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第三章
協力者
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「取り壊されるって、どうして?」
「それはもちろん、もう用済みだからだよ」
日本へ逃げた時有と鈴は連れ戻され、その息子である有明も平安国で囚われの身だ。
康夜もこちらに来て、未令に力のないことはわかった。
「でも、まだ康之叔父さんがいるよね。時有の息子という点ではお父さんと同じでしょ?」
「康之に力がないことはわかっているんだ」
「どうして?」
康之叔父さんも平安国へ行ったことがあるのだろうか…。それなら父の行方も知っていたことになる。
「十年前、有明に接触したとき奈生金は康之のところにも行って、力に目覚めるかどうか何度か試したようなんだ。でも康之はその兆候が全くなかった」
「そうだったんだ……」
「だからね未令ちゃん。祥文帝にとって日本はもう用済みなんだよ。きっと近いうち康夜はこちらに永久に留まるよう祥文帝に命じられるはずだ。康夜がこっちの住人になった時点でこの扉も破壊される」
「破壊って……。じゃあもう平安国と日本は行き来できなくなるってこと?」
「そうだよ。だから還るなら早く日本へ還ったほうがいい。でないと一生ここで暮らすことになる」
「でもお父さんはまだ捕まったままなのに」
あの水の牢に閉じ込められたままの父を残し、康夜も見捨て、自分ひとり日本へ還れというのだろうか。
だからといってあの長いトンネルのような廊下を行き、四人の水の血族の見張りが立つ牢からどうやって父を助け出せばいいのか。
さらに祥文帝の目をかいくぐり、父と康夜を日本へ連れ還る。
どれも実現できそうにない。
「有明のことは諦めた方がいいよ。仮に水牢から助け出せたとしても祥文帝はまた奈生金を差し向けてくる。逃げても意味がないよ。連れ戻されれば今以上にひどい状況に置かれるかもしれない」
だから未令一人で今すぐ平安国を出たほうが懸命だと卓水はいった。
「でもなんとかして助け出すことはできないの?」
「どうだろうね。水の牢を守っている血族の力はそれほど強くない。でも術者ではない未令ちゃんに太刀打ちできるかどうか。それに何かあれば奈生金と緑香が必ず出てくる。その二人も相手にしなけりゃいけない。誰か術者が手伝ってくれれば話は別だろうけど……」
「卓水は協力してくれない、よね……?」
これまでの話の流れからも期待は薄だったが念の為聞いてみる。が、案の定。
「ぼくは協力できないよ」
卓水はあっさり未令のお願いを退ける。
「助けてあげたいのは山々なんだけど、僕はこっちの人間だからね。祥文帝の意向に表立って逆らうことはしたくないんだ」
この国では祥文帝の意向が全てだ。
「ここで上手く生きていく知恵だからね。変装して顔を隠して手伝うってのもなしだよ。奈生金や緑香に対抗できる術者は僕しかいないんだから。勝っちゃったら僕だってすぐにばれるからね」とにべもない。
が、卓水は「ああ、でも」と何かを思いつく。
「なに?」
「いや、涼己がいるなと思ってさ」
「涼己? 祥文帝の弟の?」
「あいつなら手伝ってくれるかもしれない」
「涼己さまって、術者なの?」
確かに涼己は、水の血族の証である漆黒に近い瞳をしていた。
「実はさ―――」
卓水が語るところによると、卓水は生まれたときからその力を発揮し、周囲を驚かせたほどの力の強い術者なのだそうだ。
それを聞きつけた祥文帝の父である先帝が、卓水の母を弟から取り上げ、できた子供が涼己という。
なので帝位継承権第三位の涼己とは、卓水は異父兄弟になるのだそうだ。
そういえば謁見の終わった後、卓水は親しげに涼己に話しかけていた。
「あいつなら手伝ってくれるかもしれないよ。あいつなら術者だとみんなに認識されていないしね」
「どういうこと?」
「表向きは力がないことにしてある。知っているのは僕と焔将さまだけだ」
「でも髪が漆黒だったよね。力があるって証拠じゃないの?」
「力がなくても血族だと色だけ受け継いでいる人はたくさんいるからね」
「それってさ、何か隠す必要があったってこと…?」
出生以上に何か複雑な事情でもあるのかと思ったが、
「焔将さまがさ、そうしておけって。涼己は焔将さまのこと信頼してるからさ。焔将さまがそう言うならって。影で焔将さまのために動いてるみたいだしね」
「…そうなんだ」
祥文帝に知られていないほうが何かと都合がいいのかもしれない。でも、
「あの人が手伝ってくれるように思えないんだけど」
謁見の時、冷めた目でこちらを見ていた。
「焔将さまを通して頼んでみたら? それにあいつ、意外と他人のこと放っておけない優しい奴なんだよ」
「とてもそうは見えなかったけど」
「手厳しいなぁ」
卓水はあははと苦笑した。
「それはもちろん、もう用済みだからだよ」
日本へ逃げた時有と鈴は連れ戻され、その息子である有明も平安国で囚われの身だ。
康夜もこちらに来て、未令に力のないことはわかった。
「でも、まだ康之叔父さんがいるよね。時有の息子という点ではお父さんと同じでしょ?」
「康之に力がないことはわかっているんだ」
「どうして?」
康之叔父さんも平安国へ行ったことがあるのだろうか…。それなら父の行方も知っていたことになる。
「十年前、有明に接触したとき奈生金は康之のところにも行って、力に目覚めるかどうか何度か試したようなんだ。でも康之はその兆候が全くなかった」
「そうだったんだ……」
「だからね未令ちゃん。祥文帝にとって日本はもう用済みなんだよ。きっと近いうち康夜はこちらに永久に留まるよう祥文帝に命じられるはずだ。康夜がこっちの住人になった時点でこの扉も破壊される」
「破壊って……。じゃあもう平安国と日本は行き来できなくなるってこと?」
「そうだよ。だから還るなら早く日本へ還ったほうがいい。でないと一生ここで暮らすことになる」
「でもお父さんはまだ捕まったままなのに」
あの水の牢に閉じ込められたままの父を残し、康夜も見捨て、自分ひとり日本へ還れというのだろうか。
だからといってあの長いトンネルのような廊下を行き、四人の水の血族の見張りが立つ牢からどうやって父を助け出せばいいのか。
さらに祥文帝の目をかいくぐり、父と康夜を日本へ連れ還る。
どれも実現できそうにない。
「有明のことは諦めた方がいいよ。仮に水牢から助け出せたとしても祥文帝はまた奈生金を差し向けてくる。逃げても意味がないよ。連れ戻されれば今以上にひどい状況に置かれるかもしれない」
だから未令一人で今すぐ平安国を出たほうが懸命だと卓水はいった。
「でもなんとかして助け出すことはできないの?」
「どうだろうね。水の牢を守っている血族の力はそれほど強くない。でも術者ではない未令ちゃんに太刀打ちできるかどうか。それに何かあれば奈生金と緑香が必ず出てくる。その二人も相手にしなけりゃいけない。誰か術者が手伝ってくれれば話は別だろうけど……」
「卓水は協力してくれない、よね……?」
これまでの話の流れからも期待は薄だったが念の為聞いてみる。が、案の定。
「ぼくは協力できないよ」
卓水はあっさり未令のお願いを退ける。
「助けてあげたいのは山々なんだけど、僕はこっちの人間だからね。祥文帝の意向に表立って逆らうことはしたくないんだ」
この国では祥文帝の意向が全てだ。
「ここで上手く生きていく知恵だからね。変装して顔を隠して手伝うってのもなしだよ。奈生金や緑香に対抗できる術者は僕しかいないんだから。勝っちゃったら僕だってすぐにばれるからね」とにべもない。
が、卓水は「ああ、でも」と何かを思いつく。
「なに?」
「いや、涼己がいるなと思ってさ」
「涼己? 祥文帝の弟の?」
「あいつなら手伝ってくれるかもしれない」
「涼己さまって、術者なの?」
確かに涼己は、水の血族の証である漆黒に近い瞳をしていた。
「実はさ―――」
卓水が語るところによると、卓水は生まれたときからその力を発揮し、周囲を驚かせたほどの力の強い術者なのだそうだ。
それを聞きつけた祥文帝の父である先帝が、卓水の母を弟から取り上げ、できた子供が涼己という。
なので帝位継承権第三位の涼己とは、卓水は異父兄弟になるのだそうだ。
そういえば謁見の終わった後、卓水は親しげに涼己に話しかけていた。
「あいつなら手伝ってくれるかもしれないよ。あいつなら術者だとみんなに認識されていないしね」
「どういうこと?」
「表向きは力がないことにしてある。知っているのは僕と焔将さまだけだ」
「でも髪が漆黒だったよね。力があるって証拠じゃないの?」
「力がなくても血族だと色だけ受け継いでいる人はたくさんいるからね」
「それってさ、何か隠す必要があったってこと…?」
出生以上に何か複雑な事情でもあるのかと思ったが、
「焔将さまがさ、そうしておけって。涼己は焔将さまのこと信頼してるからさ。焔将さまがそう言うならって。影で焔将さまのために動いてるみたいだしね」
「…そうなんだ」
祥文帝に知られていないほうが何かと都合がいいのかもしれない。でも、
「あの人が手伝ってくれるように思えないんだけど」
謁見の時、冷めた目でこちらを見ていた。
「焔将さまを通して頼んでみたら? それにあいつ、意外と他人のこと放っておけない優しい奴なんだよ」
「とてもそうは見えなかったけど」
「手厳しいなぁ」
卓水はあははと苦笑した。
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