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第一章
目をつけられた
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両者動かぬまま互いの目をにらみ合う時間が流れた。
場の沈黙を破ったのは祥文帝の実弟、焔将だった。
「見事! 見事!」
ひろげた扇子で手をうちあわせながら席から立ち上がり、庭近くへと姿を現した。
間近に見る焔将は祥文帝よりはるかに偉丈夫で、日頃から鍛錬しているのであろうことがひと目でわかる。
扇子を弄びふざけた態度の男だと思ったが、手合わせすれば未令は簡単に負けてしまうかもしれない。
焔将はそのまま歩いてくると緑香に向けられた薙刀をつかみ、未令の手から薙刀をもぎ取った。
間近に迫った刀の恐怖から解放された緑香がほっとしたように一歩後ろに下がる。
そのとたん、ざわめいていた木々が一気に収縮し元の位置に戻り本来の姿におさまる。
庭のあちこちには、戦いの痕跡で切られた枝や、木屑が飛び散っている。
焔将は薙刀を奪われ顔色をなくしていた門番にそれを返してやると祥文帝に向き直った。
「兄上。すばらしい薙刀の遣い手ではありませぬか。木の血族を見事におさえこんだ。力がなくとも血族に勝つことができる。そのことを自ら示したのです。いや、見事」
焔将は「愉快愉快」と言いながら、ちっとも愉快そうな顔はせず未令を見下ろした。
肩で大きく息をしていた未令は、焔将のその視線を真正面から受け止める。
そんな未令の物怖じしない様子をしばらく見ていた焔将は何を思ったのか。
突然、未令の腕をとると一気に階上へと引き上げ、未令を抱き上げた。
あっという間の出来事で何が起こったのかわからなかった。
相手の動きを読むことも、咄嗟にかわすこともできず、気がついたら焔将の腕のなかだった。
思った以上に筋肉のしっかりついた体躯に抱きとめられ、すぐ目の前にある焔将の端整な顔に未令は心臓が飛び出るほど驚いた。
離してほしくて身動きしようとするがびくりともしない。
焔将は何食わぬ顔で未令の動きを封じ、抱え上げたまま祥文帝に向き直った。
「この者、有明に会わせてやってもよいですよね」
「時有の孫というので、期待しておったのじゃがな」
「血族といえど、術者としての力を持たない者は珍しくありますまい。いくら時有の孫といえどそれは同じこと。あのように身に迫る危険があっても力を発揮しなかったのです。この者に術者としての才はありますまい」
祥文帝といえど実弟の焔将のいうことには耳を傾けるようだ。
「焔将、そちの言う通りじゃな。時有の息子である有明の力もさほど強いものではなく、弟の康之にいたっては力はなかった」
「左様にございます。しかし薙刀の腕は見事。よい遊び相手となりそうです。この娘、私にお預けください」
祥文帝は、値踏みするように未令の全身を隈なく見た。
鑑定される物のような、不快な気持ちがしたが、ぐっとこらえる。やがて、
「おまえも物好きだな」
祥文帝は焔将を見、有明との目通しもその女も好きにするとよいと告げ、席を立った。
祥文帝が退出すると続いて晴澄、緑香も後に続き、涼己は階上へと上がってきた卓水と二言三言言葉を交わしてから出て行った。
「焔将さま。未令ちゃんを下ろしてあげて」
身動きできず固まっている未令を見た卓水が焔将にいうと、焔将は未令をおろした。
「卓水のお気に入りだったのか? 悪かったな」
「そういうのんじゃないよ」
口では悪いといいながら何も思っていないふうだ。
抱き上げたときは強引だったわりに、未令の体をそっと床へと下ろした焔将は、未令の手をとると軽く口付けた。
「また夜に会おう」
未令の手を離すと、優雅に身を翻して出て行った。
手の甲にキスって……。
ありえない。
驚いて口をパクパクさせていると卓水が拗ねたように唇を尖らせる。
「焔将さまに目をつけられちゃったね」
厄介だといわんばかりだ。
何か問題でもあるのかと訊くと、祥文帝お墨付きで好きにしてよいといわれた意味がわからないのかと逆に訊きかえされた。
「わからないけど父には会えるんだよね」
うきうきして答えると「まぁいっか……」と卓水は息をついた。
場の沈黙を破ったのは祥文帝の実弟、焔将だった。
「見事! 見事!」
ひろげた扇子で手をうちあわせながら席から立ち上がり、庭近くへと姿を現した。
間近に見る焔将は祥文帝よりはるかに偉丈夫で、日頃から鍛錬しているのであろうことがひと目でわかる。
扇子を弄びふざけた態度の男だと思ったが、手合わせすれば未令は簡単に負けてしまうかもしれない。
焔将はそのまま歩いてくると緑香に向けられた薙刀をつかみ、未令の手から薙刀をもぎ取った。
間近に迫った刀の恐怖から解放された緑香がほっとしたように一歩後ろに下がる。
そのとたん、ざわめいていた木々が一気に収縮し元の位置に戻り本来の姿におさまる。
庭のあちこちには、戦いの痕跡で切られた枝や、木屑が飛び散っている。
焔将は薙刀を奪われ顔色をなくしていた門番にそれを返してやると祥文帝に向き直った。
「兄上。すばらしい薙刀の遣い手ではありませぬか。木の血族を見事におさえこんだ。力がなくとも血族に勝つことができる。そのことを自ら示したのです。いや、見事」
焔将は「愉快愉快」と言いながら、ちっとも愉快そうな顔はせず未令を見下ろした。
肩で大きく息をしていた未令は、焔将のその視線を真正面から受け止める。
そんな未令の物怖じしない様子をしばらく見ていた焔将は何を思ったのか。
突然、未令の腕をとると一気に階上へと引き上げ、未令を抱き上げた。
あっという間の出来事で何が起こったのかわからなかった。
相手の動きを読むことも、咄嗟にかわすこともできず、気がついたら焔将の腕のなかだった。
思った以上に筋肉のしっかりついた体躯に抱きとめられ、すぐ目の前にある焔将の端整な顔に未令は心臓が飛び出るほど驚いた。
離してほしくて身動きしようとするがびくりともしない。
焔将は何食わぬ顔で未令の動きを封じ、抱え上げたまま祥文帝に向き直った。
「この者、有明に会わせてやってもよいですよね」
「時有の孫というので、期待しておったのじゃがな」
「血族といえど、術者としての力を持たない者は珍しくありますまい。いくら時有の孫といえどそれは同じこと。あのように身に迫る危険があっても力を発揮しなかったのです。この者に術者としての才はありますまい」
祥文帝といえど実弟の焔将のいうことには耳を傾けるようだ。
「焔将、そちの言う通りじゃな。時有の息子である有明の力もさほど強いものではなく、弟の康之にいたっては力はなかった」
「左様にございます。しかし薙刀の腕は見事。よい遊び相手となりそうです。この娘、私にお預けください」
祥文帝は、値踏みするように未令の全身を隈なく見た。
鑑定される物のような、不快な気持ちがしたが、ぐっとこらえる。やがて、
「おまえも物好きだな」
祥文帝は焔将を見、有明との目通しもその女も好きにするとよいと告げ、席を立った。
祥文帝が退出すると続いて晴澄、緑香も後に続き、涼己は階上へと上がってきた卓水と二言三言言葉を交わしてから出て行った。
「焔将さま。未令ちゃんを下ろしてあげて」
身動きできず固まっている未令を見た卓水が焔将にいうと、焔将は未令をおろした。
「卓水のお気に入りだったのか? 悪かったな」
「そういうのんじゃないよ」
口では悪いといいながら何も思っていないふうだ。
抱き上げたときは強引だったわりに、未令の体をそっと床へと下ろした焔将は、未令の手をとると軽く口付けた。
「また夜に会おう」
未令の手を離すと、優雅に身を翻して出て行った。
手の甲にキスって……。
ありえない。
驚いて口をパクパクさせていると卓水が拗ねたように唇を尖らせる。
「焔将さまに目をつけられちゃったね」
厄介だといわんばかりだ。
何か問題でもあるのかと訊くと、祥文帝お墨付きで好きにしてよいといわれた意味がわからないのかと逆に訊きかえされた。
「わからないけど父には会えるんだよね」
うきうきして答えると「まぁいっか……」と卓水は息をついた。
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