られるのは、どうにも嫌そうな雰囲気である。

 ふふ……と、アデラもつい笑ってしまい、

「今日は……、お時間をいただいて、このようにご一緒できたことを、嬉しく思いますわ」
「私も、このようにもてなしていただいて、とても光栄に存じます」

「本当ですか?」
「もちろんです」

 にこやかに返すセシルに、にこやかに笑って返すアデラだ。

 本心を誤魔化して、にこやかに笑みを浮かべ続けて腹の探り合い――など、アデラにはお手の物だ。

「まあ、それはよろしゅうございましたわ。また、このような機会に恵まれることを、わたくしも願っておりますわ」
「――そのようなお言葉をいただいて、私も光栄に存じます」

 ほほほほほと、どこまでも上品で、たおやかな姿勢が崩れないアデラのお茶会は、まだ、もう少しだけ続くのだった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

処理中です...