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第二章
取り壊される
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もう少しここにいろと言う焔将とすったもんだの挙句、ようやく焔将邸を出ると黒い色のお仕着せを着た卓水付きの女官が待ち構えていた。
水晶邸に戻ると卓水は明らかに湯を使ったとわかるこざっぱりとした未令の姿にショックを受けたようだ。
「焔将さまのやつ。手が早いったらないよな」
勘違いされても仕方のない状況だっただけに未令が何もなかったよというと思い切りうろんげな目を向けられた。
「うそだ。あいつが目をつけた女をものにしないなんてことはこれまで一度だってなかった」
「だからほんとだって」
「それにその衣。焔将さまの御印である北斗七星が描かれてる」
「あ、これ?」
かわいいデザインだなと思っていたが、卓水によると北斗七星は焔将のための御印で、焔将に連なる者にしか着用を許されないデザインだそうだ。
それを着ているということが全てを物語っているらしい。
卓水は「まったく…」とぶつくさ言いながら、紫檀の扉がある部屋へと案内してくれた。
「あの、そうだ康夜のことなんだけど……」
側妃がなんだと大わらわですっかり抜けていたが、まだ肝心なことを聞いていなかった。
「わたしのいとこの康夜もこっちに来てるって聞いたんだけど……」
康夜とはすれ違いばかりでここ数日顔を合わせていない。
「ああ、康夜ね。来たよ」
卓水はあっさりと頷く。
「奈生金が連れてきた。同じように祥文帝の前で緑香にやられて、術者として目覚めたよ」
「そうなの……?」
ということは康夜は火を操れるようになったのだろうか…。
「術者に力を目覚めさせるには色々な方法があるけど、身を危険にさらすのが一番手っ取り早いんだよ。康夜は未令ちゃんみたいに薙刀で応戦するでもなかったから、力に目覚めるまでは相当痛めつけられてたよ」
「……そう、なんだ」
確かに未令は心得があったし運動神経もそれなりだ。
対して康夜は運動は苦手だったし、普通あんな風に宙づりにされたら何も出来ない。
「それで、康夜は? もう日本に還ってるんだよね」
「まさか。力があるとわかった康夜を、祥文帝が還すわけないよ」
「えっ……。じゃあまだ平安国にいるの?」
「だろうね。火の血族に引き取られて、そこの屋敷で暮らすことになるはずだよ。それぞれの血族には役目があるから、康夜にも仕事が割りあてられるだろうね」
「あの、回廊の明かりを灯す役とか?」
さきほど宮城内で火を灯して回る赤い髪の女性達がいた。
「そうだね、それも仕事の一つかな」
ではここ数日康夜は家に帰っていなかったのだろうか。
そんなこともわからないくらい、同じ家に暮らしておきながら康夜のことを知らない。
でもそれならそれで叔父夫妻が黙っているとも思えないが……。
「だからある意味、未令ちゃんは幸運だったんだよ。もし術者として目覚めていれば、今頃未令ちゃんも火の血族に引き取られてたはずだからね。あるいは術者としての力がなくても、火の集団に入って下働きだ。それも焔将さまに引き取られたおかげで免れてるってわけだよ」
こうして日本へ還れるのは、焔将のおかげでもあるのか。
いきなり側妃だなんだと言われ、思いっきり噛みついたが、未令の自由を確保してくれたということのようだ。
「でも力があるほうがこの国では偉いんでしょう?」
せめて康夜が窮屈な思いをしていなければいいと思った。けれど、
「そんなことない。窮屈なことのほうが多いよ。帝をお守りする要だからね。訓練もしなければいけないし、日々の役割もあるしで、それなりに大変だよ。ま、位が高いっていうのは本当だけどさ」
宮城内を少し歩けばわかっただろう?と卓水。
女官のみならず、文官のような年配の者まで、すれ違う者みな、卓水に頭を下げていた。
ここでの暮らしがどんなものなのか。想像もつかないが、康夜は還りたくないのだろうか。
叔父夫妻は日本に留まっている。学校もあるし、きっと還りたくないはずがない。
「康夜を、日本に連れて還れないのかな」
「無理だろうね」
あっさりと卓水は否定する。
「そんな自由はないと思ったほうがいいよ」
「そんな……」
紫檀の扉にかけていた手を思わず離した。
「康夜に会いに行けるかな」
康夜の意思を確かるため会っていくべきだ
そう思ったが卓水は未令を扉の向こうへと押しやった。
「とりあえず今は還ったほうがいいよ。いつ、還れなくなるかわからないからね」
「……それってどういう意味?」
「紫檀の扉は取り壊されることが決まっているからね」
取り壊される……?
卓水の言葉に絶句した。
水晶邸に戻ると卓水は明らかに湯を使ったとわかるこざっぱりとした未令の姿にショックを受けたようだ。
「焔将さまのやつ。手が早いったらないよな」
勘違いされても仕方のない状況だっただけに未令が何もなかったよというと思い切りうろんげな目を向けられた。
「うそだ。あいつが目をつけた女をものにしないなんてことはこれまで一度だってなかった」
「だからほんとだって」
「それにその衣。焔将さまの御印である北斗七星が描かれてる」
「あ、これ?」
かわいいデザインだなと思っていたが、卓水によると北斗七星は焔将のための御印で、焔将に連なる者にしか着用を許されないデザインだそうだ。
それを着ているということが全てを物語っているらしい。
卓水は「まったく…」とぶつくさ言いながら、紫檀の扉がある部屋へと案内してくれた。
「あの、そうだ康夜のことなんだけど……」
側妃がなんだと大わらわですっかり抜けていたが、まだ肝心なことを聞いていなかった。
「わたしのいとこの康夜もこっちに来てるって聞いたんだけど……」
康夜とはすれ違いばかりでここ数日顔を合わせていない。
「ああ、康夜ね。来たよ」
卓水はあっさりと頷く。
「奈生金が連れてきた。同じように祥文帝の前で緑香にやられて、術者として目覚めたよ」
「そうなの……?」
ということは康夜は火を操れるようになったのだろうか…。
「術者に力を目覚めさせるには色々な方法があるけど、身を危険にさらすのが一番手っ取り早いんだよ。康夜は未令ちゃんみたいに薙刀で応戦するでもなかったから、力に目覚めるまでは相当痛めつけられてたよ」
「……そう、なんだ」
確かに未令は心得があったし運動神経もそれなりだ。
対して康夜は運動は苦手だったし、普通あんな風に宙づりにされたら何も出来ない。
「それで、康夜は? もう日本に還ってるんだよね」
「まさか。力があるとわかった康夜を、祥文帝が還すわけないよ」
「えっ……。じゃあまだ平安国にいるの?」
「だろうね。火の血族に引き取られて、そこの屋敷で暮らすことになるはずだよ。それぞれの血族には役目があるから、康夜にも仕事が割りあてられるだろうね」
「あの、回廊の明かりを灯す役とか?」
さきほど宮城内で火を灯して回る赤い髪の女性達がいた。
「そうだね、それも仕事の一つかな」
ではここ数日康夜は家に帰っていなかったのだろうか。
そんなこともわからないくらい、同じ家に暮らしておきながら康夜のことを知らない。
でもそれならそれで叔父夫妻が黙っているとも思えないが……。
「だからある意味、未令ちゃんは幸運だったんだよ。もし術者として目覚めていれば、今頃未令ちゃんも火の血族に引き取られてたはずだからね。あるいは術者としての力がなくても、火の集団に入って下働きだ。それも焔将さまに引き取られたおかげで免れてるってわけだよ」
こうして日本へ還れるのは、焔将のおかげでもあるのか。
いきなり側妃だなんだと言われ、思いっきり噛みついたが、未令の自由を確保してくれたということのようだ。
「でも力があるほうがこの国では偉いんでしょう?」
せめて康夜が窮屈な思いをしていなければいいと思った。けれど、
「そんなことない。窮屈なことのほうが多いよ。帝をお守りする要だからね。訓練もしなければいけないし、日々の役割もあるしで、それなりに大変だよ。ま、位が高いっていうのは本当だけどさ」
宮城内を少し歩けばわかっただろう?と卓水。
女官のみならず、文官のような年配の者まで、すれ違う者みな、卓水に頭を下げていた。
ここでの暮らしがどんなものなのか。想像もつかないが、康夜は還りたくないのだろうか。
叔父夫妻は日本に留まっている。学校もあるし、きっと還りたくないはずがない。
「康夜を、日本に連れて還れないのかな」
「無理だろうね」
あっさりと卓水は否定する。
「そんな自由はないと思ったほうがいいよ」
「そんな……」
紫檀の扉にかけていた手を思わず離した。
「康夜に会いに行けるかな」
康夜の意思を確かるため会っていくべきだ
そう思ったが卓水は未令を扉の向こうへと押しやった。
「とりあえず今は還ったほうがいいよ。いつ、還れなくなるかわからないからね」
「……それってどういう意味?」
「紫檀の扉は取り壊されることが決まっているからね」
取り壊される……?
卓水の言葉に絶句した。
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